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病院の中は閉鎖された空間のように思っていたけれどここはそう言った窮屈な印象は受けなかった。中庭もちゃんとあり殺風景になりがちな病院では努力をして入院している患者の事を考えているように見えた。御崎は尋に置いて行かれないように付かず離れず一定の微妙な距離を保ち着いてきている。受付まで歩いていると病院と言う事もあり元気がない人が多いのかと思いきや以外にも待合室には元気よく話をしている高齢の人が多く目に映ってくる。御崎も同じような事を思ったのか不思議そうな表情を浮かべつつ、
「病院って意外と元気なお爺さんお婆さんが居るんですね!」
「だね。まあ、元気と言うか定期的な診察とか薬を貰いに来てる人が多いのかもしれないね」
相槌を打ちつつ受付の男性にお見舞いの意図を話すとなにやら紙を出されたため記入をし始める。その間もずっと御崎は不思議そうに待合室の光景を見ているようだった。なんとなく彼女が抱いている事は分からなくもない。けれど、だからと言って自分たちがどうこうできる事でもない。記入が終わりお辞儀をすませ御崎の肩を軽く叩き歩き始める。
「書き終わったよ。行こっか」
「あ、はい!」
不思議そうな表情とは一転し笑みを浮かべ尋と並行するように歩いてくる。目的地でもある病室は三階にあるため階段で行くのも良いけれどエレベーターもあるらしいのでその場所まで向かう。すると、何度か白衣をいた医者や看護師たちとすれ違う。忙しそうに早歩きなのだけど、険しい表情ではなく柔らかく優しい表情を皆浮かべていた。
「なんかさ、ここの病院って雰囲気いいね」
尋の妙に嬉しそうな口調に御崎は驚きつつも優しく表情を和らげ
「そうですね。なんて言うかギスギスした感じじゃなくてゆっくりと柔らかい時間が流れてるみたいな感じですよね。って、私の感覚で言っちゃって伝わるか分からないですけど」
「いや。御崎ちゃんが言いたい事はなんとなくだけど分かる気がする。ホント病院なのに居心地がいいというか何だろうねこの感じ。居心地が良いって良くないのかもしれないけど」
「でも、入院している人からすれば居心地がいいのは良い事なのかもしれませんよね!私、病院って結構嫌いな場所なんですよ。なんか、病院って独特の空気と言うか匂いがあるじゃあないですか?病院!って言う感じの匂い」
「ご、ごめん。なんかついて来て貰っちゃって・・・」
尋の言葉に御崎はハッとした表情を浮かべつつ両手を左右に振り全力で否定をしてくる。
「ち、違いますよ!だから、そう思っていたんですけど!ここの病院は違うなって思ったんです!だから、本当に気にしないでくださいね!私は先輩とこうして一緒に居られるだけで嬉しいんですから!ねっ!」
焦る御崎は確かに可愛いけれど先ほど浮かべていた御崎の険しい表情がどうしても払拭できなかったけれどいつまでも引きずっている表情を浮かべるのは先輩としてどうかと思い言葉にありがとう。と、感謝の言葉を向け笑みを作る。御崎もどこか消化不良なのか心配そうな表情を作っているが尋の言葉を聞き頷いてくる。少しばかりぎこちない雰囲気が二人の周りを漂い始めそうだったため尋は明るい口調で御崎へ質問を口にする。
「そう言えば、御崎ちゃんって口調からしてこの病院には始めてっぽかったけど、意外と病弱そうに見えて健康マンなの?病院には縁がないの?」
「あははっ。健康マンって男の子じゃあないですかっ!それに病弱そうに見えてって。私ってそんなに病弱に見えちゃいます?病院は確かにあまり行かないですね」
「なるほど。病弱って言うか華奢だから弱々しく見えると言うかさ。いつも思うけど女の子って痩せてるのに夏に近づくたびにダイエット、ダイエットって言うけどもう十分痩せてるじゃん!って思うんだよね。無理なダイエットは体調とか崩す人多いから風邪とか引いちゃうし」
