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夏になる頃へ  作者: masaya
一章 恋の妖精と時々幽霊
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4

「どうしたものか・・・」

屋上にやってきたひろは一人黄昏つつ携帯を開く、閉じるを何度も何度も繰り返し青空を見上げていた。雨谷に言われた通り後輩の子にメールを自分なりに考え返した所まではよかった。が、その後の出来事がとてつもなくひろの頭を悩ませることとなってしまっている。普段よりも返信が早く当然のように後輩の子は嬉しくなり色々な出来事、質問などをしてくる。ひろにとってそれは迷惑と言う感情よりも切ない、と言う感情を抱いてしまっている。彼女が何故ここまで自分の事を好いてくれているのか分からないし知るはずもない。けれど、誰かの事を好きで少しでも振り向いてもらえるように努力する気持ちは痛いほど分かってしまう。自分自身もきっと振り向いてくれることはないであろう。と、思っている相手に話しかけたり得意でないメールだって送っていたことだってある。先ほどの雨谷の話しをした時、冷静に考えると後輩の子は自分と同じ境遇に立っているのだと気が付いてしまう。だらか、どう言う風に返信をしていいものか分からずにいた。雨谷は普通に軽く会話をする程度ぐらいの気持ちで返せばいい。なんてお気楽に言ってくるがそう簡単に女の子とするメールを雨谷ほど軽くは思えなかった。もしも、少しでも期待を持たせるような言葉を言ってしまえば余計に答えを伝える時に傷つけてしまうことだってある。きっと、紫穂に今考えている事を言えば、考えが重い。怖い。なんて言われてしまうんだろう。ふと、自虐的な笑みを漏らしてしまう。すると、錆びた扉が奏でる特有の音を鳴らしながらぎこちなく扉が開く。なんとなく視線を空から扉へと向けてみると、なにをしているの?なんて込めた笑みをこちらに向けてくる香織の姿が映る。唐突な訪問者に動揺を隠せなくおろおろとしてしまうが、

「こらー!ここって本当は立ち入り禁止なんだぞー」

なんて、ひろの焦る気持ちなんてお構いなしに両手を後ろで組みながらこちらへと近づいてくるとひろが座っていた長椅子の隣へちょこんと座り背伸びをしながら大きな深呼吸をする。

「でも、ここの扉の開け方は香織の彼氏に聞いたんだよ?」

「ふふっ。それも知ってるよっ!・・・それよりさ?」

ひろに対してなにか聞きたい事でもあるのか、香織は深呼吸を済ませると顔をこちらへと向けてくるなり両手で頬を挟んでくる。ふわりと風が吹きシャンプーの香りだろうか?ひろの鼻の先をちょこんと擦ってくる。誰が好きな女子に頬を両手で挟まれる事を思うだろうか。当然のように顔の温度は急激に上昇し心臓なんて体育の体力テストでシャトルランをした後のような速度で動き若干鼻息も荒くなりそうだったが、それだけはなんとか死守し一回、一回の呼吸が大きく深いものになってしまう。それだけ見たらひろはただの気持ち悪い男子に見えかねないが幼馴染補正なのか香織はちょっぴり可笑しな反応をするひろの目を気にすることなく見続ける。とりあえずこの状況は誰かに見られてしまえば終わってしまう。立ち入り禁止の屋上なため殆どのせいとは来ることはないだろうけれど、親友の彼女と黙り見つめ合うなんて誤解されるには事足りるシュチュエーションである。

「ちょ、ちょっと!小学生じゃあないんだから幼馴染でもそう言うことをするのはよくないと思いますよ!香織には雨谷って言うイケメンの彼氏がいるんだから」

多少呼吸が荒くなりつつも香織の手を払いのけ勢い余って立ち上がってしまう。その言葉に香織は不思議そうな表情を浮かべつつひろへと視線を向ける。

「どうして?ひろちゃんとは幼馴染だし圭くんだって私たちが幼馴染以上の関係になることなんて思ってないよっ!」

そう言う香織の顔はキラキラとした昔から変わっていない笑顔だった。そう、分かっている。自分だけが彼女と話しをしている時に緊張していることだって。二人でこうして何気ない会話をする時はとても幸せな時間だと感じている事も。分かっていた。分かっている。それでも、好きだって気持ちだけは捨てることが出来ない。グッと香織に向けられた言葉を噛み砕くように奥歯を強く噛みしめながら、

