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夏になる頃へ  作者: masaya
一章 恋の妖精と時々幽霊
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この紫穂の文字を見た瞬間に胸の奥の辺りから熱いモノが沸々と湧き上がってくる感覚を覚える。これはきっと穏やかな気持ちの感情(もの)ではないことはすぐに分かる。そして、それが紫穂に対してではなく竹井に向けたものであった。つまり、竹井は雨谷に見栄を張って昼に紫穂とご飯を食べるという約束をした。と、言う嘘をついたのだ。そんなものすぐにバレテしまう事ぐらい分からなかったのだろうか?別に人間はつい嘘をついてしまうこともあるだろう。それは話しの流れ上つかなければいけないことだってあるから仕方がないことでもあると思う。竹井と雨谷の話しの流れが分からないため判断はつきにくいが、尋の表情はだんだんと険しくなっていく。嘘をつくこと事態を全否定するつもりもない。それは分かっている。頭では分かっているけれど、妖精探検を一人忙しくまとめている雨谷が心の底から竹井に協力をしようとしている善意さえも否定されたような気がしてしまった。ただの思いこみかもしれないし周りが怒っている意味を聞いた瞬間に鼻で笑うかもしれない。けれど、尋はどうしてもその意味のわからない嘘が許せなかった。奥歯を噛みしめつつ紫穂の返事を紙に書き後ろへと送る。話を終わらせるように書いたため返事は来ることはなかった。悶々と授業中も様々な感情(しこう)が頭の中をぐるぐると渦のように回り授業内容なんてまったくと言っていいほど入ってこない。授業が終わり中休みの時間、尋は雨谷の席へと向かう。と、未だ懸命に様々なルートを模索しているのかノートにペンを走らせている。集中しているところで話しかけることに躊躇してしまいそうになる。が、グッと心の中で謝罪の言葉を向け声をかける。

「色々と書いてるとこ悪いんだけどちょっとだけ話したい事があるんだけどいい?」

ふと、尋の表情を見るなり先ほどまでスラスラと動いていたペンが止まり一度大きく背伸びをし立ち上がると教室を出ようと歩きだす。

「ちょ、ちょっと」

「ここじゃあ話しにくそうな顔してるから廊下出ようぜ」

ニシシ。なんていつも通りの雨谷の表情を浮かべながら親指を突き出し廊下へと向ける。尋も数回頷きつつ廊下へと向かい歩き出す。教室の前よりも少しだけ離れた手洗い場まで歩き、立ち止まったかと思えば勢いよく振り向いてくる。それで、話しと言うのはなんでしょうか?なんて言いたそうな表情を作り両手をこちらへと向けてくる。雨谷の意図が分かり尋は口を開く。

「紫穂の事で話しがあるんだけど」

「ほぅ」

思っていたこととは違ったのか素直に驚いた表情を浮かべ耳を傾けてくる。何時になく真面目な表情はどこか鬼気迫るものがあったのか雨谷の表情もどこか強張ってしまう。

「あのさ。雨谷には悪いんだけど紫穂の・・・いや、竹井の恋愛には協力できないから。本当にごめんね」

唐突な言葉に雨谷はただ、ただ驚愕しているようで何事だ?なんて質問をしたそうな表情のまま見つめてくるだけであった。が、すぐに頭を左右に振りつつ疑問を口にする。

「お、おい!どうしたんだよ?急にさ。お前がそんな事を言うからには何かしら理由はあるんだろうけどさ・・・ちゃんと理由を教えてくれないか?協力出来ないってのは戦力としては痛いけど無理矢理は申し訳ないもんな」

雨谷も半ば無理矢理に協力させようとしていた事に反省をしたのか申し訳なさそうに頭を下げてくる。尋も咄嗟に雨谷の強引さでやめたくなったわけじゃあない。と、弁解し理由を告げる。と、雨谷もほんのりと表情が曇る。

「なるほどな。確かに嘘はよくないな。うん。分かった!その辺りは俺が上手いこと聞いてみるし協力の件も俺がしっかりと上手い具合に言っておくわ!にしても、尋がここまで怒ってるのって始めてみた気がするな」

曇った表情も笑みへと変わり壁に寄りかかり腕を組みこちらを見てくる。そこまで怒っているつもりはなかったのだけど雨谷から見たら怒っているように見えたのだろうか。雨谷に八つ当たりみたいになってはいなかっただろうか?先ほどの自分の行いを思いだそうとしていると、雨谷が愉快そうに口を開く。

「お前ってもしかして、好きなの?」

「はぁ?」

からかうように両人差し指を突き出しこちらへと向けてくる。あまりにもからかうような表情だったためつい、呆れたような声を出してしまう。その反応が分かっていたかのように雨谷も笑いだす。

「しっかし、お前らって幼馴染だろう?普通さ、あんな美人とほぼ人生を共にしてて好きになったりしなかったの?」

「そりゃあ、中学の時に一瞬だけ心が惹かれそうになった事はあるけど・・・でもやっぱり友達止まりかな」

「やっぱりそう言った時期があったのか。勿体ねーな。正直、竹井には申し訳ないけどお前ら二人ってスッゲーお似合いだと俺は思ってた。今言わせてもらったけど」

そう口にすると肩を叩き教室へとあるいていく。ただ、いつものように肩を叩かれただけなのに何故か叩かれた場所がジワリと熱く感じてしまう。だからと言ってその理由がよく分からなく首を傾げつつ雨谷の後を追い教室へと戻り自分の席へ座った瞬間、背中に激痛が走る。まるで針にでも刺されたかのような一点集中型の痛みに振り向くと紫穂がシャーペンの先で背中を突いてきたのかシャーペンを片手に驚いた表情を浮かべていた。

「いやいや。驚くのは僕の方だから!」

「ご、ごめん。ちょっとだけ突くつもりが背中が勝手に近づいてきちゃって」

「そら椅子だから背もたれに縋ろうと思ってさ!本当にシャーペンの先とか凶器だから!」

「ごめんごめん。以後気をつけます!だから許した!」

こっちのセリフでしょ。と、言うのも馬鹿馬鹿しくなったためため息をつきつつ前を向こうとした瞬間に紫穂の手が肩を掴み振りむく邪魔をしてくる。どうしたのかと思い視線を向けるとどこか探るような表情を浮かべていた。よく分からなく視線を逸らすことなく見つめ続けていると紫穂が口を開いてくる。

「さっき、雨谷くんと教室出て行ったけど何か重要な話しでもしてたの?」

「は、はぁ?どうして?」

ほら。そう言うと人差し指を顔へと向けてくるなり、

「尋がそうやって言葉が詰まる時って大体、女の子絡みの話しだったりするんだよね」

ニンマリとこの件からは逃さない。なんて意味が込められているであろう笑みを向けてくる。その眼光は鋭くつい、上手く回避できるような言葉(いいわけ)が思いつかなかった。

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