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何度か電話をしてみるものの電話に出てもらうことは出来なかった。しかし、そこまで怒る事だったのだろうか?月明かりが指し込む暗がりの部屋で深いため息をつきつつ座っていた椅子の背もたれにもたれかかり物思いにふける。いつだったか、こう言う風に紫穂と恋愛がらみで喧嘩をした事があった。中学生の頃に一番良く紫穂と話しをしていた僕に仲を取り持って欲しいと友達に頼まれた。その時はがむしゃらに僕は紫穂とその友人をくっつけるためによかれと思い色々と二人っきりになるように仕組んだりした。買い物に付き合ってほしいと言い、待ち合わせにそいつを待たせたり。と、色々と策を練ったものだ。結果的にその友達は紫穂に、友人に頼ってばかりの人なんて好きになれる訳ないでしょ?男らしくないからごめんなさい。と、言い放ち振ったらしい。そのことで僕と紫穂は大喧嘩にもなった。その時も先ほど同様の声色で、自己満足で他人の恋愛に介入してくるな。大きなお世話だしアンタにされる事が一番不愉快なの!と、言われてしまいあまりの迫力に言葉が出てこなかった。その時は半年以上はちゃんと口を聞いてくれなかった気がする。必要最低限の会話をするぐらいであとは顔があっても無視かきが付かないフリをするだけ。今、思い返しても確かに昔はなりふり構わずやり過ぎた感もある事ぐらい分かる。約束をしていて待っているのが僕じゃあなく他の人だったら確かに驚くし戸惑いもするだろう。昔の事はやり過ぎたと反省もしているしそこまでやるつもりもないしやる勇気もない。が、今回に限ってはただ、ちょっとだけ好きな人が居る事を聞こうとしただけであの反応は正直言って意味が分からない。ただの友達の会話の一つとして、好きな人が居るのか?と言う話題はあるだろう。
「なんか、そう考えると腹が立って来たな・・・いや、でも・・・怒らせたのは僕だしな・・・うーん。てか、絶対に僕が悪いよね・・・うーん」
両手で頭を抱えもがいていると部屋の電気が付きドアから姉がお盆にお茶と羊羹を乗せ持って来てくれていた。どうした?そう言いながら姉はもう一つ部屋にある机の上にお盆ごと乗せ床に座り机に肘を乗せつつこちらを見てくる。きっと、なにを考えているのかはお見通しなのだろう。とりあえず椅子から立ち上がり姉同様に床へと座り羊羹を一切れ口に運びつつ、
「姉ちゃんは友達に恋愛を応援されたら嬉しい?」
何の質問よそれ。なんて笑いながらベッドにもたれかかりながら、
「まあ、自分から手伝ってってお願いして協力してもられるなら嬉しいかな。好きでもない人を押しつけられるような感じだとすっごく迷惑かな。私が高校の頃もあったよ?友達がこの人私の事好きらしいからどう?イケメンだし結構言いと思うんだよね。私、応援するから!って自分と相手の意見だけで私の意見は聞いてくれなくてね。まあ、もちろん振ったけどね。それって、応援って言うよりもただの押しつけなんだよ。私の友達も悪い子じゃなくて真剣に良いと思うから頑張ってくっつけようとしてくれたんだって分かるし、相手の人だって真剣に私の事を好きだって思ってくれているってのも分かったよ?けど、ありがた迷惑なんだよね」
「ありがた迷惑・・・けどさ?もしかしたらその紹介とか周りの協力で気にしなかったけど気になる様にはなるかも知れなくない?」
「そうかもしれないけど、それって自分勝手じゃない?アンタが言ったように周りの人から言い評判を聞いて気になってくる人だっているかもしれないよ?けど、その逆にそう思わなくて私みたいに嫌いになるかもしれないよ?周りの人って他人の恋愛を一つのイベントとして受け取りがちだけど実際に恋をしたり結果を出すのは当の本人たちなんだから、周りは正直騒ぎ過ぎない方がいいと思うよ?アンタの紫穂ちゃんと喧嘩したんでしょ?早く謝ってきなよ。近所なんだから」
