12
家に入ると大学生の姉が何故か家に帰ってきており僕を出迎えてくるなりからかうような満面の笑みを向けてくるが何も言葉を発しては来なかった。が、何十年も兄妹をしているため何を言おうとしているのかすぐに分かってしまう。つい、姉の顔を見るなりため息が出てきてしまい姉もその表情を見るだけで愉快そうに笑いだす。
「お帰り!今日は随分と帰りが遅かったんだね!もしかして、いとしの彼女とデートでもしていたのかな?ん?」
「ただいま。何回も言っているけど僕には彼女も居ないし!毎回、毎回このやり取り疲れるよ。いつまで続ける気なの?」
数秒考えた後、死ぬまで。と、言ってきた時には呆れを通り越して実の姉に恐怖さえ覚えてしまう。姉から逃げるように自室に向かい携帯を見るが返信は未だに返ってきてはいなかった。いつもならば連絡をすれば殆どの確率ですぐに返信があるのだけどなにか用事でもしているのだろう。と、思い携帯を机の上に置き着替えをしようとした瞬間に勢いよく扉が開かれる。
「おお!高校生男子だけあって、腹筋がほんのりと割れていますな。感心感心」
「もう!急に入ってきて弟の体の分析をしないでよ!」
「だって、暇なんだもん。やっぱり姉と言う立場だから弟はおもちゃにしてしまうよね」
「おもちゃって!別に部屋に入ってくるな。とは言わないけどもう少し年上の人間として、姉としてちょっと落ち着いてよ」
私は大人になんてなりたくないんだ!と叫びながらソファーに寝転がると漫画を読み始める。大学生になってもこの落ち着きのなさはどうにかならないものだろうか。呆れ混じりのため息をつき制服から家着に着替え机の椅子に座り姉の方へと視線を向ける。その視線に気が付いたのか、姉もなになに?恋バナ?なんて目をキラキラとさせながらこちらを見てくる。何も言わず恋の話しをしようとしている事に気が付くところは流石だと感心してしまう。その通りだと頷くと姉の表情はより一層キラキラと輝き始める。女性は何故このように恋の話しの相談をしようとする時にはこうして楽しそうな表情をするのだろうか。
「姉ちゃんが高校生の頃って五不思議の妖精の話しってあった?」
懐かしい単語に高校の頃の思い出を見ているのかどこか遠くの辺りに視線を向けながら目を細め何度か頷き、それがどうかしたの?と聞いてきたため今学校でその妖精が見つかったかもしれない。と、言った途端に姉のテンションは異常なほど上がり始める。
「うわー。懐かしい。そっか、そんな時期だもんね。って、事は例の動画が流れ始めたってこと?」
例の動画?意味が分からなく首を傾げていると姉もなにかをさっしたのかすぐに間違い、間違い。と言いながら両手を振り話しを続けろ。と、言わんばかりに催促してきたためよく分からない事は流し卒業生として聞きたかったことを聞いてみるがパッとしない返答ばかりで何の役にも立たなかった。結局、姉から教わったことと言えば、学校侵入は楽しいけれど警備員には見つかるなよ。面倒くさいことになるから。と、誰でも分かるようなことだけだった。
「アンタはどうなの?未だに香織ちゃんの事好きなの?」
「な、なに!急にさ」
唐突に姉の口から香織の名前が出てくるとは思わず変な反応をしてしまう。その反応を見るなり楽しそうにしていた表情が徐々に真面目な表情へと変わって行く。はぁ。と、ため息をつきながら寝そべっていた体を起こしソファーの背もたれにもたれながらこちらを見てくる。
「アンタ。その分かりやすい反応をするってことは、まだ香織ちゃんの事が好きなんだ。幼馴染でいつも告白できるポジションに居たのにもかかわらず勇気がなくてずっと隣で見守ってて?それで、告白をしようと思って何ヶ月か経ったときに彼氏が居るってことを告白されたのにまだ好きなんだ?そもそも、告白をしようと思って数ヵ月経つってどう言うことよ?可愛い顔してんだからもう少し自信持てば?それに、ウジウジ考えたって香織ちゃんには彼氏が居るんだから、ずっと思い続けていても辛いだけだよ?」
