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夏になる頃へ  作者: masaya
一章 恋の妖精と時々幽霊
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ただ、二人で歩いて家に帰っているだけ。それだけでも僕の表情は気を張っていなければ嬉しすぎて緩みっぱなしになってしまう。親友の彼女でもあり幼馴染で男として見られていない事も重々承知している。けど、それでもこうして二人っきりでそれも肩を並べて歩けているなんて夢のようだった。本当にこれは夢なんじゃあないかと思い、ベタであったけれどばれないように左足の太ももを少し抓みひねってみる。当然のようにジワリと痛みが襲ってくるけれどいつもは不愉快な痛みだけれど今では気にならない。それぐらい幸せオーラが体中から放出されている。今だったらハンマーで殴られたってきっとへっちゃらに違いない。

「ひろちゃん!」

「ん?」

顔面にとんでもない衝撃が襲ってくる。ハンマーで殴られてもへっちゃらと言うのは冗談であって本当にそうなった場合へっちゃらなわけがない。ひろは当然その衝撃を受けた反動で地面へと倒れ込む。気を失うほどの衝撃でもなかったが顔面がとても熱く特に鼻の辺りがジワリと熱を帯び始める。最初は焦点が上手く定まらずぼやけていたが徐々にいつもの視界へと戻る。と、心配そうにしゃがみ顔を覗きこむ香織の顔が間近にあったため咄嗟に顔を引き離そうとすると香織は咄嗟に両手でひろの両頬を挟み込む。

「ちょっと、じっとしてて!鼻血がでてるから!」

「鼻血?」

そう言うとポケットからティッシュでも出してくれるのかと思いきや絆創膏を出して来た時にはどう言った表情をすればいいのか分からなかった。心配してくれているのも分かるし身近にあるもので応急処置をしてくれようとしているのも凄く分かる。からかってやっているのではなく必死にやってくれている事も十二分に伝わってくる。が、それにしても鼻血に絆創膏とはどう言うことだろうか?一瞬、自分の思考回路が変になってしまったんじゃあないかと疑ってしまうがそうじゃあない。垂れ出る鼻血を食い止めるように鼻の穴にめがけて絆創膏を貼ってこようとしたため咄嗟に、タイム。と、声を出しつつ自分のポケットからティッシュを出し香織に見せる。香織もティッシュの方が鼻血の応急処置には最適だと言うことが分かっているのかあと少しで、と言うところで鼻の穴に絆創膏を貼られると言う事件は何とか回避する。ポケットティッシュを丸め鼻に優しく指し込み立ち上がると視線に入ってきたのは太く存在感が抜群にある電柱だった。ひろは香織と二人で歩いている事に夢中で前を気にせず歩いていたため普段なら絶対に当たることない電柱に当たってしまった。電柱にぶつかることなんてきっと生まれてから死ぬまで無いと思っていた。いや、よそ見をしていてぶつかることなんて考えもしなかった。それぐらい電柱にぶつかることは稀であることぐらい分かる。情けない自分に呆れてしまいつい、笑い香織の方へと視線を向ける。

「電柱にぶつかるとか馬鹿だね。僕って」

「・・・」

一緒に馬鹿だね!なんて言いながら笑ってくれると思っていたが、そうではなかった。香織は先ほどの心配している表情ではなく少しご機嫌が斜めなのか眉間にしわを寄せこちらを見てきていた。紫穂と違い怒った顔も怖くなく寧ろ癒されてしまう。紫穂は怒ると般若に変身してしまうが香織は相変わらず可愛らしい顔のままである。が、すぐさまそんなほんわか気分は消え去り何故、香織が怒った表情をしているのか考えてしまう。もしかしたら、応急手当しようと出した絆創膏を鼻に付けなかったことに対してじわじわと怒りが顔を出して来たのだろうか?それとも、鼻血を垂らしながら笑った顔が不愉快だったのだろうか?様々な憶測が出てくるがまったくと言っていいほどしっくりとくるもがあり過ぎて原因が分からない。笑顔が苦笑いへと変わっていくと、香織は大きなため息をする。

