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彼と私の二重奏  作者: POMじゅーす
1.降って沸いた受難曲(パッション)
6/30


 ペッカイナ王国王都エンデン、西地区。

 ヤクマオ大平原に隣接しているためか、他の地区に比べ軒並みは少なく、畑地や農場が多い長閑でのんびりしたところだ。

 そこはターニャさんの豪邸が建つ地区であり、私がいただいた家がある地区でもある。

 西地区に足を踏み入れた私は、肩掛け鞄から古ぼけた羊皮紙を取り出した。

(えーと、西地区六番地四の三の六……って、どこ?)

 土地の権利書に記載された住所を何度も読み返すが、いまいちピンと来ない。これもペッカイナでプチインドア生活を送っていたせいだ。うん。

 だ、だって、市場や店が充実してる中央区に住んでたら買い物に困らないし、ターニャさん宅に行く以外で西地区に来る用事はないし……。

 ここは日本のように街区表示板がないので、自分の居る場所がどこに当たるのか地図なしでは分かりにくい。あ、そうだ、地図を持ってきてたら良かった。

 自宅の引き出しにしまい込んである王都の地図に思いを馳せたところで、それが手元まで飛んできてくれるはずはなく。

(迷子になったらどうしよう)

 思わず小さな溜息が出てしまった。

 ターニャさんから例の一軒家の話を聞いて興味が沸き、「ちょっと見に行ってみようかな」と思い立ったのは良いが、いささか準備不足だったかもしれない。

 まあでも、ターニャさんが教えてくれた道順はそう難しくなかったので、なんとか辿り着けるとは思うのだが──今になって不安になってきた。ターニャさん、どっちかというと大雑把な方だから、道順を省略して言ってそう。

(う、うわあ……ありえそうで怖い)

 嫌な想像を打ち消すかのように、私はターニャさんの言葉を思い返した。

「西地区に入ったらそのまま真っ直ぐ行きな。アバルキン農場の──そうそう、あたいの家に来る途中にある、あの農場さ。そこの手前で右に曲がって、あとは道なりだよ。目印? んなもんなくてもすぐ分かるさ。なんせあの辺には他に家なんてないからね」

 西地区に入って真っ直ぐ。

 アバルキン農場手前の道を右に曲がる。

 あとは道なり。行けば分かる。

(……この三つで本当に行けるのかな)

 日を改めようかと思ったが、ここまで来て帰るのも歩いた距離が勿体無い。もともとインドアタイプなので、今帰宅してしまえば確実に気を削いでしまうだろう。

 そんな自分の性格を知っているだけあって、私は「帰宅」という選択肢を捨てた。

 とりあえず、ターニャさんの情報を当てに歩いてみて、分からなければその辺の人に聞いてみよう。最悪、迷子になってしまったら人目のない場所で「魔導師」の装いをし、空を飛んでターニャさん宅に行けばいい。幸いローブもあることだ。

(そうと決まればさっさと行こう。暗くなる前には家に帰りたいし)

 私は止めていた足を動かし、麗らかな日差しの中目的地へと向かった。


 *


 道中はとても楽しく、そして気分がほぐれるものだった。

 大平原のすぐ近くなだけあり、西地区はそこかしこに青々とした畑や牧草地が広がっている。視界のどこかには牛や馬などの家畜が必ず一頭は居て、自然も動物も好きな私としては、非常に心癒される光景だ。

(いいよねえ……ゴミゴミした街中も便利だけど、こういうのーんびりした所も素敵だよねえ)

「モーモー」「メーメー」「ヒヒーン」と、時折聞こえる鳴き声や、ハモハモ草を喰む姿に和みつつ、ターニャさんの言葉を頼りに歩き続ける。

「こんにちは、モリーちゃん。ターニャ様のお使いかい? え? 今日は違うのかい。気をつけてお行きよ」

「やあモリー。ターニャ様によろしく。気をつけてな」

「おお、モリーじゃないか。お疲れさん」

 道すがら、「一般人モリー・ナーエ」を知る西地区の人々に挨拶され、私は笑顔でそれらに答えた。西地区の住民とはそこまで親しくはないが、道で会えば挨拶をするくらいの仲ではある。顔見知り程度、ってところだろうか。

