6
プシュー。と、きの抜けた音が鳴ったかと思えば前のドアが開き尋は立ち上がり御崎へと視線を向け合うと頬笑みを浮かべ立ち上がってくる。お金を入れ外へと出てみると快適空間から一転カラッとした夏の日差しに自然と笑みがこぼれてしまう。御崎も尋と同じ事を感じたのか背伸びをしつつお腹いっぱいに深呼吸をし夏の雰囲気を感じているようだった。尋も真似をして大きな背伸びをしつつ大きく深呼吸をしてみる。お互いに両手をあげバス停の前に立っているのだから目の前を横切る社会人は不思議そうな表情で二人を横目で見ながら立ち去っていく。と、御崎が楽しそうにクスリと手を口元に持っていき笑う。
「ふふっ。絶対、今の人って私たちの事変な目で見てましたよね?」
「お互いに気持ちよさそうに背伸びをしてるんだもんね。僕だってもしもそんな光景を目の当たりにしたら、二人して背伸びをしてなにしてるんだろう?って思っちゃうもん」
確かにそうですよね。なんて笑いながら御崎は両腕をぶらぶら動かしつつ笑ってくる。学校ではなく休日だからなのか、いつもよりも表情が豊かで幼い女の子のように見えてしまう。それがマイナスな要因ではなく新しい一面に尋はどこか嬉しくなってしまった。学校でも気さくに話しかけてくれる可愛い後輩なのだけど、ここまでの気さくさは無く先輩後輩と言う線を引かれている感じなのだけど、今は友達として接せられているような気がした。先輩としてどうなのか?と、思ってしまうけれど嫌な気はしない。寧ろこのままの感じでいつも接してくれればいいのに。なんて思っていると御崎が不思議そうにこちらへ視線を向けている事に気がつく。その視線の意図がよく分からなかったため首を傾げると御崎も同じように首を傾げてくる。モノマネでも御崎の中で流行っているのだろうか?意味もない思考を巡らせていると、
「先輩!そろそろ行きませんか?」
「あ、そう言うことか。そうだね。御崎ちゃんが日焼けしても駄目だし、行こうか」
「大丈夫です!ちゃんと日焼け止め塗ってきたので!任せてください!」
ガッツポーズを作り誇らしげに笑みを向けてくる。尋も笑みを返し二人は病院へと歩きだす。バス停から徒歩三十秒で着く場所に本日の目的地でもある木野崎病院はあるためすぐに視界へと入ってくる。バス停から病院までは歩行者専用道路があるためその場所を歩いていると、少し先の辺りで高齢のお婆さんがなにやらシルバーカーを押しつつ立ち往生している姿が目に映る。その瞬間にいつもなら断りを入れるなり何かしら言葉を告げて行動するのだけれど何も口にすることなく駆けだした瞬間、御崎も同じように、いや、尋よりも少しばかり早く駆け出す。視線も尋を見ることなくお婆さんへと向いていた。脚力は尋の方があったのか始めに尋がお婆さんに声をかける。その後に遅れて御崎も優しく声をかけてくる。どうも道路に小さな穴が開いていたらしくそこに車輪がハマっていたようで上手く取り出せずにいたという。すぐに尋はシルバーカーを持ちあげハマっていた穴から取りだし近くにあった小石を穴へ詰め込む。車を救出した瞬間に御崎は嬉しそうにお婆さんに握手を求めていた。お婆さんも微笑ましい子供を見るように優しい笑みを二人に向けてくる。いつもなら一人でも持ちあげれるのだけれど荷物を入れていたため穴にハマっても持ちあげられなかったという。お婆さんは救出されたシルバーカーから手を離し前を開きソーセージパンを二つ出してくるとそれを御崎へと手渡し笑みを浮かべ小さくお辞儀をしてくる。
「二人ともありがとうね。これは助けてくれたお礼にどうぞ。美味しいよ」
「そ、そんな!私たちは・・・」
「ありがとうございます!僕もこのパン凄く好きなんです!とっても美味しいですよね!」
断りを入れようとした御崎の言葉を遮るように尋はお婆さんにお礼の言葉を向け頭を下げる。お婆さんも礼儀正しい子だね。なんて笑いながら尋たちが歩いてきた方向へと歩きだす。家まで送りましょうか?と、提案もしたのだけれどすぐそこだから大丈夫。ありがとう。と、言われたためゆっくり、ゆっくりと遠くなっていくお婆さんの後ろ姿を二人で見送っている。と、両手にパンを持った御崎が口を開いてくる。
「先輩?どうして私が断ろうとした時に遮っちゃったんですか?これってお婆さんが食べようと思って買われたやつなのに・・・」
「うん。確かにそうかもしれないけど、お婆さんが自分の為に買った物を他人にあげたいって思ってくれたんだからその気持ちを大切にしたいと思って。それで素直に貰った方がよかったのかなって思っちゃってさ・・・でも、やっぱり礼儀として最初は断りを入れるべきだったのかな?やっぱりあそこは御崎ちゃんに任せればよかったのかも。うわー調子に乗ってしまった!!」
誇らしそうに口を動かしていた尋の表情は徐々に険しくなっていく。真っ青で清々しい青空を背景にどんどん雲行きが怪しくなってくる尋の表情は面白く、だけど、とても素敵に映る。何も口にすることなく咄嗟に困っている人に向かって走り出す先輩の姿はとても格好良くいつまでも見続けれた。知っていますか?そうやって困っている人を見たらなりふり構わず助けよう。そう思って行動し始めたのは先輩の姿を見ているからなんですよ。口にしようとしてもできない感情。喉の辺りがグッと熱くなってくる。未だに頭を抱え悩んでいる男の人。きっと正解を選んでいるのにこうして必死に悩み続けれる事は大切なことでそう言ったところも私は大好きである。心ではいつも言える言葉がどうして口に出そうとした瞬間に躊躇してしまうんだろう。自分の不甲斐なさにグッと奥歯に力が入ってしまう。
「し、しかし!もう考えたところで仕方ないね!次から気をつければいいか!うん!」
「私は、先輩の行動が正しかったと思いますよ。さっきのお婆さんがくれたパンを受け取る時、優しい笑顔を向けてくれてましたし」
「そ、そうかな?だったらいいんだけどさ」
「ふふっ。先輩ってもう少し自分に自信持った方がいいですよ?折角、素敵な事をした後なんですからもっと凛々しくいきましょうよ!実際、お婆さんは喜んでくれたんですし」
「そ、そうだよね!よっし!僕たちも病院に行って用事を済ませようか!」
気が付くとお婆さんの姿は見えなくなっており二人もまた病院へ続く道へ視線を向き直し歩き始める。ジリジリと照らしてくる日差しは丁度、道に左右に植えられている木々のお陰で木漏れ日となりちょっとした森林浴気分に浸れる。御崎へと視線を向けてみると気持ちよさそうに歩いている。しばらく歩き病院の入口へと到着するなり一度携帯電話を取り雨谷へと電話をかけるが、何度コールしても出てこなかった。
「まあ、なんとかなるか。とりあえず受付に行ってミッションでもある受け取り物を奪取しに行きますか!」
「奪取の使い方間違ってますよっ!先輩ってたまに言葉選びがおっちょこちょいですよねっ!でも、そう言う先輩だから私は・・・えっと面白いと思います・・・はい」
「後輩から面白いと言われるのは吝かではないけど、言葉選びがおっちょこちょいってどうなんだろう?でも、面白い事は良い事なのかも?」
困り顔をつくる尋とその表情を笑みを浮かべながら見る御崎。二人は仲よさそうに自然と合う歩幅で病院へと肩を並べ入っていく。




