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夏になる頃へ  作者: masaya
二章 from sky
63/112

8

エレベーターが一階へと降り扉が開いたため先に御崎が入れるように自然と体を避け道を開ける。一瞬、御崎が驚いたような表情を作ったかと思えば恥ずかしそうに笑い小さく会釈をすると小走りでエレベーターへと入っていく。何に対して驚いたのか分からず首を傾げつつ御崎の後を追う様にエレベーターへと入り扉を閉めようとした瞬間、閉まりかかるドアの隙間から車いすを漕いでいる少女がこちらへと向かっている事に気が付き咄嗟に開閉ボタンを強めに押してしまう。咄嗟の出来事に御崎は驚いたような表情であったがすぐに尋の行動に理解したいのか微笑ましく微笑を作る。と、車椅子の少女も少しだけ息を切らしながらエレベーターへと乗り込んでくると尋はすかさずどの階に用があるのか聞き出しニ階のボタンを押す。その後、三人の間に会話なんて無い。ただ聞こえてくるのは小さく動いているモーター音だけ。それだけ。たった数秒の善意でここまで胸が暖かくなるものなのだろうか?そう思えるほど狭く窮屈な空間なのに心地よい。見る人からすればただの偽善であり自己満足な男性(ひと)。そう思う人もいるかもしれない。けれど、この空間に居る二人はそうは思っていないだろう。マナー違反だとは思ったけれど車椅子に乗った少女の表情を盗み見てみる。と、どこかソワソワとした様子で何か言いたそうな表情に御崎はより心が温かくなり彼女の気持ちが分かるな。なんて共感してしまう。伝えたい言葉があるのに伝える勇気が出てこない。ふと、自分と照らし合わせてしまった。心の中でグッと少女に応援したい気持ちを抑えグッと握り拳を作り心の中で応援をする。少女も意を決したのかグッと車椅子の肘かけをグッと握る。きっと少ない勇気を振り絞り尋に感謝(ことば)を伝えるつもりなのだろう。自然と吐き出す息に熱がこもっているのが分かる。

「あ、」

少女が言葉を口にしようとした瞬間にエレベータはニ階へと到着すると尋は当然のように開閉ボタンを押し笑みを向ける。少女は恥ずかしそうに小さく会釈をするとエレベーターを出て行く。精一杯の会釈(ゆうき)。ほんの数秒の出来事なのにここまで感情移入できるなんて自分の妄想力も大したものだ。なんて御崎は苦笑いを浮かべてしまう。視線を感じたため尋の方へと視線を向けてみると不思議そうな表情を浮かべつつこちらを見ていた。何か言いたそうな表情に御崎はつい、可笑しくなり笑ってしまう。余計に意味が分からなくなり不思議と言うよりも情緒不安定だと思われてしまったのか心配そうな表情を浮かべてくると、

「み、御崎ちゃん大丈夫?何かオカシイものでも食べちゃったの?」

「先輩っ!失礼ですよ!私はなにもオカシイものなんて食べてないですって!そもそもここまで一緒に居たんですから」

「でも、朝ご飯に何か変なもの・・・ってそれだと御崎ちゃんのお母さんに失礼だよね・・・ごめん。けど、本当に大丈夫?気分が悪くなったのにばれないようにわざと笑ったりしてるとかじゃあない?」

自分の行動で心配そうな表情を作らせてしまった事に罪悪感を覚えてしまうがそれ以上に尋の相変わらずの優しさに胸が暖かくなり少しだけ痛みを覚えてしまう。きっと私だけに見せる優しさじゃない。誰にも分け隔てなくする優しさ。辛いけれどその優しさも大好きである。わがままな事を言っている事は重々承知している。誰にも優しくしている姿が好きなのに見たくもない。グルグルと我がままが頭の中を回り始めそうになるが御崎は勢いよく首を左右に振り邪念を力技で放り投げる。急に首を左右に振るのだから尋は驚愕しつつも御崎の肩を掴んでくる。

「み、御崎ちゃん!だ、大丈夫!?」

「ご、ごめんなさい!ちょっとだけ思考のリセットしてました!」

「し、思考のリセットって・・・本当に大丈夫?」

「大丈夫です!と言うよりも着きましたね!」

笑みを浮かべ三階へと到着したエレベーターは静かに扉が開く。丁度よかったのか御崎はこれ以上に心配させてはならない。そう思い元気よく足を踏み出す。尋もいつも通りに戻った御崎の後ろ姿を眺めつつ出て行く。当たり前というか当然というか一回よりも三階は話し声は殆ど聞こえることなく静かであった。聞こえるとしてもナースステーションから聞こえてくる話し声くらい。お見舞いの窓口にもなっているためとりあえず尋は足を運び用件を看護師へと伝える。再度、用件を紙に書いてくれ。と言う事だったため名前を記入し終わり渡す。と、受け取った看護師が微笑ましそうに尋と少し離れた場所に居る御崎を交互に目をやると、

