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夏になる頃へ  作者: masaya
一章 恋の妖精と時々幽霊
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外に出てみるとほんのりと心地よい夜風が虫の声を連れてくる。自然と夜空へと視線が向いてしまい満面の星空が広がる。香織、紫穂も同じように視線を上げどこまでも広がる星空が映ったのか驚きと感動が混ざったような微笑ましい声を上げていた。三人は示し合わせた訳でもなければ狙った訳でもない。自然と三人が肩を並べながら歩きだす。幼い頃の約束(あいことば)。三人歩く時は絶対に一緒に歩くこと。何気ない子供の時の約束(おもいで)。高校生にもなれば小学生の頃に一度だけしかした事のない約束を忘れてしまっても仕方がないこと。忘れてしまっていたとしてもきっと怒ることはないだろう。けれど、三人ともがまだその約束を忘れてはいなかった。不思議と左右を見ると香織と紫穂を見下ろすかたちになり成長したんだな。なんて分かっているけど小学校の頃とは全然違うことにどこか嬉しくて寂しさを覚え誤魔化すように星空へと視線を向ける。アスファルトを蹴る三人の足音、夜風に吹かれ草が擦れる音、楽しそうに人間たちが居なくなった場所で羽を伸ばし音楽を奏でている虫たち。一つ一つ耳に入ってくる音が新鮮に聴こえてくる。すると、クスッと何が面白かったのか香織が口に手を当て笑う。

「どうかした?」

「ん?なんかさ。三人でこうしてまったりと夜の散歩するのすっごく久々だなって思って。なんだか小学校の頃を思い出しちゃうなって思って・・・ん?」

香織の言葉に紫穂も同意見なのか頷きながら、確かに懐かしいかも。なんて笑いながら空を見上げていた。つられるように、何度見上げたか分からない夏の夜空へと視線を向けた瞬間。人工発光でもなければ星が瞬いているような光でもない。ぼんやりとした不思議な発光体がふわりと夜空に浮かび左右に動いたかと思えばまるでその場所に最初から無かったように闇へと溶けていく。突然の出来事に視線を逸らす事も出来ずただ、そのまま夜空へと向けていると紫穂が肩を突いてくる。

「み、見た?」

「紫穂も見たのか?」

「え?何か見えたの?丁度、携帯かまってて見れなかった!もしかしなくても流れ星?ひろちゃんも、紫穂もずるい!」

香織は見れなかったようだが紫穂はきっと同じものを見たに違いない。蛍にしては光の大きさが明らかに違った。光は野球ボールぐらいの大きさであったため二人ともが香織の言葉に上手く反応出来ずにいた。と、言うよりもどう言う風に説明をしたらいいのか分からなかった。もう一度、先ほどの光が浮かび上がった辺りへ視線を向けて見るが案の定、映ってくるのは遠くでキラキラと光る星、月ぐらいであった。混乱しかけた思考を正常に戻すため数回ほど頬を叩き静かに深く息を吐きだし吸いこむ。夏独特の青々しい空気が体の中を包み込む。紫穂も冷静になり思考が正常に動きだしたことでなにやら疑問が出て来たらしく顎に手を添え口を開く。

「そう言えば、恋を成就させる妖精の事で香織に聞きたかったことがあるんだけどいい?」

紫穂の言葉に香織もどうぞ。なんて言いながら手を向ける。何を疑問に思ったのか尋も興味があり黙り紫穂の方へと視線を向ける。

「妖精を同性どうしで見た場合はどうなるんだろう?もしかしたら、その二人がくっついちゃったりするのかな?」

なんだそんなことか。なんて言いたげな表情で香織は笑いだす。愛おしいものでも見るかのような暖かい表情を向けると、

「そこが不思議なところでもあって。同性同士では先ず発見できないらしいよ。男女でいることが妖精を見つけれる絶対条件なんだって。実際、男子たちが夜忍び込んで探したらしいけどまったくと言っていいほど見つけれなかったらしいし。結果的にただの肝試しになっちゃったらしいよ。私は同性同士でも愛は芽生え存在するって思うからここに存在する恋の妖精さんは少しだけ思考が古いのかな?」

