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夏になる頃へ  作者: masaya
一章 恋の妖精と時々幽霊
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トク、トクと鼓動がいつもより小さじ一杯ほど早く打ち始める。それは香織と御崎が少し前を歩きながら楽しそうに会話をしているからだろう。何故、女子二人が楽しそうに会話をしている場面を見ると微笑ましく見えてしまうのだろうか。一学年の中で一番と言われている女子と自分の意中の人が笑顔で話しをしている光景を目の当たりにして微笑まずして何をする。そのような一歩間違えれば変質者とも間違われない表情をしていると気が付いたのか尋はすぐさま咳払いをしつつ気を紛らわせるように背伸びをしていると香織が笑みを向け振り向いてくる。

「ひろちゃんって放課後にこんな!可愛い一年生とたこ焼きを食べに行こうとしてたんだねっ!このこのっ!卑猥だぞー!もしかしたらファンクラブの子に殴られるかもよ!?」

からかう様に肘を脇腹へと突いてくる。口で言っている事は当然冗談であり尋も御崎も笑い香織の言葉を素直に楽しんでいる。と、なにを思ったのか香織はわき腹に攻撃をしていた手を止めポンッと手を叩き二人の前に立ちふさがる。意味不明な行動に二人ともが首を傾げると香織はその表情を見るなり口元に手を持っていきつつ笑いだす。余計に訳が分からなくなり、いや、尋に至っては変なものでも食べてしまったのではないだろうか?なんて変に心配してしまう。と、笑い終わった香織が両手を後ろで組むと

「なんだか二人ってお似合いだよね・・・なんかぽわぽわしてて・・・いいね」

「え?」「へ?」

二人してまたも唐突な言葉に同じタイミングで声を発してしまう。尋は未だによく分からない表情を浮かべているが御崎に至ってはすぐさま言葉の意味を解釈したのか顔を真っ赤にしつつもじもじとし始める。良く分からないと言っても尋も香織の言葉は理解しているつもりだけどそれよりも香織の表情が気になって仕方がなかった。明らかに香織が先ほど言った言葉にはどこか嘘が含まれているような気がしてならなかった。嘘と言う言葉は言い過ぎかもしれないけど本心を言っていないような気がした。

「・・・か」

「えっ!?」

尋よりも大きな声を出す御崎。その声に驚き尋は御崎の方へと視線を向ける。と、なにやら悶々とした表情で片手で持った携帯電話を握り締め若干震えているようにも見えた。楽しそうだった表情から一転して悔しそうな表情に二人ともが心配になり声をかけようとした瞬間に御崎がポケットに携帯をしまうと深々と頭を下げてくる。その行動にまたもや驚かされ御崎から出てくるであろう言葉を待っていると、

「ごめんなさい!ちょっと急用ができちゃって・・・本当は無理してでも先輩たちともっとお話しをしたかったんですけど・・・その・・・」

声色からして本当に悔しさが伝わってくると尋は頬を緩ませ出来るだけ悔しさを紛らわせようと笑みを作り肩を叩く。

「急用なら仕方がないよ。それにこれからだって御崎ちゃんとは一緒に話し沢山出来るだろうし。また、近々たこ焼き食べに行こうね」

尋の言葉に曇っていた表情は晴れやかになりいつも通りの御崎の表情へ戻る。と、香織は何故か尋に聞こえないように御崎に耳打ちをする。

「そうそう。それに、今回は邪魔物(わたし)が居たし。・・・今度は二人っきりでね。頑張って!」

こそこそっと香織は御崎に何かを告げる。と、顔を真っ赤にしつつ数回ほど頷いている。照れているように見えるが一瞬だけ戸惑っているような切なそうな表情を浮かべたような気がしたため声をかけようとした。けれど、急用があると言っているのにこれ以上引きとめる訳にもいかず、それに気のせいだった場合もあるため御崎の後ろ姿を見えなくなるまで見送る。夕陽に照らされた御崎の後ろ姿はどこか可憐であった。なにやら顎辺りに視線のようなものを感じたため視線を下げて見ると案の定、香織がジッと微笑みながら見つめてきていた。恥ずかしさを紛らわせるため咳払いをすると御崎は微笑み前かがみだった体勢を戻し歩き始める。帰り道は同じため尋も自然と後をついて行くように歩き始める。と、香織は振り向き

