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夏になる頃へ  作者: masaya
一章 恋の妖精と時々幽霊
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空き缶をゴミ箱へと運んでいたせいか、予想以上に在学生がテラスに居たせいか、格好つけて追ったのはいいけれど肝心な紫穂を見失ってしまう。これには流石に自分でも苦笑いを浮かべるほかなかった。だからと言ってそのまま諦める。と、言う選択肢はまったくもって出てこず一度立ち止まり思考を巡らす。紫穂がああ言った態度を取った時、どこに行くか?考えた結果きっと、一人になりたいのではないか?と言う答えへ行き着く。

「一人になりたい場所・・・って言えばやっぱり・・・屋上?だよね」

学校の中で中々一人になれる場所はない。いや、中々というよりも殆ど無いに等しいのではないだろうか。学校は社会的集団行動に慣れる場所でもあるから極力作らないように学校側も配慮しているからかもしれない。それでも生徒たちはその教師たちの視線を掻い潜り様々な場所にプライベートルームを作っている人たちもいる。その中でも尋たちはとても恵まれている場所につくれている。屋上。普段は誰も入ることが許されていない場所。教師たちも普段許可なく入れる場所ではないため意識して視線を向けていない場所である。きっとその特別な場所に紫穂は向かって行ったんだと決め打ちをしつつ歩きながらある事を考えていた。それは、屋上に行き紫穂に会った時にどのような言葉をかけるか。と、言うことだった。きっと、絶対に紫穂は尋を見た瞬間に眉間にしわを寄せ睨みつけてくるか無視をしてくることだろう。ただの想像の中で睨まれただけなのに背筋が少しばかり寒く感じてしまう。いつも、他人の事は率先して相談に乗ったり心配したりするくせに自分の事になると真逆と言っていい反応をすることが多い。率先して心配し相談に乗ろうとするといつも邪険に扱われてしまったりすることが多い。こちらはいつも世話になっているからこそ力になりたい。そんな風に思っているのに紫穂は余計な御世話だ。と、言わんばかりに塞ぎこむことが多い。しかし、よく考えてみると香織も同じように心配し近寄っているが尋のように邪険に扱われているところを見たことがない気がする。それに、他のクラスメイトでもそうだ。いつも邪険に扱われているのは(じぶん)自身だけではないか?と、気が付いてしまう。

「いや。まさか・・・いや!流石にそれはないでしょ」

脳裏に変な感情が浮き出てくるがすぐさま否定をしつつ一段、一歩ずつ屋上へと登る。変に緊張してきたのか鼓動が一段、一段上がるにつれトクン、トクンと早くなってくる。今さら怒っている紫穂に会うことに緊張なんてするわけもないしするはずがない。ただ、登っている時に変な思考が出てきてしまったため動揺を完璧にかき消すことができずにいた。だからと言って自分の感情(きもち)よりも紫穂の事が心配だったため足を止める事はなかった。いつの間にか屋上に繋がるドアの前まで立っていた。相変わらず殆どの生徒、教師たちがきていないせいか窓ガラスから入り込む光にホコリが雪のように宙を舞っている。よく見ればホコリも幻想的に見える瞬間もある。だからと言って本物の雪を観賞するようにずっと見ていたいとも思わない。何年も使われていないであろう机の上にはホコリが積っており息を吹きかけてみる。と、もの凄い勢いでこちらへと襲ってきたため急ぎ逃げるように屋上へと出る。テラスと違い一つの静寂がそこにはあった。耳をすませば遠くの辺りで学生の声は聞こえるけれど殆ど気になるものではなかった。太陽との距離が少し近くなったせいか若干ではあるが、日差しが強い気がする。手で目の辺りに影を作り屋上を見渡してみる。心地よい風が頬を撫で、つい、日向ぼっこでもしてしまいそうになる。が、ここに来たのはそんな目的ではないはずだ。なんて言い聞かせ片手で頬を叩きもう一度意識をして隅々まで視線を巡らすがそこには目的の紫穂だけではなく、誰も居なかった。完全に正解を選んだと思って来ていたため尋は完全にどこに紫穂が居るのか分からなくなってしまう。

「ここに居ると思ったのに居ないな。どこ行ったんだろう?」

つい、独り言を口にしつつ腕を組み首を傾げているとポケットに入れていた携帯が震えたため手に取ると御崎からのメールであった。すぐさま内容を確認するため本文へ目を向けた瞬間に尋は返信をすぐに返す。と、ある場所へと歩き始める。なるほどそう言うことか。尋は何かに納得したのか頷きながら屋上をそそくさと後にし御崎のメールに記載されていた場所へ急ぐ様子もなく歩き続けていた。体調が悪いなら先ず屋上ではなくそこへ行くべきだった。体調が悪いようで本当は感情(なにか)を隠しているようにも見えたため屋上だと思い込んでいたがそうでは無かったらしい。尋の目の前には保健室と書かれている室名札が目に入ってくる。流石に考える時間があり過ぎたせいか尋は何も考えず保健室のドアノブへと手をかけ静かに開くとそこには誰も居らず職員が座っているであろう場所にも誰の姿も見当たらなかった。もしも、緊急事態があったらどうするんだ?なんて教師にとってはありがた迷惑な事を考えつつ入室し近くにあった椅子へと腰をかける。すると、小さな話し声が聞こえてきたため盗み聴きは悪い事だと思っていたがイヤでも聞こえてきてしまうのだから仕方ない。なんて言い聞かせる。

