表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夏になる頃へ  作者: masaya
一章 恋の妖精と時々幽霊
45/112

43

しかし、普段ならばもう少し粘ってくる紫穂のイヤラシイ笑みがすぐに消え去ったかと思えばにこやかに笑みを浮かべる。私がしつこく聞いても言うつもりないってのも分かってるから別にいいや。なんて言うとあっさりと授業の準備を始めてしまう。あまりにもすんなりと解放されてしまったせいか尋は紫穂の方へと視線を向けたまま呆けた顔をしてしまっていた。紫穂もそんな表情が面白かったのか笑いながら頬を抓ってくる。

「そんなに聞いてほしかったの?だったら聞いてあげるけど?でも、どうせ言わないんでしょ」

「ま、まぁ・・・そうなんだけど。でも、予想以上にあっさりしていたというかいつも通りな紫穂じゃあない気がして驚いてた」

「そう?」

笑みを浮かべつつ教科書を出したりと準備の邪魔をしてはいけないと思い自分の席へと向き直し同じように授業の準備をし始めると背中が突かれたため振り向く、と

「今日の昼、何か奢ってね」

満面の笑みで言ってくるものだから、一瞬だけ竹井の事が頭に浮かんだがすぐに数回頷き了解した。と、答える。すると紫穂も満足いく返答だったのか、よしよし。なんて頷き前のめりになっていた体を戻し凛と背筋を伸ばし授業モードへと変わっていく。何度見ても授業中の紫穂の表情は凛と格好良い雰囲気がある。その雰囲気格好良いよ。なんて口から出かけたが呑み込み前へと向き直す。一限の授業などはダレた雰囲気もなくみな真面目に授業を受けている。それこそ先生の話し声、ペンの走る音、たまに机の裏に膝が当たったであろう鈍い音などが聞こえてくる。しかし、カツカツとペンが走る音、教師の声は何故ここまで眠気を呼ぶ心地の良い音なんだろうか。退屈でなければ暇なわけじゃあない。寧ろ、自分は授業が好きである。知らない知識が直球で分かるなんてそれこそ幸せである。尋は間違いなく教師から見たら優秀な生徒である。が、何故か楽しいはずの授業に集中出来ていなかった。いつもならペンを持ち教師の言葉一つ一つを溢さぬように聞き耳を立てているはずなのにどこか気の抜けた表情で黒板ではなく外を見てしまっていた。竹井の気持ちを知っているのにもかかわらず紫穂と今日の昼に約束をした事に対して後悔しているのだろうか?きっと、そうじゃあない。いくら思いを伝えれた。雨谷(かれし)が素敵な人だから諦めれる。気を切り換えて行こう。なんて格好いい事を頭では分かり誰かと話しをしている時は気が紛れていたため前向きに思えていたのだろう。しかし、授業になり一人の空間に変わってしまうとやはりどこか心がぽっかりと空いてしまったような脱力感が肩を叩いてきたのだろう。しかし、終わった(きもち)をずっと引きずったところで何も進展はしない。と、自分へと言い聞かせ自分自身に発破を掛ける。自分自身で落ち込んだり勇気付けたりと全然吹っ切れてないじゃん。なんてゆらゆらと飽きずに行ったり来たりしている(じぶん)に向けて苦笑いがこぼれてしまう。答えが出ている問題に対して考え続けることはきっと無駄ではない。と、言う人もいるだろうけれど尋の場合は無駄だと思っている。答えが出ているのに新しい答えなんて出る事はまず無い。そう思っている。恋愛に置き換えれば正解とはきっと彼氏、彼女だろう。なんか格好いいこと思ってるかも?なんて自画自賛してしまい含み笑いをしていると、頭の上辺りから視線を感じたため感じる方へと視線を向けて見ると少し距離を置きこちらを見ている紫穂の姿が映る。授業中に何故立っているのか分からなく左右を見渡してみるとクラスメイト達は各々好きな場所へと座り昼食を取ろうとしていた。いつの間にか授業は終わっていたようで紫穂は妄想(むこう)から現実(こちら)へ戻ってくるのを待っていたようで数分間、冷たい目で見ていたようだった。