「カップルで友達のお見舞いって素敵(やさしい)ね。きっとお友達も喜んでくれると思うよ。あと、一応病院だから騒がしくしないでね」

「あ、ありがとうございました!失礼します」

尋は会釈を済ませるとそそくさと御崎の方へと早歩きで向かう。

「ごめん。紙に色々と書いてて遅くなっちゃった」

「いいえ。それは別にいいんですけど・・・先輩?」

「ん?どうかしたの?」

「あ、いえ、なんとなく顔がちょっと赤くなってるのかなって?暑いんですか?」

「そ、そう?別に暑くないよ。そ、それよりも早く用事を済ませちゃいましょう!」

両腕を前後に振りつつ目的の病室へと向かっている時に尋は唐突に何かを思いだしたかのように足を止める。御崎もつられて足を止める。と、尋は帽子を取りだす。一体何故、こんな時に帽子をとりだしたのか意図が分からなく肩を叩き問うてみる。

「先輩?急に帽子をかぶってどうしたんですか?何かの儀式かなんかですか?」

御崎の言葉に苦笑いを浮かべつつ、

「いや。僕も正直意味が分からないんだけど、雨谷がそいつの病室に行くときには帽子を被って行ってくれってメールに書いてあったからとりあえず被ってみたんだ」

素直と言うかなんと言うか。雨谷先輩もいい人ってのは知っている。けれど、たまに素直に言うことを聞く先輩で遊んでいる所があるかな?なんて思う時があるため少しばかり眉間にしわが寄ってしまう。きっと親友同士の信頼関係があってこそやっているのだろうけど。なんて言うかなに様?そう言われてしまうかもしれないけれど、先輩(ひろ)の友達とは言え好きな人が良いようにされるのは少なからず腹が立ってしまう。このままでは折角楽しい気分が台無しになる。そう思った御崎は一旦気持ちをリセットするため、

「先輩。ちょっと私、トイレに行ってきますね」

「分かった!先に病室入ってるからね」

そう言うと尋は指を差し笑みを向けてくる。御崎も頭を下げトイレへと向かう。尋は軽く息を吐きノックをする。と、男の声ではなく同い年くらいの女性の声が聞こえた気がした。お見舞いに他の友達も来ているのかもしれない。そう思い深く帽子を被りドアをスライドさせ入室する。と、そこには一人の女の子がこちらへと視線を向けてきていた。咄嗟に尋は頭を下げ挨拶を向ける。焦っていたのか目的の人間が居なかった事に動揺してしまっていたのか挨拶よりも先に帽子を取る事を忘れてしまっていた。そのせいか挨拶に返答はなくその瞬間に尋は帽子を被り顔が隠れてしまっている事に気が付き帽子を取り謝罪の言葉を向け再度頭を下げる。そして頭をあげると女の子から向けられる視線は柔らかいものではなく少し棘があるように思えてしまう。入室する部屋を間違えたのか?グルグルと様々な思考が駆け巡るがその前に、もう一度尋は謝罪の言葉を口にする。

「驚かせてしまってごめんなさい!秋鹿尋というものなのですが・・・えっと、ここって稲荷和代さんのお部屋でしょうか?」

名前を言ったからなのか、それとも謝罪の言葉が彼女に通じたのか少しだけ目の前の女の子は目を見開きこちらを先ほどとは少しだけ違う視線を向けてくる。と、

「稲荷さんは隣の部屋・・・です」

「ご、ごめんなさい。間違ったとはいえ勝手に入って来ちゃってごめんなさい!」

「も、もう大丈夫ですから。そんなに謝らないで下さい」

本当に許してくれているのだろう。先ほどとは違い彼女は笑いながら答えてくれる。尋は流石に御崎も間違えて入室して来ては危険だと思いも一度大きく深々と頭を下げ部屋を後にする。トクン、トクン、と大きく鼓動を打つと同時に何故か始めて会ったのにどこかで会ったことのあるような無いような気持ちの悪い感情が出てくる。

「あれ?先輩どうかしたんですか?」

トイレから戻ってきた御崎がハンカチで手を拭きながら近づいてくる。尋も数回ほど頭を左右に振り、なんでもないよ。そう告げ隣の病室のドアをノックする。

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