「そっか!確かにそうかも!でも、流石に頬を両手で挟んでくるのはもうやめてよ。思わず立っちゃったじゃん!」

自分の(きもち)を香織にばれない様に無理矢理に笑顔を作り再度、先ほどより少しだけ距離を取り座り直す。しかし、香織の唐突な高度にはいつも驚かされてしまう。一体、なにを思いそのような行為に及んだのだろうか?そんな事を考えていると香織は再度こちらを見てくるなり、

「ひろちゃんが心配になって追って来たんだよ?」

「へ?」

振り向くと香織は至って真剣な表情でこちらを見てくる。心配になった?一体それはどう言うことだろうか?そもそも香織に、いや、誰かに心配させるような出来事なんてあっただろうか?言葉を向けられた本人は一体なんのことか分からずただ、ただ、思考を巡らせていると、香織はひろに対して紫穂と同じようなため息をついてくる。こう言うところは幼馴染らしい反応である。

「ひろちゃんって本当に自分の事になるとダメダメだよね!私や紫穂が悩んでいる時はすぐに気が付いて相談に乗ってくれたりするのに!」

「ダメダメ?!僕が!?」

そうだよ。なんて言いつつ力強く頷き片手に持っていた携帯電話へ指を指してくる。なんのことかさっぱり分からなくただ、眉間にしわを寄せ考えているともう一度大きなため息をつきながら香織は頭を抱える。

「ひろちゃん!私に隠しても無駄だよ!御崎ちゃんのことで悩んでるんでしょ?教室でもずっと携帯をパカパカさせててたまに液晶を見たりして何かボタンを打ったかと思えば、またパカパカさせたりしてさ?私は、圭くんの事も大切だけどひろちゃんもすっごく大切な友達なんだよ?もちろん紫穂もね」

呆れたようなため息をついたかと思えばその笑顔。僕はその笑顔がとても大好きだけど大嫌いになってしまうこともある。矛盾している感情はどこへ持っていけばいい?つい、本当は昔から香織よりも身長が低い頃から僕はずっと大好きだったんだよ。今、この瞬間に気持ちを伝えてさっぱりフラれて楽になってしまえばどれだけ楽になるんだろう。いや、きっと楽になんてなる訳がない。グッと感情をパンパンに膨らんでいる心へと押しこみ笑顔を作り香織の顔を見ようとしたけれど上手く作ることが出来ず空を見上げる。

「御崎ちゃんはとってもいい子なんだけどね・・・」

「やっぱり御崎ちゃんの事を考えていたんだね!ひろちゃんの思っていることなんて私や紫穂には隠すことなんて無理だよ?」

「幼馴染を侮っておりました!へへー」

頭を下げてみせる。香織もどんなもんだい。なんて自慢げに笑いながら肩を数回叩いてくる。それにつられただ、空を見上げ自分の気持ちを隠すことで精一杯だった。辛くて切ない気持ちが溢れてくると同時にこの空間が幸せだとも感じてしまう弱い自分に苛立ちを覚えてしまう。紫穂に言わせれば、そう言う女々しい感情は捨てちまえ!と何度言われたことか。怒っている紫穂の顔を思いだすとほんのりだけど笑顔になる。

「それで?ひろちゃんは御崎ちゃんの事は嫌いなの?」

またもや唐突な質問にほんわりと暖かく穏やかな気持ちが吹っ飛ばされてしまい驚愕した表情を向けてしまう。

「またもや唐突な質問だね!嫌いなわけないよ。凄く気が使える子だし、一年で美人で人気があるのにそれを鼻にかけて偉そうにしていないし、いつもメールが苦手な僕にも気を使って風景写メとか自分で作ったお菓子とか送ってくれたりして・・・」

「・・・そっか!御崎ちゃんなりに努力してるんだ!」

「努力?」

「だって、好きじゃなかったらそこまで頻繁に写メとかメール送らないし。でも、ひろちゃんはまだ好きかどうか分からないと?」

「?!」

香織の顔を驚きながらも見てしまうとやっぱりね。なんて表情をしつつ笑っている。

「やっぱりね。さっきも思ったけどひろちゃんって思ってることすぐに表情に出るよね。私がピースした時も若干だけど、顔引きつってたよ?ほんっと!思ってること隠しても無駄だからね!でも、御崎ちゃんとメールするのは苦痛じゃあないんだよね?」

