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夏になる頃へ  作者: masaya
三章 四月の雪
102/112

1

「最近、尋って気持ち悪いくらいにやにやしてるけど何かあったの?」

彼女はため息をつきながら目の前へ弁当箱の巾着を開きながら口にする。秋鹿尋は驚いたように目を見開き平木紫穂の顔を見る。

「な、なんでそう思うの?」

尋の言葉にまた、呆れたように乾いた笑いを向けると、

「尋って分かりやすいもの。ここ最近、本当に気持ち悪いくらい、授業中もにやにやしてるし。それにしても、寒いよね」

そう言うと彼女は肩を上げ外を見つめる。つられ、尋もまた、視線を外へと向ける。目に映るのは真っ白な雪化粧をしたグランドが広がっている。いつもなら、体力が有り余っている運動部男子たちがサッカーをしたり、野球をしたりとしているグランドも今日は静まり返っている。きっと、体育館でバスケなどを行い昼休みを謳歌しているのだろう。

「寒いけどさ、季節外れの雪ってなんか神秘的でいいよね。雨谷とかはグランドが使えないって文句言ってるけど、僕はなんか雪ってロマンティックで好きなんだよね・・・ん?なんか変かな?」

じっと尋の顔を見つめる紫穂は、別に。なんて興味なさそうに視線をそらし弁当を広げる。尋もまた、かばんからパンを取り出し机へと出す。

「しまった」

カバンの中に入れていたはずのカフェオレが無くなっていることに気が付く。少し前にのどが渇き飲み干してしまったことを思いだす。仕方ない。と、財布を取り出し自動販売機まで買いに行こうと立ち上がろうとした瞬間、ん。と手が差し出される。

「なに?」

「飲み物買いに行くんでしょう?私のも買ってきてよ。あったかいココアでよろしくね!」

「仕方ないな」

にっこりと優しく、けれど、断ることのできない雰囲気であったが、ついで。だったため、お金を受け取り教室を出る。と、冷たい空気が頬を撫でる。息を吐いてみると白い息がふんわりと宙を舞う。外は深々と雪がゆっくりと降り始める。

「寒いしとりあえず行こう」

ゆっくりと降る雪を見ながら自動販売機へと向かう。季節外れの雪に学校もなんとなくではあるが、春という浮足立った感じではなくみんな落ち着いている雰囲気である。いつもの昼休みであればもう少し活気だっている気がするがそれもまた、雪のおかげかゆっくりとした時間が流れているような気がする。自動販売機に行くと尋の目的のものであるカフェオレはあるも、まさかのココアが売り切れであった。なかったら似たようなものを買っていけばいい。紫穂の事だ。買いに行かせて売り切れであったから、違うものを買ってきた。きっとそう言っても彼女は怒ることはない。むしろ、わざわざありがとう。と、お礼を言ってくるはず。けれど、尋もまた優しいというかなんだろうか。学校を出て少し歩いた場所に自動販売機がある。何となくそこまで散歩がてら行ってみようかな。

そんな風に思い立ってしまい靴を履き替え外へと向かう。

「意外と寒くないかも」

傘もささず尋は目的の場所へと向かう。と、神妙な雰囲気というかなんというか男女が傘を持ち向き合っている。男子生徒は頭を下げ、手を差し出している。これはいわゆる告白という奴だろうか。この時代にもなって手を差し出す告白が目の当たりにリアルタイムで見れるとは思っていないかった。だからと言って人の告白は見世物ではない。尋は静かになぜか、小さく会釈をするとその場を立ち去ろうとした瞬間、なぜか名前を呼ばれる。

「はへぇ!?」

まさか名前が呼ばれるなんて思ってもなく、頭の上から声が出てしまう。声がしたほうへと振り向く。あまりにも変な反応をしてしまったのか、名前を呼んだ本人も驚いたのか数秒静かになり、くすくすと笑い御崎律が近づいてくる。ふと、御崎へと視線を向けると手を差し伸べていた男子と目が合ってしまう。お互いに気まずくなり二人ともがぎこちない笑顔を向け会釈を済ませると、男子はゆっくりと学校へと帰っていく。

「もしかしなくても、告・・・いや、寒いね」

「先輩って本当に優しいですよね」

律は優しい笑顔を尋へと向けてくる。尋もまた、すべてを悟られていることに気が付いたのか苦笑いを浮かべ空へと視線を向ける。

「ひ、・・・せ、先輩は何しに外へ出てたんですか?」

「あ、うん。飲み物を買いに行こうとしてて」

なるほど。だからここに居たんですね。と、微笑みながら傘を差しだしてくる。雪でもずっと当たってると風邪を引きますよ。そう言いながら自らさしていた傘の中へ入れてくれる。ありがとう。尋はそう口にするも身長差があり妙にかがまなければならなかったため、

「ごめんよ。僕が傘持ってもいい?」

断りを入れ律の持っていた傘を受け取ろうとした時、急におどおどしだし何を思ったのか傘をたたむと、

「よろしくお願いします」

と、お辞儀をして渡してくる。傘の貸し借りにここまで律義にする必要があるのだろうか。そう思うとおかしくなり笑ってしまう。また、律自身も変な事をしてしまったことは自覚したのか、恥ずかしそうに、だけど誤魔化すために少しだけ雪を蹴り尋の足元へと飛ばす。その仕草も可愛く微笑んでしまう。

「御崎ちゃんって本当にそういうところ可愛いと思うよ。もっとみんなにも見せていけばいいのに」

「もー。先輩って本当に一つしか年齢違うのに凄く年上みたいなことを言いますよねっ。それにそう言うところって何ですかっ」

体を尋の方へと優しくぶつかってくる。第三者が遠くから見たらきっとカップルがじゃれあっているようにしか見えないだろう。お互いに笑いあい歩いている。と、律がふと、立ち止まる。

「ん?どうかしたの?」

「先輩。私、思うんです。きっと、この異常気象も五不思議の一つなんかじゃあないかって思ってるんです」

唐突な後輩の発言に驚きを隠せず、ただ、そ、そうかもしれないね。何て口にするしかなかった。が、律はいたって本気で言っているような表情であった。尋だって偶然ではあるかもしれないけれど、不思議。と、言われている現象を何度か体験している。しかし、なぜ、こんなにも唐突に彼女は言い出したのだろうか。

「だって、私、分かるんです。これは誰かの想いで雪が降っているんだって・・・雪って誰かの想いを乗せて空から降ってくるんです。いつかは届くように。って願って雪は・・・」

「ちょっと、いいかな?」

律が話を続けようとした瞬間、尋は話を無理やり中断させる。じっと、彼女の奥を見るように

「君は誰だ?」

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