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夏になる頃へ  作者: masaya
一章 恋の妖精と時々幽霊
49/112

45.5

小さな秘密をひと握りだけ勇気を振り絞って口にしてみる。いつもと同じように言葉を口にしているだけなのに一言、一言が熱く唇が火傷してしまったかのように感じてしまう。やけどは言い過ぎかな。なんて恥ずかしさまぎれに思った感情が可笑しくてつい、小さく口元を緩ませてしまう。言葉を向けられた本人はどう思っているんだろう?相変わらずよく分からないボケた表情をしている。まるで他人事のように携帯片手に首を傾げているだけ。繊細なくせに鈍感な幼馴染。貴方はまだ幼馴染(かおり)の背中を見ているのかな?振られたからってすぐに切り替えられないことだって分かっている。たかだか数日前に目に入って好きになった訳じゃあないことだって知っている。私は隣でずっと見続けていたんだからそのぐらい分かるに決まっている。それでも過去の事にしようとしている事も分かっている。それが無意識にしているものなのか意識的にしているものなのかまでは分からないけど。自然と無意識にため息を吐く。と、

「一緒に回ってくれないって・・・紫穂ってそう言えば、意外と怖がりだったよね。見た目は凛としてて格好良い女性って感じなのに中身は女の子してるっていうか」

「女の子してるって言うか私、女子だけど?」

紫穂の口調から咄嗟に何かを察知したのか尋は両手を自分の体の前へと持ってくると暴力反対。なんて言いたそうな表情を作り被害を食い止めようとする姿につい、紫穂は笑ってしまう。いつから自分は尋に暴力をするキャラクターになってしまったんだろう?そんな事を思いつつ空を仰ぐ。尋も紫穂の視線の先を追うように仰ぐ。と、笑い声が聞こえてきたため耳を澄ましてみる。周りには大勢の生徒が居るのにもかかわらずすぐに幼馴染の笑い声だと分かる。単純に距離が近かったから気が付いたのだろうか?それとも昔から耳に染みついた声だったから?けれど、幼馴染の声だと分かってしまう自分に照れくさく耳の辺りがほんのり熱を帯びてしまう。

「なんかさ?いつも二人の時ってあんまり会話しないけど空をこうして見ることが多いよね。絶対に周りから見たら二人とも変な人に見えてるよね」

「ははっ。そうかもね。けど、今さら過ぎてこれがオカシイなんて思わないや」

確かに。なんて笑い声が聞こえるだけで胸の辺りがほんわか暖かくなってくる。夏の暑い時期なのにイヤではない暖かさ。きっとこの暖かさは年中感じても不快に思えないし思わないだろう。耳を澄ましてみると様々な声、音が聴こえてくる。その中でも草木が風に擦れる音が耳へと入り込んでくる。

「そう言えばさ?」

お互いに視線はそのまま空へと向けたまま尋の声が周りの談笑(おと)と共に耳へと入り込んでくる。

「朝、校庭の女の人見えたって言ったでしょ?」

「あぁ。大人っぽい女性(ひと)で白いワンピースを着て学校に向かって歩いてきてたんだっけ?」

よく覚えているね。なんて笑いだし自分も何故ここまでハッキリと覚えていたのか分からなく自分の言葉につい笑ってしまう。

「それで、それで。紫穂は見えないって言ってたでしょ?でも、香織も見たらしいよ」

明るい口調で尋はそう告げる。が、紫穂はどう反応していいのか分からなかった。また、二人に置いて行かれてしまったような感覚。幼馴染(ふたり)は絶対に紫穂が思っているような感情は一切ない。それは紫穂自身にも分かりきっていること。これはたんなる自分勝手な嫉妬(かんじょう)幼馴染(さんにんとも)が平等である必要はない。と、言うよりも二人にとってこれは不可抗力のなにものでもない。そもそも嫉妬してしまうこと自体オカシイ事だということも分かっている。けれど、自然と机の下で無意識のうちに握り拳を作ってしまう。けれど、これはバレテはいけない感情だということも分かっている。けれど、何故か思ってもいない事を口走ってしまう。

「そ、そうなんだ。でも、皮肉なもんだよね!振られたのにこう言う接点ができちゃうなんて」

「やかましい!まあ、紫穂の言う通りだけれどもね!」

尋は紫穂の言葉をいつもの冗談。と、して受け取り笑いながら相槌を打つ。その姿を見た瞬間に胸が締め付けられてしまい息苦しくなってくる。後悔してしまったところでもう戻ってはこない言葉。いくら幼馴染でも言っていい事と悪い事ぐらい分かっているはずなのに出てきてしまった言葉(きもち)。奥歯を噛みしめ必死に罪悪感と向き合っていると、

「大丈夫?なんか顔色悪いよ?保健室でも行く?」

「だ、大丈夫だから。」

「お、おい!」

今の自分に優しい言葉をかけてもらう資格なんて無い。逃げるように紫穂は席を立ち上がり立ち去ろうとすると、左手を掴まれ足が止まってしまう。尋も唐突な紫穂の行動に驚きつつも運良く伸ばした手で掴むことができ自分の行動に驚きつつも椅子から立ち上がり紫穂へと視線を向ける。

「全然大丈夫じゃあないでしょ?なんだったら一緒に保健室ぐらいついて行くよ?どうせ、昼休み暇だし」

ははは。なんていつも通りの笑みを浮かべながら机の上に置いてあった紫穂の弁当の巾着を持ち空になった缶を片付け始める。が、紫穂は尋のいつも通りの優しさに今、触れることは辛すぎた。片手に持っていた巾着を取る。と、

「ごめん。ありがとう。でも、一人で行けるから尋はゆっくりと昼休みを過ごしなよ・・・心配してくれてありがとう。大丈夫だから」

そう告げるとその場から立ち去ってしまう。幼馴染(しほ)が大丈夫だというのならきっと大丈夫。なんて友達(くらすめいと)なら思うだろう。しかし、相手は長年付き合ってきた幼馴染である。明らかに無理をしている事ぐらい自然と分かってしまう。だからと言って無理矢理について行くと激怒されてしまうか暴力されてしまうことは分かりきっている。数秒ほど様々な思考を巡らせてみる。その答えに行き着くにはそんなに時間はかからなかった。

「いや。明らかにアレは無理してるでしょ。怒られてもいいからついて行かなきゃ」

誰に言う訳でもなく自分に言い聞かせるように机に置かれていた四つの空き缶を両手で抱えるように持ち紫穂が歩いて行った方向へと歩き向かう。

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