「先生?人ってどうして素直になれないんだろう?」

「素直に?」

「うん。いつもは普通に幼馴染(ともだち)として接することができるんです。けど、ちょっとしたことでイライラしたりすぐに殴っちゃったりすることがあって」

一人は保健室勤務の教師だろうか?微笑ましい話しでも聞いているかのような優しい笑い声が聴こえてくる。そして、きっとその教師に相談をしているのは紫穂で間違いない。どう聞いてもこの声は紫穂そのものだ。しかし、急に声をかけるのもなんだと思い近くの机に誰でも書けるらくがき帳があったためそこへ絵を描き始める。

「そっか。でもね?それを許してくれる友達だからついやっちゃうんでしょう?先生はそれでもいいと思うけどな」

「そうなんですかね。でも、きっと急に怒ったり殴られたり睨んだりして本当はイラつくことだってあると思うんです。けど、優しいから私には笑っていてくれてるだけで本心は分からなくて。だったら、そう言うことをやめろよ!って言われたらそうなんですけどね・・・ははは」

力ない小さな紫穂の笑い声でさえ保健室の隅から隅へと響く。当然のように尋も聞こえてる。ふと、なにを思ったのかベッドを覆い隠していたカーテンが開く。と、同時に教師が尋に向かい満面の笑みを浮かべこちらを向いてくる。唐突な出来事に尋はもちろん紫穂も驚愕しているようでお互いに目を見開かせ瞬きをしつつ教師、尋、紫穂、と交互に視線を見合わせるだけでどう動いていいのか分からずにいると教師は両手を腰につけると、

「だったら直接聞いてみたらいいんじゃあないの?ねっ?秋鹿くん」

そう言うとどうぞ。と、招くように座っていた席へ手を向けてくる。尋もどうしていいのか分からず言われるがままに立ちあがり紫穂たちが居る場所まで歩いて行く。と、同時に教師は尋の肩をポンと叩き自分の席へと向かい歩きだす。おう。なんて他人行儀な挨拶(ことば)を紫穂に向けると教師が座っていた椅子へと座り意味もなく天井を見つめてしまう。何気なく聞いていたけれど紫穂の本音が聞けたことは素直に嬉しかった。尋はもしかしたら本当に紫穂に嫌われているのではないか?そう思ってしまっていた。自分は幼馴染で心を許せる友達だからこそやられていたことも本当は本気で嫌がっていたからやっていたかもしれない。そんな風にも思ってしまっていた。が、違った。素直じゃあない紫穂。昔から知っている幼馴染(しほ)の癖。いらない心配を幼馴染にしてしまっていたことが可笑しくなりつい紫穂にはばれないように微笑んでしまう。いつもなら紫穂から言葉を口にしてくるのだろうけど今回はそうじゃあないらしい。盗み見るように紫穂の顔を見てみると何を喋っていいのか分からなそうな気まずい表情を浮かべていた。

「はぁ・・・紫穂っ」

らしくない紫穂の表情に息を吐き向きあう様に顔を紫穂へと向ける。すると、紫穂は頭を勢いよく下げてくるなり、

「尋!さっきはごめんなさい!」

「へ?」

唐突な紫穂の謝罪(ことば)に訳分からなく頭の上から声が抜けてしまう。が、それもお構いなしに紫穂は頭を下げたまま言葉を続ける。

「尋は香織に思いを伝えてスッキリしたみたいな事を言ってたけど本当はそうじゃあないのに・・・さっきは酷い事を言ってごめんなさい!私、尋にいつも酷い事を言って・・・っつ!」

必死に言葉を続けようとしていた紫穂の姿はどこか痛々しくて見ていられなかった。尋は自然と本当に何も考えず紫穂の下げていた頭を数回ほどポンポンと叩きながら、

「紫穂。僕は本当に気にしていないよっ!だってそう言うのも紫穂でしょ?確かにまだ引きずってないって言ったら嘘になるかもしれないけどそれと同時にスッキリもしてるんだ。てか!僕が辛い時はいつも側に居てくれたじゃん!だから謝らないでよ。それにもしもそう言う風に思っているなら溜めこまないで直接、僕に言ってほしいな。そしたらすぐに気にしてないから!って元気いっぱいに否定しまくるから!てか、紫穂は弱音を僕には言わないようにしてるけど全然言っていいからね?僕だって男性目線で助言できるかもしれないし。香織には相談したりするけど僕だって紫穂の幼馴染(しんゆう)なんだからさ!」

尋の言葉に俯いたまま紫穂は何度も何度も頷くだけであったがどこか先ほどの切羽詰まった雰囲気では無くいつも通りの紫穂の雰囲気に感じれた。少しだけ開いている窓から風が部屋へと吹きこんでくると同時に紫穂も顔を上げる。ほんのりと目の辺りが赤く腫れぼったくなっていたのが面白くつい、笑ってしまう。紫穂も自分の顔を見て笑われている事は分かっていたのかいつも通り、昔のように尋の肩へ軽くパンチを向ける。

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