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「お腹いっぱい食べすぎた」
「尋って本当に昔からお腹すいてると後先考えることなくおかわりとか何度もするよね。私が止めても美味しいから大丈夫!とか言って結局はこうだし。アルバムだってペラペラって見た後は呻いてるだけだし」
夜ご飯も食べ終わり紫穂の部屋に二人向き合って座るのではなく仲良く隣同士で座っている。お互いに無理をして隣同士で座っている様子はなくただ、いつも通りに過ごしている感じである。机の上には昨日の夜に見せてもらうと約束をしたアルバムが開かれ無造作に何冊も置かれていた。最初辺りは集中して見ようとしていたのだけれどあまりにも満腹感が押し寄せてきてしまいそれどころではなくなってしまいこうして少し消化されるまで会話を楽しむ選択をしたらしい。背もたれにもたれかかり紫穂の後頭部越しから見える机へと視線を向けつつ、
「紫穂って意外って言ったら失礼だけど・・・」
「そもそも、意外って言ったら失礼だけどって言う言葉からしてもう失礼だから」
「ご、ごめん!えっと・・・」
呆れたような笑い声が聞こえたかと思えば、気にしなくていいから。それでなに?と問うてくる。
「昔に僕がプレゼントしたぬいぐるみまだ持っててくれたんだ。意外に物を大切にするんだね。僕はいつも気が乗らない時は叩いたり言葉の暴力をおみまいしてくるのに」
わき腹でも叩かれるかと力を入れていたが紫穂は静かに机の上に置いてあるぬいぐるみの方へと視線を向けているようだった。表情こそ分からないけれど雰囲気が少しだけどこか切ないものでも見ているような気がしてしまった。部屋に入ってから初めて数秒間沈黙が続いてしまう。余計な事を言ってしまたのだろうか?尋の心配をよそに紫穂は机の上で開かれているアルバムをパラパラとめくり始める。尋も背もたれから起き上がり紫穂がめくるアルバムへと視線を向ける。二人は仲よさそうにカメラに向かって満面の笑みを向けている。つい、懐かしさに心をくすぐられ照れ笑いしてしまう。紫穂の横顔を見てみると同じように昔の場面を思い出しているのか優しい表情で写真を見ていた。いつの間にか気まずいとさえ思いかけていた数秒の沈黙が今では心地よい沈黙へと変わっていた。しばらくめくっていると一枚の写真に何か違和感を覚えめくろうとした紫穂の手を掴む。唐突に腕を掴まれたため紫穂は不思議そうな表情を向けてくる。
「この写真ってなに?」
違和感を覚えた写真へと指を差す。と、紫穂は指された写真へ視線を向けああ。これは。と、数回頷きながら、
「確かこれは病院で撮ったやつじゃないっけ?」
「病院で?でも、紫穂も僕も満面の笑みじゃない?普通病院に居る時ってこんなに笑って撮る?」
「確かに。どうして私たち病院で写真撮ってるんだろう?・・・それにこれだけポラロイドフィルムのやつだし・・・なんでだっけ?」
不思議そうに首を傾げ問うてくるが尋の耳には紫穂の言葉は入ってこなかった。何か思い出せそうなのだけどあと一発打破できるなにかが足りない気がする。思い出せそうで思い出せない気持ち悪さがグルグルと胸の辺りを走りまわる。無意識に下唇をアマガミしつつ腕を組み考えこんでしまう。尋が何か昔の出来事を思い出そうとしているのは雰囲気で分かったため紫穂もなんとなく昔の事を思い出しつつアルバムをめくっているともう一枚ポラロイドフィルムで撮ったであろう写真が出てくる。
「尋。これも病院で撮ってるっぽい。良く見てみるとちょっとだけぶれてるようにも見えるんだよね」
「本当だ。でも、なんでだろう?」
「さあ?」
数十分考えたが答えは見つけることが出来なかった。考えすぎたせいなのかプツリと集中力が切れてしまい深いため息をついてしまう。それは紫穂も同じようで尋と同じように背もたれへともたれかかってくる。
「それにしてもどうして急に昔の事を思い出したいって思ったの?」
紫穂の問いに対してどう返答していいのか良く分からなかった。自分でもどうして急に昔の事を思い出そうとしているのか良く分からなかった。自分でも分からない事を紫穂に伝えれるはずが無かった。眉間にしわを寄せ言葉を発することなく紫穂の方へと顔を向け首を傾げる。と、紫穂も苦笑を浮かべつつ頷くだけであった。冷たく重い空気が部屋を覆うとした瞬間、紫穂が両手を叩き何を思ったのか尋の顔を見るなりイヤらしい笑みを向けてくる。尋も反射的に両手をクロスさせガード体勢へと入る。あまりにも早い防御につい、驚き笑ってしまう。
「どうして急にガードするのよ」
「いや。なんとなく理不尽な暴力をされるかと思って無意識のガード」
「そんなに私って暴力働いていないともうけどね?」
尋の言葉に少しだけ不貞腐れつつも昨日見た流れ星の話しをし始める。夜に蒼白い流れ星を見たという。夜空を切り裂き圧巻だったという。天体観測が好きな尋にとっては羨ましすぎる報告だった。それも確実に自分も起きていた時間で星空を観察していれば見れていたモノに悔しさは倍増するばかり。だったのだけれど、今朝御崎から聞いた単語を紫穂の話しで思い出す。