「もうっ!本当に心配したんだからね!それに自分の事を馬鹿だって言うのはダメだよ!ひろちゃんが馬鹿だってばれちゃうよ!」

「最初の方はいい事を言ってるのに最後は酷いよね!?」

言葉を返すと険しい表情をしていた香織は、冗談だよ!ごめんね!と、笑顔を向けてきたため僕も微笑み返し二人して笑いあっていると優しい夏独特の夜風が頬を撫でる。少しひんやりとしているんだけど冷たすぎない心地よい風。その風には森や川の生き生きとした香りを一緒に運んでくる。夏にしか感じることのできない生きた香り。撫でた風のせいか視線を暗くなり始めている空へと視線を向ける。香織も風が吹いた瞬間から静かになったため視線を向けてみると同じように視線を空へと向けていた。同じことを思ったんだろうか?そんな事を考えるだけで笑ってしまいそうになる気持ちを必死に心の奥底へとしまい香織にはこの気持ちに気がつかれないように少しもったいない気もしたけれど視線を空へと戻す。

「ねぇ。ひろちゃん」

「ん?」

「・・・私たちってさ・・・その・・・おっと!圭から電話だ!ごめんよ!」

まいった、まいった。と言いたそうに香織は携帯を取り出し液晶画面を触り耳へと当てる。電話をする香織は本当に楽しそうに話しており僕と会話をするよりも五割増しぐらいテンションが高く圭の事がどれだけ好きかと言うことが分かってしまう。僕はいつものように無理矢理に笑顔を作り、待たせている。と、言う感情を香織に抱かせないように意味もなく携帯を開く。特にする事もなかったため在学生だけが使える学校掲示板へとアクセスし新しい妖精の情報が出てはいないか調べてみるが全て学年別の掲示板を見てみても同じようなことしか書き込まれてはいなかった。流石に今日の今日で真新しい情報が更新されるわけもないか。と、言いながら携帯をしまうと丁度、香織も電話が終わったらしく携帯を鞄の中へと入れていた。

「ホント、雨谷と仲良いよね。って、彼氏だから当然か。ははっ。それより、香織?電話の前に何かいようとしていなかった?」

へ?と香織は驚いたような表情を作るが一瞬にして笑い、鼻血は大丈夫かなって聞こうとしただけだよ。と言ってくる。それにしては先ほどのテンションとは違う気がしたのだけど本人がそう言うのだったらそうなのだろうと思い納得し止まっていた二人の足は動きだす。そうそう!と、香織は何か言葉を思い出したのか肩を叩いてくる。いつも思うが、この様にたまに無意識にボディータッチしてくるところがまたニクイ。いつも、それだけで心臓の鼓動は早くなってしまう。

「あのね!今吹君っているでしょ?」

「吹奏楽部の?」

「そうそう!今日、圭と一緒に帰っていたとき途中までみんなとも帰っててね。そこに今吹くんも居て、妖精探検の話しになって!今、クラスで好きな人が居る?みたいな話しになったんだ。そうしたら、なんと!!今吹くんが顔を真っ赤にしつつ平木のことが好きです!って宣言しちゃってね!みんな驚いちゃって!まさか、お前が、今吹くんが言っちゃった!って!」

「今吹が好きってみんなの前で言ったの?!凄い!」

そう、そう!と異様にテンションが上がってしまったのか香織はほんのりと顔を赤らめキラキラとした表情でこちらを見てくる。流石に僕も驚いてしまい声を荒げてしまった。いや、紫穂がモテる事に驚いている訳ではない。寧ろ、僕にはいつも刺々しい言葉を向けてくるがそれは僕限定であって他の人にはもう少し柔らかい口調になるしなによりも美人なためモテルのは必然とも言ってもいい。しかし、驚いたのは紫穂に関してではなく今吹に対してである。彼は温厚でとても優しくクラスの中では癒し系キャラとしてみんなから好かれている。普段から自分の意見を言う子では無かったためその事に驚いてしまう。香織たちもそうだったらしく話しは盛り上がり今吹を応援しよう!丁度、恋を成就させる妖精が現れたのだからこのチャンスを逃す訳にはいかない。と、言う話しになりグループを作り作戦会議が執り行われるらしい。

「それで、ひろちゃんにも参加してほしいんだけど!」

「もちろん!今吹が紫穂に恋かー」

そう言うと先ほど鞄に戻していた携帯を出しIDを教えてよ。と、言い画面を見せてくる。よく分からなくポケットに入っていた携帯を出すと香織はどこか気まずそうな表情を浮かべる。どこにIDを入れれば良いのか分からず聞こうとした瞬間に、香織は残念そうな表情を浮かべながら肩を落とす。意味が分からなく携帯の画面を開こうとした瞬間に、

