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乙女ゲーム、らしい?

世界は交差し転生者で溢れていた、らしい

作者: 日文

世界の秘密。

それは呆れるほど大雑把。

でもその世界で生きている人にしてみれば、冗談じゃないと怒鳴り散らしたくなる事。

 熱を出して二日ほど寝込んだ。

 風邪と思われているけれど、私は知恵熱だろうと思っている。

 一気に情報貰ったのと、恐怖で思考回路ショートしたんだと思う。

 さて、あのお兄さんは自分のことを攻略対象者だと私に告げた。

 でも他の攻略対象者にはあんな恐怖は感じなかった。

 では何が原因?

 そして似ていると思ったのは、母親に対して抱いていた形にしないままにしていたナニカだ。

 そのナニカを強くして濃くして明確な形を与えたら、きっとあの明言しがたい恐怖のようなモノに近いのでは?と感じた。

 よくわからない。

 実は余り覚えていないのだ、母のことは。

 妹とはちょこちょこと文通みたいな事はしている。

 着物に惹かれて、祖母の立ち振る舞いに憧れて、作ることを願って縫い物をはじめに教えて貰った。

 あの頃はまだはっきりと理解できていた妹の好き嫌いに合わせて、教えて貰ったばかりの小物を作って父に持って行って貰った。

 手紙と一緒に。

 妹からは返事が来た。

 ベッドの上で寝てばかりだから、綺麗な色の小物が嬉しいと。

 母がそばにいてくれることが嬉しいと。

 母を独占して、私に嫌われないか、と。

 二ヶ月に一度、自分でも上出来だと思うモノと手紙を持って行って貰い、返事を貰う。

 姉妹なのに文通してるのはおかしいかもしれない、でも会ったら何かしてしまうかもしれないのが怖かった。

 それは妹も同じようだったみたいで、同じ学校に通えないのは少し寂しけれど、こうして繋がっている方が心強いかもしれないと書かれていた。

 私たちは互いに臆病で、互いに傷つけ合うことも傷つくことも怖がって距離を近づけることが出来ないで居た。

 妹との距離が近づかないからか、母とはほぼ会っていない。

 母もまた私という存在を無いように扱っている。

 父はなにか物言いたげではあったが、妹の身体と精神を心配して母を刺激したくないようではあった。

 私が実家に帰る気がないことも、祖父母に完全に受け入れられて教育されていることも後押ししているような気がした。

 ココにいれば私は大丈夫だと。

 そう、かつての恐怖から、困惑から私は離れていた。

 物語に関わりがあるはずの先輩やその婚約者候補、そして友達になった柳さん。

 普通だった。

 何か感じることはなかった。

 普通に仲良くなっていた。

 それなのにどうしてあの人だけは違ったのだろう。

 何が母や妹と同じなのだろう。

 考えていても判らない。

 直接聞く機会は与えられているのだからそのときに聞くべきだろうけれど……何を聞けばいい?

 まずはあの人が言ったことを思い出そう。

 彼は自分を攻略対象だと言った。

 彼は私を片割れだと言った。

 彼は二つのゲームのタイトルを口にし、それらは別の世界で販売された同一の物?コピーだと言った。

 彼は現実にあったことだと言った。

 彼は見ているだけで何も出来なかった一人だと言った。

 他にも言っていたと思うけれど、正直余り覚えていない。

 本当に驚いた。

 頭がついていかなかった。

 それに、どうにかしなくてもいいとはどういう事なんだろう。

 多分私に対して何だろうけれど……

 信用、していいのかな?

 判らない。

 また、熱が出そう。

 一人で会いに行くのは怖いけれど、このままにしておくのも据わりが悪い。

 もう少しだけ、心の整理がついてから。

 一応連絡はしておくべきかな?

