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夏になる頃へ  作者: masaya
二章 from sky
57/112

3

あまりの懐かしさ、微笑ましさに尋は無意識に行ってしまってはならない行為を御崎へと向けてしまう。それはカップルや漫画の格好良いキャラクター達なら許される行為。それを唐突にただの高校二年生が高校一年生の中でも一番人気があると言われている御崎の頭をポンポンと数回ほど軽く叩いてしまう。尋の唐突な行動に御崎は先ほどまで輝かせていた瞳を大きく見開き驚愕しているのか喉から上手く声が出せず、ただその場に固まってしまう。嫌がらせをしてやろう、髪をぐちゃぐちゃにしてやろう。など悪意を持ってやったわけじゃあない。単純に御崎が微笑ましくつい、出来心で頭ポンポンをしてしまった。しかし、女性と言うものは髪を触られる事をあまり快く思わない人が多いと聞いたことがある。以前、調子に乗って紫穂の頭を殴ってしまった時は思い出すのが怖いぐらいボコボコに復讐(リベンジ)されてしまった。状況が違えど女性の頭を無断で触ってしまった事には変わりない。トクン、トクンと緩やかに静かに打っていた鼓動が大きな音を立て急速に動き始める。御崎の頭を触った手が妙に熱く風邪でも引いてしまったような体の火照りも覚える。兎にも角にも謝罪を。と、思い口を開こうとすると御崎はえへへなんて照れくさそうにハニカミながら微笑んでくる。

「び、ビックリしましたよ!急に先輩が頭ポンポンしてくるんですもん。あービックリしたー」

向かいあっていた体をくるりとバス停の方へと視線を向け直す。

「ご、ごめん!つい・・・出来心でって言うのは御崎ちゃんに失礼かもしれないけど、なんか凄く楽しそうに話しをする表情が微笑ましくてついポンポンしちゃった。ごめんね」

本気の謝罪だと口調から分かったのか御崎は笑い両手を振りながら、

「そんなに謝らないでくださいよっ。私、本当に気にしてませんから。そりゃあ、確かにビックリしましたけど・・・でも、私は嫌な気持ちになってませんから!」

グッと握り拳を作りながら微笑んでくる御崎の優しさに救われ肩を落とし謝罪モードであったが笑みを取り戻し沈んだ肩を上げ、ふとある疑問が出てきたため問うてみる。

「でもさ?女の子って頭を触られるとイラっとするって聞いたけど実際はどうなの?ま、まあ・・・今回はイラっとされなくてありがたかったけど」

尋の問いに対して一瞬だけ考えこんだ表情を作るがすぐに笑みを浮かべつつ、

「そうですね・・・確かに咄嗟に頭をポンポンされるのはえ?ってなりますね!なんか男子でもたまに漫画とかで感化されてるか知らないですけど意味もなくポンポンってしてる人クラスにも結構居るんですよ。仕方ないな!って感じで。漫画だから許されるってのはあるけど実際の男子がやるとえ?とはなったりする子も居ますね。私の友達も露骨に嫌な顔はその人の前ではしないけど陰では結構言ったりしてますからね」

苦笑いを浮かべつつ口を動かしている御崎だが尋は何故か口数が少なくなってしまう。彼の心はズタズタに裂かれてしまっていた。現に尋が御崎の頭をポンポンとしたのは唐突な事であった。と、言うことは本当は嫌な気持ちになっていたのではないだろうか?自分に気を使って言っていないだけで陰でなにか言われてしまったら一年の教室の前を歩けなくなってしまう。いや!御崎は嫌な気持ちになっていないと言ったじゃあないか。そうだ。大丈夫、大丈夫!言い聞かせるように何度も心の中で呪文のように繰り返し続ける。両頬を叩き弱気な感情を体から放出しつつ口を開く。

「なるほど。確かに女の子って頭触られるのあまり好きじゃあないね。昔、紫穂の頭を不可抗力で・・・」

「不可抗力でポンポンしたんですか!」

最後まで言い終わる前に御崎は先ほどまで話していた漫画論を切り捨て尋の発言に食い気味で反応してくる。面白いぐらいの反応速度に驚きつつもほほ笑んでしまう。

「いや。ポンポンというよりもゴツッかな」

「ゴツッ?」

苦笑いを浮かべつつ中学校の頃の事件を話す。と、御崎は曇っていた表情から一転、お腹を押さえながら笑いだしてしまう。このぐらい笑ってくれた方が話しやすい。尋は思い出すだけでも身震いしてしまうが今となってはいい思い出になっている。