「ひろちゃん・・・ごめん。グループ会話はスマホでしか出来ないんだ。掲示板を使って紫穂にバレてもいけないから・・・ひろちゃん・・・ごめんね」

「・・・ひ、ひどい!」

まあ、進行具合は私が教えてあげるからリアルタイムでの参加は断念してくれい。と、慰めるように頷く。しかし、どう足掻いたところで無理なものは無理なため仕方がなく携帯をしまい歩きだす。落ち込み方が面白かったのか香織はクスリと微笑みひろの後をついて行くように歩きだす。しばらく歩いていると商店街からも離れ人通りも少なくなり徐々にひぐらしの鳴く声が聞こえたりと自然を感じ始める。香織もどこで拾ったのか木の棒を振り回しながら鼻歌なんかを歌いだす。ひぐらしに香織の歌を聴くなんて幸せ以外のなにものでもない。

「なに?なにか嬉しいことでもあったの?」

「ど、どうして?」

「だって、口元がニヤリってしてたよ」

咄嗟に口元を隠すと香織は笑いながら特に気にする様子もなく歩きだす。無意識に微笑んでいたのは誤算でありとても気持ち悪い事をしてしまっていたと自分を律する。が、好きな人と二人で帰っている事を実感する度に笑顔になってしまうのは仕方がないことだと思う。開き直ってもいいがそれでもしかしたら、なんか笑ってて気持ちが悪い。そう思われてしまえば高校生活は終わってしまうと言っても過言ではないため必死に冷静さを装う。

「でもさ?夏って本当に恋が芽生える確率が高いらしいよ」

「そうなの?」

「それに、夏って意外と恋が終わる時期でもあるんだよ。冬はなんか、情が働いたり寒くて人肌が恋しくてズルズルと付き合っちゃうってのが多いんだけど、夏って無意識に解放的になって少しでもいい恋を見つけたい人が多いんだって・・・恋愛ってたまに何を考えているのか分からなくなるよね」

どうしてそんな事を急に言いだしたの?と、は聞けるはずもなくただ、香織の横顔を見ることしか出来なかった。二人の間に少しばかり沈黙が続き、香織の家の前までその沈黙は続いてしまう。家の前までつくと香織は笑いながら、さっき言った事は忘れてね!あくまでそう言う話しもあるってだけだから!そう言いながら手を振り家へと入って行く。香織を見送り家へと向かい歩きだす。

「あー!!なんで、あそこでもう少し気の利いた言葉が出ないかな!!沈黙とか絶対に香織に気を使わせてしまった!!あー!!!馬鹿だー!」

と、大々的に大声で言えるわけもなく心の中で叫び続け走りだそうと思った瞬間に携帯の震動が体全体を覆う。出鼻をくじかれこけそうになるがなんとか踏みとどまると雨谷からのメールではなく着信であった。雨谷から電話が来ると言うことはあまり良い知らせではないことが多いため気が付かなかったフリをしようかとも思ったけれど、一度気がついたのに無視するのは友人として酷いことだ。と、言い聞かせ電話に出る。

「もしもし?」

「よっ!実は折り入って」

「頼みでしょ?分かってるよ。雨谷が僕に電話してくる時って究極に暇な時か頼みごとをしてくる時だけだもんね!」

「さっすが、俺の親友。だったら話しは早い。香織から聞いているかもしれないけど今吹が平木の事が好きだと言うことが判明しな。それで、俺たちゴッド手助け隊が人肌脱ごうと言うことになってだな」

「手助けをする事は別にいいと思うし。なにか僕でも協力できることならするよ。けど、めちゃくちゃ格好悪い部隊名をどうにかしてほしいんだけど。ゴッド手助け隊ってなにそれ?いい加減に付けました感が現れるにもほどがあるでしょ」

電話越しでは雨谷の笑い声が聞こえてくる。ツッコミが面白かったのか協力をする。と、言った事が嬉しかったのか分からないが、妙にハイテンションで若干シリアスモードになっていた僕にはついていけないほどであった。そして、雨谷から言い渡された頼みと言うのは以外にも僕にとっては簡単なことであった。しかし、雨谷曰く。これはお前にしか出来ないことだ。と、言われてしまう。しかし、人に頼られると言うのは意外にも嬉しいもので早速、頼みを遂行するため通話が終わった携帯からアドレス帳を開きメールの文を打ち始める。

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