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夏になる頃へ  作者: masaya
一章 恋の妖精と時々幽霊
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15

「と、言う訳で悪いけど紫穂にはそう言った裏工作みたいなのはやらない方が良かったと言うことを忘れていました。あと、好きな人いるらしいです。はい」

ひろは雨谷に頭を下げると、雨谷は言葉が出てこないのか口をパクパクと水から陸へ上がった時の魚のような表情にいつもの格好良い表情とはかけ離れておりつい笑ってしまう。が、雨谷は面白いなどと言う感情はなくただ、焦っているような表情のままその場に立ちつくしていた。わき腹を突いてみても動かない所をみると相当に頭の中はパニックになっているのだろう。しばらくそっとしておこうと思った瞬間に両肩を勢いよく掴まれる。

「そ、それで・・・一番聞きたかった事があるんだけど・・・もしかして、俺がお願いしたって・・・言った?まさか、俺のネームを出しちゃった?」

そんなことか。と思ってしまい呆れが含まれたため息をついてしまう。何をそこまで追い込まれたような表情をしていたのかと思えば自分の心配をしていたらしい。混乱しているせいか前の授業に引っ張られてか英語が出てしまってもいた。しかし、雨谷たちの名前は出さず自分だけが何気なく聞いた風にした。と、伝えると雨谷もその言葉が聞きたかったのか深く安堵したため息をつくと椅子に座り机に置いてある弁当をゆっくりと食べ始める。

「しかし、ひろにも悪い事をしちゃったな。ごめんな」

そう言うと雨谷も深々と頭を下げてくる。頭をあげるように促すと満面の笑みを浮かべつつ肩を数回叩いてくる。

「それでもさ?今吹が平木の事を思う気持ちは相当あるんだよね」

「そうなんだ。でも、別に紫穂に好きな人が居ても付き合ってる訳じゃあないんだから思うだけならいいんじゃないの?それにまだ、もしかしたらチャンスがあるかもしれないし・・・って、でも!僕はごめんだけど協力出来ないよ!これ以上なにかしたら絶交されかねないし」

「そんなに、平木と絶交するのが嫌なの?」

「当たり前でしょ!紫穂と絶交するとか考えられないっての!!」

言葉を言い終わると雨谷がひろの後頭部辺りに視線を向けながらニヤニヤと微笑みだす。何がそこまでニヤニヤさせるのか気になり振り向いてみるとどこかつまらなさそうな表情をしている香織と俯きながらもじもじとしている紫穂が立っていた。二人ともがどうしてそんな表情を作るのかが分からず見続けていると、どかどかと香織が隣に開いている机を合わせ雨谷側の方へ椅子を持っていき座る。紫穂もだんまりを決め込んでいるのか静かにひろの隣へ座ってくる。雨谷は人差し指を出し、今吹の話しはいったん中止で。と、言うような表情を作りご飯を口へと運んでいた。

「それで、ひろちゃんはどんな話しをしてて紫穂と絶交は嫌だみたいな話しをしていたの?」

妙に高圧的な口調に多少驚きつつもどう反応していいのか分からず戸惑っていると、雨谷が笑いながら機転を利かせ口を開いてくる。

「いや、もしも凄い喧嘩をして平木と香織どちらかしか仲直りが出来なかったらどうするのか?って話しをしていてだね・・・」

笑い話のように雨谷が言い終わった瞬間に何故か香織と紫穂が驚いた表情を浮かべひろへと視線を向ける。雨谷の口調からして冗談で言っているのだと分かる。が、二人はその(じょうだん)を本気にとってしまったかのような表情にひろも雨谷も二人の過剰な反応に驚き言葉を失ってしまいそうになるが、なんとか雨谷が言葉を絞り出す。

「と、言うのは冗談で・・・ちょっと言ってはいけない系の冗談だった・・・かな?」

四人の間にとても気まずい雰囲気が漂い始めるのかと思いきや香織がクスクスと笑いだす。

「まっ!冗談だって分かってたけどねっ!ひろちゃんも、圭もオドオドし過ぎだよっ!ねっ?紫穂っ」

咄嗟に言葉を向けられつつも、そ、そうだよ。すぐに嘘だって分かってたよ。そう言いつつ巾着から弁当を出し始める。その言葉に雨谷も安心したのか、そうだよな!冗談って分かってたよな!あー良かった。と、笑いながらその場の空気を変えるように両手を叩き始める。つられてひろも戸惑いながらも笑顔を作り紙パックを手に取り一口だけ飲もうとしていたのだけど一気に飲み干してしまう。

