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夏になる頃へ  作者: masaya
一章 恋の妖精と時々幽霊
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姉にお金を忘れたため戻ってきた事を言うとすぐに財布を渡され再度、自動販売機まで飲み物を買いに行ってこい。と、指令を受けてしまう。落ち度はこちらにあるため強く言い返す事も出来ず深いため息を部屋へ残し携帯を持ち家を後にする。もう一度、先ほど同様に空を見上げてみるがつい、数秒前にも見ていたため最初ほど感動が生まれてくるわけもなく肩を落としながら歩き自動販売機へと向かう。なんとなく、携帯を見てみると表面が青白く発光していたため誰かからメール、着信どちらかが来ているのだと言うことが分かり携帯を開いてみると、メールが二件ほど着ていた。清水香織、雨谷圭の二人からのメールであった。

「って!三十分以上経っているし!」

香織からのメールは時間を見ると三十分以上も経っておりすぐさま折り返しメールを打とうとするが、ピタリと指先が止まってしまう。今返したところできっと紫穂と電話をしているに違いない。だったら、今この事を返信しても見て満足して返信がないかもしれない。少しでも返信率が高くなるであろう時間帯にあえて送ろう。と、珍しく小賢しい作戦を抱いてしまったため先に雨谷の方へ返信をしようと本文を開く。すると、これもまたどうでもいい内容にひろはため息が無意識に出てしまう。それでも、本文の内容に対しての反応を打ち返信をする。雨谷は暇だったのか返信をした瞬間に電話がかかってくる。驚きもしたが妙に面倒くさそうな予感が満載だったけれど通話ボタンを押す。

「もしもし?」

「よぉ!ちょっと話したい事があって・・・今、大丈夫?」

「ん?」

いつもと違う。ひろは珍しく雨谷の声が沈んでいるようにも聞こえた。いつもならこう言う風に唐突に電話がかかってくると決まって異常に高いテンションで意味も分からない話題を振ってきたかと思えば、満足をしてすぐに切ってしまう。が、今回はそんな扱いにくいテンションでは無く、元気がなく雨谷らしくなかった。元気がない雨谷が雨谷らしくないと言うのもおかしいけれど。返答をすると電話越しでは深いため息が聞こえてくるところ結構な心労を抱えているように思えた。一体何がそのため息を出させているのかすぐに聞きたかったけれど、雨谷の話すペースに合わせようと喉まで出かかった疑問を飲み込み黙り言いだすのを待っていた。すると、二回目の深呼吸をしたかと思えば、

「あのな。悪かった。ちょっと失敗した」

予想外の言葉であり、雨谷に謝罪される覚えなんて無いため意味が分からなく上手く言葉が出てくる訳もなく、何に対しての謝罪なのか聞こうとするが、雨谷は言葉をつづけてくる。

「あ、お前に対して悪い事をして謝罪をしている訳じゃあないから安心してくれよ!今のはなんて言うか・・・なんとなく・・・悪い!やっぱりなんでもないわ!ごめんな!急に電話して!」

「ち、ちょっと!」

電話はそこで切れてしまいよく分からないまま携帯の液晶画面と数秒間ほど睨めっこをしてしまう。それで解決するわけもなく、雨谷に一応、なんでも相談に乗るからね。と、メールを送り歩きだす。それにしても、あんなに声の張りがない雨谷は久々な気がする。メールの返信も返ってくることはなく悶々と何に対しての謝罪だったのか考えつつ自動販売機へと行き着く。ジュースを買っているとポケットから震動が体中を覆ってくる。取り出し液晶画面を見ると自然と生唾を飲んでしまうがすぐに耳に当て通話開始ボタンを押す。

「もしもし!あのさ、メール返そうと思ってたんだけど、ちょっと姉ちゃんにジュース買いに行けとか色々と命令されてて返せなかったんが!ごめん!えっと・・・えっと」

マシンガンのように言葉を次々と吐き出し電話の相手でもある香織は呆気にとられていたのかひろが喋っている間ずっと、電話越しでは無言であった。ひろもやっと、自分ばかりが喋りとても痛い子になっている事に気が付いたのか謝罪の言葉を向ける。と、電話越しで吹きだすような柔らかい笑い声が聞こえてくる。まだ、香織はなにも喋ってはいないのだけれど、その優しい笑い声だけで気持ち悪がられてはいない。と、言うことが分かり電話を離し安堵のため息を吐く。