「そう言えば紫穂は知ってる?」
「多分だけど、奇跡を呼ぶ蒼い流れ星ってやつでしょ。五不思議の一つだけあってみんなその話題で持ちきりだよ・・・って言ってもその流れ星を見たのはほんの数人らしいよ?」
そう言うとスマホの画面を尋へと向けてくる。夏休みと言う事もあってか掲示板はとんでもない盛り上がりを見せているようでいくつもの同じようなスレッドが乱立していた。
「それで、奇跡を呼ぶって一体どういう流れ星なのかな?奇跡イコール願い事が叶う的な感じなのかな?」
腕を組みつつ天井を仰ぎ口を開く。と、スマホを見ていた紫穂は、
「それが有力らしいね。五不思議として言われているのは蒼い流れ星が流れる瞬間から願い事を叶える必要があるらしいよ。流れ星が発生するのは満月または満月に近いまんまる月が出ている夏の深夜限定。流れだす瞬間から願い事を強く一度だけ願って流れ終わるまでに言いきらないといけない。だってさ」
「御崎ちゃんから聞いたときよりも制限が増えてる。流れだす瞬間からって・・・」
「そっ!つまり99.9%不可能に近いってこと。流れ星がどの場所から何分後に流れるかなんて分かるはずないもの。けど、夏休みに入ってるから数人のチャレンジャーたちは夜更かしをして写真に収めるんだっ!て掲示板で張り切っている人もいるよ」
尋の言いたい事を代弁するように紫穂はため息混じりに告げるとスマホを机の上へと置く。紫穂のいう通りである。流れ星が流れる瞬間に願い事を強く願うなんてそうそう出来たものじゃあない。けれど、何故か、尋の胸の辺りになにやらモヤモヤとするものが未だ払拭できてはいなかった。けれど、なんとなくこの流れ星が関係しているような気がしてならなかった。ふと、心の中にあったある感情を紫穂に伝えるか伝えまいか悩んでしまう。きっとそれは馬鹿馬鹿しくて他人が聞けば気持ち悪がられる言葉かもしれない。無意識に生唾を飲んでしまう。と、紫穂の笑い声が耳へはいってくる。視線を向けると体育座りをしながらこちらを見ていた紫穂と視線が合う。
「どうしたの?何か言いたい事があるんじゃあないの?私でよければ聞いてあげるけど」
紫穂の優しい声色に戸惑いを覚えていた感情は消えてしまい自然と口が動いてしまう。
「なんかさ?よく分からないんだけど僕の意識の中に誰かの意識が入って来たような感覚があるんだよね」
「・・・」
「いや!訳分からない事を言ってるのは重々承知してるよ?だけど、なんとなくだけど紫穂と電話が終わった後からこの違和感が大きくなってきてて。つまりは、その奇跡を呼ぶ蒼い流れ星に誰かが願ってその願いの破片が僕の心に入って来たんじゃあないかって思ってさ。でも、五不思議の妖精だって未だに訳分かってないからこの蒼い流れ星もどこまでが本当か分からないけどね。それに僕のモヤモヤとした感情も気のせいでただ勝手に流れ星と関係があるって思ってくっつけてるだけかもだし」
尋の言葉を笑う事もなく真剣に紫穂は聞いていた。尋が言い終わった後、一度大きく息を吐くと、
「もしかしたらそうかもしれないよ?分からないから不思議って言われてるんだから。ちょっとだけその違和感ってのを調べてみる?」
「調べてみるって?どうするの?」
「多分だけど、尋はこれにもちょっとした違和感を覚えたんでしょ?だったら先ずはこれはどこで何のために撮ったのか調べてみようよ。まあ、私の予想だと尋の考えすぎって言う結果になると思うけどね」
そう言うと紫穂は机の上に開かれていたアルバムに挟まれている二枚の写真へ指を指し微笑んでくる。尋も微笑みながらありがとう。と、口にしつつ頭を下げる。紫穂も満足そうに頷いてくる。あ!そう言えば。なんてまたもや何かを思い出したのか尋の方へと視線を向けてくる。
「そう言えば、尋が女の子と二人で出かけるなんて珍しいよね?雨谷君の手伝いとか言って本当はデート気分を満喫したんじゃあないの?」
「デート気分って・・・紫穂って・・・いや、女の子ってどうしてそう言う恋愛系?の話しを聞きたがるの?それに僕らはおつかいをしただけであってただの先輩、後輩の関係だよ」
「そうなの?でも、もしかしたら可愛い後輩から・・・って!ごめん。確かに悪ノリしすぎた。ごめんなさい。ちょっとトイレに行ってくる」
「え・・・あ、うん。いってらっしゃい」
そう言うと御崎は立ち上がり部屋を出ていってしまう。軽く息を吐き静まりかえった部屋でポツンと一人になってしまいなんとなく手持無沙汰になってしまいアルバムを見ようとした瞬間、机に置いていた携帯が震え驚いてしまい首が一瞬沈んでしまい軽い鞭打ちような痛みを覚えてしまう。
「震動で驚いて軽い鞭打ちとか・・・」
小心具合が情けなく乾いた笑いがこぼれてしまう。液晶を見ると御崎からであった。失恋をした友人宅にお泊りになってしまい天体観測はまたでもいいか?と言う謝罪文であった。尋はすぐに返信を済ませると机の上ではなく紫穂のベッドの上へと携帯を置きなんとなく目を閉じてみる。
2016/02/29
※誤字訂正




