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夏になる頃へ  作者: masaya
一章 恋の妖精と時々幽霊
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「と、言う訳で!今週の土曜に妖精探検を開催する事になりました。最初言いだした時は参加者が少なく焦っていましたが頻繁に妖精が目撃されているせいかなんと参加者が徐々にですが増えてきております。祭りだから多い方がいいと思ったんだけど、多すぎても見つかりやすいと思うから今集まってるメンバーで行こうと思うわけ」

妙に高揚した雨谷の声が屋上を覆う。真っ青な空の下でこじんまりといつもの四人が集まり拍手を雨谷へと向ける。そよそよと頬を撫でる夏の風は涼しい。座っている場所が丁度陰になっているからだろう。きっと陰から出て一時間でも日に当たったならほんのりと肌が日焼けしてしまうほど日差しは強い。人一倍に肌が弱い香織は念には念を入れて日陰なのにもかかわらず日傘を差している。夏風が傘の先をゆらゆらと揺らしている。ふと、自慢げに妖精探検をするにあたっての注意事項などを話しあっていると雨谷が何かを思い出したように声を張り上げる。

「やばっ!午後イチの授業で使う教材があるから出しとけって言われてたんだった・・・これはまいっちんぐ。ソロだとこれは辛いな・・・誰かヘルプしてくれるフレンドはないかな」

何故、途中途中で英語を挟んでくるのだろうか?しかもその言い方が妙に腹が立つ言い方であり普通に頼んでくれれば喜んで手伝うのだけど、何故か進んで手伝いをしたくなくなる言い方で馬鹿馬鹿しくなりつい笑ってしまう。それは香織、紫穂も同じだったようで三人ともが笑ってしまう。その笑っている三人を見て雨谷は満足そうに笑みを浮かべ頷く。雨谷の背中には真っ青な雲ひとつない青空が広がっておりまるで青春映画のような雰囲気もあり余計に面白くなってしまう。一通り笑い終わり手伝いを申し出ようとした瞬間に香織が口を開く。

「ホントに仕方がないなっ!私が手伝ってあげるよ」

「マジ!?流石、俺の彼女さんだぜい!じゃあ、とりあえず詳しい事はまとめてから一斉に送信するからよろしく」

そう言うと購買で買った菓子パンの残りを口へと頬張りながら立ち上がる。それにつられて香織も雨谷のパンで膨れ上がった頬を愛しいものでも見るかのように優しい笑顔を向け立ち上がる。一瞬、二人が見つめ合いながら微笑んだように見えた。彼氏、彼女なのだから当たり前だろう。しかし、ふと視線をすぐに逸らし空へと向けてしまう。

「俺らは降りるけどひろたちはどうする?」

二人について行き教室へ戻る事もできたのだけどなんとなくまだここへ残ると告げる。と、そっか。なんて口にすると雨谷、香織は仲良く会話をしながら歩いて行く。仲睦まじく歩いている姿は眩しく羨ましく思ってしまう。二人の遠くなっていく後ろ姿を見ているとわき腹を数回ほど突かれる。視線を向けて見ると微妙な何とも言えない表情をした紫穂がこちらへ痛い視線を送ってきていた。そう言えば紫穂は何故ここに残っているのだろうか?それにそのような視線を送られる理由が分からなく二重の疑問を抱き首を傾げて見るとため息をつきながら小声で口を開く。

「言いにくかったんだけど・・・雨谷くんが話しをしている時からずっと香織の方見てたよ?雨谷くんと香織が二人の世界に入って話しをしていたからアンタの視線に気がつかなかったっぽかったけど・・・凝視するとか相当気持ち悪いからやめた方がいいよ?」

「マジ?そんなに凝視してた?・・・意識が無かった分、余計に気持ち悪いね。注意してくれてありがとう。気をつけるよ・・・でも、なんで無意識に見ちゃうんだろう?」

首をかしげつつ分かりきっている疑問を紫穂に向かって問うてしまう。結果的に行きつく先は好意を持っているから。と、言うことになるのだろうけど、気持ちが悪い。その言葉に動揺してしまったせいで咄嗟に出てきた言葉(ぎもん)だろう。その問いを聞いた瞬間にふと、紫穂の表情は一瞬物悲しそうでどこか諦めたような笑みを浮かべる。自分の事で精一杯だったひろに紫穂の微妙な表情の変化など気がつくことなんて出来なかった。しばらく考えていると紫穂の言葉(こえ)が聞こえてくる。

「・・・好きだから見ちゃうんでしょ。見たくなくても見ちゃうんだよ」

「見たくなくても見ちゃうものなのかな?見たいから見るんじゃないの」

「見たくない表情とかあるでしょ?例えば・・・好きな人が好きな人を見ている横顔とか」

ふと、香織が微笑ましそうに雨谷に向けていた表情を思い出してしまう。不意に顔を左右に振り抱きかけた感情を振り棄てつつ大きくため息をつくと椅子の背もたれへともたれかかり空を見上げる。真っ青で気を紛らわせるための雲もなかった事を思い出し視線を紫穂の方へと向ける。と、視線が合いかけたが紫穂の方から逸らし地面に視線を向けると、