「ひろちゃん。電話してでたと思ったら急に間髪いれずに喋るんだもん。ビックリしたよ!でも、そんなに気にすることないから大丈夫だよ!あと、必死すぎだから!」

「ご、ごめん。つい、香織だったから誤解されたくなくて。気持ち悪いとか思われて嫌いになられたら嫌だからさ」

「ん?・・・そっか!そっか!でも、私はひろちゃんのことを絶対に気持ち悪いなんて思わないよ?昔は喧嘩もしたりしたけど一度だって嫌いになったことなんて無いよ?小さな頃からずっと一緒に居るんだからそんな事で気持ち悪いなんて思わけないよ!」

一度だって嫌いになったことなんて無い。香織の口からそんな言葉を聞けるなんて思ってもみなかった。今、目の前に香織が居なくて本当によかったと心底思ってしまう。きっと、今の僕の表情を見てしまったら流石に気持ち悪いと思われてしまいかねない。

「ひろちゃん?」

「あ、ああ!ごめん!ありがとう。やっぱり香織は優しいね!」

へへへ。香織の声が聞こえてくる。たまに彼女はああいう風に照れ隠しで笑う声も可愛い。香織の声を聞きつつ夏の夜空を見ながら散歩。こんなに青春しているシュチュエーションがあっていいのだろうか。これはまさしく漫画で出てきそうな幸せ風景ではないだろうか。ひろはとりあえずジュースをポケットに入れ家へと向かい歩きだす。

「それで、なにか用事だった?」

そうだった。と、ひろの質問で香織は電話をした本当の用事を思いだしたのか、コホン。と、一度咳払いをして先ほどのほんわか空気を消しさり真面目モードの香織が顔を出してくる。

「ちょっと良からぬ事件を耳にして。それをひろちゃんには話しておきたくて」

「良からぬ事件?」

「・・・実はね」

恋を成就させる妖精が学校に出現したかもしれない。と、学校掲示板に書き込まれた瞬間からこの類の事件が起こる事は誰もが予想で来ていたであろう。三年の男女六人組が今日、学校で見回りをしている警備員、教師に見つかってしまったというものだった。いくら在学生であっても夜の学校に侵入する事は不法侵入となりヘタをすれば警察が出てくるかもしれない。見つかった事により余計に学校の侵入が著しく難しくなったと言う悲報であった。事件と言う単語を最初に聞いてしまったため自分の中で、もの凄く香織が話す話題のハードルが高くなってしまっていたせいか正直なところ香織が思っているほど僕にはそこまで響いてはこなかった。確かに、妖精探検がしにくくなったのは確かだけど、警備の厚さが分かり対策を練るにはもってこいだったのではないだろうか?こう言う風に言ってしまうと捕まってきっとこってりと叱られた先輩達に申し訳ないけど、運がよかったと思ってしまう。怒りよりも感謝が先に出てきてしまう。香織にも自分の思っている気持ちを言うとストン。と、怒りの熱が落ちたのか声色が怒りと言うよりも驚きの声が聞こえてくる。

「ひろちゃんって考え方が凄いね。怒るよりも感謝って・・・でも、確かにそうかもしれないね!なんか、ちょっとでも怒ってた私が恥ずかしいな」

「い、いやいや!別に僕の考えが正解ではないんだから。それに、香織たちが言いたい事も分かるよ。多分、先輩たちは自分の事しか考えずに学校に行っちゃったんだろうけど、実際さ?恋を成就させる。ってそのぐらい自分勝手にならなきゃ大成しないのかもしれないよ?」

何を偉そうに言っているんだ?僕は。自分で言った言葉に対して若干の気持ち悪さを覚える。恋愛をした事もない自分がなに偉そうにものを言っているのだろう。まるで、自分勝手に恋愛をして大成したみたいじゃないか。いや、自分勝手な恋はしているか・・・。つい、苦笑いを浮かべてしまい沈黙になってしまう。が、電話越しからは拍手のような音が聞こえてくる。耳元での高音に驚き咄嗟に耳を離す。

