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夏になる頃へ  作者: masaya
一章 恋の妖精と時々幽霊
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放課後になり自然と何の口合わせもしていなかったのに教室には紫穂、尋が残っていた。明日の妖精探検の情報は雨谷がグループ掲示板、メールなどで報告していたため特に残って話し合うことなんて何もなかったのだけれどなんとなく祭り前日の(のり)?のようなものが二人の中に帯びてしまっていたのだろう。と、言っても特に話す事もなく二人は静かに自分の席に座っているだけであった。ふと、外へ視線を向けてみると昼間はテカテカと頭上から照らして来ていた太陽が静かにゆっくりと山の裏へと顔を隠し始めていた。オレンジ色の光が教室の中を華やかにしつつ微笑ましそうに二人の横顔を照らしている。耳を澄ましてみるとヒグラシが気持ちよさそうに夕暮れを知らせるように鳴き始めている。校庭からは必死に声を張り上げ練習に励んでいる野球部の声が聴こえ廊下側からは吹奏楽部の演奏が聴こえてくる。自然と尋は目を瞑り青春(おと)へと耳を傾けていた。すると、紫穂も尋と同じような事を思ったのか鼻で笑うと、

「なんかさ?なんとなく尋が座ってたから私も一緒に座ってボーっとしていたけど、放課後の教室って意外と色んな音が聴こえてくるんだね。夏っぽい蝉の声とか野球部の声とかさ」

「ね!僕もそれは思ってた。なんとなく教室に座っててボーっとしてるんだけど本当はボーっとしていないんだよね」

なにそれ?なんて面白そうに微笑みながらツッコミを入れてくる。けれど、尋の言っている事もなんとなく分かったのか笑いながらも頷いてくる。ゆらゆらと夕暮れのほんのりと生ぬるくなった風が教室のカーテンを揺らし紫穂の髪を靡かせ尋の頬を撫でてくる。穏やかに流れる時間。何気なくふと、ある疑問が頭の中に浮かんでくる。今日の昼に仲直りでもないけれど二人の間にちょっぴりできた溝が埋まったばかりなのにまた、こう言うことを聞いてしまったら変に拗れるというか、余計な御世話だから。なんて冷たくあしらわれてしまうかもしれない。喉まで登ってきた言葉を吐きだすか吐き出さないかで少し迷っていると紫穂の方から口を開いてくる。

「どうかした?また、何か考えてる?」

首を傾げつつこちらを真っ直ぐと見つめてくる紫穂の顔を見た瞬間に微笑んでしまう。不思議そうに首を傾げる整った顔は確かにモテる顔をしているな。なんて今さらになって思ってしまった自分が可笑しかったのだ。分かっていたようで分かっていなかった。尋は先ほど迷っていたことが嘘のように口からさらりと口を開く。

「余計なお世話かもしれないけど、紫穂さ?以前に竹井と一緒に放課後歩いてたでしょ?もしかして紫穂って好きなの?」

紫穂は一瞬ではあるが表情が鋭く尖ったようなものになるが尋の表情を見るなり何かに気づかされたようなハッとした表情に変わる。尋はからかうつもりで言ってはいない。本当に言葉の通り聞きたいだけだろう。恋愛の事は出来るだけそっとして欲しかった。けれど、それは自分自身が逃げているだけだということも重々知っていたし幼馴染に甘えていただけだということも分かっていた。だからこそ真剣に問うてくれているのならこちらも感情的に誤魔化すのではなく本音を口にするのが礼儀だ。そう思ったのか紫穂は一度咳払いをすると尋の視線と重なるように見つめる。周りの人が見たらきっとどちらかが告白でもしたんじゃあないのか?なんて勘違いしてしまうほど二人ともがジッと見つめ合っていた。

「そっか。見てたんだ。まぁ、なんとなく気が付いてたけど。でも、ハッキリと言うね。私は他に好きな人が居ます。竹井君の事は全然好きじゃあありません」

ガタン。と、廊下側から何か音がしたため二人ともが視線を音がした方へと向けてみる。が、そこには誰も居らず風で窓でも揺れたんだろう。なんてお気楽な答えへ着地する。今は意味不明な音よりも紫穂の言葉の方が大切だ。なんて言いたげに二人ともが視線をまた交わせ合う。