「それは先輩が悪いですよっ。それにしても凄かったんですね」

「ま、まあ・・・ね」

「・・・って!忘れてましたよ!」

「ん?何か忘れ物でもしたの?」

狙っているわけでもなく尋は天然が混じった言葉を口にする。御崎は微笑ましくてつい微笑んでしまい胸の辺りがポカポカと暖かくなる。いつもこうだ。他の男子とは違う暖かさが先輩(ひろ)にはある。他の男子たちだって優しいし嫌いでは無い。けれど、先輩と話しをしている時が一番楽しくて(ほんとう)の自分で居られる気がする。それこそ昔から知っているかのように。暖かくなってきた胸の奥から熱い言葉が喉へとぐいぐいと押し上がってくる。きっと言葉(くち)にしてしまえば簡単だということも分かりきっている。分かっているけれど、何度も何度も熱くて火傷しそうな言葉(きもち)を飲み込む。飲み込むたびに胸が苦しくなり切なくなってしまう。けれど、もしも、言葉を吐き出してしまい関係が壊れてしまったら?いつも臆病な気持ちがあと数歩前へと歩かせてくれない。不思議そうにこちらを見てくる先輩に笑みを向ける。と、少しだけ照れくさそうに笑みを返して来てくれる。先輩なのにたまに年下の男の子みたいに見える先輩も私は、

「御崎ちゃん、大丈夫?」

「はへっ!」

「ひへっ!」

顔を近づけすぎてしまったのか声をかけた瞬間に甲高い声を出しつつニ、三歩ほど後退してしまう。尋もまたつられるように変な声を出してしまいのけ反ってしまう。が、すぐに口を開く。

「だ、大丈夫?」

「ご、ごめんなさい!ちょっと驚いて変な声出しちゃいました」

「僕こそ驚いて変な声出しちゃってごめんね」

仕切り直し。と、言う様に御崎はもう一度両手を一度叩き照れくさそうにほほ笑む。尋もまたつられるように微笑み両手を叩き二人の間に渦巻いている恥ずかしさを粉砕する。

「こ、こほん。それでですね!忘れていたってのは物じゃあなくて五不思議の話しのことなんです」

「ああ!そう言えば、えっと・・・奇跡を呼ぶことができる蒼い星?だっけ?でもさ、前に五不思議の妖精の件あったでしょ?結局、妖精なんて居たのかどうか分からなかったし・・・五不思議ってやっぱり信憑性が・・・」

「た、確かに不思議ですから信憑性は薄いかもしれませんけどっ!それでも先輩には聞いて欲しいんですっ!」

頬を膨らませながら抗議する御崎は相変わらず微笑ましく自然と口元が緩んでしまう。尋の表情はどこか馬鹿にしているというか仕方無く聞きますよ。なんて表情に御崎の頬はより膨れ上がる。が、妙に嫌な感じはなしない。寧ろ、ちょっと嬉しいかったりもするのか脹れっ面にしようと頑張っているが徐々ににやけ顔になってしまう。

「そ、それでですね!」

御崎は一度深く深呼吸を済ませつつ口を静かに開く。それはとても素敵な不思議であった。もしも、本当にそんなことがあれば不思議と言うよりも伝説に近いのかもしれない。その奇跡を呼ぶことができる蒼い星と言うのはキラキラと輝いている星では無く流れ星の事であった。満月または満月に近いまんまる月が出ている夏の深夜に流れ星は現れる。と、言う。それはとても不思議な流れ星であり世間が認知しているような流れ星では無く幻想的な光りを放ち夜空を遊泳する。その流れ星を見つけた瞬間に願い事を三回では無く一度だけ強く願うと叶う。と、言う不思議。

「星に願いを・・・なんかロマンチックで素敵だね。三回じゃあなくて一度だけ強く願うと叶うってところがなんか良いね!」

「ですよね!もしも、なにも知らずにそんな幻想的な流れ星が流れている所を見ちゃったら絶対に三回以上は叶えちゃいますもん」

「ははっ。僕はきっと驚きすぎて何もできないだろうな」

笑いながら空を仰ぐと真っ青な空が広がっている。今日の夜は天体観測日和だね。と、口にすると御崎はどこか照れたような表情を浮かべ微笑んできたかと思えば視線を空へと向ける。

「た、確かに今日は天気もいいし天体観測日和ですね。だ、誰か星に詳しい人が居たら楽しく見れそうなのになぁ」

「ん?だったら今日一緒に天体観測する?」

「えっ!いいんですか!!」

尋の提案を待っていたかのように弾んだ声を出し近づいてくる。思っていた以上の後輩の反応に驚きつつも数回頷き微笑む。

2016/01/14

※誤字訂正

はずんだ→弾んだ

2016/02/10

※誤字訂正

物語の食い違い訂正。

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