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すると御崎が雨谷の背中に隠れ震えているようだ。ひろは状況がよく分からなく雨谷に声をかけようと肩へと手をやると小刻みに震えているようだった。先ほどの穏やかでいつも通りの雰囲気では無く必死に声を出さないように我慢をしているようにも感じる。ここまであからさまに脅えている二人の姿を見ていると自然とあとから来た二人の表情も強張ってきてしまう。しかし、このまま立ち止まり雰囲気だけで怖がったところでどうする事も出来ないためひろは口を開く。
「あ、雨谷?御崎ちゃんと二人は一体なにを見たの?」
雨谷はひろの言葉に視線は前を向けたまま人差し指を伸ばし少し先にある窓へと向ける。と、ひろは恐る恐る視線を窓へと向けてみる。が、そこには至って普通の景色と言うか真っ暗な山が写るだけで他に何か変な物が見えたりとかそう言うものは無かった。だからと言って雨谷、御崎は怖がらせるために嘘を言っているようには見えなかった。御崎の背中を擦り声をかけていた香織も指が指す方向へと視線をむけてみるがひろと同じようにただ、暗いだけであって変な物は見えてはいないようで振り向いたひろと目が合ったがお互いに首を傾げることしか出来なかった。二人があまりにもなにかを見て怖がっているためこれからどうするか?と、言うことになってしまいこのままジッと立ち止まっていたところで見回りの人が何れ来てしまうため何かしら判断をする事になる。が、いつもなら率先して決断してくれる雨谷も動揺しているのか使いものにならない。香織はジッと、これからどうするのか決めて。と、言わんばかりに見つめてくる。いつもなら見つめられるのは照れつつも暖かい気持ちになるけれど今回は何故かそのようなひろの恋心をくすぐる事もなかった。
「よ、よし。今日は二人がなにかに脅えているようだし。とりあえず変えろっか?まだ先生たちは職員会議中だしいざとなったら大声を出して怒られるかもだけど助けは呼べるし。それでみんな良いかな?」
「そうだね。圭も御崎ちゃんも顔色良くないしとりあえず本番でもないんだし帰っちゃおう」
香織のアシストもあってか雨谷、御崎は頷き四人は昇降口を目指し歩き始める。つい先ほどの楽しい雰囲気が嘘のように重くどんよりとした曇りのような感じになってしまう。しかし、ひろと香織は二人が見て怖がっているモノを見ていないためなんとなく不完全燃焼な気持ちでもあった。が、それと同時に特にひろは安堵もしていた。雨谷がここまで沈んでいると言うか脅えている姿を見るのは稀である。と、言うことは相当な恐怖するものを見たに違いない。香織は脅える御崎の側を離れず声をかけながら歩いているため自然とひろと雨谷が先頭を歩くことになる。
「言いにくいとは思うんだけど一体何を見たの?」
ひろは疑問を問いかけてみる。雨谷も徐々に落ち着きを取り戻しつつあるのか先ほどよりは言葉に対しての反応が早い。ため息なのか深呼吸なのか大きく息を吐き、
「なんか蒼白い人魂みたいなのが窓の外をぼわ~っと光って消えて。それだけなら妖精かな?って思ったんだけどその光りが消えかけた瞬間にぼんやりと人の顔が浮き出たんだよ。ここって学校でも最上階だろ?絶対に窓の外から人の顔なんて見えるはずがないんだよ。だけど、顔だけがぼんやりと浮き出て来たんだよ。めちゃくちゃ怖くてさ。でも、怖がらせないように黙ってようと思ったんだけど御崎ちゃんも見てて悲鳴をあげちゃって・・・。それで、御崎ちゃんがあまりにも脅えてたらつられて俺も怖くなってきちゃって。普段なら俺って凄いじゃん?だから余裕だと思ったけどやっぱりダメだったよ」
何が一体普段が凄いのか問いただしたくなったけど、今の雨谷を見ているとそこまでおちゃらけれる精神状態では無いと感じ黙って言葉を聞くことにした。しかし、確かにオカシイ。見間違えにしたって二人が同じものを見間違うだろうか?いや、そんな事はほぼないだろう。考えれば考えるほど自分自身も怖くなってきてしまうため頭を左右に振りマイナス思考を捨て去りできるだけ明るく四人の雰囲気を明るくすることに努める。
