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夏になる頃へ  作者: masaya
一章 恋の妖精と時々幽霊
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視線の先に紫穂は居るはずがないと分かっていたのにも関わらず何故振り向いてしまったのだろう?オレンジ色に染まるアスファルトが妙に寂しく見えてしまう。紫穂が誰かの事を好きになることだって、誰かと付き合うことだってあるだろう。それこそ自分自身(しほ)の勝手だ。しかし、心のどこかでそう言った恋愛関連の出来事があれば話しをしてくれる。と、勝手に思っていた。それは自分自身(ぼく)が思い描いていた勘違いでありうぬぼれ。幼馴染だから。と、言って百パーセント伝えなければいけない。なんて法律、決まりごとがある訳ではない。ましてや本人となんでも報告し合おうね。なんて言う訳もない。頭では分かっているのに心がどうしても否定したがる。否定したい理由も分からない癖に紫穂に対してこの様な感情を抱いてしまっている自分自身に苛立ちを覚える。無意識に手のひらを握り締めてしまう。結末(こたえ)は出ているのに否定したがる。なぐさめに頬へ夕風が頬を撫でたと同時に心配そうにこちらへと視線を向けている香織が目に入る。すぐさま笑みを浮かべるが取り繕った表情なんてすぐにバレテしまう。幼馴染だったらなおさらだ。

「ひろちゃん?どうしたの?ものすんっごい!眉間にしわ寄ってたけど」

少しでも尋の周りに漂っている変な重っくるしい空気を払拭しようとしてくれているのか眉間にしわを寄せ自分で出来る最大限の変顔をしてくる。その健気な香織の気遣いに申し訳なくなってしまい余計に表情が沈んでしまう。が、すぐさま香織は勢いをつけて背中を叩いてくる。人を叩き慣れていないのか思った以上に背中に衝撃が襲ってきてしまいつい、咳き込んでしまう。

「わ!ごめん!ごめん!普段だったら紫穂がひろちゃんを叩いて励ましたりするから真似してみたんだけど・・・強く叩き過ぎちゃったね。ごめんなさい」

深々と頭を下げてくるものだからすぐさま頭を上げるように促す。と、へへへ。なんてすぐに許してくれることを分かっていたような悪戯っぽい表情で微笑みかけてくる。自然と尋も険し表情では無く微笑だが微笑むことができた。はて?なんて香織は何かが気になったのか首をかしげつつ顎へ片腕を添えつつ考え事を始める。そして、考えた結果、ある疑問が出てきたのか尋へ問いかけていた。当然と言えば当然の疑問。ただ、幼馴染の一人が男子生徒と歩いている光景を偶然に発見してしまっただけ。それこそ、幼馴染とすれば絶好とないからかうネタである。ネタと言えば語弊になるかもしれないけれど、三人の中では笑い話になるはずだと香織は思っていた。が、尋はそのようにからかおう。面白いネタを見つけた。なんて最初に言いだしそうなのに今回ばかりは違った。愉快。と、言うよりもその光景に不快だと言わんばかりな表情であった気がした。

「ひろちゃんって紫穂の事が好きなの?」

「へ?」

唐突な質問に目を見開かせ香織を見つめることしか出来なかった。が、質問を向けた本人はいたって真面目な表情で問いの答えを待っているようだった。どうしてそのような疑問が出てきたのか。と、言う疑問が出てきてしまったが、すぐに自分が変な表情をしてしまっていたからだろう。と、納得してしまう。しかし、自分でもよく分からない感情(きもち)を言葉にして、いや、香織にちゃんと伝えれるだろうか。だからと言って咄嗟に取り繕った嘘を言ったところで幼馴染(かおり)には通じない。嘘をつく必要もない。自分でも整理するようにぎこちなく口を開く。

「好きだよ。もちろん幼馴染としてね。でも、きっと香織は女子として女の子として紫穂の事が好きなのか?ってことを聞きたいんでしょ?」

当然ですよ。と、頷き返してくる。言葉にせずとも香織の表情豊かな顔を見ているだけでほっこりしてしまう。

「それはない・・・と、思うかな?」

「ほうほう。でも、私は少しだけだけど紫穂に女子としての興味を持っている気がするなっ!だって、ひろちゃんのあんな眉間にしわを寄せて考えこんでいる表情なんてアイスを選んでる時以来だし」

