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夏になる頃へ  作者: masaya
一章 恋の妖精と時々幽霊
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遠くなっていく紫穂はひろの手に収まるほど小さくなってしまい捕まえる事ができるはずない事は分かっていたけれど、そっと割れ物を掴むように優しく握ってみる。何も掴むことができなかった手のひらの中には何もなく手のしわだけが視界の中に入ってくる。微熱にも似た暑さを感じ自然と両手で扇ぎ顔に風を送り少しでも暑さを誤魔化してみる。幼馴染(しほ)に好きだと言う単語が出てきたこと自体驚きなのにそれを自分自身に向けられるなんて思いもしなかった。友達として好き。と、言われただけなのにここまで鼓動が速くなるものなのだろうか?ただ、好き。と、言う言葉を聞いた瞬間に浴衣姿で恥ずかしそうに微笑んでいた紫穂を思い出してしまっていた。告白をされた訳でもないのにどうして浴衣姿(あのすがた)が唐突に出てきたのだろう?自問自答をしたところで的確な答えが返ってくる訳でもなくただ、その場に立ち尽くし紫穂の後ろ姿を見ていることしか出来なかった。随分と遠くなり紫穂も屋上を後にしようと屋上のドアノブへと手をかけた瞬間にピタリと動きを止めその場に立ち止まってしまう。一体どうしたのだろうと思い呼びかけようとした瞬間、向きを変えこちらへと全力で走ってくる。

「な、なになに!?怖い怖い怖い!!」

心の叫びがつい口に出てきてしまう。女の子がこちらへと向かって走ってくる事は微笑ましく寧ろ両手を広げて迎えてあげるのが男子として礼儀なのだろう。しかし、ひろは紫穂の全力ダッシュに恐怖を覚え両手を広げるどころか両手を曲げ防御の体勢へと移る。髪をなびかせ夏の風を切り裂き紫穂は怖がり何か一人でぶつぶつと焦りながら戸惑っているひろの場所まで走り向かう。妙にひろの怖がっている表情に可笑しくなり口元が微笑んでしまう。いつぶりだろう?こんなに素直に行動しているのは?きっと中学以来だろう。何に対しても真っ直ぐだったあの頃。いや、一つだけ真っ直ぐに向きあうことが出来なかったことがあったけ。少し昔の事を思い出しまた、笑ってしまう。自分がどうしてひろに向かって走っているんだろう?分からない。分からないけど、もう少し(あいつ)のそばに居たかった。ただそれだけ。好きな人と少しの時間だけでも一緒に居たいなんて恋をしている人なら誰もが思うことだ。立った少しだけ吹っ切れただけでここまで自由に出来るんだ。ざまあみろ時間(しがらみ)。幼馴染は一番距離が近いのに恋愛になると一番遠いと思っていた。けれど、自分が、自分自身がそうしていた。紫穂の背中を押すように追い風が吹く。

「ほ、頬か!?頬を抓って遊んだことを怒ってるの?だー!ごめんなさい!わー!」

全力疾走とはこの事だろう。そう思えるほど紫穂はこちらに向かって走ってきている。スカートだと言うことを忘れているの?なんて聞きたくなるほどの速度だったため恐怖を覚えるのは仕方がない。そう言ったツッコミを入れるほど余裕もなくただ、そのままドロップキックでもされるんじゃあ。なんて、非現実的な事を考えてしまっていると徐々に速度は落ち目の前に来るころには普段通り歩く速度になっていた。少しの距離しか走っていないが妙に息があがり両頬がほんのりと紅い気がする。夜叉のような表情をしているかと思いきや穏やかで寧ろ優しく微笑んでいるようにも見える。恐怖のせいで先ほど抱いていた淡くて良く分からない感情なんて綺麗さっぱり尋の中から消え去ってしまっていた。

「ねえ。尋?」

「な、何でしょう?」

「もう少しだけ一緒に居てもいい?」

「も、もちろん!別に怒ってないんだよね?」

オドオドとした尋に対して渇でも入れるかのように背中を叩き背筋を姿勢を正す。思わく通り背筋は伸び痛みに耐えながらも怒っていないことが分かり安心したのか相変わらずな頬笑みを向けてくる。トクン。と、小さく控えめに鼓動が跳ねる。先ほど感じた風は吹いておらず微風こそそよそよと吹いているが先ほど感じた風ほどではない。空を仰いでみると真っ青な空が広がっている。目を閉じ耳を澄まそうとした瞬間に尋が不思議そうな声色を向けてくる。

「これは絶対に聞きたいんだけど、なんで降りようとしたのにピタッと止まって全力でこっちに戻って来たの?めちゃくちゃ怖かったんだけど」

「女子に向かって怖いとか言うの失礼でしょ!そ、それは・・・」

吹っ切れたはずなのにいざその言葉を口に出そうとした瞬間に口元が重くなり上手く言葉が出てこない。それでもちゃんと伝えなきゃ。と、心の中で言い聞かせ口を動かそうとした瞬間にひろが口を開く。

「どうせ、教室に戻ったところで暇そうだと思ったから日向ぼっこしてた方がいい。とか思ったんでしょ?それに僕も居ていいように使える。とかも思ったんだろうね。ははっ」

怒っていないことが分かったのか気持ちよさそうに両手を伸ばし背伸びをしつつ深呼吸をする。紫穂も一瞬口ごもったけれど、ばれた?なんて笑い真似をするように両手を伸ばし背伸びをする。穏やかに進む時間。自然と口元が緩んでしまう。が、それを尋にバレテしまうのはなんとなく恥ずかしかったため隠すように仰ぐことを止め校庭の方へと視線を送りながらなんでもない、どうでもいい話題を口にする。