「でもさ?今日練習で来てよかったんじゃない?雨谷だって本番でこんな弱々しい姿をみんなに見られるのも嫌だったでしょ?恐怖に対して耐性ができたんじゃない?」
「そ、そうかもしれないな!情けない所をお前たち以外に見られるのは恥ずかしいし。ってか、俺は怖くなかったんだぞ?けど、なんて言うか急に夜の窓に人の顔が薄らと浮き出て来たら驚くだろう?その分類だなっ!」
明らかに強がっていると見え透いていたため雨谷の肩を叩き深くため息をつきつつ口を開く。
「雨谷。それ以上は言わない方がいいぞ?なんとなく言い訳みたいに聞こえて格好悪いからやめとくんだ・・・」
ひろの言葉に雨谷は苦笑いを浮かべつつ頷く。
「確かに今の俺は最高に格好悪いな。ごめん。御崎ちゃんも香織もなんか格好悪いところ見せちゃってごめん。それに、楽しく終わるはずだったのにこんな微妙な空気で終わっちゃってごめんな。本番はもっと人多いしワイワイとするつもりだから安心してくれい!よし!もう十分に俺はさっき見た顔に脅えた!もういい!!俺の中の恐怖よ!!出て行け!」
いつも通りの雨谷に戻り変貌ぶりに女子二人も笑ってしまう。いっきにどんよりとしていた雰囲気は雨谷の言葉で払拭しいつも通りの雰囲気へと戻っていき丁度昇降口へと到着する。職員会議はまだ続いているようで職員室は未だに明るい。運がいいのかここまで見回りの人ととも出会うことなく行けたためすんなりと脱出出来てしまう。学校を出ると自然と皆の表情もより穏やかになる。香織の手をずっと握っていた御崎でさえ手を離し深々と頭を下げお礼を言っている。香織も優しく、大丈夫?なんて声をかけている。ひろは無意識に香織を見つめていると両肩になにか物でも落ちてきたかのような衝撃が体を襲う。
「うわっ!」
「な、なんだよ?ただ、肩をくんだだけだろ?ってか、な~に御崎ちゃんの方を見てニヤニヤしてんだよっ」
「別に。てか、御崎ちゃんを・・・いや。なんでもない」
「でも、流石に今回ばかりは俺オバケ信じちゃったかも」
「てか、雨谷はオバケを見たんでしょ?それでそれを見つけるって言うか僕たちにも見せるために今日集めたんでしょ?それなのに自分がもう一度目の当たりにしてビビっちゃってさ」
ひろの言葉に雨谷は、痛い所をつかれた。なんて言いつつ、
「でも、やっぱり夕方の明るい時に見たのとこんなに真っ暗で不気味な時に見るとじゃあ雲泥の差があるね。けど、もう俺の中の恐怖は出て言ったから次からは大丈夫。でも、これって本当に使えるよな?」
「使える?」
雨谷はにんやりと悪い笑みを浮かべると、
「いや、マジで本番の妖精探検は男女ペアで探してもらうつもりだからさ。もしも、俺が見た幽霊が出てきたりしたら絶対に女子は怖がって男子の手を掴むなり何かボディータッチしてくるだろう?吊り橋効果ってやつ?恐怖のドキドキが恋のドキドキと勘違いするやつ?だからさ、いいと思うんだよね」
腕を組みながら雨谷はなにやらよからぬことでも考えているように見えてしまい自然とため息が出てしまう。恐怖のドキドキを好きだからドキドキしている、と勘違いさせること。そう言う風にひろは思っているため吊り橋効果と言うものにあまり良い言葉とは思っていない。
「よし!じゃあ、今日の所はとりあえずこの辺りで終わりにすっか?香織は俺がチャリで送って帰るからひろは御崎ちゃんを家までちゃんと送ってやれよ?」
雨谷の提案に御崎、香織も頷き本日は解散となる。と、香織がひろの方へと近づいてくる。
「ひろちゃん。御崎ちゃんの事よろしくね。じゃあ、また明日ね」
そう言うと雨谷の方へと向かい歩いて行く。なんとなくひろはその姿に目を逸らすように御崎の方へと歩いて行く。雨谷と違い未だに先ほどの光景を引きずっているのかいつもよりも明らかに元気がなかった。が、それは仕方がないことだと思いひろはできるだけ優し声で声をかける。
「御崎ちゃん?大丈夫?そろそろ学校から離れないと先生にみつかるかもだから」
そう言うとひろは御崎の手を掴み引っ張るように校門をくぐり御崎家へと向かいゆっくりと歩きだす。