「アイスって・・・でも、正直なところよく分からないんだ。なんかね?こう言うことを言うと漫画の読みすぎだとか言われそうだから言わないようにしていたんだけど、紫穂が誰か他の男子と歩いていた事を見ると胸の辺りがモヤモヤすると言うか自分でもよく分からない気持ちがほんのちょっぴりと出てきたのは確かなんだ」

普通なら好意を寄せている女性にこの様な事は言わないのだろうけど、尋は自然と言ってしまっていた。いや、好きな人だからこそよく分からない本心を打ち明けてしまったのだろう。しかし、聞いた限り香織は一つの答えに行き着くにはそこまで時間がかからなかった。

「ほほっ!なるほどねっ!私はひろちゃんじゃあないし予想だから強く言っていいのか分からないけど。多分!その感情は・・・」

最初こそ勢いがあったのに最後まで言葉を言いきる前に元気が無くなり香織の頭の中のナニカが邪魔をしたのか口を閉じてしまい一瞬だけ迷った表情を浮かべる。咄嗟に口にしようとしていた言葉を無理矢理に呑み込んだ気がした。が、香織は一度だけゴクリ。と、喉を鳴らし、

「予想で話したら駄目だよね!特にこう言ったのは・・・さ!」

もごもごとした言葉に首を傾げるしかなかった。何を香織は言おうとしていたのだろうか?しかし、こうなると香織も頑固なもので本心を言うことはない。ぽわぽわとしている癖に芯は通っており一度自分で決めた事を曲げることはあまりない。しかし、折角好きな女の子と二人っきりで帰っているのに何故、眉間にしわを寄せてよく分からない感情の答えを探したり、心配させたりしてしまっているんだろう。情けない。好きな人の前では好きだって気持ちだけで動けばいい。言い方は悪いけど自分の紫穂に対する気持ちでさえ二の次でいいんだ。香織(すきなひと)の笑顔を見れればいいのにそれができていない。自分から遠ざけてしまっている。しっかりしろ。と、自分に喝を入れるため両頬を数回思いきりたたく。唐突な行動に香織は引いてしまうかもしれない恐怖もあったけれど全ての邪念(しこう)を消すためにはこれが一番だと思い実行する。両頬がジンジンと傷むがさっぱりとした気もする。恐る、恐る香織の方へと視線を向けて見ると香織は引いて見るどころかクスクスと笑いながら、

「気が済んだ?ひろちゃんっていっつも一度ぐちゃぐちゃになっちゃった頭の中をリセットするために頬を叩くよね。私は慣れたけどみんなは絶対にビックリするよね!あははっ。でも、ひろちゃんも何かスッキリした?」

顔を覗き込むようにこちらへと体を向けてくる香織に視線を逸らすことなく笑みを向け頷く。

「スッキリするって言うか折角、香織と一緒に帰れてるんだからその時間を大切にしなきゃ勿体ないって思ってさ!」

久々にこんなに優しくて清々しい笑顔(ひょうじょう)を見た気がする。つい、その懐かしい笑顔に見蕩れてしまいそうになってしまう。が、すぐさまその笑みに対して笑みを返す。

「ひろちゃんも言う様になったね!」

え?なにが?なんて首を傾げる尋は夕陽に照らされてちょっとだけ幼く見えてしまうのがなんだか可笑しかった。香織の笑顔につられて微笑みだすと、あ!なんて先ほどとはうって変わりテンションが少しだけ高めになった香織の声が夏の夕暮れの空へと吸い込まれる。何を思いついたのか香織は鞄をごそごそと物色し始める。何事かと思い視線を向けたままでいるとなにやらチケットのようなものが二枚ほど出てくる。

「お好み屋イカたろべ?」

「そう言えば、割引チケット貰ってたんだ!はい!コレあげるよ!」

そう言うと香織はチケットを二枚ほど手渡してくる。一緒に行こうよ!なんて言われるかと心の隅で思っていた自分が恥ずかしくなり視線を落としながらチケットを受け取る。満足そうに香織は頷きつつ、今度こそ帰ろっか!なんて笑いながら歩きだす。尋も、そうだね。帰るって言ってて全然足が止まってたよね。なんて苦笑いを浮かべつつ帰路へと就く。

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