第三話 勇者、異文化に触れる
「ここは……どこだ?」
「これが勇者か?想像以下だな、見るからに頼りない」
「ですが彼こそが魔王を倒す鍵となる人物です、見た目や歳は関係ありません。勇者はたとえ子供であっても魔王をはるかに上回る能力を持ちます、だからこそ代償が大陸消滅なのです」
「そうか、なら早速コイツにはこの国を救ってもらおうか……」
「何なんだ?お前たちは一体………?」
「ふん、哀れな奴め、せいぜい私の役に立つんだな、……やれ」
「かしこまりました」
「おい…何をする気だ!?」
「お許しください、すべては……世界繁栄のため……」
『朝だぞ、野郎共!!起きやがれ、三分以内に食堂に来ない奴は飯抜きだ!!』
「おわっ!!」
けたたましい音が部屋中に響き、俺は飛び起きた。慌てて周りを見渡すと、誰もいない、さらに全く見慣れない風景が広がっていた。
「あ~……(思考中)あぁ!!(思い当たった)あ~~(納得)あ………(気付く)」
いそがねぇと、飯がくえねぇ!!
俺は急いで部屋を出て一階の食堂に向かった。
突然訳の分からない始まり方でスマン、俺だ、ウェイン(勇者)だ。一昨日、俺とトルテは別々にこの町ハイデルベルクに住人登録した、二人で行動していると怪しまれると判断したからだ。何故なら二人組みの男女の手配書があちこちに貼られていたから(罪状は、勇者暗殺)。早速俺たちはいないもの扱いされたらしい。確かに俺は自分が勇者であると証明する事は難しい、下手に目立つ行動を取れば王国に捕まってしまうだろう。
そして俺は無事に学校への通学手続きを済ませ、このハイデルベルクの十二歳~十五歳の男子が住む、オリンポス寮に住むことになり、そして
「おはようございます、ウェイン様」
トルテは寮の食堂炊事人として雇われていた。
都合のいいことに寮の食堂の人手が足りていなくて、簡単な試験の後、即採用となった。もちろんトルテは料理については、絶品料理から量産用料理まで何でもござれの使用人だ。採用されないハズがないと踏んでいたが、それでも申し込み、面接から採用までの間が一日というのは少し異常な気がする。
それについてトルテに聞いてみると。
「勇者様への愛ゆえに」
返答がまるで意味不明だった。何をしたんだろうか?
「にしても、今日は休校日なんだよな、何故早起きしなきゃなんねぇんだ?」
時刻はまだ夏の日が昇ってから一時間といったところだ、こんな早起き、滅多にしないんだが。
「朝起きてしっかり朝食を取る事は勉学への向上意欲と学力アップへの鉄則のようで、さらに早起きして運動してから朝食を取る方たちもいます、ウェイン様、ではゆっくりと召し上がってください、私はまだ職務が残っていますので」
そういい残すと優雅にエプロンを着たトルテが厨房の中へと入っていった。そして俺は目の前の料理に目を向ける、さて………何だこれは?
目の前には焼き魚と、白い湯気の立つ米、そして独特な香りを放つ黄土色のスープ、そしてさくらんぼがしぼんだような形をした目玉サイズの赤い果実。
焼き魚と米はともかく、残り二つは見たことのない食べ物だった。さらに一番分からない物、それは……
「なんだ?この棒は」
何本も二十cmくらいの棒が立ててある筒を見る、どのテーブルにも真ん中辺りに置かれていて同じように棒が刺さっている。注意してみていると、他の寮生がその棒を二本だけとり、それを使って器用に炊いた米をすくうように挟み、口に運ぶ。
「なるほど」
食器か…………なんでスプーンやフォークが無いんだよ!!不便だろ、あんな細くてたった二本の棒で食べるなんて、しかも刺す訳じゃなくて挟むなんて………
仕方が無い、とりあえず素手で食べれそうなこの赤い果実だけでも頂くとしよう。
「………!!!!!!!」
こ、これは………予想外だ……この果実……甘くない、そして………かすかな苦味に強烈な酸味が!?ってこれ……………………
「ウマッッ!」
なんだこれ!!超おいしい!なんていうか懐かしい海の味がする。辺りを目立たない程度に見回した。目的はこの赤い果実のおかわりだ。
「ねぇ君、何を探してるの?」
赤い果実の行方を捜していた俺は一人の寮生が近づいている事に気付かなかった。声の主を見てみると十五歳くらいの緑色の長髪に蒼いタレ目の少年がトレイを持って立っていた。
「この赤い果実のおかわりを探している」
彼の持つトレーに乗っている赤い果実を指差しながら答える。手がかりの無い今、ここに長らく住んでいる奴に聞いたほうが早いだろう。
「珍しいね、梅干が好物なのかい?おにぎりの具とかならともかく、梅干単品でとかそれってもう味覚やばいね」
少年は笑いながら食堂の隅っこに置いてある壷を指差した。
「ありがとう、あれは……いくつでもとっていいのか?」
すると少年は目を丸くして俺を見る。
「そりゃあいいけど、捨てちゃダメだよ」
「そうか、分かった」
誰があんな旨いもん捨てるか。
俺は席を立ち、ウメボシとやらをとりに行った。
「すごい量だね、梅干の山とか初めて見たよ、しかも素手食い」
自分のトレイを置いた場所に戻ると例のタレ目が横に座っていて、馴れ馴れしく話しかけてきた。鬱陶しいけど口にウメボシが詰まっているため何も言えない。
「そうだ、自己紹介が遅れたね、僕はアルマ、アルマ・グリンっていうんだ。気軽にアルって呼んでね」
聞いても無い事をペラペラと、だけど名乗られたからには名乗り返すぐらいの社会性は引きこもりの俺にもある………ゴックン。
「俺はウェイン・オバマ、ウェインでいい」
「よろしくウェイン、君って転入生だよね、一昨日この町に来た」
随分と情報が早いな、大きな町だが転入というのは珍しいのだろうか?