うんうん。と、尋の得意分野でもある話題の脱線が始まってしまう。が、御崎もそれが当然であり普通の出来事。なんて思っているのか戸惑うことなく会話を続けてくる。
「確かに、周りの友達も夏に向けてダイエットしてる子とか結構居ましたね。それで冷え症になってる子も居ましたけど病院に行くほど体調崩してる子は居なかったと思いますね。私はそんなの気にせずにモリモリご飯食べてましたけど。こう見えて夜ご飯は二杯も白米食べちゃうんですから。もう、お腹いっぱいですよ!」
あまりにも誇らしげにご飯を二杯も食べる。と、言う発言があまりにも可愛く笑ってしまう。一学年で一番可愛いと言われている彼女のちょっとした秘密を知ったようなそんな特別感に妙に嬉しくくすぐったく心の奥の辺りがほんのりと暖かくなってくる。香織と一緒に話しをしている時のような感覚に似ているのかもしれない。御崎は誇らしそうな表情を浮かべた後少しだけ照れくさそうな笑みを向けてくる。と、
「ご飯を二杯も食べてるとか誰にも言ったことないのに・・・な、なんか恥ずかしいですね。今さらちょっとした後悔が襲ってきちゃいました」
えへへ。なんて頬をほんのり赤らめる御崎に尋は優しい笑みを向ける。
「でも、そう言う風に御崎が色々と話してくれるのは嬉しいよ?それにちゃんとご飯を食べてるってことも分かったから安心だっ!」
「そ、そうですか?ならよかったです。でも、ご飯を沢山食べる女子って男の子からしたら嫌です・・・よね?」
「全然そんなことないよ。女の子って痩せてれば痩せてるだけ良い!みたいな事を言うけど男子からしたら全然そうじゃあないからね。確かにぷっくりしすぎてるのも体に負荷がかかって大変だと思うけど、痩せすぎも結構体に負荷がかかるらしいし。やっぱり標準が良いんだよ。普通が最高だね。と言っても病気とかで太れない、痩せれない。ってのがあるから一概にはこれだ!ってのは言えないけど。だから、美味しそうにパクパクと食べる女性は素敵だと思うよ」
「・・・」
言葉の反応が無かったため恐る、恐る御崎へと視線を向けてみる。と、どこか尊敬のようなキラキラとした眼差しを向けてくる御崎の視線が頬へと刺さる。
「せ、先輩ってやっぱり考えてる事が素敵だと思います。そう言う風に言葉にして口に出す男子って意外に少ないと思うんです。実際、私はそう言うことを男子の口から聞いたのは先輩が始めてですし。やっぱり先輩は女子の気持ちを考えてくれてますね!なんだか、とっても嬉しいです。・・・へへへ」
御崎は恥ずかしそうにほほ笑みながら前髪を構い始める。御崎は照れた時にはこう言う風に照れ隠しなのか前髪を構う癖がある。それがまた可愛らしく映る。気が付けばエレベーターまであと少しで到着するところまで来ていた。するとエレベーターの前には何人ほど待っているようで二人もその後ろに並ぶように立ち止まる。年輩の夫婦だろうか仲よさそうに会話をしている姿がどこかほっこりしてしまい微笑ましく眺めていると肩を御崎がつつてくる。どうしたのかと思い視線を向けてみる。と、御崎も同じように夫婦の方へと視線を向けていたのだけど、尋とは違い少しだけばつが悪そうな表情をしていた。
「先輩。私たちお見舞いのお菓子とか持って来てないですけど良かったんですかね?」
「あ。確かにお菓子ぐらい買っていった方がいいよね」
きっと御崎は目の前の夫婦が持っていた高そうなお店の紙袋を見て思ったのだろう。危うく気の利かない人間になる所であった。御崎の助言で病院内にある売店へと向かう。とりあえず適当にお菓子を買いエレベーター前へと戻ってみると仲よさそうな夫婦は居なくなっており三階にランプが点灯していたためボタンを押そうとすると御崎が尋よりも先にひょいっと下から上のボタンを押し笑ってくる。
「なんか、こう言うボタンって誰かが押そうとした時に先に押したくなっちゃいますよね!」
「小学生かよっ」
「へへへ」
2016/02/07
※文章追記