確かめるように言葉を向けてくる。嘘をついても仕方がない。

「苦痛なわけないでしょ。こんな僕にメールをしてくれるなんてなんだか申し訳なくて」

「申し訳ない?」

「うん。なんて言えばいいんだろうな・・・」

すると、香織は言葉を続ける前に、ちょっと待った!なんて言いながら口を片手で覆ってくる。お得意の思いつき行動なのかひろはそのまま口を塞がれたまま瞬きをするしかなかった。すると香織は頷きながら、

「ひろちゃんはいつも自分を過小評価し過ぎ。クラスでも結構ひろちゃんって人気あるんだよ?優しくて気が効くって。友達にしたら最高だって」

「と、友達ね・・・香織・・・それって男子としては凄く嬉しいような悲しい言葉なんだよ」

ひろの気持ちなんてお構いなし。笑顔でクラスの女子がひろの事をどう評価しているのかを教えてくる。悪い評価はないけれど男子としての評価もなく。友人として最高。と言う評価ばかりで違う意味で落ち込んでしまう。

「話しは逸れたけど!」

脱線してしまった話しを戻そうと両手を叩いてくる。

「だから、もう少し自分に自信を持って行動してもいいと思うよ?それに、今はまだただの可愛い後輩って気持ちかもしれないけどさ、もう少しちゃんと自分に自信を持って連絡を取り合ってると気になりだしちゃうかもしれないよ?やっぱり、好意を向けられて最初はまったく気にもならなかった人を始めてちゃんと意識して見るようになって好きだって気が付くことだってあるんだよ?けど、話しとかひろちゃんの表情を見ているとなんだかまだちゃんと御崎ちゃんの事を見ていない気がするな!人に好意を向けられるって本当に凄いことなんだから!だから、ひろちゃんももう少しだけでもいいから、御崎ちゃんの事を見てあげてね!もしも、二人が付き合ったらダブルデートでローソン行こうね!」

「ダブルデートでまさかのローソン?!コンビニって!」

待ってました!なんて笑いながらツッコミに笑い満足そうに空を見上げる。僕も笑いながら空を見上げつつ、つい先ほど違う人から同じような言葉を聞いた覚えがある。な、なんて思ってしまう。本当に香織と雨谷はお似合いカップルで二人の間に入る気なんてさらさらないけれど、入る隙間なんて一ミリもない。分かっていたけど、何度も、何度も突きつけられる現実にいつも胸が締め付けられる。女々しいなんて言われるけれど、仕方がない。強がったところで余計に虚しくなってしまうことも知っている。

「でも、ひろちゃんが御崎ちゃんと付き合ったら紫穂は悲しむかもね」

「紫穂が?どうして?」

「だって、紫穂っていつも私たちの世話をしてくれてるでしょ?まぁ、彼氏が出来てからはあんまり世話を焼いてくれないけどいつも悩んでるときはすぐに気が付いて相談にも乗ってくれるしさ。でも、悩みがあった時は先ず彼氏に聞いてもらうし、ひろちゃんだって彼女が出来たら、今はすぐに紫穂に頼ったりするかもしれないけどきっと彼女にまずは相談するようになると思うよ?いつも頼ってきた弟みたいなひろちゃんが他の人のところに行っちゃうって思うとなんだか寂しい気持ちになると思うんだよね」

香織の言葉に紫穂の事を思い出してみる。もしも、僕が誰かと付き合うことで紫穂が悲しいと思う?考えてみるがまったく紫穂が悲しそうな表情を浮かべるイメージが湧かない。寧ろ、肩を叩きつつよくやったな!なんて一緒になって喜んでくれるイメージしか浮かんでこない。なのにどうして香織は悲しむなんて言うのだろうか?言葉の意図がよく分からなく、質問をしようとした瞬間に携帯が震える。その震動音に香織はすぐさま反応し顔を近づけてくる。

「誰?!御崎ちゃんから?」

妙にワクワクとした声色を聞きつつ携帯を開くと御崎律と言う名前が液晶へと映っていた。香織のテンションは以上に高くなり早く開け、開けなんて思っていることがすぐに分かるほど液晶にしか視線を送っていない。本当は香織にだけは御崎とのメールの内容は見せたくなかったのだけどここまで凝視されてしまうと見せないわけにはいかない。渋々、決定ボタンを押しメールを開く。と、いつもの可愛らしいキラキラとした絵文字などはなくただ、彩りもされていない業務を伝えるような畏まった文章が目に映る。本文には一行だけ、急にごめんなさい。今日の放課後に直接お話ししたい事があります。四階の空き教室で待っています。と、書かれていた。

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