「そっか。分かった。恋愛には足を踏み入れて欲しくないって言ってたのに土足で入り込んでごめんね。けど、紫穂の本心(ことば)が聞けて良かった。ありがとう」

そう言いながら尋は椅子から立ち上がると深々と頭を下げる。きっと紫穂にとって今、自分に告げた言葉は相当勇気が居る事だったと思う。だからこそいつもならただの感謝の言葉だけで終わらせるが今回ばかりは頭を下げたくなってしまった。あまりにも他人行儀な態度に紫穂は笑いだしてしまう。

「そこまで堅苦しく頭とか下げないでよ。尋ってたまに変な行動とったりするよね!まぁ、そこが残念ハンサムって言われてるんだけどねっ!」

「し、親しき仲にも礼儀ありって言うでしょ。それに紫穂は笑ってくれているけどきっと相当勇気がいる事を言ってくれたからこのぐらいして当然だよ」

尋の言葉を聞いた瞬間に笑い顔では無くハニカンだような照れくさい笑顔へと変わっていく。その素直な表情に尋もつい視線を逸らし校庭へと視線を向けてしまう。お互いにどこか恥ずかしくなってしまったのかしばらくの間沈黙が続くかと思いきやこの恥ずかしい雰囲気を吹き飛ばすように両手を大きく動かしながら深呼吸をし始める。唐突な尋の行動に驚きを隠せずただ、目を見開かせていると、

「よし!元に戻った!なんか久々に紫穂と腹を割って話しをした気分」

「何それ?まあ、そうかもね。けど、なんて言うか・・・色々とありがとう」

「何のありがとうか全然分からないけどどういたしまして!」

お互いに頭を軽く下げ頭を上げた瞬間に視線が合った瞬間に二人は同時に笑いあっていたがすぐにお互いに驚愕の表情に変わる。まるで同じものを見たかのような驚きよう。けれど、二人ともが背中の辺りを見て驚愕している。

「紫穂っ!」「尋!」

お互いに名前を呼び合い重なる。そしてお互いに振り向くがそこには夕陽が射しこむ空が映る景色と夕陽に照らされ綺麗なオレンジ色に染まっている廊下が映るだけ。お互いに驚愕するようなモノは一切目に入らなかった。そして、二人は振り向き直し顔を見合う。と、先に口を開いたのは紫穂の方であった。

「ひ、尋の背中の辺りにオレンジっぽい発光体が居て・・・」

「ぼ、僕は・・・紫穂の背中の辺りに白っぽい発光体がふわふわ浮いてて・・・」

「も、もしかしてこれって・・・」

続きを言おうとした瞬間に紫穂の手が尋の口を覆う。

「それ以上言わないで・・・明日、夜学校に来るんだよ・・・めちゃくちゃ怖いって・・・」

「めちゃくちゃ怖いって言っている時点でゆうれ・・・」

「だ、だからそれ以上言うなって!尋の馬鹿!」

そう言うと急ぎ紫穂は机に掛けられていた鞄を取ると教室を後にする。あまりにも早い行動に尋は驚いてしまい身動きが取れずにただその場で立ちつくしているとひょっこり猛速度で教室を後にした紫穂の頭がちょこんとドアから出てきたかと思えば、

「は、早く帰ろうよ」

ギャップというものは恐ろしい。紫穂のたった一言で今まで穏やかだった鼓動が少しだけ早くなる。これが萌えなのだろうか?なんて思いながら尋は掛っていた鞄を肩にかけにやけそうになる口元を片手で隠しながら教室を後にする。我ながらニヤケる口元を隠すなんて少し気持ち悪いな。なんて思ってしまう。誰も居なくなった教室。夕陽が未だに差し込んでいる場所に二つの淡い光が悠々自適に教室の中を楽しそうに動き回る。あともう少しかな?なんて言葉が喋れるならそう言いそうな様子。しばらく尋、紫穂の机の上辺りを飛び回りいつの間にかその光りは最初からいなかったように消えてしまう。

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