何故その事を知っているのか聞くと、姉には弟の全てが分かるのだよ。と怖い事を言って来るため若干のけ反ってしまう。その仕草が面白かったのか姉は笑いながら読みかけていたのであろう漫画を読み始める。何故か姉の言葉を聞きソワソワし始めてしまい落ち着かなくなってしまう。とりあえず携帯に目をやるが返信、着信はなく無性に紫穂の事を考えてしまう。しかし、ちょっとした質問で全てを分かっていたかのように返答してくるところは流石だと思ってしまい数回ほど頷き立ち上がる。
「姉ちゃん。ありがとう。ちょっと紫穂んところに行ってくる」
行ってら。と、視線は漫画の方へ向けてだけをひらひらと揺らし見送ってくる。ひろは携帯と小銭をポケットに入れ平木家へと向かう。リビングでは父親母親が楽しそうに野球中継を見つつ雑談などをしている。平木家まで行ってくると言い家を出ようと玄関を開けた瞬間に紫穂が立っていた。
「うわっ!」
「きゃっ!」
唐突の出来事にお互いが驚きの声を出し二人ともが見合い固まってしまう。悲鳴のようなものが聞こえたせいか母親父親が玄関まで歩き出てくる。そして、ひろと紫穂が見合っているだけど分かるとすぐにリビングへと戻って行く。とりあえず玄関に虫が入ってはいけないと玄関を閉め外へと出て行く。どうして玄関で立っていたのか?どうして電話に出てくれなかったのか?様々な疑問は出てくるが上手く口が動いてくれず、紫穂も同様におどおどしつつひろの言葉を待っているようだった。
「こ、こんばんは」
「お、おう」
やっと出てきた言葉がこんばんは。と、言うことに若干自分のボキャブラリーのなさに呆れてしまう。が、それが良かったのか紫穂がクスリと笑いだす。それにつられて笑いだしなんとなくいつも通りの空気になっていく。
「そうだ。なんで玄関で立ってたの?」
「そ、それはね・・・」
なにやらもじもじとし始めいつも以上に女の子のような仕草にちょっとだけ、本当にちょっとだけドキドキしてしまう。風呂にも入ってきたのかいつも以上に紫穂からいい匂いがしてくる。邪な感情を受信したのかギロリと大きな瞳が鋭くこちらを向いてきたためすぐさま視線を夜空へと向ける。
「ひろって草食系に見えてちょっとエッチだよね」
「ち、違うし!」
「だって、今、私の胸辺り見てたでしょ?」
「違うよ!いつもいい匂いだけど、普段以上にいい匂いだなって思ってただけだよ!」
馬鹿。紫穂は恥ずかしそうにそう言うと胸辺りを叩いてくる。咄嗟の事で口走ってしまったけど、別に隠すことでもなければこれが香織に対して言ったのであればすぐさま否定なり冗談っぽく言うかもしれないけど紫穂に対してはそこまで言う必要もない。いつもらしい雰囲気にひろはすぐさま紫穂に対して頭を下げる。
「紫穂。ごめん!色々と考えて紫穂とした約束?みたいなことを忘れてて。それで、好きな人が居る?なんて聞いて悪かった!ごめんなさい?・・・ん?」
「わ、私も謝りたくて。なんか意味不明に怒ってごめんなさい」
両者が頭を下げつつもひろは自分で紫穂に対して謝罪の言葉を向けつつある疑問が再浮上したらしく頭を傾げている。
「・・・だよね?」
「へ?」
頭を下げていた紫穂は頭の上から変な声が出てしまう。顔をあげると腕を組み難しそうな表情をしているひろが視線に入ってくる。
「沢山考えたし姉ちゃんからも色々と助言を貰ったんだけど、僕ってただ、紫穂に好きな人が居るのか?って聞いただけだよね。それってさ、別に紫穂の恋愛に足を踏み入れたってわけじゃないよね?なんか紫穂がいつも以上の声色で最低最悪とか言ってきたからすっごく悪い事をした気がしたけど、違うくない?!」
徐々に冷静さを取り戻しつつあるひろを見る紫穂の表情はどこかばつが悪そうな表情になっていく。腕を組みぶつぶつと言っているひろに再度、紫穂は頭を下げてくる。
