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夏になる頃へ  作者: masaya
一章 恋の妖精と時々幽霊
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テラスへと到着すると学校でも人気の場所ともあってか続々と生徒たちがこぞって空いている席へと座り始める。そんな光景を見てか竹井、雨谷は急ぎ席を確保するため小走りになり空いている席へと向かう。席を確保している二人の姿を眺めていると紫穂の肘が体を揺らしてくる。悪戯っぽい表情を向けてくるなり、

「尋はこう言う時に素早く動けないから男ランクとして少し低いんだよ?勿体ないね!少しでも遅れていいから一緒に駆け足で行けば良いのに。そう言うところが・・・ねぇ」

「ふふっ。でも、ひろちゃんはそう言うところがいいと思うけどねっ。それにきっとひろちゃんもやる時はやるだろうし」

幼馴染名物でもある飴と鞭。香織は甘いよ。いつも出来ないやつが咄嗟にできる訳ないよ。馬鹿なんだから。など当人を置いてきぼりにし楽しそうに会話を始めてしまう。反論する前に二人の世界が出来上がってしまったためただ、置物のように立っていることしか出来なかった。が、雨谷が椅子に座りつつ手招きをしてきたため会話をして気が付いていない香織、紫穂の肩を叩く。と、

「雨谷が呼んでるよ。行こう」

二人よりも先に歩きだす。肩を叩いた瞬間、楽しそうに会話をしていた二人が一、二秒ほど黙った気がしたがすぐに両肩に衝撃が襲ってくる。予想外の衝撃だったため前のめりに倒れかけそうになりつつ視線を前へと向けて見ると幼馴染二人がどこか照れくさそうに笑いながら

「勝手に肩を触るなっ!」

「ひろちゃんにお返しだっ」

そう言いながら雨谷が待つ席へと先に小走りで向かっていってしまう。なんとなく二人の後ろ姿が懐かしくて、眩しくて直視出来なく視線を地面へと向けつつ歩き向かっていると飲み物を買っていない事に気が付き四人に伝え行こうとしたが、四人が楽しそうに話しをしつつ椅子に座っている姿が妙にしっくりきてしまった。まるで自分は邪魔物なんじゃあないだろうか?そんな風にさえ思い立ち止まっていると香織がこちらに視線を向け微笑みながら手を動かし招いてくれる。本音(きもち)が表に出ないように頬笑みを返しつつ椅子へと座る。大人しいと思っていた竹井だったがいつも以上に自己アピールをしているように見える。けれど、そこまで必死にも見えないし根は明るく楽しい人なんだろう。横に座っている紫穂も楽しそうに会話をしつつみんな揃ったため各自の昼ご飯を食べ始める。話しを聞いている限り竹井は明るくどちらかと言えば雨谷に似ているのかもしれない。心を開けば楽しい人?そんな印象であった。しばらく話しをしていると飲み物をじゃんけんで負けた二人が買ってこよう。と、言うことになり急遽じゃんけん大会が始まってしまう。勝敗は一瞬にして決まってしまう。ストレート尋の負け。あまりにも気持ちの良い負けっぷりに竹井は笑いながら、

「よっし!秋鹿の負け!あと一人じゃんけんで決めようか」

四人が腕を振り上げようとした瞬間に尋は行動を制止させるように一人立ち上がる。と、

「五人分ぐらいなら僕一人で持てるから大丈夫!それにトイレにも行きたかったから。みんな何がいい?」

自分でも何故こんな無意味な強がりを言ったのか分からなかった。四人の欲しい飲み物を聞くと一人自動販売機がある場所まで歩き始める。自然とため息が出てきてしまう。そうか、あの空間に居ることが辛かったんだ。つい、先ほど四人に対して言った強がりがどこから出てきたものなのか分かってしまう。ふと、空を見上げて見ると快晴の空に少しだけ甘そうな白い雲がふわふわと浮いている。

「綿あめみたいで美味しそう。夏祭りに絶対に買って食べなきゃ」

何気なく言った一言。それこそ少し大きめの声であったが独り言を言ったつもり。誰に聞かせるつもりもなかった冗談(ことば)。しかし、本人の気持ちを無視するかのように微笑ましい言葉(もの)でも聞いたかのように優しい笑い声が聞こえてくる。真隣に笑い声が聞こえたため向いてみると御崎が財布を片手に笑っていた。咄嗟の事で驚いたけれど確実に自分が言った言葉で笑われている事は手に取るように分かったため恥ずかしさを紛らわすためにとりあえず笑ってみせる。が、それでもずっと笑っている訳にはいかない。