「御崎ちゃんの後ろ姿を見てる間、ずっと微笑んでたよ?」

「えっ!そんな気持ち悪いことしてた?・・・女の子の後ろ姿を見て微笑むって・・・危険な人じゃん」

好意を持っている女の子の前でヘタをすれば変態ちっくな姿を見られていた事実に頭痛が襲ってきてしまう。なんと言うかもう少し格好良く見送る事は出来なかったんだろうか?それこそ、クールに格好でもつければよかったと後悔が襲ってくる。別に、如何わしい気持ちを持って後ろ姿を見送っていた訳ではない。が、人の感情は口にすることで伝わり分かる。それ以外は表情の変化、動作で感じるものだろう。その結果、香織は尋の表情を見てきっと気持ち悪い。なんて思ったに違いない。後悔の念にかられていると、

「全然危険な人じゃないでしょ?だって、ひろちゃんの笑顔は変な事を考えているようなイヤラシイ笑みじゃあなくて優しい笑みだったもん。私はひろちゃんのああ言う優しい笑顔は好きだよ」

にっこり満点の微笑みに尋はただ、見蕩れてしまう。目が合うといつもなら変なタイミングで逸らしたりするのだけど、今回ばかりは目があっても逸らすことなくジッと瞳を見つめてしまう。香織も逸らすことなく首を傾げ不思議そうに見つめ返してくるだけで言葉は発してこない。見つめ合う二人の間に夏の夕風が吹きお互いに視線が逸れてしまう。

「あはは・・・」

どこか恥ずかしそうな香織の笑い声が聴こえてきた瞬間に体温がじわじわと上がってくる。きっと昼間に比べたら気温は確実に下がってきている。それなのに昼間より香織と見つめ合っていた。と、言う事実を思いだすだけで体が火照ってくる。きっと恋の温度分だけ暑さを感じているんだろう。恋をしている人ならいつも感じている暖かさ。嫌な暑さでは無い。いや、もっと感じていたい暖かさなのかもしれない。そんな事を思っていると自然と無意識に笑みをこぼしてしまう。が、すぐに気が付き口元へと手を持っていき隠しつつ笑っていたことがバレテいないか盗むように香織の方へと視線を向けて見ると香織は立ち止まったまま夕陽を眺めていた。

「香織って星よりも夕陽が好きなんだよね」

「ん?そうだね・・・でも、ひろちゃんの影響もあって今は星の方が好きかも。中学校の頃は夕陽が一番好きだったけどねっ!」

「そっか・・・」

「・・・うん」

しばらくの間、二人ともが夕陽を眺めていた。二人ともが何を考えているのかなんて分からないし、分かったところでどうする事も出来ないだろう。けれど、尋はどうしてあることが気になっていた。それは、気のせいかもしれないし見間違いだったのかもしれない。もしも、それならそれでいいと思うしそうであっても欲しかった。夕陽から視線を香織の方へと向け、

「香織さ。何かあった?」

「ん?どうして?」

尋の勘違い、見間違いだったと思っていた事は疑念から確信へと変わる。香織がこうやって疑問をして聞き返すと言うことはそう言うこと。もしも、本当に何もなかったらすぐに否定もしてくる。が、今はそうじゃあない。好きな人の異変に気が付けたことは嬉しかったがすぐにそんな嬉しさなんて消えてしまう。いつも曇った表情をする時は彼氏の事で悩んでいるからである。それでも、好きな人には笑っていて欲しい。ただ、その感情だけで言葉を続ける。

「んっと、幼馴染の勘ってやつ?それに言いにくい事だったら全然言いやすい人に言ってもらって構わないしさ!兎に角、無理だけはしないでねっ。ってことを言いたかったわけでして・・・」

最初の口調と最後辺りの口調の違いさが面白かったのか香織は笑うのではなく微笑み首を左右に振ってくる。

「ありがとう。やっぱりひろちゃんって一番私の気持ち分かってくれるね。ありがとう。すっごく嬉しい・・・」

「・・・うん」

「・・・うん」

二人ともが頷くと自然と止まっていた足が動き始める。香織はその後、家に着くまで一切言葉を発する事はなかった。いつもなら無言でも何ら気にはならない。ならなかった。けれど、二人の間に生まれている今の沈黙はどうしても気持ちがいいものではなかった。絶対とは言えないけど九割以上、香織はなにかに対して悩みのような棘が胸に刺さっているだろう。その棘を少しでも抜けれるような、それが無理なら紛らわせれるような言葉を向けたくてもどんな棘が刺さっているのか分からないためどう言葉をかければ良いのか分からない。分からないなりに話しかければ良かったものの上手く言葉が出てこない。気の利いた言葉が出てこないかもしれない。けれど、それでも尋は自分を奮い立たせる。

「か、香織?」

「ん?」

自然と二人の視線は重なる。

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