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夏になる頃へ  作者: masaya
一章 恋の妖精と時々幽霊
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言われるがままに握手を済ませる。と、もう伝えたい事も終え満足したのか雨谷は一人机の上に出されたノートに描かれている学校の見取り図に様々な情報をかき込み始める。よく見て見ると綺麗にまとめられておりこれを制作するのにどれだけ時間がかかったのだろう?雨谷が妖精探検を真剣に開催しようとしているのかが伝わり息を飲んでしまう。率先して動いている事も知っていた。一人突っ走り気味な気もしていた。企画をする事は簡単だし口でやりたい事を言うのも簡単だ。しかし、ここまで緻密に参加する人々に楽しんでもらおうと一人懸命に頑張っている姿は輝いている。悔しいけれど香織が好きになる理由を再確認させられてしまう。同性でもある自分でさえやっぱり格好良いと思ってしまう。そして、完膚なきまでに敗北を思い知らされる。ここまで来ると気持ちよくもなってしまう。自分が好きになった人が好きになった人は本当に素敵な人だと知っていたけど再確認できた。自然と雨谷を見つつ笑みがこぼれてしまう。きっと以前の自分だったらここまで思えなかっただろう。けれど、なんとなく、参加者(みんな)の為に一生懸命頑張っている姿を見ていると先ほどまで灰色に見えていた景色が少しずつ色鮮やかに変わっていく。きっとこれが諦め。なんだろう。小さく誰にも気がつかれないように未練(ためいき)を教室の床へと置く。

「雨谷!明日の探検は期待してるよ!それに放課後も僕はそこまで力になれないかもしれないけど、了解したから!」

思いきり振り被り肩を叩いたものだから懸命に書いていた文字が蛇のようにゆらゆらと蛇行線の文字になってしまうが雨谷も笑いながら数回頷き消しゴムを取りだす。笑いながら謝罪を済ませつつ自分の席へと歩き座る。と、後ろから後頭部辺りに紫穂の視線を感じてしまい身の危険を感じつつ振り向くと予想と違い気の抜けた表情がそこにはあった。何事かと思い声をかけようとした瞬間、紫穂が口を開く。

「何?急にこっち振り向かないでくれない?」

「て、手厳しいな。いや、なんか紫穂が僕の後頭部を見ていた気がしてさ。それで身の危険を感じて振り向いたらボーっとした表情だったからどうしたのかな?って思ってさ」

尋の言葉に紫穂は頬をほんのり赤くしたかと思えば鋭い視線へとすぐに変わる。つい、雨谷と話す前とは違い唐突に接してくる雰囲気(テンション)が違いすぎたため少しだけ戸惑っていると、流石に紫穂もまずいと思ったのかもごもごと口を小さく動かしつつ何かを伝えようとしている。が、口の動きが可笑しかったのかつい、尋は笑ってしまう。紫穂の方は何故笑っているのか分からなく首を傾げつつ見つめている。と、尋は背伸びをしつつ窓の外を眺める。

「紫穂?僕さ。ついさっきまでほんの数分前までは香織のことまだ好きだったんだ。好きと言うか好きって気持ちが諦めきれなかったんだよね」

「・・・そりゃあ、まあ・・・何年も片思いしてたんだし・・・ね」

どこか気まずそうな表情で明らかに自分の事を気にしてくれている紫穂の気遣いが暖かく嬉しい。口では厳しい事を言っているけれどいつもこうしてちゃんと自分の事を真剣に考えてくれる。

「けどね?雨谷を見てたらハッキリと分かったんだ。雨谷のどんなところが好きかってことがさ。と、言っても僕が勝手に思っているだけで他にもいいところは沢山あるんだろうけどね?」

「でも、尋には尋のいいところがあるよ?」

「ははっ。ありがとう。なんか、紫穂に褒められると違和感があるな。でも、香織が好きだろうと思う雨谷の好きなところ僕も好きになってさ。別に変な意味じゃないからね!でも、なんとなくふわっとそれで諦めれたんだよね」

言葉を口にしつつ紫穂へと視線を向けるがよく分からない。と、言う感じで首を傾げていた。が、それでいいと思う。人の感情なんてそんなもの。自分が納得できればきっとそれで片思いの失恋は完成する。紫穂も首を傾げていたが妙にスッキリとした表情をしている尋を見るとやれやれ。と、言う感じでため息をつくと肩を軽く叩く。

「てか!私に褒められると違和感があるって失礼だよね!それに、長年ずっと片思いの相談に乗ってきた私に何かお礼とかないの?」

いじわる気味に微笑みながら片手を尋へと向ける。

「まぁ、確かに紫穂には色々とお世話になってるからなにか奢らせてもらわなきゃいけないね。昼にでも何か奢りましょうか?」

何気なく言ったいつもの社交辞令(ことば)だったけれど言った直後にある事を思い出してしまう。が、紫穂はなんの躊躇もなく満面の笑みで頷いてくる。あまりにも自然に頷くものだから口にした尋の方が戸惑ってしまった。その戸惑いが伝わったのか紫穂もなにかオカシイことでもしたのか?なんて首を傾げつつお互いがなにやら分からない疑問が頭の上へと浮かびつつ見つめ合ってしまう。が、すぐに紫穂の方から口を開いてくる。

「どうしたの?尋が奢るって言ったのに早速奢る事に渋ってるの?後悔するにも早すぎるにもほどがあるでしょ!」

「あ、いや。本当にお世話になったことは確かだから奢る事は嫌じゃあないんだけど、えっとね・・・」

この後自分が言おうとした言葉に一瞬躊躇してしまった。が、こればかりは言わずにはいられなく少しだけ前かがみになり紫穂の方へと顔を近づける。その行動に驚きつつも紫穂は瞬きをしつつ尋の言葉を待っている。

「紫穂って今日の昼休みに誰かと昼ご飯の約束してるんじゃあないの?」

そんなこと?なんて気を張ったのが勿体ない。なんて言いたそうなため息をつくと片肘を机の上へと置き

「確かにいつもは香織たちと食べてるけど尋に奢ってもらうから今日はごめんって言えば済むことだよ?昼ご飯を一回や二回一緒に食べなくても友達との溝は出来ないって。尋って昔から女子のグループ感は怖いって言うけど別に私たちはそうでもないよ?確かに面倒くさいグループもあるけどこのクラスの女の子はそう言ったの無いし。だから大丈夫!なに奢ってもらおうかな」

語尾に音符でも付けているような軽い口調でそう言うと丁度、担任が教室へと入ってくる。女子のグループ感の話しではなく竹井との約束はどうなのか?と、聞きたかったが紫穂の口ぶりからしてそのような約束をしているようには見えなかった。紫穂はあれで出来ない約束はしないし、約束をしたら確実に守る人間。つまりはどう言うことだろうか?竹井が嘘を言っている?それとも単純に紫穂が忘れているだけ?変に頭がこんがらがってきてしまったのか両手で頭を抱え悩んでしまう。が、答えが見つかるわけもなくこれ以上突っ込んで聞いてしまうのもどうかと思い、とりあえず昼休みまで様子をみようと心に決めかかるが、どうしても気になったためノートを一枚ほど切りとり質問を書くと後ろへと渡す。昼休みに誰かと昼ご飯を食べる約束をしていないか?と言うものだった。

返事まで時間がかかるか怒らせ返ってこないかとも思ったがものの数秒で背中を突かれ返事の手紙をみる。誰とも約束してないけど?どうして?と、文字が書かれているだけであった。

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