 余り時間を空けるのは良くないかもしれないから。

 







 無かったことにされて避けられるかと思ったが、連絡が入った。

 今は混乱しているのでもう少し時間が欲しいとのこと。

 その感覚は理解できる。

 かつての自分もそうだった。

 記憶を持っていた。

 後悔と悔しさが中心の苦い記憶。

 一人分の一生の記憶は、高校時代の忘れ去るには重い出来事で奇妙にねじ曲がって、おそらくは入学当初に描いていた進路や就職すら変えていた。

 言葉を、思いを、感情を伝えたい。

 正確に伝わるようにしたい。

 その試行錯誤があった。

 くたびれた中年が青春の後悔を何とか燃料にして前に進んでいた頃、友人の呼びかけ。

 激高するかと思った。

 しかし努めて冷静に振る舞い、なるべく客観的になるように当時のことを纏めた。

 他の呼びかけに応じた友人や知人の物を見せて貰った。

 形にすることを手伝った。

 形になったとき、なんて陳腐な物になるのだと悲しかった。

 だからこそ忘れなかった。

 忘れることが出来なかったのだろう。

 あの苦しさも、無力感もこんな形を与えるとずいぶんとありふれたチープな型にはまってしまったと。

 物語であったなら。

 現実でなかったら。

 それがどれほど陳腐でありふれた物であっても、事実でさえなければ。

 あまりにも悔しかったのか覚えていた。

 ごく自然に記憶として。

 そして生まれたその世界で友人に勧められてプレイしたゲームの一つが、自分も関わったゲームという形に直したあの記憶が、手を加えられてほぼ同じような内容であった。

 双子の姉妹。

 病に倒れる妹。

 両親から忘れ去られる姉。

 妹のためにとないがしろにされ続け、妹が退院する頃には両親も妹も姉をないがしろにすることが当たり前になっていた家族。

 そして愛されていることを理解している妹は、姉の制止も友人達の忠告も聞くことなく、学校で人気の高い男達と仲良くなっていく。

 自分が悪意を持っているからこそそういう風にしか受け止めきれないシナリオ。

 そして学校とは全く別の所、生徒ではない大人の攻略対象であるからこそ同時攻略が出来る攻略対象者が追加されていた。

 それが今の自分。

 花鶏藍。

 生きて、死んで、生まれ変わって、生きて死んだ。

 そしてまた生まれ変わっている。

 どれも別の世界に。

 この世界は、様々なゲームの複合世界らしい。

 そのことに気がついたのは小学生の頃。

 隣に住むよく遊んでくれたお姉さんがヒロインであったらしく、高校入学後二ヶ月も経たないうちに毎日違う男が送り迎えをするようになり、半年ほど経過したら一人だけになった。

 どこかの企業の御曹司とか、総合病院の跡取り息子などではなく、幼馴染みのスポーツ少年と。

 小学生の頃から少年サッカーのチームにいた幼馴染みの応援や差し入れ、対戦相手の情報集めを彼女はしていたけれど、彼は当たり前だと思っていたみたいだったけれど、高校に入って他の男子生徒からの評判が良くて、面倒見がよい彼女の手助けがたびたび無くてようやくどれだけ自分たちの勝利に貢献していてくれたのか理解したみたいだった。

 随分前に当たり前のように思っていて、高校でもサッカー部のマネージャーをやろうとしていた彼女に文句を言って居るのを見た。

 悲しそうな顔をした彼女が可哀想で、それで居てどこかで見たことがあるような気がした。

 だから一端離れるのも良いと思うと告げた。

 監督やコーチは彼女の支えを理解していたけれど、中学生ごときの選手では必要性も重要性も理解できるはずもなく、彼女が自分につきまとうのが鬱陶しいと言い切ったのだから。

 家は隣同士で同じ学校。

 部活動まで同じでは当たり前すぎて、当たり前でないことを理解できないよと。

 ぱちくりと目を見開いて自分を見る彼女に、やっぱりどこかで見たことがあるような気がした。

 良く見知った顔、と言うのではなくシチュエーションが。

 ありがとう、そう言って微笑む彼女にようやく思い出した、彼女が『Secret of Twilight』というR18ゲームのヒロインだと。

 長い髪、いつも笑顔を心がけ泣くときは一人きりの時だけ。

 スポーツ万能の幼馴染みが居たために、自分は平凡だと思いこんで懸命に努力を重ね続けたおかげで、彼女に支えられると支えられた相手は大成するという……非常に素晴らしい蔭の立役者となっていた。