「そうだけど、あんたは、ここの最年長か?」
この寮の最年長、つまり十五歳でこの町の唯一の学校『アテナ』の六回生ということ。
「そのとおり、君と同じクラスだよ」
……結構な情報が漏れているな、何故同じクラスということまで把握してるんだ?
「詳しいんだな、あんた」
疑わしさ全開で聞く、こんな怪しい奴に関わるべきじゃないと勘が言っている。
「別に、普通だよ?この町ではビッグニュースから迷子の子猫の事まで全部これで調べられるからさ」
アルはポケットから小さな手の平に収まるくらいの箱のようなものを取り出した。それにはガラスみたいな板が埋め込まれていて、微かに光を放っている。
「なんだ…それは?」
初めて見るその道具に俺の心は釘付けになってしまっていた。そのガラスにははっきりと文字や数字が浮かび上がっている。
「知らないの?一年前にウォルトー国が開発した携帯型情報写映機だよ」
シナプス?何だそりゃ、そんな便利なものが開発されてしかも一般的に普及していたってのか?
世の中の流れに完璧に取り残されてるな、俺。
「詳しく教えてくれ」
頼んだら軽い調子で教えてくれた、この時、俺の中でアルは怪しい奴から便利な奴にランクアップした。
にしてもこれウメェ。
「なるほど、これ一つで町中の情報が常に確認できるようなものか、操作も慣れれば簡単だな」
「あぁ、いい加減返してくれるかな?」
「あと少し…」
「それ言うの、もう十七回目だよ……」
結局食堂が閉まる時間まで俺はアルのシナプスをいじっていた。
「ああもう、だったらウェインも自分用に一つ買ったらどう?シナプスは通信機能もあって、この町では一人一つが当たり前だし、今日は休日だから、付き合うよ」
……いい奴だなコイツ。
「助かるよ」
「ただし!」
む、やはり何か企んでたのか、ふん、妙に色々と手助けしてくれると思ってたが、一体どんな条件を出してくるつもりだ?
「あの食堂の新しく入ったお姉さんのシナプスの連絡先を聞いてくれないか」
こ、こいつ……トルテが目的だったのか……通りでね、納得した。俺がトルテと話している所を見てまず話しやすい男で同年代の俺に接触してきたと……。
「くっくっくっ……いいぜ、聞いてきてやる、ちょっと待ってろ」
「本当か!?今の含み笑いがすごく気になるけど、頼んだよ!」
「ああ、任せろ」
残念だったな、あいつもシナプス持ってないんだよ。
「トルテ、いるか?」
食堂の厨房に声をかけるとすぐにトルテが出てきた。
「お待たせ致しました、ウェイン様」
「トルテはシナプスを持っているか?」
一応約束なので聞いとく。答えは分かってるけど。
「はい、常に携帯しております」
そうそう、常に携帯……え?
「持ってるの?」
「はい、一年ほど前に世間で有名になっていたので一つ取り寄せたところ、中々便利だったので」
あれ?じゃあホントに俺だけなの?
「では、私は職務がまだ残っているので」
時代にたった一人置いていかれている事にショックを受けているとトルテが厨房に戻ろうとする。
「ちょっと待ってくれ、あのさ、トルテのシナプスの連絡先を教えてくれないか」
慌てて言うとトルテはピタッと止まりすごい勢いで振りかえった。
そしてどこからかペンと紙を取り出して一秒もかからず文字を書き込む。
「寂しくなったらいつでも連絡しください」
と超近距離で目をキラキラさせながらトルテは俺に紙切れを押し付けてスキップで去っていった。
……このメモの使い道を考えると何故か罪悪感が芽生えた。
都「embodyかぁ、便利そうだね」
W「東方美人も相当使い勝手いいだろう?」
都&W「……交換する?」
作者「無理です」