第七話 勇者、マジ空気 後編
注意、これは紅/零です。
「お~い、君達!速く寮に戻りなさい!!」
聞き覚えのある大声に笛の音が途切れる。
声のした方を向くと、Ⅵ―Ⅸの担任であるクルフィ先生が立っていて、手招きをしていた。
「何かあったんですか?」
舞を中断されたミナは不機嫌さを隠そうともせずにクルフィ先生に食いかかった。
クルフィ先生は苦い顔をしながら説明してくれた。
「先程王都レシオンから電報が届いてな、どうやらこのハイデルベルクに勇者を殺した凶悪な殺人犯が潜んでいるらしいんだ。危険だから生徒全員寮で待機するようさっき放送したんだが、まだ校舎に残っている生徒がいないか見回っていたのさ」
なんだと?
何で俺がここにいることがばれてんだ?
確かにここは王都から最寄の街ではあるが、それだけの理由でどうしてこの街にいることが特定出来たんだ?
「ウェイン様…いかがなさいますか?」
トルテが何時もの表情で俺に耳打ちした。
切り替えの早いよくできた従者だ。
「そうだな、俺は今の姿を知られてないからいいとして、お前も一部の王都の連中しか知らんから…よし別行動だ、お前はこの街に着たばかりで人相とかが割れているからかなり怪しまれるだろう…いったん姿を隠せ、何かあったらシナプスを使え」
「御意」
embody
「あとこれを渡しとくから、俺特製の瞬間膨張液体発火ビン、爆弾だ。取り扱いには気を付けろよ」
試験管のような形のビンをトルテに渡しておく。
それを受け取ったトルテは何故か蕩けたような表情になり。
「勇者様、愛してます」
「ユーシャ言うな、さっさと行け」
そしてトルテと別れた俺は、ミナと共に下校した。
「ミナの勝ちだった、凄かったよ」
俺はミナを女子寮まで送る道中でそう言った。
「そう?あの人も凄かったけど…嬉しい」
実際ミナの舞は素晴らしかった。
舞台の広さを考慮した動き、流麗な足裁き、打楽器に合わせた鋭い動き。どれもが完成されていた。
「じゃあ、また教室でね」
「ああ、またな」
「さて、と」
寮に着き、宿舎の管理人の点呼に応じてから自室に向かう。
そしてポケットからシナプスを取り出した。
「多分これが原因だな」
離れた相手との通話を可能にする道具、おそらくこれは直接シナプス同士を繋いで通話する物じゃない。過程だが一度発信された声はどこか一箇所に集められてそこからまた目的のシナプスへと声が発信されていると思う。
他にも声を届ける過程で拾うという方法も思いついたがそれでは全世界をカバーするのは難しいだろう。素早く広い場所で特定の声を探し当てるにはやはり全てのシナプスの声を集める場所があるとしか思えん。
「面倒だな」
場所は特定された。シナプスという連絡手段も聞かれてしまう。さらに俺とトルテは今別行動中だ。合流しようにも連絡手段がない。…いやあいつなら小声で呼んでも現れそうだが。
コンコン
思考にふけっていると俺の部屋に誰か来たみたいだ。今は寮生全員が自室待機しているからアルの可能性はない。つまりこの客人は。
「ここがバレたか」
俺が呟いた瞬間扉が四散した。
「まったく、ノックしたら扉にほいほい近づくとでも思ったのかよ」
embody
俺は厚さが十数センチはある巨大な鉄の板を具現化させ、入り口を塞ぐ。
その間に部屋の窓に対して槍を生み出し突き破る、しかしその窓からは脱出しない。なぜなら奴さんたちが張っている可能性があるからだ、その読みどおり窓の外には数秒後火の柱が立ち上がる。窓から逃げていたら今頃こんがりジューシー勇者になっていただろう。
そして俺は本命の逃げ道、入り口の鉄板に向かって超高速の水を放ち鉄板を切り裂いた。
「水ってのは案外切れ味いいんだぞ」
そして等身大の穴を開け、その場にいた兵士たちに水鉄砲を放つ。先ほどまで鉄板を易々と切り裂くところを目撃していた兵士たちは我先にと逃げ出していた。今放っているのはせいぜい全身打撲ですむような威力だったが。
「さてと、食堂寄るかな」
「その必要はありません、ウェイン様」
ちょっくらトルテを回収しようとしたら背後からたった一人の従者は突然現れた…ってか呼ばなくても来る奴だったな。
「当然です、私はいつでもお側にいます」
「知ってる。にしても居心地いい所だと思ったんだけどな。こんなに早くここを離れなきゃならんとは」
王国に正体がばれている以上ここでの学園生活はもう不可能だろう。名残惜しい気持ちはあるがここを戦場に変えたくはない。アルやミナ、学園の生徒たち。そして何より…
梅干のためにも!!
「途中までは格好良かったんですけどね………でもそんな勇者様も素敵です♡」
後ろでトルテがなんか言っているがどうせ意味もない戯言だろうから気にも留めん。
「トルテ、次の町にいくぞ」
「はい、私はいつでも勇者様にお供いたします」
俺たちは寮の一部を瓦礫の山に変えつつも怪我人を出さずに脱出し、この街を去ろうとした、が。
「いやいやそう簡単に通せんよ」
寮を出た俺たちの前に現れたのは見覚えのある初老の男だった。
「あんた誰だっけ?」
「お主はこの世界にきて初めて会った顔を忘れたのか」
「何ですって!?勇者様の初めて!?」
「トルテ、黙っていろ」
くだらない茶々を入れるトルテを黙らせると改めてその男を見ると思い出してきた。確かにこの世界に来た時初めて会った男、召還を行った魔導師だった。
「久しぶりだな。王の犬」
ついでに言えば俺はこの男が大嫌いだ。見た目も性格も口調も声も全部が。
「犬か、わしが犬ならお主は糸の切れたマリオネットだな」
「ああん?訳わかんねえ事ぬかしてんじゃねえぞ!!」
embody
俺は聞いただけで失神する程の爆音を発生させ魔導師にぶつける。
しかし魔導師は余裕の笑みを浮かべてたっている。
その結果が腹立たしく。
「喧しいな、威勢だけか?」
「ったく…殺したくはないんだがな」
安い挑発に乗ってしまった。
embody
「いけません!!勇者様…」
制止するトルテの声をも掻き消し、俺は何十もの槍の雨を魔導師に降らせた。
この後、残ったのは赤い、赤い何かの塊だけである。
一応コメディでやってます。