 だから彼女のサポートを当たり前と思うような男は彼女を大切にしない。

 大切にしてくれる相手との二人三脚ルートと、当然と思い搾取されるだけのルートがそれぞれの攻略対象者にはあって、さらに攻略対象者に恋する才女達との切磋琢磨によるGLルートもあるというゲームだった。

 秘密よね。

 大好きな、初恋のお姉さん。

 幸せになって欲しいから、忙しいのが判っているから夕飯時とか狙って突入してみたり、一緒に宿題夫やると主張して好きな人の話を聞き出したりした。

 頑張った。

 個人的な好みとしては、企業の御曹司の婚約者と二人で起業して女社長とその秘書の秘め事というのが大変美味しかったけれど、やっぱり普通に幸せになって欲しいのもあったから。

 高校ではまず違う部活動に参加して、彼女のバックアップが無い状態を体験して貰ってから、GW辺りの合宿で手が足りないと言われてから経験者だと言うことで合宿の手伝い。

 今までずっと彼女のバックアップだったのだから、他のやり方はなかなか受け入れられない。

 それで調子を崩しかけたところに慣れた彼女のバックアップが入る。

 足りなかった物が理解できるはずで、でもそれが当たり前と感じられても困るから他に彼女に惹かれている人がいることを明確にしてと……本当に頑張った。

 そして転生者というか、このゲームを知っていて逆ハーレム築こうとしているお馬鹿さんや(逆ハーENDなんか無いゲームなのに!)他の攻略対象を攻略しようとしている人がいた。

 蔭の立役者となれる彼女だからこそヒロインであるゲームで、ヒロインのように影に徹して光を光であり続けられるように支えることが出来る者はいなかったのか、早々に転生者のような記憶持ち達は本来のライバル達に敗れていった。

 後はまぁ、それなりに、それなりの山場を迎えて恋人関係に。

 調子に乗りすぎないように時々相手に釘を刺して、幸せでないと自分が判断したらかっさらってやると言ってやった。

 小学生なのに自分、非常に頑張ったと今でも思う。

 そして中学に上がり、同じ委員会で知り合った同級生に軽い既視感を感じていた。

 彼の恋する相手にも軽い既視感を覚えたけれど、それが何かはっきりとする前に彼女は殺された。

 彼女を殺した相手はこれで自分がヒロインだと笑っていた。

 屋上で同級生と立ち入り禁止の屋上で昼食を食べている最中だった。

 彼の好きな相手が、周りから一寸と倦厭されている少女に無理矢理連れてこられて、殴られて、突き落とされた。

 殴られたときに自分たちは走り寄ろうとしたが、一歩、間に合わなかった。

 落ちてゆく彼女の手をつかみ、彼は一緒に落ちていった。

 笑う気狂いは自分がヒロインだと、『時空を越えて貴女へ』のヒロインに成り代わるのだと言った。

 それはゲームだ。

 そう言いそうになった。

 しかしそれを知っているのは……記憶持ちの転生者か。

 同級生は攻略対象であったはず。

 そして彼が好きだった相手は……何とも言えない苦い物がこみ上げた。

 どうするのだこれから。

 時空を越えてと言うように、本来であれば召喚されて行方不明という形になるはずだったのだ。

 ヒロインである彼女と、同級生とその二つ上の兄の三人が。

 しかしヒロインは居ない。

 同級生も居ない。

 一体どうなるのか判らない。

 こうして自分は二つのゲームに関わりを持った。

 一つは積極的に、もう一つは始まる前にある意味終わった。

 どういう事だろうと思っているまもなく、今度は自分の周りに自分を助けることが出来ると称する女達が現れた。

 そうして理解する、させられる。

 自分もまたゲームの中の攻略対象の一人なのだと。

 そして彼女たちは、自分が思うゲームの事しか覚えていないのだと。

 複数のゲームが混ざり合っているはずなのに、クラスメイトが他のゲームの主要キャラクターであるにも関わらず、彼女たちは気がつかない。

 観察するようになって、ゲームの主要キャラにも記憶持ちが居ることが判ってきた。

 自分のように前世としての記憶持ちや、ゲームの内容を理解しているだけの記憶持ちとがいた。

 前世としての記憶持ちはこの世界が自分のキャラクターが居るだけの世界ではないとうすうす感づいてはいたようで、話しかけ情報交換が出来た。

 彼らは彼らで別のゲームのヒーローやヒロインとニアミスし、知ってるけれど知り合いではないという距離から近づけないと言うことと、ヒーローヒロインという主役でなければゲームの主要キャラクターとは交流も出来るし攻略も出来るらしいと言うことを知った。