「ひろちゃっていつの間にそこまで成長しちゃったの!なんか凄いね!つい、拍手しちゃったよ!ひろちゃんってこう言うことはみんなの前では言わないよね?勿体ないけど、私だけしか知らない真面目なひろちゃんもなんかいいね!」

「うぐっ!」

私だけしか知らない。この単語を意中の女性に言われてしまえば誰だって同じような声が出てきてしまうだろう。香織は悪気がなく無意識にこう言った言葉を言ってくるから始末が悪い。けれど、だからと言って腹が立ったりはしない。昔からの癖みたいなものだから仕方がない。すると、電話越しでなんとなくだけれど、香織が言葉にする事を迷っているような気がしたため言葉を向ける、

「香織?どうかした?まだ何か言うことでもある?」

「えっ!あっと・・・えっと・・・もう一つ嫌なと言うか薄気味悪い噂を聞いたんだけど・・・・ひろちゃんって怖い話嫌いでしょ?」

そう言われて、僕は嫌いだから話したら嫌だ!とは口が裂けても言える訳がない。仮にも好きな人に格好悪い所を見せたくないのが高校生男子。何故か歯を食いしばりながら、

「怖いの嫌いじゃないもん」

「ちょっと!最後ちょっと甘えん坊みたいな感じになってない?ひろちゃんはやっぱりひろちゃんだね!ごめん。やっぱりこれは圭に聞いてもらうね。私、ひろちゃんには悲しい表情をして欲しくないんだ。ごめんね!でも、ありがとう」

微笑ましいものでも見ているかのように優しい声が聞こえてくる。ひろもすかさず、大丈夫だから話してみてよ。なんて男らしく突っ込んだ言葉を向ければよかったもののそんな強気な態度に出れるわけもなくただ、そっか。と、言う言葉を向けるだけしか出来なかった。

「あ、ごめん。圭から電話だ!ひろちゃん、また明日ね!今日は話しを聞いてくれてありがとうね」

「こちらこそ。雨谷によろしく!あと、その怖い話?をした時の雨谷の反応も明日教えてよ」

了解。と妙に嬉しそうな声色が聞こえ電話は終了すると携帯をポケットへしまい空を見上げる。キラキラと相変わらず銀色に輝く夜空は綺麗で言葉を失ってしまう。良く見ると今日は絶好の天体観測日和。自然と笑みがこぼれ先ほどポケットにしまったであろう携帯を取り出し紫穂へと電話をかける。今なら自然に雨谷から頼まれたミッションを遂行できそうな気がした。

「もしもし?さっきはごめんね!電話しようかメールしようか悩んでて、けど、どうせ明日にでも逢うんだから別にしなくてもいいかなって思ってたらひろから電話が来て。それでなにかさっき言おうとしていたよね?なにか急用だった?」

「まさかのワンコールで出るとか凄い!それに間髪いれずに喋り過ぎ!・・・そうそう。ちょっと聞きたい事があってさ」

「聞きたいこと?」

ごく自然に、昔ながらの友達が普通の話題の会話をするかのように、

「紫穂って好きな人いる?」

「えっ?」

時が止まると言うのはこの事を言うのだろうか?それとも怒っているのだろうか?ひろの言葉に紫穂は無言と言う返答をしてくる。ひろも解答に困っているのかと思い少し待ってみるが、ずっと沈黙のまま。流石にオカシイと思い、

「紫穂?聞こえてる?」

「・・・」

「もしもーし?平木紫穂さん?聞こえてるなら応答せよ!聞こえていなくても応答して下さい」

すると、やっと言葉を発する気になったのか深いため息を吐きつつ、

「また、誰かに頼まれた?」

「は?」

明らかに紫穂の言葉には熱が帯びており本能が緊急事態発生と体中に警報を鳴らし始める。それにしても、紫穂の口ぶりからして以前にもこう言った事があったのだろうか?ひろにはその事は覚えておらずただ、電話越しであっても脅え紫穂の言葉を待つだけであった。

「前も言わなかったっけ?お互いの恋愛は自分から言うまで足を踏み入れないようにしようって。私はひろが話して来てくれたから相談に乗ってたけどさ!」

「い、いや・・・でもさ・・・ちょっとぐらい聞いてもさ・・・」

「約束を守らないとか・・・最低最悪」

「ちょ、ちょっと!」

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