21
ツンツン。と、肘辺りを引っ張られている感覚があり幽霊の仕業なのか?なんて脅えつつ向いてみると何故か俯きながら遠慮がちにこちらを見ている御崎が引っ張っていたのだ。もしかしたら、自分が怖がってしまったせいで彼女も怖がらせてしまったのだろうか。そう思い御崎の方へと体を向ける。急に体を後ろに向けるものだから香織も不思議そうな表情を作っていたが、御崎とひろを交互に見るとなにかを思いついたように駆け足で前へ歩いていた雨谷たちの方へと向かう。ひろも本当はついて行きたかったがそれ以上に御崎に対して申し訳なさがあり追いかけることなく御崎の頭を見つめつつどう言う風に謝罪をすればいいのか考えていると御崎の方から口を開いてくる。
「急に肘を引っ張っちゃってごめんなさい!けど、なんとなく先輩が・・・」
「僕の方こそごめんね!僕が怖がっちゃったせいで怖くなったんでしょ?もしもまだ怖いんなら掴んだままでもいいからね。とりあえず置いて行かれるのはもっと怖いから行こっか!」
できる限り明るい声で言う。そう、自分に言い聞かせながら強張った表情を無理矢理に崩し笑みをつくる。無理やり感がどうしても表に出てきてしまっていた。が、ひろの気遣いに嬉しく思ったのか御崎は笑みがこぼれ大きく頷きひろの後ろをついてくる。後輩の前では少しでも頼りがいのある先輩を見せるために必死に歯を食いしばりながら少し先を歩く雨谷たちに追いつこうと気持ち早歩きになる。少し早歩きになる時点で頼りがいのある先輩。と、思われているのかは疑問である。それでも、御崎の表情は緩みっぱなしであった。しばらく歩いていると前を歩いていたメンバーが昇降口の辺りで立ち止まりひろ、御崎の到着を待っていた。雨谷に至っては手招きをしつつ、早く来なさい。なんて二人を急がせるような仕草をしていた。その仕草を周りのメンバーは笑いながら見て降りほのぼのとした雰囲気が辺りを包んでいた。遅れて到着すると雨谷が小声で、
「じゃあ、今から学校に侵入するけどあくまで今回は試験的な侵入作戦だから固まって行動するけど本番の妖精探検は男女一人ずつのペアだからもっと怖いざんすよ」
語尾のおちゃらけ具合に、また言ってるし。なんて思ってしまい若干ではあるけどひろは冷めてしまった。それが直感的に伝わったのか香織がクスクスとひろを見て笑いだす。ひろも笑い声につられるように視線を向けると香織がこちらを見て笑っているものだから照れくさそうに笑みをこぼす。
「こらっ!ひろに香織!二人で顔を見合わせながらいい感じになってるんじゃあない!俺の話しを聞きなさい!聞いていないと学校の中に入ったら怖いざんすよ」
「語尾はそのままで行くのね」
ひろのツッコミにクスクスと小さな笑い声が漏れだす。言っていた雨谷さえもつられて笑い始めてしまい話しが進まなくなってしまう。が、流石にこの場所に居続けていては危ないだろう。とひろが言うと雨谷も、お前のせいでしょうが。とツッコミを入れつつ咳ばらいをし変に緊張感が無くなり始めていた場の空気を一掃する。
「仕切り直しな?俺も語尾はふざけ過ぎたからやめる!それで、今回は妖精が現れるって有名な空き教室と・・・」
その後の言葉を雨谷は溜めるように一度飲み込み注目しているみんなの顔を一人一人見つつ、咳払いをもう一度する、と
「俺が今日見たオバケの正体を確かめるため【ある場所】へと向かおうと思う。まあ、正直なところ今回は学校全体を探検する訳じゃあないから大声をあげない限り先生には見つからないから大丈夫よ。何度も言うから五月蠅いって思うかもしれないけど、本当に大声だけは出すの禁止な?大声を出しそうになったら床に口をつけて叫んで?」
最後の辺りはボケたのか本気で言ったのかよく分からなく皆も発言には問うことなく流していた。雨谷の言葉に対しての流しかたがあまりにもみんな綺麗だったためひろは吹きだし香織も同じ思いだったのか二人して笑ってしまう。雨谷、御崎他のメンバーは何故笑っているのか分からなく首を傾げるだけであった。ひろは謝罪を済ませつつ真っ暗な昇降口へと指を指す。雨谷も頷きつつ昇降口へと向かうが当然のようにそこは鍵が閉まっていた。当然の事で生徒が下校する時間はとうに過ぎており必然と言ってもいいだろう。しかし、その辺りは雨谷も計算していたのかポケットの辺りをごそごそと手を入れ何かを自慢げに出すと昇降口の鍵穴へと射し込む。
「なんで雨谷が昇降口の合いカギ持ってんの?流石に用意周到すぎるし、ばれたら一発アウトでしょこれ」
ひろの言葉に鍵を静かに開けつつ雨谷は、
「だから叫び声をあげるなって言ったろ?知ってる俺ってルパンさ・・・」
「そろそろ開く?」
