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12.化石掘り

*前回までのお話*

ラブタームーラに台風が迫ってきた。美奈子がこっそり外をのぞくと、そこには大きな目玉の怪物が……。

 三つ子山の前には、ラブタームーラ小学校の2年生立ちがずらっと整列していた。その前に立つのは各担任、そして博物館の館長だった。

 美奈子達の担任の小倉先生が言う。

「いいですか、皆さん。これから皆さんには化石掘りをしてもらいます。ここ一の山には、まだまだたくさんの化石が埋まっています。もし、化石が出たら館長に見てもらいましょう。あなた方の化石が、博物館に並ぶことになります」

 続いて、館長が話す。

「ここは以前湖でした。魚や貝の化石がたくさん出るでしょう。もしかしたら、珍しい生き物の化石を見つけるかもしれません。さあ、頑張って探してください!」

 生徒達はワーッと散って、思い思いの場所を、学校から借りたシャベル、ノミ、ハンマーなどを使って掘り出す。


 美奈子達もいつものメンバー、すなわちタンポポ団として固まって、あちこちを見て歩く。このところ、魔法昆虫を探すときだけでなく、学校でもこの面々で連なっていることが多い。

「ここなんかいいんじゃねえか? 岩も少ないし、掘りやすそうだぞ」浩が言ったところは、まだ誰も手を付けていない場所だった。

「ここって、学術調査団がたまに来て調べているんでしょ? 掘った跡もないんじゃ、何も出ないんじゃない?」美奈子は懐疑的だった。

「いやいや、案外、すごいものが眠っているかもしれませんよ。何しろ、誰も手を付けていないんですからね」

「ぼくもここでいいや。岩とかは掘るの大変そうだし、向こうはみんながもういっぱいだよ」和久も賛成する。

 美奈子は、しょうがないなあ、というように土山の前にしゃがみ込んだ。


 シャベルを当てては土を掘り返す。出てくるのは赤土ばかり。

「せいぜい、ミミズやカエルくらいなものね」そうブツブツと言いながらも、せっせと掘る美奈子。

「いいものってのはな、うーんと深く掘らなきゃダメなんだ」浩は美奈子の倍くらいの早さでほじくり返している。

 ときどき、何かがカツンと当たることがあった。その度に、ハッとして手を止めるのだが、どれも石ころばかり。

 いっぽう、岩場のほうでは、

「かんちょーう、何か出ました!」

「ほう、どれどれ? ふむ、これは古代の貝の一部だな。うんうん、立派な化石だぞ」

 などと声が聞かれた。


「あっちは賑やかだなぁ。次々と化石が出てるよ。ぼくも、向こうにすればよかった」和久までもそう洩らすのだった。

「ぶつくさ言ってねえで、もっと掘れ。おれ達ですごいものを見つけるんだ」浩は手を止めずに言う。

 4人が精を込めて掘ったおかげで、今では子供1人がすっぽり入れるくらいの穴ができていた。しかし、依然として何も出てはこない。

「少し、場所を変えてみましょうか。もうちょっと右などどうです?」元之の提案に、誰1人として反対するものはなかった。

 そこはだいぶ砂利が混ざっていて、さっき以上に掘りにくかった。

「せめて、魚の骨くらい出てくればなぁ」と美奈子はつぶやく。手を動かし続けているので、もうくたくただった。

「今朝食べたサンマの骨でもってくりゃあよかったぜ」浩は言ったが、誰もそんな冗談に笑いもしなかった。


「かんちょーう!」岩場のほうでまた声がした。また、何か見つけたようだ。

「おお、これはアンモナイトじゃないか。よく見つけたなあ」

 美奈子は、ふうっと溜め息をつく。

「向こうじゃアンモナイトだってさ。博物館のガラス・ケースの中に飾られて、誰々発見、とか書かれるんだろうな」

「ダイヤモンドでも出てこねえかなあ」浩の何気ない一言に、美奈子はビクッとした。

「やめてよ、そんなこと言うの」以前、緑と砂場で遊んでいて、ダイヤモンドカマキリが現れたことを思い出したのだった。

「ダイヤモンドはともかく、珍しい鉱石でも出てくれば、少しは張り合いがあるんですがねえ」と元之。彼も、いい加減疲れてきていた。

 砂利山はまったくもって掘りにくかった。大きな石がゴロゴロ出てきたり、時には岩が突き出しているところもあった。


「本当に、いつまでこんなことしてればいいの?」さすがにイライラしてきた美奈子とが、ザクッとシャベルを突き立てた。すると、ガツンと何かに当たる音がする。

「また石ですか」元之がうんざりしたように言った。

「待って。何かキラキラするものが見える」美奈子はシャベルを用心深く使って、回りを削り取っていく。

 それは虹色をした物体だった。

「なんだ、それは」と浩も覗きに来る。

「とにかく、掘り出してみましょう」

 一同は、それぞれのシャベルで回りをどんどん広げていった。

 すると出てきたのは、1本の骨だった。大人の足ほどもある太い骨で、しかも全体が虹色に輝いていた。


「これは恐竜の足の指のようですね」元之はじっくりと観察しながら、そう判断する。

「ってえことは、ここに恐竜がうまっているってことか!」とたんに興奮する浩。「すげえぞ、おれ達ものすげえものを見つけちまった!」

 美奈子は大急ぎで館長を呼びに言った。呼ばれた館長は、どうせまた魚の化石か何かだろうと、のんびりやって来る。

