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夏になる頃へ  作者: masaya
三章 四月の雪
103/112

2

彼女は驚いた表情を浮かべ、また、優しい笑みを浮かべる。

「凄い。どうして私が、彼女じゃあないって分かったんですか?」

言葉こそ驚いているように聞こええるが表情はいたって優しい表情のまま。別に嫌な気持ちもなければ、御崎に対して危害を加えるために居るように感じなかった。そもそも、見てくれは御崎律なのだから。けれど、中身が違っている。ふと、尋は咄嗟に気になることを問うてみる。

「御崎ちゃんは大丈夫なんだよね?」

御崎律の安否である。つまり、御崎の心を心配だった。彼女から問いかけられた質問の答えではなかったが、尋らしい。そんな風に微笑みながらを胸のあたりに手を添え、

「やっぱり、優しいですね。大丈夫ですよ。彼女の心は至って元気です」

なら良いんだ。そんな風に尋は彼女の答えに笑顔で返事をする。それもまた、彼女にとって意外でもない反応だったのか、

「尋さんは私を見ても何とも思わないんですか?」

「見てって言っても見た目はさっきと変わらず御崎ちゃんだし」

「・・・」

確かにそうだ。彼女はまた、尋の言葉に微笑んでしまう。彼も彼でまた、麻痺してしまっている。現実にこんなことが起きてしまった場合、咄嗟に保健室に連れていくか、御崎の悪い悪戯。なんて思ってしまうだろう。けれど、彼の周りで起きている奇妙な出来事を考えればこんなことで動揺しないだろう。いや、きっと動揺はしてもいいのだろうけど、尋はなんとなく、彼女は何か意味があって目の前にやってきているのだろう。そう感じたのだ。

「えっと、それで・・・」

言葉を続けようとした瞬間、すっと、冷たい御崎の人差し指が尋の口を閉じる。

「・・・」

ゴクリ。と、生唾を飲んでしまう。先ほどまで動揺なんてしなかった彼が、女性の人差し指で口を閉じられただけで心拍数が異常に上昇してしまう。自分でも情けないことぐらい分かる。

「ごめんなさい。また、あとで」

彼女は口にすると目を閉じ、開ける。

「え、あ、え、え!?」

尋の口に人差し指をつけている彼女が余りにも受け入れがたい現実を突きつけられたのか面白いくらいに動揺しすぐに手を振り払い頭を下げてくる。あまりにも動揺しているものだから、尋は冷静に笑ってしまう。

「御崎ちゃん。大丈夫?」

あたふたしている御崎に尋は微笑みながら問うてみるも、当の本人は人差し指を未だ空に突き立てたまま、あわあわと震えている。

「こらっ」

振り向くと真っ青な傘を差し微笑みを向ける清水香織の姿があった。

「もうっ。どうして尋ちゃんは女の子に意地悪をするのかな」

「い、いや。人聞き悪いって。僕は意地悪なんてしていないよ」

御崎もまた、尋が責められていると勘違いしたのか、すぐさま、香織の方へと視線を向け、

「で、ですよ!むしろ、私が先輩に失礼なことをしてしまって!」

余りにも二人ともが否定をするものだから、香織もまた、冗談で言ったのにここまで全否定されると驚いてしまい、苦笑いを浮かべ、

「ごめんね。冗談で言ったつもりなんだけど・・・」

あはは。なんて笑いながら尋の方を数回叩き、御崎にんも肩を優しくポン。と、叩く。


-----


「もう。遅いよ」

時間にして数分であるが、紫穂は随分とご立腹の様であった。そんなに怒るのなら自分で買いに行けばよかったじゃん。なんて言葉を口にしようものなら余計にご立腹するだろう。と、軽く会釈を済ませココアを机の上に置く。ありがとうね。そう言い紫穂は先程と打って変わり笑顔でココアを飲んでいる。

「人の心って色々な人格があるのかな?」

別に目の前に居る紫穂に言ったつもりもなく、ただ、ただ、ぽっと出てきた疑問を独り言のように口にしていた。

「そりゃあ、人格って言うか感情は色々とあるんじゃあない?」

「感情か・・・」

「てか、尋のその表現変じゃあない?」

流石、幼馴染。一旦はいい様に変換してくれたが、すぐに疑問へとスライドしてくる。別に隠す事でもないし、一人で抱えるには不思議すぎる出来事だった為、信頼できる彼女に言ってもよかった。むしろ、伝えることでいい答えを導き出してくれる気さえする。だけど、なんとなく、

「そう?表現変だった?」

誤魔化してしまい、深々と積もり始める雪を窓ごしから眺める。



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