「そう言えばさ?知ってる?」

「ん?」

いつもよりも機嫌がよさそうな口調に尋も興味が湧いたのか紫穂の方へと視線を向ける。紫穂は相変わらず校庭の方へと視線を向けている。両足をバタバタさせている所を見ると相当に機嫌はいいと言うことが分かる。が、ジッと見ているのもなんだったので空へと視線を向ける。尋の相槌に答えるかのように言葉を続けてくる。

「なんでも、最近本当にこの学校カップル誕生率が高いらしいよ。やっぱり妖精と何らかの関係があるのかな?」

「妖精との関連か。どうなんだろうね?掲示板を見る限りだと妖精報告はそこまで出てきてないでしょ?もしも、妖精を見て付き合うことができた!ってなるともっと妖精の話題が出てくるもんだと思うし。ただ、単純に付き合う人たちがたまたまこの時期に多くなっただけかもしれないし」

「・・・」

反応がなかったため視線を向けると紫穂は心底に意外そうな表情を向けてくる。変なことでも言ってしまったのだろうか?首を傾げると紫穂はハッとした表情を作り、

「な、なんかひろの口からそう言う言葉が出てくることが意外だったから」

「意外?何か変なこと言ったかな?」

「ん?そうじゃあないんだけど、ひろは妖精にお願いすることがあるんでしょ?なんとなくだけど自分には関係ない。他人事のように聞こえちゃって。妖精の力が本当にあるならもっと喜ぶかと思ったけどやっぱり尋も・・・」

紫穂の言葉を聞いた瞬間にある事を思い出してしまう。そう言えばそうだった。どうしてそんな大切なことを忘れてしまっていたのだろうか?まるで他人事のように感じてしまっていた。妖精を見つけお願い事をすると恋愛を成就する。そんな基礎的な事を忘れてしまっていた。そして、香織の事が好きだと言う感情(きもち)が一瞬だけ、ほんの一瞬だけ頭の中から消えてしまっていた。ありえない事に自分自身で驚いてしまい口元へと手を持っていく。秋鹿尋(ぼく)清水香織(おさななじみ)の事が好きなんだ。なのに何故、忘れてしまっていた?好きという気持ちを忘れれることなんてあるのか?それは香織に失礼であるがそれよりも、過去(きのうまで)の自分に対しての裏切りだ。

「ひ、ひろ?」

「・・・ん?あぁ・・・ごめん!ちょっとだけ考え事してた」

「なんか私余計なこと言っちゃったかな?」

「そんなことないよ!」

「そ、そっか!ならよかったんだけどね。でもさ、ひろって本当に好きな・・・」

言葉を言いかけた瞬間に紫穂の携帯音が鳴り始める。もどかしそうな表情を浮かべつつ、ちょっとごめんね。と、言いながら立ち上がり少し離れた場所で通話を始める。ひろは深く深呼吸をすると同時に視線を校庭の方へと向ける。掃除の時間まであと少しだと言うのに楽しそうに校庭ではサッカーをしている先輩たちの声が聞こえてくる。気を紛らわそうとしても頭の中では悶々と香織の事ばかりを考えてしまっていた。どうしても香織にあって謝罪をしたい。よく分からない場所へと着地してしまった。それが確実に正しいなんて分からない。きっと、謝罪をしたい。と、言うのはただの香織に会うための口実なのだろう。今すぐにでも駆け出し気持ちを抑え紫穂の電話が終わるまで待とうと立ち止まる。流石に電話をしている最中に先に戻るから。なんてな事を言うのはなんか可哀想だと思ってしまった。一人ポツンと屋上で電話をしている紫穂を想像しただけで自分自身も悲しくなってしまう。しばらく待っていると電話が終わったのか謝罪を向け笑いながらこちらへと向かって来ようとしたため尋は近くに置いてあった紫穂の巾着を持ち立ち上がる、と

「紫穂!」

「は、はいっ!」

「ちょっとだけ用事を思い出したから戻ろう!」

そう言うと巾着を持ったまま歩きだす。不思議そうについてくる紫穂が口を開く。

「あ、うん・・・てか、電話が終わるまで待っててくれたの?」

「うん。電話中に断って降りてもよかったんだけどなんかポツンと紫穂が一人で屋上に居るの想像したら可哀想になって」

「か、可哀想ってなによ!アンタより私の方が強いっての」

「ははっ。そうかもしれないけど、なんとなくね。とりあえず早歩きでよろしく!」

そう言うと尋の歩く速度が速くなる。紫穂はそこまで急いで何があるのだろうか?と、言う疑問もあったがそれよりも尋が向けてくれた言葉に笑みをこぼさずにはいられなかった。(だんし)には似合わない巾着をぶら下げ早歩きするその後ろ姿に紫穂は見蕩れてしまい恥ずかしそうに笑う。夜でもないのに発行体がどこからもなく出現し微笑ましそうに早歩きする二人の後ろ姿を見ている。これからの行く末を見守るようにふわりと優しい光を一度だけ放つ。

「ん?」「ん?」

二人は同時に足を止め同時に振り向く。示し合わせた訳でもなければカウントダウンをして振り向いたわけでもない。偶然に二人は同じように振り向き先ほど居た場所へと視線を向ける。が、屋上には二人以外誰もいないわけで、視界に入ってきたのは真っ青な青空と青々しい山だけ。なんとなくお互いに顔を見合わせ首をかしげつつ止まっていた足を動かし屋上を後にする。

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