「もしかしなくても聞いていた?」

尋の言葉に御崎は力強く頷きながら、

「もちろん聞いていましたよ。聞いていたって言うか先輩が見えたから急いで近づいて声をかけようとしたらボソッと・・・綿あめみたいで・・・」

「モノマネしなくていいから!って、そこまで渋い声じゃあないでしょう!」

御崎は笑いながら謝罪をしてくるが、楽しそうな表情はこちらも見ているだけで自然と笑顔になってしまう。相変わらず一学年で一番可愛いと言われている女の子が無邪気な笑顔を向けてくると絵になる。

「御崎ちゃんも飲み物を買いに?」

「はい!」

「そっか。じゃあ、一緒に行く?」

尋の言葉にパッと華やかになり嬉しそうな表情を浮かべると大きく頷いてくる。頷きかたが大げさに見えつい、笑ってしまう。二人で歩いていると正面から歩いてくる数人の一年の女生徒が尋、御崎を見るなり手を振ってくる。面識がないためとりあえず手を振ってみる。と、手を振ってきた一年生は一瞬だけ驚いた表情を浮かべていたがすぐに大きく両手で手を振り返してくる。その行動が面白かったのか御崎はまた、笑いだし肩へ腕を軽くトンと置いてくる。

「先輩っ。今のは私に振ってくれてたんですよ?ふふっ。でも、友達も驚いてたけど振り返してくれてましたね」

「そ、そうだったんだ。なんか手を振ってくれてたから無視するわけにもいかなく振ってみたけど・・・恥ずかしい!」

「そんなことないですよっ!先輩って一年の間では優しくてカッコいい先輩って噂されてますよ!」

先輩。と、言うだけでそこまで持ち上げられていいのだろうか。そんな申し訳なさを覚えてしまうが素直に嬉しく、つい、顔が緩んでしまいそうになる。そう言えば!なんて何かを思い出したかのように御崎は尋へと視線を向けてくる。

「そう言えば!雨谷さんからメール着たんですけど、妖精探検明日になったんですよね?すっごく楽しみです!先輩も参加されますよね?」

「もちろん参加するよ。でも、なんか許可を取ってるのは屋上だけらしくて。学校内は許可取ってないらしくて。結局、先生にばれたら怒られる可能性が高いイベントではあるらしい。さっき誇らしそうに雨谷が言ってたよ」

やれやれ。なんて肩でため息をついていると御崎は談笑でも聞いたかのような笑みを浮かべる。

「でも!なんだか青春っぽいですよね!私、すっごく楽しみなんです。だって、高校生活でしか出来ない事を出来るなんて幸せすぎます!」

本心で言っていることが手に取るように分かる。妖精探検の事を話す御崎の表情はまるで子供がクリスマスプレゼントをサンタクロースにお願いしているかのようにキラキラと輝いて口を開いている。

「御崎ちゃんは本当に楽しそうに話をするよね。すっごく素敵だと思うな。これは、僕の偏見で絶対に失礼なことなんだろうけど、美人な人ってお高くとまってる人が多いイメージだったんだ。けど、御崎ちゃんと話しをしていたら美人だけど話しやすくて分け隔てなく話しをしてくれる人もいるんだなって思ってさ」

そんなことないですよ!なんて何かしら返答、相槌があると思っていたが一切そう言うものはなくただ、ただ、俯いてしまう。流石に失礼なことなんだろうけど。なんて前置きをしたけれど怒ってしまっただろうか?沈黙が続いてしまう。何か言わなければ!なんて思っていると一呼吸した後、御崎はこじんまりと頭を下げてくる。

「せ、先輩にそこまで美人とか言われると恥ずかしいです・・・でも、嬉しいです。でも、恥ずかしい・・・です」

そう言い終わるとこちらへと向いてくる。俯き髪で隠れていた顔がくっきりと視界へと入ってくる。顔はゆでたこのように真っ赤になり瞳も気のせいか少しだけ潤んでいるような気がする。しかし、悲しそうな表情ではなく照れくさそうな表情に胸を撫でおろす。確かに褒めていると言っても美人、美人と何度も同じ言葉を言うのは失礼だったかもしれない。謝罪の言葉ではなく頭を小さく下げる。いつの間にか自動販売機の近くまで歩いてきていたが、御崎がもう一つ気になる事を口にし始める。

「そう言えば先輩は知っています?この学校ですっごく美人な幽霊が出るらしですよ?新校舎では無くて昔、旧校舎で失恋をした女の人が屋上から身を投げたとかなんとか・・・」

「凄く美人ってところがもの凄く嘘臭さがあるね」

笑いながら御崎の言葉に対して相槌を打ち御崎も友達から聞いた話らしく詳しくは知らないらしい。何故、急にそのような事を聞いたのかと言うと間がもたなかったかららしい。また、その御崎の努力につい、笑いを堪えられなくなり笑ってしまう。

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