「普通容姿の事で褒められると少しでも嬉しい気持ちが出てくるはずなのに実の姉から可愛い顔をしているって言われるってホント嬉しくないね!・・・いや、頭では分かっているんだよ?分かっているんだけど、好きって気持ちは分かっていても押さえられないんだよね」
「そうかもしれないけど、そうやって高校三年間を片思いで過ごすの?それって凄くもったいないよ?そりゃあ、彼氏が居ない子を三年間思い続けるのはいいことかもしれないよ?もしかしたら、三年間の内で両思いになるかもしれないからね。けど、彼氏が居る人を思い続けててもそれはただ、虚しくなるだけだし絶対に叶わない気持ちなんだよ?そりゃあ、今付き合っている彼氏から奪うって言う気持ちがあるなら違う道もあるかもしれないけど、アンタはそんな肉食系じゃあないでしょ?アンタは犬系だからね」
「犬だって肉食だよ!」
やれやれ、と片手をブラブラとさせながら弟を可哀想な視線を向けつつため息を吐いてくる。なにか言い返したかったが、姉が言うことは全て正論で心に突き刺さり唯一出てきた言葉が先ほどのツッコミだったのだ。それも、姉からしたら面白くなかったのか乾いた笑いで流されてしまった。自分でもどうしてそこで恋愛のツッコミではなく犬の肉食だと言う所にスポットを当ててしまったのか。と、言う後悔の渦に飲み込まれてしまう。
「アンタってなんでそこまで香織ちゃんの事が好きなの?てか、そこまで好きだったら俺の方が幸せにできるから奪ってやる!とか思わない訳?まあ、自分で言っておいてなんだけど、奪うって言葉が自体が私は好きじゃないけど。なんか奪う奪われるって物みたいじゃん。人間はものじゃねえっつーの男も女もね!」
自分の言葉に怒っているのか言葉の語尾が妙に力強くだけど姉の発言には一語一句同意し頷いていると机に置いていた携帯が震えたため画面を見ると先ほどメールをした相手から返信が来ていた。絵文字も沢山使われており疑問文を送ったのだけどちゃんとその疑問に対しての答えがずらずらと可愛らしい返信につい、頬笑みを浮かべてしまっていた。その微笑みを見逃すわけもなく姉の含み笑いが聞こえてくる。しまった。と、後悔したところで後の祭り。誰からのメールでニヤけているの?教えて?の一点張りであった。
「後輩の子にちょっと聞きた事があって聞いていたんだよ」
「ほほー。ひろが同性じゃあなくて異性の後輩と仲良くなっているとはね!お姉ちゃんは嬉しいよ。いつもアンタは同性にしか慕われなくて、異性の友達と言えば香織ちゃんか紫穂だけだったもんね。私の友達からは目立たないイケメンと言われていたアンタが異性のそれも後輩とメールをするなんてなんて進歩なんでしょうか。そのまま付き合っちゃいなよ」
「ちょっと待って!姉ちゃんの友達からそんな事言われてたの!なんか悲しいんだけど!」
姉は泣く真似をしながら素直に喜びに浸っている。僕はさりげなく姉の口から出てきた言葉に若干の傷を心に付けながらも感謝の返信をすぐに返す。いつもならば困った時には紫穂にメールを送るのだけど今回ばかりはそうもいかず、異性でミッションに必要なことを聞くには御崎が一番聞きやすかったためこの様にメールをさせてもらったのだ。流石、女子と言うだけあって的確なアドバイスが書かれており本当に年下の子か?とさえ思い感心させられてしまう。ふと、文章がどこか紫穂が打つような文章にも似ておりもう一度見かえしているとつい、微笑んでしまう。嫌な視線を感じたため咳払いをしつつ携帯を机に置き椅子から立ち上がり、ふとある疑問が浮かび上がったため部屋の扉を開けつつ姉の方へと視線を向ける。
「あのさ。今までさらっと流していたけど、どうしてそこまで僕の恋愛事情を知ってるの?」
そう言うと本を読んでいた姉は視線をこちらへ向け微笑みながら、
「お姉ちゃんはね。弟の事はなんでも知ってる生き物なの。お母さんやお父さんが知らないことだってお姉ちゃんには分かるのだよ。って、それは言いすぎかもしれないけど、まあ、困ったことがあればいつでも言ってきなよ?お姉ちゃんが微力ながら手伝ってやるからさっ。とりあえず、予想だけど今メールしてる子?アンタの事これから惚れると思うよ?何故分かるかって?それは、女の勘ってやつだよ、明智君」