最後まで言い切る前にひろは珍しく雨谷の言葉を冷たく流す。と、雨谷も悲しそうな、だけどどこかほっとした表情を浮かべつつ鍵を開ける。二人のやり取りを微笑ましそうに香織は見つめ御崎もどこか笑顔で見ていた。あと二人のカップルは自分たちの世界に入っておりイチャイチャとしておりまったく二人のやり取りは見ていなかった。雨谷を先頭に鍵が解除され静かに昇降口の扉を左右人一人が入れるだけ開き雨谷を先頭に侵入していく。続々と学校へと入っていきひろだけとなった。ゾクリと首筋辺りに寒気が走り振り向くと当然であるが誰も居る訳がない。みんな学校へと侵入して最後がひろなのだから。数分前の落ち着きは無くなりただ小さな震えが体を襲ってくる。急ぎ、けれど音を立てないように学校へと侵入する。と、物音ひとつない無音が六人を襲ってくる。明らかにみんなの醸し出す雰囲気が変わり始めたような気がした。空気感でなんとなく分かってしまったらしい。【この学校の夜は思った以上に怖い】と。学校全体を外から見るだけでも恐怖が襲ってきたが、中へ入るといつもの騒がしい学校を知っているため日中とは違う静寂な不気味さも混じりより恐怖が襲ってくる。自分がこれだけ緊張感を覚えてしまっているのだから御崎や香織たちなんて女子できっと脅えて震えているのではないだろうか?いつもならこう言った怖い場所では自分の事を考えてしまうひろが珍しく女子の事を考え慰めようとしていた。静かに昇降口の扉を閉め誰にも気がつかれないように深い深呼吸を一度しつつ怖がり震えているであろう御崎、香織に声をかけようとした瞬間、
「先輩!すっごくワクワクしちゃいますね!私、夜の学校とか初めてでドキドキが止まりません!中学とかは遅くなるって言ってもここまで静まり返った学校じゃあなかったですしっ!」
「そうだよね!私も凄くワクワクしてる!御崎ちゃんもどちらかと言えばこう言うのいける口?」
「どちらかと言うと怖いのは苦手なんですけど、でもこうしてみなさんと一緒に普段出来ないこと?非日常的なことができるって思うとワクワクしちゃって」
小声ながらも女子二人は期待に胸を膨らませ楽しそうに会話をしている。緊張しているような雰囲気を感じていたのは気のせいだったらしくひろいがいのメンバーはどこかキラキラとした表情で恐怖よりも今からの探検を楽しみにしているようなそんなお気楽さが伝わってくる。
「よし、侵入は成功。とりあえずひろ以外は怖がってなさそうで安心した。とりあえず先ずは、四階の空き教室に向かうから静かについて来てくれよ」
そう言うと雨谷は静かに歩きだす。ひろに続き楽しそうに会話をするカップル、香織、御崎と続き歩きだす。ひろは自然と最後尾になってしまう。本当は、一番後ろだけは嫌だ。と、言いたかったがそんな事を言ったところで受け入れてもらえるわけもない事ぐらい分かっていたため何度も後ろを振り向きながら誰も居ない事を確認しつつ歩きだす。夏だと言うのに学校の中はひんやりと冷たい。変に神経が尖ってしまっているせいか少しの音さえも聞こえてしまう。遠くの辺りで足音が聞こえる。それには雨谷も気が付いたのかピタリと足が止まる。その足音に気が付いたのは雨谷とひろだけであり後のメンバーは気が付く来なく不思議そうに雨谷の後ろ姿を見ているだけだった。雨谷は勢いよく振り向くと、
「やばい!足音が上から聞こえてくる!とりあえず二階のどこでもいいからペアで隠れろ!!ひろ!御崎ちゃんは任せたぞ」
できる限り小さな声で力強く危険さを知らせると焦りながらもみんな足音を殺しつつ二階の教室などに逃げ込む。急いでいたためみんなバラけてしまいひろも急ぎ御崎の手を掴み少し離れた西側の階段の近くにある教室へと駆けこみ静かにしゃがみ込む。お互いに急に走ったのもだから息は乱れ整うまで少しばかり時間がかかってしまう。乱れた呼吸を整えつつ耳を澄ましてみる。が、足音が聞こえた場所から結構な距離まで離れたため何も聞こえてこない。
「・・・ちょっと一人離れすぎちゃったかな・・・ははっ。急に手をつかんじゃってごめんね」
誤魔化すようにひろは御崎に向かい言葉を口にする。と、御崎も
「そ、そんなことないです。必死に手を引いてくれてた先輩格好良かったですよ。だから謝らないでください」
「そ、そう?」
彼女はひろが掴んでいた手を自分の手で温もりを確かめるかのように握り微笑んでいた。ひろもどうしていいのか分からず戸惑いつつ廊下の方へと意識を集中させていると、
「せ、先輩?」
振り向くと御崎がこちらをジッと見つめてきていた。その引きこまれそうな瞳にトクン。と、大きく鼓動が跳ねる。ゴクリと大きく生唾を飲んでしまい鼓動が御崎にまで聞こえてしまっているのではないかと思うほど徐々に早く打ち始める。それでもひろは冷静を装い笑みを向ける。と、御崎は少しだけ不思議そうに首を傾げる。
「大丈夫だよ。多分もう少ししたら雨谷が召集をかけるために携帯に連絡があると思うから御崎ちゃんもしっかりと携帯をチェックしててね」
すると御崎はひろの空気の読めない発言に何を思ったのかちょっぴり眉間にしわを寄せポケットから携帯を出し液晶の光が漏れないように手で画面を覆い見始める。ひろも何故か判らないが小さくため息をつき座り直す。