 成り代わろうとヒーローやヒロインを貶める存在はいて、ライバル役に謂われのない悪意をゲーム開始前にぶつけて、皆に嫌われてしまった物の話も聞けた。

 ゲーム開始前にちょっかいをかけることは出来る。

 登場人物と親しくなることも。

 そしてこれが一番重要なことで、他のゲームの主要人物であれば攻略対象者を攻略することが出来ると言うこと。

 歴史系の恋愛ゲームも多々あったはず、その考えを元に歴史を調べ学び直してみればぼろぼろと出てきた。

 前世、前々世での記憶と異なる歴史。

 知らない名前。

 知っているけれど、確かそれはゲームでのデフォルトネームだったはずの名前。

 微妙に異なる歴史。

 それで居て、それほど大筋は変わっていない現在。

 ヒロインやヒーローと言った主人公が居なくとも何とかなって、他のゲームのキャラクター同士でも恋人や夫婦になれる。

 そして男性向け女性向けのそれぞれのゲームが混ざり合ったこの世界は、BLもGLも当たり前にある世界でもあった。

 だから一手。

 好意を抱いていた、他のゲームの攻略対象だからと踏み出さなかった相手を落とした。

 好意を示し、気持ち悪柄れても仕方がないと揺さぶり、表向きは親友であると見せ本当は恋人という地位に就いた。

 結婚は出来ない。

 相手はそれなり以上の家柄の跡取り息子なのだから、後継者を作るのは必須だ。

 それははじめから判っていると示し、相手を離れられないようにした。

 そして自分が離れることはないのだと示すために、相手に籠を用意させた。

 その籠にあの子が現れた。

 佐伯真夜。

 自分が攻略対象であるはずのゲームの悪役。

 しかし彼女はそのゲームで通っていたはずの学校には通っていなかった。

 家も、家族も、両親ではなく祖父母の元だった。

 それだけでずいぶんと違う。

 そして何より彼女は、知っているはずなのだ。

 自分がたどるはずだったシナリオを。

 だから怖がられたのだろうか?

 でも自分のシナリオでは彼女と関わり合いはないはずだけど……あの怖がりよう、他に理由があるはず。

 時間は必要だろう。

 多分あの様子では自分以外での記憶持ちにあったことがないのだろうから。

 しかし本当に面白い。

 悪役のハズの姉はすでに逃げ出し、攻略対象者の婚約者と友誼を結び、どうやら攻略対象者であったはずの少年は少女になっていた。

 ずいぶんとシナリオから外れている。

 でも、それで良いのかもしれない。

 本来と異なる道を歩んでいるからこそ、あの子は楽しそうに笑っているのだろうから。

 幸せであればいい。

 何も出来なかったあの時とは違うのだから。

 この世界はゲームが元になってはいるけれど、複数のゲームが複雑に絡み合っている。

 だからこそ簡単に命をつみ取ろうとする転生者もいるけれど、それ故に抜け道もある。

 他のゲームの攻略者とENDを迎えるというのもその一つ。

 本来の主役であるヒーローやヒロインから離れるというのもだ。

 若干の強制はあるけれど、その範囲から外れてしまえばこっちの物なのだから。




これでラストで良いよね?



呆れるくらい沢山の恋愛系ゲームが絡み合い、それが歴史になっている世界です。

だからもしかしたらこの世界の武将達は乙女であったかもしれない。

故に漢女がおとめとして辞書に載っていても仕方がないかもしれない。

花鶏さんは普通の乙女ゲームの攻略対象を落として、BLの世界に引きずり込んでいます。

一番の親友で恋人という地位を獲得している、ある意味リア充です。

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