 街での私の表向きなステイタスは、「国守魔導師ターニャ・アランサバルの召使」。これをこの二年間続けており、ターニャさん宅には私用でも仕事でも結構通っているため、私の事を知っている人はそれなりにいる。

「国守魔導師の召使」というちょっと珍しいお勤めに加え、日本人らしいのっぺりとした私の顔立ちは覚えられやすいようで。

 この国に来て、「生まれはどこか」と尋ねられることが多かった。言葉を濁して変に勘ぐられたくないので、「母方が西の大陸の血筋」ということにしている。西の大陸にはアジア系の顔立ち寄りな人種が居るから、そこを利用させてもらってるってわけ。

 ペッカイナの人々の目鼻立ちは、彫りが深めで厚めの二重瞼、眉は薄くて鼻は普通。地球でいう欧米人に似ているが、あくまで似ているだけで、同じではない。唇は薄いし。なんというか、馬とロバのような……うまく言い表わせないけれど、微妙な違いがある。欧米人っぽいけど微々日本系も混じってるような……欧米系とアジア系を足して二で割った感じ? ああ、「北方アジア系ハーフの欧米人」ってのが一番しっくりくる表現かも。

 街中で外国人を見た時、やけに印象に残らない? 「あ、外国の人だ!」みたいな。それと同じで、ペッカイナの人々が私の見慣れぬ顔の造形を記憶に留めるのは難しくなかった。

 だから余計に「魔導師」モードの時は顔や体を晒せないのだ。髪の色はカツラで偽ることができるが、この顔は隠す以外に誤魔化し用がない。見る人が見れば、「一般人モリー・ナーエ」イコール「魔導師ナーナ・フィモル」だとすぐに分かってしまう。

 私は小心者で器が小さい。ターニャさんのようにオープンで豪快で人目を顧みない生き方はできないだろう。人には人の、私には私の生き方があるのだ。うん、開き直ろう。

 悲しきかな、日本での平凡な二十年間は、私を立派な一般人に仕立て上げていた。

(私が魔導師だって知ったら今みたいに気軽に挨拶してくれないんだろうなー)

 自分の正体がバレた折のことを考え、悲しいような、寂しいような、複雑な気持ちが滲んでくる。

 私が魔導師であることを一般に隠す理由は、大きく分けて三つある。その中のうちの一つが、「隔てを置かれるのが嫌だから」というものだ。

 魔導師といえど魔力を抜けばただの人間。この世に、この国に生きる人々と何も変わらない生き物で。

 それなのに、「魔導師だから」とやけに畏まられたり、一線を引かれたり、遠巻きに眺められたり、必要以上に媚を売られたり、冗談を言っても戸惑われたり──……そんなの、私は望んでいなかった。

 それなりにご近所付き合いをして、それなりに友達と遊んで、それなりにお出かけして、それなりに買い物を楽しんで、それなりに会話を弾ませて……。

「魔導師」がどんな立場か分かってはいるが、それでも願わずにはいられない。

 私は、普通に暮らしたいのだ。レサ・ハルダ(異世界)に来る前は極々普通の一般人だったわけだし。

 一線を引かれたくない。特別扱いされたくない。孤独を感じたくない。

 でも、私はちゃんと理解している。「魔導師」の力を、地位を、希少性を。

 故に差別化されるということも、重々承知。

 普通に、庶民のように過ごしたいのならば、「魔導師」ではいられない。

 ではどうするか。

 ──行き着いた答えが、「モリー・ナーエ」だった。


 *


 ちょっとばかし重い気分になっていたが、道標となるアバルキン牧場が見えたことで心の靄は急速に霧散した。

 簡単に言えば、目印が見えて気が逸れたのだ。

(おっ、アバルキン牧場。ここを右に曲がって、あとは道なり、だっけ?)