いい加減でいつも子供っぽい姉だけれどこう言う時ばかりは頭が上がらない。部屋を出て行こうとした瞬間にジュースを買って来いと言う命令を受けてしまったため相談に乗ってもらった事もあり文句も言えるはずもなく近くの自動販売機まで歩き向かうことにした。
「あ、携帯忘れちゃった・・・まあ、いいか」
止まりかけた足を動かし外へと出て行く。耳を澄ませば夏の虫達が夜の合唱会を開いている。楽しそうに思い思いの歌声を披露し合っている。歌声を聞きながら空を見上げてみると夜空一面に銀色の海がキラキラと輝き広がっている。思い切り夜空に向かって意味もなく人差し指を伸ばし左右に動かしてみる。期待したけれど流れ星が流れるわけもなくただ、夜空に向かって手を左右に揺らしているちょっぴり怖い男となってしまっていた。
「てか、何やってんの?」
「うわっ!!」
振り向くと僕自身の声に驚いている紫穂がビニール袋を持ちながら僕の内から出てきたところであった。声をかけられたことにも驚いたのだけど自分の家から紫穂が出てきたことにも驚いてしまい上手く言葉が出てこなかった。が、紫穂はひろの表情を見て聞きたい事を察したのか頷き、持っていたビニール袋の中身を見せながら、
「おばさんが野菜をくれるって電話が来たから私がお使いで来たの。ひろに挨拶しようとしたけどひろ姉の楽しそうにしてるっぽかったからそのまま帰ろうと思ったら一人で夜空に向かってばいばいしてるんだもん・・・正直声をかけようか迷ったよね」
「ば、ばいばいじゃないって!流れ星が流れないかなって思ってさ。てか、これって紫穂が僕に教えてくれた方法なんだよ?覚えてる?」
そうだったっけ?なんて言いながら紫穂は歩きだしたためあと追う様について歩いて行く。送ってくれるの?と、後ろからついてくる僕に対して振り向きながら紫穂は嬉しそうに言ってきたため素直に僕も頷く。
「そっか。ありがと」
「いえいえ。一応、紫穂も女の子だし。と言っても二人でこうやって歩いててさ?変な奴が言いがかりをつけてきても紫穂が返り討ちにしてくれそうだようね。それで、僕が紫穂に怒られちゃって・・・終わりってね。なんかそう考えると僕って男らしくないよねもう少し男らしくなれたらいいんだけどな」
「自己解決してるし。そうだとしてもなんか嬉しいよ?こうやってひろが一緒に歩いてくれるだけでも」
そんなものなのかな?なんて言いながら歩いているとある事を思いだした。雨谷から頼まれたミッションをここで遂行するしかない。相談した御崎にもこう言った話題は絶対に二人っきりの時の方がいいです。と、書かれてあり今、まさに丁度そのシュチュエーションではないだろうか。いざ、頼まれた言葉を言おうとすると鼓動が異常に早くなってきてしまう。本人が居ないところでは余裕で言えますよ。と、思っていたが実際に本人を目の前にして言うとなるとやはり思った以上に緊張してしまう。不自然に多く深呼吸をしてしまうのだから紫穂も何コイツ?と言う視線を向けてくるのは自然の事であった。しかし、紫穂もなにかを察しているのかひろが言いだすのを待つように静かに黙り歩いている。
「あのさ」
「ん?」
ゴクリ。と、大きな生唾を飲む音が聞こえた次の瞬間、
「紫穂って」
「あ、ごめん。香織から電話だ」
そう言うと会話を止め楽しそうに通話を始める。出鼻を挫かれてしまいどうしていいのか分からずただ、悶々としたまま紫穂の家へと着く。電話は未だに続いており香織も手を振り家へと入って行ってしまったためとりあえずずっとこの場所に居る訳にもいかず自動販売機を目指し歩いて行く。自動販売機まで着いたところで痛恨の失敗が発覚してしまいつい、その場にしゃがみ込み深い、深いため息をついてしまう。
「・・・そう言えばお金持って来てないじゃん。ホントに紫穂を家まで送るだけになっちゃったじゃん」
ため息だけを残し家へと向かい歩きだす。