微笑みながら返答すると紫穂は頷きながら言葉の整理をしているようだった。何故そのような疑問を聞きたかったのか?と、疑問が出てきてしまった。が、それを問うたところできっとただ、気になったから。なんて返答が返ってくる事ぐらい分かってしまうため大人しく足を動かしていると、香織が誰に言う訳でもなく、独り言のように聞こえるか聞こえないかの小さな声で

「でも、人の恋を成就させるのって単に妖精だけじゃないよね。私の場合はひろちゃんが恋のかけ橋をしてくれたんだもん・・・ね」

きっと、香織は尋にさえ聞かせるつもりがなかった言葉(こころのこえ)。しかし、尋の耳にはしっかりと香織の言葉は聞こえていた。トクンと跳ねる鼓動(きもち)。つい、胸のあたりへ手を当て自分の感情を確かめるように何度も同じ言葉を自分に問いかける。いつも香織と会話をする時は頭の中で整理し口に出すようにしていた。本能のまま言葉を出す。と、言う暴走行為をしてしまい嫌われないように心がけていた。その辺り紫穂には何も考えなしに言葉を言えている気がする。けれど、自問自答し解答が出てくる前に自然と口が動いてしまっていた。

「僕は香織が感謝してくれてるほどいい事をしたつもりはないんだ。いつも、香織は僕に感謝してくれてるのは凄く嬉しいけど、そんなんじゃあないんだ・・・ごめん」

突然の謝罪に香織は動揺をしているのか口を開くことなくジッと不思議そうに尋を見つめる。紫穂はきっと尋の謝罪の意味を知っている。いつもならこの辺りで助け船を出すところだけど、今回はそうしなかった。きっと尋の気持ちを汲んだのだろう。しかし、突然の謝罪に香織は当然のように問うてくる。

「どうして?ひろちゃんは圭の為に動いてくれてたんじゃあないの?確かにひろちゃんに紹介されるまで何とも思ってなかったし・・・でも、」

「違うんだ」

小さな声だったのに力強ささえ感じ続けようとした言葉を飲み込み尋の方へ視線を向ける。と、どこか切なそうな笑顔を向けてきていた。この表情を香織、紫穂は知っていた。そうだった。こんな表情を見たのは中学の頃だ。自然と尋に向かって伸び掛けた手があと、数センチと言うところでグッと鎖にでも縛られたかのように動かなくなってしまう。尋が今から言おうとしている言葉を直感で聞きたくない。と、思ってしまう。けど、それでも、止めることができず尋は微笑む。と、

「僕は香織の事が大好きだったんだ。けど、圭も凄く香織の事が大好きだって知って・・・自分の好きって気持ちを逸らすために圭を紹介したんだ。ずるくて感謝されるようなことじゃあないんだ。僕の勝手な独りよがりだっただけのただの暴走」

何年も言えなかった、好き、と言う単語がすんなりと香織の前で言えたことが驚きでもありどこか心の奥底で重のしかかっていた感情(おもいで)が雪崩のように溢れだしてくる。しっかりと最後まで香織は尋の言葉を聞くと、深く頷き一度夜空を見上げ笑みを浮かべる。その微笑みは蒼白い月の光のせいかいつもより綺麗に見えてしまいつい、見蕩れてしまう。口では好きだった。と、過去形にしている癖に未だ未練がましい。一度言ってしまった言葉を、ものの数秒で訂正するのはきっと格好が悪い事だということは重々承知である。あるけど、ちゃんと今この瞬間に伝えなければきっと後悔してしまうだろう。

「・・・そっか。ひろちゃんが私の事を好きだったなんて知らなかった!・・・って、間が悪いなっ!圭から電話だ!・・・電話長くなると思うからこのまま今日は解散しよっ。家も近いしこのまま電話しながら帰るね!」