「ごめん!確かに冷静に考えたら深読みし過ぎた感もあるんだ。いつもはひろって私に恋愛がらみの相談はしてくるけど、そう言う風に私の事を聞いては来なかったでしょ?また、私の事を好きな人が居て誰かと共闘して中学校みたいな事をしようとしているのかって勝手に思っちゃって。ごめん!自意識過剰でした。ただ、ひろは雑談をしようとして話しを振ってくれただけだよね?電話も沢山してくれたのに意地になって出なくてごめんなさい!」
「そ、そうなんだ。ははっ!そ、そうだよ!別に僕が紫穂の事を好きな男子が居てくっつけようとしたなんて思って・・・ました。本当は紫穂に好きな人が居なかったらその好きな人と接点を持たせようとしてたかもしれません。僕も詳しくは聞いていないんだけど・・・ごめん」
すると、紫穂は下げていた頭をあげると般若のような表情では無く微笑を浮かべていた。半殺しぐらいされるかと思っていたが予想外の展開にひろは戸惑いを隠せずにいた。いつもならここでグーパンチが飛んでくるはずなのだけどそうじゃあない。びくびくしつつ紫穂が起こすであろう次の行動を待っていると、
「そっか。でもね?私、好きな人ならいるよ?」
告白は突然やってくる。思いもしない紫穂の発言に僕は言葉を失ってしまう。両手を後ろで組み月光に照らされる紫穂の姿はとても神秘的で見蕩れてしまうほどの美しさがあった。錯覚なのだろうか?いや、きっと錯覚なのだろうけど紫穂が星と同じようにキラキラと輝いているように見えた。優しく吹く夏の夜風は紫穂の髪をゆらゆらと揺らし夜空へと消えて行く。
「どうして黙るのよ?ひろが聞きたかったことなんでしょ?」
「あ、そ、そうだったね。へ、へー!そっか!じゃあみんなにはそう伝えておくよ!だから、紫穂はその恋愛を頑張ってね!い、いつでも男子目線の意見が欲しかったらて、手伝うから!ま、任された!」
途切れ途切れの言葉に紫穂は笑いながらも、そうなったらよろしくね。と笑いながら頷いてくる。とりあえず言いたい事は言えたから帰るね。と、言い歩きだしたためすかさずひろも歩き紫穂の横へと向かう。
「月夜って言っても夜、女の子一人で歩くのは危ないから。ジュースを買いに行くついでに送って行くよ」
「ついでね・・・ふふっ。ありがとう」
ばれないように紫穂の表情を見てみるとどこか妙に晴れやかな表情をしていた。いつもと違う紫穂の態度にどこかモヤモヤが残ってしまうがそのモヤモヤが一体何なのかは分からない。いや、きっと胸の奥にあるモヤモヤは紫穂の好きな人とは誰なのだろうか?と、言うものだろう。
「ねぇ?さっきからひろちょっと変だよ?私の話し聞いていた?」
「ご、ごめん。紫穂の事考えてて」
「わ、私の事!?」
「しまった!今のは忘れて!!嘘だから」
「気になるっての!なになに?私の何を考えてたの?」
紫穂な悪戯な笑顔を向けながら人差し指を突き出し脇に何度も突きちょっかいをかけてくる。ここまで来てしまえば言わなければきっとそれこそ般若の表情になり険悪な空気になってしまう。せっかくいい感じな空気なため仕方がなく紫穂に思っていた事を告げる。
「正直に言うけど、紫穂の好きな人は誰かなって考えてたんだ。けど、全然分からなくて。でも、教えてって言っても怒られちゃうかもだからさ」
何だそんなことか。と笑いながら言いつつ紫穂は夜空を見上げ、
「それはいくら幼馴染のひろのお願いでも教えられないかな。教えちゃったらきっとひろは腰を抜かしちゃうからね」
「僕が腰を抜かす人・・・ま、まさか・・・校長とか?」
「どうしてそこで校長先生が出てくるかな!」
「だめだ。分からない」
分からなくてもいいよ。そう言うと紫穂は肩を数回叩いてくる。ひろは紫穂が叩いた肩へと手を置いてみる。いつもより妙に熱く感じてしまう。ソレがどう言う気持ちかなんて分かるはずもなければ気がつくはずもない。二人を照らす月夜はどこかもどかしさを覚えつつも優しく見守っているような暖かい光。その光りに二人の表情も自然と柔らかいものへと変わって行く。
更新が遅くなりすみませんでした。少しずつですが彼らたちの恋愛が動き始めます。お楽しみにしてください。