 ターニャさんの言葉を思い出しながら、草と獣と糞の匂いのする牧場の手前を右に進む。足元が煉瓦から石畳になり、ブーツの鳴らす音が少しだけ変わった。

 ちょっぴり細くなった石畳の道を歩き続けるも、見えるのは広々とした草海原に、のんびり草を喰む羊や馬、牧場の従業員らしき人だけ。どうやらこの道沿いはアバルキン牧場の放牧地のようだ。

(ずーっと向こうまで動物が見える。柵があんなに遠くに)

 アバルキン牧場は広い牧草地を持っていると聞いたことがあったが、これほどとは思わなかった。西地区に来ても、いつもターニャさん宅一直線だったからなあ。こっち方面には来たことがないから、知らなかった。

 私は広大な牧草地にただただ感心し、ふと、一つ疑問に思う。

(……本当に家、あるのかな)

 どんなに目を凝らしても、草や動物、木々以外に視界に入るものはない。もう少し進めば違ってくるのかもしれないが、私はいささか不安になった。

 かといって今更引き返す気にもなれず、懸念は拭いきれないが、一先ず行けるところまで行ってみようと気を取り直して足を交互に前に出すのであった。


 *


 そうして二十分ほど歩いていくと、ようやく例の一軒家と思しき建物が見えた。

 道中私の目を楽しませてくれた緑の牧草地は既に通り過ぎており、辺りはしんとしている。見渡せば家屋や畑がありはするものの、まばらであり、家同士の距離がだいぶ離れている。

 ターニャさんの言ったとおり、ここら一帯に建つ家はこの一軒家だけのようだ。

 歩数が増えるにつれ、徐々に大きくなってくる一軒家。それはぼうぼうに生えた草に囲まれた木造の平屋だった。

(うへー……草ぼーぼー。これ、庭? どこが畑? うーん、後で見てみよう。ターニャさん、「ボロ屋」って言ってたけど、そんなにボロには見えないなあ。大きいし、屋根に穴空いてるわけでもなさそうだし。っていうか、ここが例の家なのかな?)

 本当にあの家がターニャさんから貰ったものなのか確かめるべく、私は外観を眺めるのも程々にし、鞄から鍵を取り出した。銀製の冷たい鍵は私の掌よりも少し大きめで、重みがありがっしりとしている。鍵先は職人技の活きた複雑な造りになっており、棒部分には「複製禁止」の文字。こんな、いかにも「鍵」ですよって感じの鍵、現代日本では流用されていない。レサ・ハルダにはディンプルキーもカードキーも声紋認証も指紋認証もないもんね。

 と、文明の差を感じ入るのは置いといて。

 錠に差し込んだ鍵をくいっと回すと、ガチャン、という金属音が静かな平原に響いた。

(おお、開いたっ)

 どうやら鍵は合っていたみたいだ。ならば、この家はターニャさんの言っていた家で間違いない。

(良かった、ここで合ってたんだ。中はどうなってるのかなー)

 安堵の後に小さなワクワク感が芽生える。冒険心にも似たそれに背中を押されるかのように、私は埃っぽい屋内に足を踏み入れた。


 *


 家に入ってすぐはダイニングキッチンのようで、窓辺に設けられた調理スペースには陽が差し込んでいる。家の周囲は拓けた草原なので、日差しを遮るものはない。どの部屋も日当たりは良さそうだ。

 調理場の奥には古ぼけた暖炉。壊れてなさそうなので、掃除すれば使えるだろう。暖炉は便利だ。暖をとるだけでなく料理にも使えるし、インテリアとしても趣がある。木造家屋なので火の扱いには要注意だけど。

 ダイニングキッチンには入口以外に四つのドアがあり、それぞれ浴室、トイレ、空き部屋一、空き部屋二に通じていた。

 トイレはやや狭めだったが、浴室は割と広い。大きめの浴槽が余裕で入りそうだ。

 湯に浸かる習慣のないペッカイナの家屋は湯船など付いていないので、日本の浴室と比べ小さな造りになっている。こんなに広い浴室(といっても日本では一般レベルだが)に出会ったのは、王女の私室にお泊りした日以来かも。はー、肩までお湯に浸かってゆっくりしたい。それだけで一日の疲れが吹っ飛ぶ。

