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一週間探偵  作者: saki
猿人チェイサー
4/5

リベンジマッチ



「……ごめん、逃がした」

 ストーカー遭遇から二時間後。

 僕とアイリは今度こそ七海さんを無事家に送り届け、探偵事務所へと帰ってきていた。

「あたしも正直気が抜けていたわ。あなただけのせいじゃないわよ」

 アイリは一人ソファへと腰かけ、難しい顔をしている。

 やはりアイリとしても、ここまでの事態は予測できなかったのだろう。

 それもこれも、あのとき僕がまったく役に立たなかったせいなわけで。

「…………はぁ」

 僕は自分でも気づかないうちに溜息を漏らしていた。

「だからあなただけのせいじゃないって言ってるでしょ!! いつまでもウジウジしてるの見てると腹が立ってくるのよ!! 失敗したって思うなら、次頑張ればいい話でしょうが!! これ以上そんな態度とるならクビよ、ク・ビ!!!!」

 その言葉が僕の体の奥深くまで突き刺さる。そうか。次があるのか。

 それだけ叫んで落ち着いたらしく、アイリはふぅと息をつくと、大きく伸びをした。

「明日また同じことをするわ。……今度はちゃんと役に立ってね、助手さん?」

 こいつは僕を励ましたいのかバカにしたいのかどっちなんだろう。

 ……でも、アイリの言う通りだ。僕は助手なんだから。

「…………わかってる。次はもっとうまくやる」

 自分でもここまではっきり宣言できたことに少し驚く。もしかしたら初めてかもしれない。

 そうだ。それほど悔しかったんだ。僕は。

 自分にできることをやるって決めたばかりじゃないか。

「それと、その、スバル……」

 そんなことを考えていると、やがておずおずとアイリが口を開き始めた。

「うん? 何?」

「か、体のほうは、平気?」

「体って?」アイリにしてはめずらしく歯切れが悪いな。

「だ、だから、さっきの……怪我、してるでしょう?」

 さっきのって……あぁ、あの怪物に思いっきりぶっ飛ばされたときか。

 正直そこまで大きな怪我はしていない。腐っても僕も怪物だし。

「ごめん、心配かけて。僕なら大丈夫だよ」

 それだけ言うとアイリは顔を一瞬で赤く染め、ソファの上でわたわたと慌てはじめた。

 ……なんで?いや、瞬間湯沸かし器みたいで見てる分にはおもしろいんだけど。

「だっ、だだ、だれがあなたの心配なんてするもんですかー!! あなたが動けなくなったら誰があたしの世話をするのよー!!」

 てめぇまさかそんなことのために僕を雇ったんじゃないだろうな!!

「あたっ、あたしが言ってるのは、そんな意味じゃなくて、その……もう! スバルのばかー!!」

「痛い痛いカップ投げんな割れたらどうすんだよ!」

 アイリは手当り次第にいろんなものを僕めがけて投げてくる。癇癪おこした子供かよ。

「でてけー!!」

 そうして僕はこの日事務所を追い出された。

 …………ほんとになんもしてないよね僕?





 当然のことだけど、七海さんは大分混乱してた。

 ストーカーだと思ってたのが得体のしれない化け物だったんだし、護衛だなんだと息巻いていた僕がボコボコにされたわけだし、その僕が今こうしてピンピンしてるわけだし。そりゃ混乱のひとつやふたつくらいしてもおかしくない。

 でも僕らが助かったのは、七海さんが理解ある人だったってことだ。

「あたしたちは簡単に言うと、昨日のああいう化け物相手を専門にしてる探偵なの。あなたが警察にあたしたちを紹介されたのもそのせいね」

「そ、そうだったんですか……なんだかすごいんですね……」

 ……ただ単に抜けている人なのかもしれない。あきらかに年下であろうアイリにも敬語だし。

「昨日は失敗したけど、今日こそあの化け物を捕まえてみせるわ。だからもう一度、あたしたちを信じてもらえないかしら?」

「は、はいっ! こちらこそよろしくお願いします!」

 アイリ、なんだか説得するのうまいなぁ。おそらく初めてじゃないんだろう。なんとなくそんな気がする。

 こうして僕らは、大学からバス停までの道を歩き始めた。





「気引き締めなさいよ。これ以上バカな真似したら、九条探偵事務所の信用にかかわるんだから」

「わ、わかってるよ」

 なんだか今日のアイリは変に機嫌が悪い。その理由もわからないのでどうしようもない。つくづく変なやつである。

「すいません七海さん、囮みたいに扱っちゃって。昨日の今日なのに、嫌ですよね」

「い、いえ、いいんです! そもそも私が依頼したことなんですから!!」

 ううむ、申し訳ない。昨日のうちに仕留めておけば、と本当に思う。

 昨日と同じ道、同じ時間帯。これが一番目標が出てきやすいということで、再び三人並んで歩いている。

 あとは僕がうまうできるかどうか、だ。

 そうやって話しているうちに、だんだん人影が見えてきた。

「……きたわね」

「じゃあ、二人は離れててください。後は僕がなんとかするんで」

「……しっかりね、スバル」

「き、気を付けてくださいね、星宮さん」

 二人の声に後押しされ、僕はゆっくりと前に出た。

 その瞬間、怪物がピクリと動いた。

 そして気づいたときには、怪物は一気に距離を詰め、大きく膨張させた拳を振りかぶっていた。

「ッガァァァァァアアアアアアアア!!」

「くっ!!」

 紙一重でそれを避ける。少しかすっただけでとんでもない威力だ。

 続いて左拳が迫ってくる。

 僕はそれが当たる前に、がら空きの側頭部へと回し蹴りをきめた。

「グァ…………ッ!!」

「っおおおおおおお!!」

 そのままの勢いで、怪物を道の向こうへと吹き飛ばす。

 そいつは態勢を崩し、派手に倒れこんだ。

「ほ、星宮さんって、あんなに強かったんですか……?」

「あ、あはは、まぁね」

 後方からアイリと七海さんの話声が聞こえる。

 てめぇも僕が闘うとこ見るの初めてだろうがとツッコみの一つでも入れたかったが、生憎そんな余裕はない。

「ガ……ア……アァ…………!!」

 怪物が再びこちらへ突っ込んでこようと態勢を整えた。

 僕は左足を前に出し、右腕を大きく後ろへ捻って『構え』をとる。

「ウガアアアアァァァァァァ!!」

 咆哮。そして、そのまま走り出した。

 その様は、突っ込んでくるというよりは、馬鹿でかい拳が迫ってくるといったほうが正しいように思える。

「アアアアアアアアアアアァァァァァァァ!!」

 ほんの少し、必要最小限の動きでそれを避ける。ぶんっ、と風を切る音が耳元で聞こえた。

 そして。

 わずかに見えたみぞおちをめがけて、一気に腕を振りぬいた。

「グァッ……!」

 ズンッ、と僕の手がめり込む。

 そこで止まらず、僕はさらに右足を踏み込んだ。

「……うおおおおおおおおっ!!」

「アアアアアアアアアアアアアア!!

 聞こえる声が僕のものなのか怪物のものなのか、もうわからない。

 気づいたときには、フッ、と怪物から力が抜け、その巨躯は激しい音を立て転げまわっていた。

――「一の型・華火はなび」。

 僕がシンヤさんから教わった、数少ない技の一つである。

 倒れたままの怪物は、ピクピクと痙攣したまま、動く素振りは見せない。

とりあえず。

 昨日のリベンジは、果たせたかな。





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