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夏になる頃へ  作者: masaya
一章 恋の妖精と時々幽霊
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夏だから?体がとてもふわふわしている。嫌な暑さでは無くポカポカと心の奥からジワリ、とゆっくり暖かくなるこの気持ちはなんだろう?目の前にはいつもよりも大きく見える背中。この世界中探したって誰よりもたくましく格好良く見える姿。沈黙にならないように必死に色々と話題をふってくれる優しさを向ける先輩にばれないよう静かに微笑む。誰だってこの暖かさに触れればきっと好きになってしまうに決まっている。そう思った瞬間に暖かかった心の深い場所がチクリ。と、痛みを覚える。そっと、胸のあたりを押さえつつ彼女は少しだけ眉間にしわを寄せてしまう。ひろの鈍感な心に対して表情をゆがめたのではなく自分自身に対して向けた表情であった。優しい先輩。と、分かっているからこそ甘えてしまっている自分はあまり好きではない。女子に甘えられて断る男子は殆どいない。これは彼女が中学の頃に先輩から学んだ恋愛技術の一つであった。が、彼女はその方法は好きではなかった。男子の善意を利用して自分が楽をしているじゃあないだろうか?容姿は女子の武器だと言うけれどそれだけじゃない。甘えは弱さ。だと彼女は考えている。けれど、それでも甘えることで先輩と少しでも長く一緒に居られるならそれでもいいかな?と、プライドを少しだけ曲げてしまっている自分が許せないのである。いつもならそこで気がつかないのがひろなのだがこう言う時に限って、いつもとは違う?と空気を感じてしまい、

「御崎ちゃん?大丈夫?」

唐突に矛先を自分へと向けられてしまったため御崎は目を瞬かせただ、口をパクパクさせることしか出来なかった。いつもは整って可愛い表情が驚愕のあまり目は見開き口は開き、閉じを繰り返している表情を見てしまうとひろも笑わずにはいられなかった。御崎も自分の顔を見て笑われてしまっていると言うことは分かったため頬を膨らませながら肩を叩く。

「女子の顔を見て笑うなんて失礼ですよ!先輩!」

「ははっ。ごめんごめん。だって、御崎ちゃんの驚いた顔なんて始めてみたんだもん。それに口をパクパクさせるとかどれだけ焦ってたんだ。って思ったら面白くて」

笑いながら未だ繋いだ手を離すと来なく歩いている。きっと先輩は好きだから、好意があるからと、言う理由で手を繋いではいない。ただ、純粋に私がまだオバケに脅えているだろう。そう思って気を使って繋いでくれている。そのぐらい鈍感じゃあないんだから分かる。けど、それでも嬉しい。繋いでいる手を見つめるだけで顔がにやけてきてしまう。でも、嬉しがっている事をバレテしまうのは危険だ。もしも、本当にもしもだけど、私が先輩に告白をして失敗をしてしまえばこの関係は無くなってしまう。いつも頭の中ではいつでもいい感じになれば告白をする。と、思っているのに実際にチャンスが来てしまうとどうしても一歩が踏み出せない。この関係が壊れてしまうのがとても怖い。このままじゃあいけないなんて思っていると前を歩いていたひろが立ち止まる。考え事をしつつ歩いていたため背中にぶつかりそうになるがなんとか踏ん張り当たらず同じように視線をあげてみる。と、

「凄い・・・」

「ね。ここまで夜空が見れるのって珍しいかも」

二人の視線に広がるのは一面銀色に輝く星。気持ちよさそうに星たちは夜の空を泳いでいる。一段と眩く星は詩を歌っているよう。一つ一つの星たちに意思があるようにどれも違う輝きをしている。きっとそんな事を口にしてしまったら馬鹿にされてしまうに決まっている。いや、先輩なら笑いながら頷いてくれるかもしれないな。自然と御崎の表情は柔らかく頬笑みを夜空へと向けていると、

「凄いね。星って見えるだけでも何千って有るんだろうけど、全部違う輝きに見えるよね」

「!?」

御崎はひろの方へと視線を向けてしまう。一体どんな表情をして私は先輩を見ているんだろう。きっと・・・。ひろも御崎の視線に気がついたのか頬笑みを向けつつ、

「って、前に紫穂と一緒に天体観測をしている時に同じようなことを言ったら馬鹿じゃないの!って言われちゃったよ・・・ははっ。御崎ちゃんならなんとなくだけど価値観も似てるから同意してくれるかもしれないから言ってみたけど、気持ち悪いよね。ごめん!忘れて!ははっ」