「そうそう。妖精騒動の続報があってだね」

矛先を変えるためかただ単純に言いたかっただけなのか雨谷が思いだしたかのようにポケットからスマホを取り出しなにやら画面をかまい始める。いつもならもう少しこの四人が集まれば活気があり女子二人でも話しをしたりするのだけど今日に限っては、いや、雨谷が冗談を言った瞬間からなにか二人の雰囲気がいつも通りにしようとしている必死さのようなものを感じてしまう。ひろも変な感じはなんとなく分かるのだけどその変な感じはどこから出てきているのかまでは分からないためそのまま気にはなるけどそっとしておくしかなかった。雨谷も目的のものを見つけたのか四人全員が見えるように机の真ん中に置き画面をスライドさせると数枚のフラッシュの光で照らされた無人の教室画像が表示させられる。が、そのくらい画像を見せられたところで何を伝えたいのか分からず雨谷以外の三人はただ、その黒い画像を見つめることしか出来なかった。

「これは侵入してバレテしまった先輩たちがばれる前に撮った写真らしい。本当はもう少し公にしたいらしいんだけど、流石にここまで騒ぎになってしまった事に負い目があるのか俺だけに送ってくれたんだよ。だから、まだ、香織たちにしか見せてない激レア写メなんだぜ」

「激レアなのは分かったけど、この教室の写真にレア度をあげるものが写ってるの?みた感じは夜の教室を撮った写メとしか見えないけど。机と椅子ぐらいしか写ってないよね?」

疑問を香織、紫穂にも向けると二人ともが頷きじっと画像を見つめなにか間違い探しをしているかのように真剣に画像を見つめ続けていた。すると雨谷が含み笑いをするとある場所へ指を指してくる。その場所にはフラッシュで若干明るくなっている隅っこ辺りの窓ガラスであり別に変なところはない。ただの窓ガラスである。香織の方へ盗むように視線を向けてみると、不意に視線が合いお互いに驚いてしまう。が、なにも写っていないよね?みたいな表情を浮かべアイコンタクトを取りながら笑いあう。恥ずかしさもありすぐに視線を紫穂へと向けると妙に顔が強張っているように見えたと思えば裾を掴んでくる。

「どうかした?」

「どうかしたって・・・ひろたちには視えないの?」

紫穂の言葉に香織とひろは良く分からなく首を傾げるが雨谷はなにやらご満悦なのか腕を組み頷き始める。もう一度、香織とひろは目を凝らし視てみるとそこには薄らと撮影者を見つめているような女性の顔が浮き上がっていた。見つけてしまった瞬間、背筋に悪寒が走り全身に鳥肌がたってしまった。香織も見つけたのかマジマジと、一体これはなんだ?なんて分析をし始める。香織は見た目は幽霊など苦手そうな雰囲気でどちらかと言えば紫穂の方が得意のように見られがちだけれど実際は真逆で香織は霊的なオカルトはとても大好物であり紫穂は隠しているが大の苦手分野である。どちらかと言えばひろも苦手なためすぐに視線を天井へと逸らし何故か空になったパックのストローを咥え吸う。

「やっぱり香織は食いついてくれたな!ひろは相変わらず怖がりで・・・平木は苦手だった?だったらごめんな」

そう言うと紫穂は今までずっと握っていた裾を離し、別に苦手じゃないよ。驚いただけ。といいご飯を食べ始める。その強がりについ、笑みがこぼれてしまうが机の下で笑った事がバレテしまったのか蹴られてしまう。

「んで、何故これを三人に見せたかと言うと!!」

雨谷の表情を視た瞬間に嫌な予感しか浮かんでこなかった。満面の笑みで両手を広げ三人の表情を見つつ口を開き始める。

「恋を成就させる妖精の話しにはまだ続きがあってだな。恋を成就させる妖精ってだけでも魅力的なんだけど妖精が目撃された年には幽霊もよく学校に出現するらしいんだ。なんでも、昔この学校には失恋をして屋上から自殺をした女子が居るらしくて・・・その怨念がこの学校にはおんねん」

「・・・」

最後の最後で何故か急に霊に対する恐怖心が消え去ってしまう。それは紫穂にも言えたことでつい数秒前までは強張っていた表情がいつも通りに戻りつつあった。雨谷には別の意味での恐怖が襲ってきたのか顔を真っ青なり静かになってしまう。あまりにもその表情が面白くひろは笑いを堪えるのに必死であったが相変わらず香織はジッとご飯に手をつけることなく画面を睨みつけるように眉間にしわを寄せ視ている。そこまで必死に可愛い表情を崩して視るほどだろうか。折角の可愛い顔が台無しじゃあないか。なんて気持ちの悪い事を考えていると何を思ったのか画面に向けていた視線をこちらへと向けてくる。