「お、終わったんだったら声かけてくれてもいいでしょ」

「あ、ごめん。気持ち悪い顔だったからつい引いてしまって見てた」

「とても酷い事を言うね!」

「仕方ないね」

いつも通りの会話をしていると紫穂を呼ぶ雨谷の声が聞こえてくる。自然と二人の視線が声がする方向へと向く。と、雨谷、香織が微笑ましいものでも見るかのように紫穂へ手招きしている。ふと、二人の横にもう一人見覚えのある男がもじもじと恥ずかしそうに俯きながらもハニカミながら笑みをこちらへと向けてきていた。紫穂は当然名前を呼ばれたため三人が待つ場所へと歩き向かおうとする。そりゃあそうだ。呼ばれ手招きをされているのだから向こうへ向かうのはなにもオカシイことではない。これから昼ご飯をみんなと一緒に食べない?なんて言われるんだろう。

「ちょっと、呼ばれてるから行ってくるね」

別に行かなくてもいいんじゃあない?なんて言えるはずもないし言う権利も何もない。紫穂の腕へと伸ばした左手は右手を掴むことができずただ、空振りに終わり机の上へと落ちる。駆け足で三人が居る場所へと向かうと竹井が紫穂へと挨拶をしている。紫穂もにこやかに手を上げるなり四人で楽しそうに話しをし始める。と、すぐに紫穂はこちらへと戻ってくるなり、

「尋。天気も良いしみんなで外でご飯を食べようだって。竹井くんもいつも四人で楽しそうだから混ぜて欲しいんだって。私たちってお昼はあんまり一緒に食べてないよね?けど、周りから羨ましがられるグループになっててなんか嬉しくない?」

そう言うとこじんまりとした弁当箱を鞄から出しつつまったく反応のない尋を不思議そうに首を傾げつつ見つめてくる。ふと、紫穂の視線に気がつき笑みを作る。

「ご、ごめん。ちょっと考え事してた。た、確かにそう思われるのって嬉しいね。行こっか」

「・・・どうかした?」

幼馴染と言うものは怖いものですぐに作り笑顔だということがバレテしまう。いつもならここで戸惑うなり言葉が上手く出てこないのだけれど自然と言葉が出てくる。別に?気にしすぎじゃない?待たせたら悪いし行こうよ。そう告げ雨谷たちが待っている場所まで歩き向かう。紫穂もまた尋の言葉を聞いた後は追及してくることなく尋の少し後ろをついてくる。三人と合流し久々に学校のテラスで昼ご飯でも食べよう。と、雨谷が提案してきたためテラスへと向かい歩きだす。雨谷が紫穂、竹井が会話できるように率先して様々な話題を二人に投げかけ始める。一体、雨谷はどう言った感情で今、竹井の事を応援、手伝おうとしているのだろうか。一度、疑いの眼を向けてしまうとすぐに払拭は出来ない。尋は口調こそ穏やかで紫穂に行こう。と、言ったが正直なところ竹井とはあまり顔を合わせたくなかった。これが本音であった。しかし、ここで自分だけが行かない。なんて言うと空気が悪くなってしまいそうだったためこうして少し距離を開けて歩いている。

「ひろちゃん?まだ怒って・・・る?」

少し雰囲気が変だと感じたのか香織が声をかけてくる。まだ怒っている?香織に対して自分は全くと言っていいほど怒っていないことを言葉よりも先に顔で表現してしまい香織はその表情を見た瞬間に吹きだしてしまう。すると、笑いながら香織が口を開く。