ひろの照れ笑いを見た瞬間に胸が締め付けられたかのように息苦しくなる。その言葉は一体どう言う気持ちで言ったのですか?紫穂さんの事が本当は好きなんですか?今、私に言った言葉は他の女の子にも言ってるんですか?喉から出かかった言葉を必死に飲み込む。ここまで言葉(きもち)を飲み込むことが辛かっただろうか。飲み込んだ言葉が胸の辺りで熱くなる。ズキズキと痛い。好きです。この言葉が言えない苦しみを改めて知ってしまう。きっと私は後輩と言うカテゴリーに入っている。女子として見られているだろうけど女性としては見られていない。分かっていた現実を突きつけられると辛くなる。いつもは逸らして気がつかないフリをしているけど気が付いたらここまで痛いんだ。それでも御崎は自分の本音(きもち)を胸の奥へと隠し満面の笑みをひろへと向ける。

「気持ち悪いなんて思わないし、馬鹿だとも思いません。私も先輩と同じように思ってましたから!」

出来る限り先輩が知っている御崎を作る。少しいつもよりも無理して笑顔を作っている事がバレテいるのかな?彼女はひろの表情を見てちょっとだけ不安になってしまう。が、ひろはもう一度、御崎の方へと視線を向け頬笑みを向けてくる。

「そっか。御崎ちゃんはやっぱり僕となんか同じ雰囲気を持ってる気がしたんだ。やっぱり後輩の中で一番話しが合うし話してて楽しいよ!ホント、妹みたいでなんでも話せちゃいそうだよ」

ひろの言葉に御崎も笑顔で答える。

「先輩って意外とロマンチストなんですねっ!」

「そ、そうかな?」

「だって、思ってても星の輝きが全部違うよね。なんて言わないですもん」

御崎のツッコミにひろも確かに。なんて笑いながら反応する。すると、何かを思い出したかのようにひろが口を開く。

「そう言えば、本番の妖精探検ツアーは一体いつになるんだろうね。雨谷も言ってたけど今日が本番じゃあなくてよかったよね。正直言ってオバケが出てくるとかあり得ないし。でも、僕たちは正直言って今日で抗体みたいなものは一応できたかもしれないけどツアーで初めて夜の学校へ入った人が御崎ちゃんたちが見たモノを見たら絶叫してすぐに見周りの先生とか来ちゃいそうだよね。御崎ちゃんはよくあの場面で大声を出さなかったと思うよ。」

「ちょっと出しちゃいましたけど・・・でも、アレって一体・・・」

「あー!ごめんごめん!僕が言いだしたのにこの話題はやめよう!とりあえずは雨谷が参加者には上手いこと言ってくれるでしょう!」

そう言うとひろは明るい話題へと変えようと違う話しをし始める。御崎はそのぎこちない優しさが微笑ましく嬉しかった。いつの間にか二人を繋いでいた手は離され肩を並べて歩いている。きっとすれ違う人が居たなら私たちはカップルに見間違われるのかな?なんて御崎は考えながらひろの話しを聞きつつ家へと向かう。あと少しで家に着く。と、言うところでもう一度夜空を見てみる。と、相変わらずキラキラと星が瞬いている。冬と違い手を伸ばしてみても届きそうにない夏の星空。決して星を掴むことはできないのは分かっている。けれど、御崎は手を瞬く星へと伸ばしてみる。届きそうで届かない。もどかしい気持ち。

「なんだか、今の私の心境に似てるかも」

「ん?」

「なんでもないです!そうだ!メールでお母さんが近くまで出てきてるそうなのでこの辺で私は良いです!今日は送って下さってありがとうございました!短い時間でしたけど先輩と一緒に夜の学校を探検出来て嬉しかったです。また、本番でも一緒のペアになれるといいですね!おやすみなさい」

頭を深く下げ家へと向かい歩きだす。顔が熱い。鼓動が早くなり歩く速度も自然と早くなる。

「一緒のぺになれるといいですね・・・だって。言っちゃった!」

自分でひろに言った言葉を思い出し恥ずかしくなったのか顔がにやけてしまう。少しは女性として意識してもらえただろうか。

「いや、先輩の事だから絶対に深読みはしないだろうな・・・まっ!でも、いっか!少しずつ頑張れ!私!」

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