 熱めの湯で満たされた湯船が恋しくなりつつ、浴室をあとにする。さてさて、次は空き部屋だ。

 二つの空き部屋は畳六畳から七畳ほどで、どこもかしこも綿埃や蜘蛛の巣だらけ。けれど、床や壁に傷はなく、建物自体は傷んでなさそうだった。何年も雨期を越しているはずなのに、この木造家屋にはカビや水漏れ痕が全くない。それがすごいなと思った。

 空き部屋一と空き部屋二はドアで繋がっており、空き部屋二は空き部屋三へも通じている。家の中をぐるっと一周してみて、間取りは3DKに近いと感じた。一人暮らしをするには広すぎるくらいだ。……でも、将来的な──結婚や出産で家族が増えた時の事を考えると、このくらいが丁度良いのかもしれない。彼氏いませんけど。独り身ですけど。けっ。

 どの部屋にも家具はなく、ガランとしている。そのせいで余計に家の中が広く感じた。何もなさ過ぎて、家具配置に頭を悩ませそうだ。でも、これだけ何もなければ、全部自分の好みで内装ができるな。

(……あれ? なんか私、この家に住む気になってない? いや、この家に住むとか引っ越すとかはまだないけど)

(ん? 「まだ」? それっていつかここに住むみたいになってるじゃないの。そういうつもりで家を見に来た訳じゃなかったはずなのに……!)

(うーん……今まで見た感じ造りは良いから、ここに住むのもアリっちゃアリなのかも……いやいや、心変わりし過ぎでしょうよ私)

 知らないうちに生じていた高揚感を振り払い、心を落ち着けようとゆっくり瞬きする。

 この家、想像していた以上に良さそうなんだもんなあ。いつの間にか住む方向で色々考えちゃったよ。

 鼻腔に入り込む埃に咳やくしゃみをしながら一通り屋内を見て回った私は、庭はどんなものかと外へ出てみることにした。実を言うと、この庭に一番興味があった。小さな頃から憧れの「庭」ですもの。

 庭を見ることで更にこの物件への関心が強まる可能性があるのは分かっていたが、私を止める者は誰もいない。僅かな逡巡ののち、私はあっさりと誘惑にも近い好奇心に負けた。

 憧れの庭。

 鎮めたはずの興奮が首をもたげ、私は再度それを抑えにかかる。けれど、ときめきの如き期待感は消え去ることなく、静かに、そして熱く心底に湧き続けた。

 外に出ると爽やかな草の香りが鼻をつく。庭、と思われる場所は、私の腰ほどまである雑草が伸び放題で、地面が見えなかった。どこからどこまでが庭──私が有する土地となるのだろう。権利書を見ると、けっこうな土地面積が記されている。家畜を飼って畑を作っても全然土地が余りそうだ。いや、広い庭は憧れだったけど、本当に貰って良かったのか。なんだか悪いなあ。

 ああでも、これだけ広ければ何でもできそうな気がする。

 あそこには家畜小屋を作って、周りに牧草の種でも蒔いてみたらどう? ささやかな牧草地の出来上がり。牧草地があれば餌やりや糞尿の始末が楽になる。ちゃんと柵も立てておけば、逃げられたり獣に襲われたりする心配もない。いいね、牧草地。

 畑はどの辺がいいかな? お、井戸発見。井戸の側にあると水やりしやすいよね。まあ、これだけ閑散とした場所だから、人目を忍んで魔法で水やりもできそうだけど……「モリー・ナーエ」でいる時は極力魔法は使わないようにしてるからなあ。

 畑ができたら何を作ろう。野菜作り初心者の私でも、失敗せずちゃんと育てられるものがいい。街の八百屋さんに聞いてみようか。それとも図書館? あ、城の書庫で調べる手もあるな。