「ごめんごめん。何に対して怒っているのか分からないよね!私も聞いたよ。竹井君が昼ご飯一緒に食べるって尋ちゃんたちに嘘をついていたんでしょ?圭くんも最初はショックを受けてたんだけど、それでも頼って来てくれるなら何かしら力にならないと仕方ないって」

「雨谷って本当に凄いね。器のでかさを見せつけられてしまった気がする。そう考えたら僕って凄く器が小さいね」

自虐的な笑みを浮かべつつ外の景色へと視線を向ける。相変わらず気持ちよさそうな夏の青々しい草木が風に揺られている。トン。と、肩へ軽い衝撃が伝わる。視線を向けて見ると香織がパンチをしてきていた。

「圭が特殊なんだよ。私だってその話しを聞いた瞬間にムカついたもん。ひろちゃんが怒るのも無理ないよ。正直その話しを聞いた時から竹井君の事を素直に応援出来なくなったし。どうして力になるか分からないもんねっ!」

両頬をぷっくりと膨らませながら怒る香織は相変わらず可愛くつい、笑ってしまう。なに笑ってるんだよっ!なんて文句を言いながら蹴る真似をしてくる。香織も同じような気持ちを持ってくれていることが嬉しく、自分の代わりに怒ってくれているところも嬉しく感じてしまう。けれど、陰口にも似た言葉を香織に言わせてしまいそれを嬉しく感じてしまっている自分が本当に情けないやつだと思い知らされてしまう。

「ため息なんてついてっ!シッカリしろ!美少年!」

「ちょっとやめて!美少年とか恥ずかしいから!」

ふと、香織はからかいを込めた表情ではなくどこか微笑ましいものでも見るかのような優しい笑みになると、

「ひろちゃんって本当に紫穂の事が大切なんだね」

「そりゃあ幼馴染だからね!・・・も、もちろん香織の事も大切だ、だからね」

何故、そんな事を言ってしまったのか分からない。ただの気まぐれだろうか。それにしては攻めすぎた言葉ではないだろうか。後悔したところでもう遅い。目の前の幼馴染(かおり)には伝わってしまった。尋の言葉を聞いた瞬間、香織はへへへ。なんて少しだけ恥ずかしそうな表情を浮かべ歩きつつこちらを向いてくる。

「告白をした女子にそう言うことを言えるなんてひろちゃんは意外と天然ジゴロなのかもしれないね!」

小悪魔のような笑みを浮かべつつ人差し指で体を突いてくる。すぐさま否定をするが香織も冗談で言ったようで、すぐに本気にするんだから!なんて笑う。そして何かを思い出したかのように両手を叩きつつ口を開く。

「そう言えばひろちゃん!朝さ校庭を歩いている大人の女性みなかった?白いワンピース系を着ていたんだけど。みんなに話しても誰も見ていないって言うし信じてもらえないんだけど・・・ひろちゃんは今朝、校庭の方を見ていた気がしたから見ていたかな?って思って」

どうして校庭を見ていた僕を見ていたの?なんて気持ち悪い質問が浮かんだがすぐに消え去り香織も同じ女性を見たんだ。と、言う驚愕と歓喜も混じった感情が沸々と湧き出てくるなり、

「か、香織も見たんだ!僕も紫穂に言っても信じてもらえなくて!やっぱりそうだよね!白いワンピースみたいなの着た女の人が学校に向かって歩いてきていたよね!!」

「そうそう!ひろちゃんも見たんだ!やっぱり私たちって・・・えっと」

香織が言葉を続けようとした瞬間、雨谷、紫穂の声が耳へと入ってくる。

「おいて行くぞー。早く席を取らないと地べただぞー」

「尋!早く来ないと並ばないといけないよっ」

二人して顔を見合わせていると香織は先ほどよりも少しだけオドオドとした表情で

「い、行こっか」

「そ、そうだね!」

香織のオドオドする雰囲気にのまれてしまったのか尋もまた若干ではあるが挙動が不審になり何度も頷きながら二人を待つ三人の所まで早歩きで向かう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