「でもさ?ひろって香織に告白はするんだよね?」

唐突な質問に驚いてしまい驚き言葉に詰まっていると紫穂は視線をひろの方へと向け戸惑っている事などお構いなく言葉を続けてくる。

「ひろって中途半端だよね?親友の彼女を好きになってしまってどうしよう。告白をしてスッキリしようとしてるけどそれも自分勝手でいけないんじゃあないかとかさ?そんな事を考えてたら次の恋になんて進めないよ?現状維持が一番心地いいかもしれないけどさ?勇気を出して一歩だけでも歩きだす事も大切なんじゃないの?それができなかったらもう香織の事は忘れなよ!」

言葉こそ胸に突き刺さるモノであったが紫穂は真剣に自分の事を考えて行ってくれている事ぐらい分かる。感極まってか薄らと涙目にも見える。紫穂の癖?と、言うか強めの言葉を言う時は何故か涙目になってしまう。昔はよくその事で周りから紫穂を泣かせている。なんて怒られた事も多々あった。

「な、なに笑ってるのよ?」

「・・・ごめん。必死に僕の事を考えて怒ってくれるのって絶対に紫穂が一番最初だったなって思って。それって凄く幸せなことなんだなって思ったら笑っちゃった。だって、どうでもいい人になんか怒らないでしょ?ありがとう」

「ば、ばかっ!」

感謝の気持ちを伝えるため下げた頭を数回バシバシと恥ずかしさを紛らわすためか叩いてくる。痛みは全くなく寧ろなんて言うんだろう?心地よくて心が温かくなってしまう。ふと、頭を叩く手が止まったため視線を上げ紫穂を見てみると頬がほんのりと桜色に染まっていた。恥ずかしい事でもあったのだろうか?ただ、人の頭を叩いていただけで頬を赤らめるものだろうか?ほんのりと染まったほっぺたをなんとなく抓ってみる。と、紫穂はなすがままと言う感じで俯きながらもひろの攻撃を受け入れる。ぷにぷにと柔らかいほっぺたに驚いてしまい調子に乗って何度も抓み、離しを繰り返してしまう。昔はよく紫穂のほっぺたを抓って遊んでいたが高校生にもなってやったのは初めてであった。止んでいた風がふわりと紫穂の髪を撫でる。と、シャンプーだろうか?とても女の子らしい香りにひろは咄嗟に抓っていた手を離し紫穂と距離を取る。

「ご、ごめん。つい、気持ちよくて抓っちゃった・・・その・・・ごめん」

「・・・ううん。なんか懐かしいね。ひろって昔はよく私の頬っぺた抓ってたよね。ははっ・・・なに言ってんだろ。私」

俯いていた顔を上げるとハニカミ恥ずかしそうな紫穂の笑みが映る。トクン。と、良く分からない気持ちが湧いて来たような気がする。一体これは何なんだろう?良く分からなくまた、心の隅の方へと追いやる。お互いに見つめ合い良く分からない沈黙が二人を包む。いつもは二人でいる時に起こる沈黙なんて気にもならないのに何故か鼓動が早くなり体も火照ってきてしまう。気まずくつい視線を下げ指遊びを始めてしまう。ゴクリ。と、生唾を飲み何かを決心したような表情を作ったのは紫穂であった。大きく深呼吸をしつつひろの方へと視線を向ける。

「あ、あのさ。ひろ?」

「う、うん?」

「実はね。私、ひろの事が好き・・・なんだよね」

「えっ?」

二人の間に夏風が吹き上げる。言葉が出てこないとはこの事なのか。紫穂の言葉に早く反応(へんじ)をしなければいけないとは思いつつも思考が追いついてこない。しかし、早くなんでもいいから言葉を向けなければ。そう思いつつ俯いていた顔を紫穂の方へと向ける。紫穂もひろの返事を待っているのか恥ずかしそうに顔を赤らめて待って・・・は、いなかった。言いたかった事は言った。長年思い続けていた言葉(きもち)を本人に伝えれた喜びで笑い言葉を続ける。

「と、戸惑ってくれてるのはありがたいけど違うから!」

「ち、違う?」

「友達として好きだってこと。改めて言うのもどうかと思ったけど・・・なんとなく懐かしくて。ひろが頬なんて抓るからだって!馬鹿っ!」

そう言うと紫穂は弁当箱が入った巾着をぶら下げ早歩きで出口へと向かっていってしまう。ひろは声をかけようと手を伸ばしてみるが声は出ずそのまま紫穂の遠くなっていく姿だけを見送ることしか出来なかった。

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