 家畜小屋ができたら何を飼おう。やっぱり鶏? 卵があれば料理や製菓の幅がぐんと広がる。何かと便利だ。卵料理好きだし。犬猫なら飼ったことがあるけど、鶏はないから飼育方法調べておかないとね。どこかで飼育本を探してみればいいか。

 草葉で肌を擦れるのも気にせず、私はあちらこちらにうろうろしつつ家屋の周囲を一周した。その間に、理想の庭のイメージを膨らませまくったのは言うまでもない。


 *


 頂いた一軒家から自宅へ帰る道中、私は始終悶々としていた。晴れ晴れとした青空は、既に橙色になっている。

(……しまった。これはしまったぞ)

 ターニャさんから家や庭の話を聞いて「なかなか良さそうな所だな」と興味が出ていたのだが、まさかここまで素敵な──私好みの屋地だとは思わなかった。

 実際に行ってみて、私はすっかりあの家と庭に心惹かれてしまっている。ここなら私の理想の生活が送れそうだと、未来のビジョンを描いてしまったのだ。

(あー……こんなつもりじゃなかったのに)

 私はただ、ターニャさんの話すこの家と庭がちょっぴり気になって、興味本位で見に来ただけで。別に「住んでみよう」とか「住めそうかな」とか、転居の事なんかこれっぽっちも考えておらず、ただ「どんなものなのかな」と、それだけだった。

 それが今はどうだ。

 私の脳裏には「引っ越し」という文字がチラつき、それがターニャさんへの遠慮と戦いを繰り広げている。

「あんな私好みの物件、そうそうないよ。せっかく貰ったんだし、引っ越しちゃえば? 憧れの庭を思う存分堪能できるよ! 家具も一新して、自分のユートピアを手に入れるの」

「だめだめ。3DK庭付き一戸建をタダで貰ったうえに住むなんて、図々しい! 機会を見つけてターニャさんに返すんでしょ? 貯金もたまってきたんだから、庭付き一戸建てくらい自分で買えばいいじゃない」

「せっかくですが返します。って言っても、あのターニャさんが『はいそうですか』と頷くわけないでしょーが。もう貰っちゃってるんだから、あの家。細かいことは気にせず、さっさと引っ越し準備始めようよ! 素晴らしい新生活はすぐそこだよ」

「ダメ、常識的に考えて。大した記念日でもないのにバカ高い贈り物貰って、何の努力もせずのうのうとそこに住もうとしてるって、厚かましいんじゃない? いくらターニャさんがああいう性格をしてるからって、甘えすぎでしょうよ」

 ……。悶々。非常に悶々と、絶えない一人問答を繰り広げる私は普通なのか、神経質なのか。どちらかというと「気にしすぎ」の部類だろうが、性分なので仕方がない。

 思えば、ターニャさんが「贈り物をやる」と言った時点で頑として断らなかったのがいけないのだ。……今更遅いし、上手く断れた可能性は低いと思うけど、それでも後悔してしまう。

 更に、例の一軒家を見に行ったのも良くなかった。おかげで欲が沸き、それが良心とせめぎ合いを始め頭を悩ます事態になっている。どうしてこうなることを予測しなかったのか。私の大馬鹿野郎。いやだって、ターニャさん「ボロ屋」って何度も言うから、見に行っても住みたいと思うほど魅力を感じないだろうなーって楽観視してたんです。はい。

 それと、あと一つ言い訳をさせて欲しい。

 というのも、ターニャさんが実に話し上手、もとい紹介上手だったのだ。

 家や庭について話すターニャさんは、それはそれは……深夜の通販番組並みのトーク力をしていて。言葉だけではなく、表情や仕草も惹きつけられるものだった。やー、ほんと、ターニャさんてばいつになく饒舌なんだもん。それでほいほい見物に行ってしまったわけなんだけど。

(はあ……。時間が経てばそのうち熱も治まるよね。できるだけあの家のこと考えないようにしなきゃ)

 結局、心の中のラチのあかない堂々巡りは帰宅後も続き、私は気を紛らわそうといつもより読書や家事に力を入れるのであった。


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