3.5
私は夢を見た。それはとても暖かくて幸せだった頃の思い出。そこには少女、両親の仲睦まじい姿があった。少女の左手を握っているのは大きくてごつごつとしているけど暖かい手、右手を握っているのは細くて柔らかく暖かい手。流れる景色は桜色で長く、長く続く道を歩いている。二人とも私を見るたびに頬笑みを向け幸せそうに話しかけてくる。疲れていない?大丈夫かい?疲れたなら少しぐらい休む?なんて優しい言葉に私は笑みを浮かべながら首を左右に何度も振る。暖かい温もりを少しでも感じていたかったんだ。しばらく歩いていると遠くの方から私を呼ぶ声が聞こえてくる。その声に気が付いた途端、先ほどまで離したくない。と、思っていたのにもかかわらずすんなりと手を離し駆けだす。私の手を大切に握っていた二人も私の後ろ姿を見ながら頬笑み見送る。悲劇とはこの事なのだろうか。少女は友人が呼ぶ方向にしか視線は向いていない。真横から車が異常な速度で駆け抜けようとしている事にも気が付いていない。穏やかに進み続けると思っていた三人の時間に何物かが牙を向ける。逸早く気が付いたのは少女の父親らしき人物であった。先ほど浮かべていた頬笑みとはうって変わり必死に少女の後ろ姿に向かい怒声のような言葉を浴びせる。母親らしき女性もまた少し遅れて駆けだす。時間にして数秒の出来事。私も必死に少女に向かって声をかける。駄目。絶対に駄目。そのまま走り続けてしまったら大切なものを失ってしまう。少女を掴もうとしても掴むことができない。分かっている。これは夢の世界。変えることのできない夢。
「っあ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ」
首周りにはじっとりと寝汗をかいていた。少しだけ乱れた呼吸を整えながら彼女は首を何度か振り夢を頭の中から振るい落としながら外の景色へと視線を送る。目を逸らしたくなるほどの今日は快晴になるであろうと分かってしまう深い蒼色の朝。太陽が出てきたらきっともっと綺麗な水色になるんだろうな。なんて思いながら時計へと視線を向けるとまだ午前五時を過ぎたところ。バイタルを測りに看護師さんが来るまでにはまだ時間がある。また目を瞑り寝ても良かったのだけど気分的に二度寝をする気にもなれずベッドの柵にかけてあるリモコンを取りギャッジアップさせようとボタンを押そうとしたが、リモコンを戻し両手で体を支えベッドから足を下ろし腰をかけ一息つく。
「ふぅ・・・やっぱり機械に頼ったら駄目だよね・・・ちょっとぐらい動かないと」
今日は体調がいいらしくぶらぶらと足を揺らし体も左右に揺らしながら鼻歌なんて歌ってみる。けれど、気分が晴れる事は無かった。どうしても脳裏には先ほど見ていた夢の映像が何度も流れてくる。あれは実際に自分が体験した出来事なのだろうか?それにしては今自分は生きている。手のひらを見つつ彼女は考える。きっとあの夢の最後は最悪な終わり方で終わってしまうだろう。なんとなく夢で見た少女はあのあと車にぶつかって。
「どうしていつもあの夢はあそこで終わっちゃうんだろう」
深蒼い空へ視線を向けつつ疑問を口にする。しばらく空へと視線を向けていると徐々に深蒼の空から水色へと変化してくる。それと同時に大きな太陽が徐々に顔を出し始め街を赤白色に染め始める。それは見事なもので看護師が以前にここから見える朝日はとても綺麗だよ。と、言っていた事を思い出す。
「凄く綺麗・・・って、ちょっと体がだるくなってきちゃったかな」
口にすると彼女は体をベッドに預け寝転がり瞳を閉じる。
久々の更新なのに短くてすみません。