 しかし、タンポポ団の掘り出した骨をひと目見るなり、

「一体全体、こりゃあなんだっ!」と叫んだ。

「多分、恐竜の足の指だと思うんですが」と元之は推測を述べる。

「うむ、おそらくな。それにしてもこの色。わしも長年、色々な化石を見てきたが、こんなのは初めてだ。君達、これはラブタームーラ史始まって以来の大発見かもしれんぞ」


 ほかの生徒達も、自分達の持ち場を離れてワイワイと集まってきた。

「きれいな骨だね」

「まるで虹のかけらのよう」などと口々に言う。

 その日のうちに学術調査隊が呼ばれ、本格的な発掘が始まった。

 骨は次々と見つかり、どれも虹色をしていた。

 すべて集めてみると、どうやらクビナガリュウの一種らしいとわかる。

「すごい! すごいぞっ!」館長はすっかり興奮しきっている。ラブタームーラで恐竜の化石が発見されたことなど、これまでに1度もないのだ。しかも、世界的に見てまったくの新種であることは間違いない。君達の発見は、永遠にラブタームーラ史上に残るに違いない」館長は大喜びだった。

 翌日の朝刊には、「タンポポ団、新種の恐竜の骨を発見する」と大きく書かれた記事が掲載された。タンポポ団と書かれていたのは、浩が「おれ達タンポポ団が発見したんだぜ」と言ったからである。

 以来、美奈子達4人は、自称ではなく、みんなからも「タンポポ団」として認識されるようになった。


 クビナガリュウの骨は博物館に運ばれ、そこで念入りに調査が行われたあと、復元作業が始まった。

「わたし達、本当にすごいものを見つけちゃったね」美奈子は、まるで夢でも観ているかのような口調だった。

「ああ、おれ達、すっげえものを見つけちまった。まさか、あんなもんが埋まっているなんてなあ」

「ガラス・ケースの中のアンモナイトなど、目ではありませんね。復元されれば、博物館の中心にでかでかと陳列されることになるんですから」

「すごすぎて、ぼく、なんだか怖いくらい。新聞見た? ぼく達のことが詳しく書いてあるんだよ。本当にびっくり」和久もうれしいのか不安なのかよくわからないような顔でそう言う。


 復元にはだいぶかかった。いくつか足りない部分があったらしいが、そこはプラスチック製の代用品で埋め合わせたという。

 あるとき、美奈子の家に電話がかかってきた。館長からだった。

 ついに、復元が終わったのだという。第一発見者として、タンポポ団にまず見てもらいたいとのことだった。

 美奈子はほかの仲間にも連絡し、緑も連れて全員で博物館へと出向いていった。

 博物館の中央には、それまで複製品のティラノサウルスが展示されていたが、それが今やあのクビナガリュウに取って代わられていた。

「どうだね、この堂々たる姿。しかも、こんなに美しい骨格標本は、世界広しと言えどもここだけだぞ」館長は自慢げにクビナガリュウを見上げる。

 骨の1本1本がピカピカに磨き上げられ、まるで宝石で作ったかのように美しかった。そして何より、想像以上に大きかった。


「わしが思うに、これはブロキオサウルスの亜種ではないかと思う。もちろん、細かいところはだいぶ違うのだが、なんにせよ、新種であることは間違いない」

「ということは、まだ名前さえないのですね」元之が聞く。

「そう、そこなんだ。君達を呼んだのは、それもあってだね、最初の発見者として名前を付けてもらおうと思ってるのだよ」

「あたし達が名前を?!」美奈子はびっくりした。いや、緑以外、ほかの誰もが仰天した。

「だったら、『タンポポサウルス』なんてどうだ。おれ達のおかげで見つけられたんだからな」と浩。

「そんな名前じゃしっくりこないわ」美奈子が真っ先に反対した。「だって、こんなに美しいんだもん。もっと素敵な名前を付けるべきよ」 

「確かにそうですね」と元之。「虹色に輝く恐竜がタンポポサウルスではあんまりです。何かいい名はないでしょうか」


「おねえちゃん、虹って七色なんでしょ?」緑がそう尋ねる。

「うん、虹は七色って言われてるね」代わりに和久が答えた。

 その時、美奈子はハッと思いつく。

「そうだわ。七色に輝いているから、ナナイロサウルスなんてどう? それこそぴったりの名前じゃない?」

「ほう、ナナイロサウルスか」館長はあごに手を当てて、しばらくうーんと唸っていたが、「よし、それにしよう。こいつは今日から、ナナイロサウルスだ!」

 そんなわけで、新種の恐竜はナナイロサウルスと名が付いた。

 博物館がナナイロサウルスを公開するやいなや、連日、人が大勢押しかけるようになった。

 もちろん、ナナイロサウルスがお目当てだった。


「実はな、あと5つだけ、どうしても見つからない骨があるんだよ」館長がこっそりと美奈子に耳打ちをした。「まあ、そこも虹色に塗ってあるんで、誰も気がつかんだろうがね」

 ちょうどその頃からだった。真夜中になると、クビナガリュウの幽霊が町をさまよい歩くという噂が流れ始めたのは。

 あるときは湖畔で、またあるときは4丁目の森の中で、そして時には町中でさえ、見た者がいるという。

 それがこのナナイロサウルスと関係しているのかは、誰にもわからないことだった。

*次回のお話*

13.大空の旅

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