そう言うと尋、紫穂の言葉を聞く前に歩きだし始める。どうしていいのか分からず戸惑いその場でキョロキョロとしている。と、なにを思ったのか香織は振り向くと、

「でも、ひろちゃんの気持ち嬉しかったよ。ありがとう!おやすみなさい!」

そう言うと携帯を耳に当て歩きだす。香織にはマイペースなところがあることは幼馴染の二人には分かっていたこと。けれど、そのマイペースさがここに来たことにどこか安堵している自分も居る事は確かだった。小刻みに早く奏でていた鼓動は香織が遠くになるにつれて穏やかになっていく。が、火照った体はすぐには冷えることなく若干暑さを覚える。

「ははっ・・・香織ってマイペースだよね。まあ・・・そこもいいところなんだろうけど」

「・・・」

とりあえず紫穂と二人でこのままずっと立っている訳にもいかないため、紫穂の家まで送ろうと歩きだそうとした瞬間。ずっと黙り二人の事を見守り続けていた紫穂の手が歩きだそうとしていた尋の手を掴みその場に留まらせるよう必死に踏ん張っていた。唐突に握られたため驚きつつ後ろへと視線を向ける。と、腕を掴んでいる紫穂の手はどこか小刻みに震えているようにも見えた。視線を手から顔へと向ける。その表情は今にも泣き出してしまいそうな切ない表情でどこか月の光りような儚さを感じてしまう。声をかけようとした瞬間、

「・・・駄目。せっかく尋が自分の気持ちに向き合えてるのにここで逃げちゃだめ。今、伝えなきゃ尋がこれからも辛くなるだけ・・・だから・・・」

震える声。掴まれていない方の手で紫穂の手を取る。いつも僕が困っている時に手を指し伸ばして助けてくれるのは紫穂だ。情けなさとどこかこそばゆい嬉しさに自然と頬が上に上がる。

「そうだよね・・・ありがとう。ちゃんと気持ち伝えて振られてくるよ!」

「うん。何年も思い続けて、自分の気持ちを誤魔化すために親友を紹介して、だけど、諦めきれなくてずっと思い続けてて、すっごく気持ち悪くて格好悪いけど!でも、その一途さはカッコいいよ!」

「なんか、めちゃくちゃ言われてるけど的を得てて言い返せない」

振り被った紫穂の渾身の平手打ちが背中へと直撃する。ゴスッと鈍い音が体中を揺らす。叩かれた場所はじんじんと痛み熱くなってくるが妙にスッキリとした気分になる。自分でも気合いを入れるため両頬を叩き紫穂の方へと視線を向ける。そうだった。いつもこの笑顔に支えられていたんだった。

「でも、ありがとう!」

「何に対しての、でも?・・・ふふっ!よっし!気持ちよく振られて来い!落ちた骨は私が蹴っ飛ばしてやる!」

「ははっ!蹴り飛ばすか!ありがとう。・・・でも、気持ちを伝えてスッキリするとか自己満足にならないかな?相手側からしたら嫌な奴にならな・・・痛い!」

「ウジウジするな!片思いなんて自己満足で出来てるんだよ!・・・それに、そんなことで香織が尋の事を嫌いになると思う?余計な事を考えなくていいから・・・行ってこい!」

そう言うと紫穂は尋の背中を両手で思いきり押す。と、尋もその勢いに任せて香織の後を追う。別れてから数分だったということもありすぐに香織の背中を見つけることができる。