「ねえ!ひろちゃん!怖いのは分かるけど、この表情ってさ・・・なんか訴えようとしている表情に視えない?」

香織がそう言うとひろが口出す前に雨谷が笑いながら反応してくる。

「おいおい!幽霊が悲しい表情とかするかっての!ったく、香織はたまに頭がお花畑になるよな。まあ、そこも可愛いんだけど」

そう言いながら頭をポンポンと叩き携帯を取り上げポケットへとしまいながら妖精探検に関する提案をし始める。いつもならば雨谷に頭をポンポンと叩かれた後は幸せそうな表情をするのだけど、今日に限ってはどこか不満そうな表情と言うよりはなにか切ない表情を浮かべていた。咄嗟にどうしてそんな表情をしているの?大丈夫?と、ひろが言えるはずもなく黙り雨谷の妖精探検の事を聞くしかなかった。紫穂は未だに画像のトラウマを抜け出せていないのか俯きながらご飯を食べていた。雨谷は気が付いていないだろうけれどここまで楽しくない昼食は久々な気がした。ご飯を食べ終わる頃には雨谷が色々と妖精に関しての考察を述べていたのだけどまったくと言っていいほど頭には入ってこなかった。ひろの頭の中には香織の切ない表情のことだけいっぱいいっぱいであった。昼食も終わり雨谷は楽器を触りに行くと言い軽音楽の部室へと行ってしまい紫穂も午後からの授業の準備で先生に頼まれごとがあったらしく他の友人と教室を後にする。すると、ひろにとってはとても幸せな空間が出来上がるはずだったのだけど、今回ばかりはそうでもない。香織は一言も言葉を発する事もなくただ、その場に座ったまま窓から見える空を眺めているだけである。ここで勇気を振り絞らなくてどこで振り絞る。自分に何度も、何度も同じ言葉を呪文のように言い聞かせ視線を香織へと向けた瞬間、

「ひろちゃん・・・」

「は、はひ!」

「ぷっ・・・どんな返事だよっ!ねぇ。屋上に行かない?」

「お、屋上。い、良いね。丁度、僕も香織が元気なさそうだったから誘おうと思ってたんだ!よっし!行きましょうか!」

言葉の勢いと共にひろは椅子から立ち上がり何故か手を指し伸ばしてしまう。別に香織の手を握りたいから伸ばしたのではなく、なんとなく座っている相手に対して立たせる意味で伸ばしただけ。深い意味はなく手を差し出した瞬間に引っ込めようと迷ったがその迷っている間にひんやりとした華奢な手が握られる。ドクン。と、大きな鼓動が脈打つ。香織は手を握っているがひろは未だに握る事が出来ずたた、固まってしまう。手を握ったのに相手が握らない事に不思議に思ったのか香織は首を傾げる。その表情がまた可愛くひろの思考がプスプスと煙を出し上手く稼働しなくなってくる。が、親友の彼女なんだ。と言う言葉がふと頭の中から沸々と湧き上がりすぐさま冷静になり手を握り返し引き寄せるように引っ張る。思った以上に軽く驚いてしまう。その驚いた表情が面白かったのか先ほどよりも少しは元気な笑みを向けてくる。

「ひろちゃんって思った以上に男の子の手だね。血管とか出ててカッコいいね」

「そ、そんなことないよ」

そう言うと香織は手を離し屋上に向かい歩きだしはじめ後をついて行くようにひろも教室を後にする。ひんやりとした手に握られたはずなのにひろの手はとても熱く赤くなってしまう。ただ、手を握られただけで大げさかもしれないけれどそれに加えカッコいいと言われてしまったのだからひろが浮かれるのも仕方がないのかもしれない。ただ、ジッと握られた手を見つめつつ気が付くともう、屋上まですぐと言うところまで歩いてきていた。

「じゃあ、先に私が行くね」

「あ、うん」

そう言うと香織は先に屋上へと出て行きその後を追う様に出ようとした瞬間、香織の背中から感じる雰囲気が張りつめたようなものになっていることに気が付く。一体どう言うことだろうか?そう思いとりあえず屋上の外へと出てみるとそこには部室に行ったはずの雨谷と一年生の女子が楽しそうに椅子に座り話しをしている姿が目に映る。

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