「か、香織!」

「えっ。ひ、ひろちゃん!?どうしたの?何か忘れ物?」

驚きつつも尋を見つめる香織の手には携帯電話は見当たらなかったため尋は一度飲み込みかけた言葉を香織へと伝える。

「急に追いかけて来てごめん!でも、どうしても香織にちゃんと伝えたかったことがあって・・・聞いてほしんだ」

「・・・うん。分かった」

香織も言葉一語一句聞き逃さないように、と尋の瞳を見つめてくる。真っ直ぐとした大きな瞳に見つめられるだけで穏やかになっていた鼓動が激しく奏で始める。いつもならここで誤魔化したり、なんでもないよ。なんて、言うのだろう。けど、今はそうじゃあなかった。紫穂の言葉が背中を押してくれている。これで逃げたらきっと半殺しにされてしまうことは間違いない。深く、夜の暗さに紛れるように息を吐く。懐かしい夏の香り。昔もこうして香織と二人っきりで向かいあって告白できるチャンスがあったっけ。でも、あの時は勇気がなくてビビりまくって結局、圭を紹介したんだよな。感傷(おもいで)に少しだけ浸り香織へと笑みを向ける。この言葉を言うのに何年経ったんだろう。言おうとすればいつだって言えた。けれど、言えなかった言葉。関係が壊れてしまいそうでビクビクしながら壊れないようにそっと胸の奥にしまっていた言葉。親友に対しての罪悪から言えなかった言葉。圭の姿を思い出してしまった瞬間、一瞬だけ言葉がつまりそうになった。が、ふわりと夜風が頬を撫でた瞬間に紫穂の言葉を思い出す。片思いは自己満足でいい。

「僕は、香織の事が昔から大好きです。よければ僕と付き合って下さい」

頭で考えていたよりも真っ直ぐに出てきた言葉。いつも予習をしては奈落の底に落ちていた。それでも、何度も想像していた告白。緊張からか両脚は震えきっと最後辺りは声も震えていただろう。それでも、香織は最後まで笑うことなくしっかりと尋の言葉(きもち)を受け止めてくれている。

「・・・ありがとう。でも、ごめんなさい」

深く頭を下げそう告げ顔を上げる。分かっていた返答(こたえ)。告白は想像よりも短く直接的になったけど返答はいつも想像していた通りであった。けど、頬辺りからジワリと熱いナニカが目頭に向かってやってくるのが嫌でも分かった。が、それを香織に見せてしまえばそれこそ最悪な男だ。必死に、無理矢理抑え込むようにばれないように手のひらに爪を立てる。

「ちゃんと答えを出してくれてありがとう。急に、こんな事を言ってごめんね」

「んーん。ひろちゃんが私の事を好きって言ってくれて嬉しかったよ。ちょっとビックリしちゃったけどねっ!」

「ははっ。ごめんごめん!僕の自己満足に付き合ってくれてありがとう!」

「全然だよっ。じゃあ、そろそろ帰る・・・ね?また、明日ねっ!」

そう言うと香織は手を振りながら背を向け家へと歩きだす。送っていくと言っても距離的にすぐ近くにあるため申し出なかった。いや、申しだせなかった。香織の背中が夏の夜へと消えていく。背中が見えなくなった瞬間、涙が頬を伝いアスファルトの上へ落ちる。必死に止めようと顔を上げ何度も深呼吸をしているとアスファルトと靴が擦れる音が耳へと入って来たかと思うと二回ほど、ポンポンと頭を撫でられる。

「ごめん。格好悪いね」

「全然かっこ悪くないよ。すっごく格好いいよ」

紫穂の言葉を聞いた瞬間に止まりかけていた涙が流れ始める。止めようとしても一向に止まる気配がない。あまりの涙につい、自分自身で笑ってしまう。

「ははっ。止まんないや。ごめん

紫穂の方へ視線を向けると泣き顔を見ないように夜空へと視線を向けてくれていた。小さな気遣いに尋は涙を流しながらも口元は自然と微笑み同じように夜空を仰ぎ見る。満面の星空。ここまで透き通った夏の夜空を見たのは何時ぶりだろうか?

「謝らなくていいよ。それに、恋が叶わなかったんだもん。涙を流しちゃうのは自然な事だと思うよ?私も、尋の気持ちは凄く分かるから・・・さ」

「・・・紫穂?」

「ん?」

「いつも、辛い時に一緒に居てくれてありがとう」

「ふふっ。それはお互い様だからいいよ・・・でも後でジュース奢ってもらおうかな」

「ははっ・・・まあ、そのぐらいなら喜んで」

二人を照らす蒼白い月。アスファルトに伸びる二つの影はいつもよりもほんの少しだけ、流した涙分だけ以前よりも距離が近くなっているように映っていた。

やっと一章も佳境に入ってきました。しかし!まだまだ、彼らたちの物語は続くのでよろしければ、どのように成長していくのかあたたかく見守ってあげて下さい。

2015/11/08

※誤字訂正

かっこ悪い→格好悪い

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