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紅/零  作者: 大夜
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第一話 勇者、旅に出る

「これでやっと終わるのか、私の時代も……ぐふぅ!!」

「お前が生んだ数々の悲劇、その身に刻んで…死ね!」

「ふん…哀れだな、勇者ぁ。私が死んでも……意味など、無い…」

「何だと?血迷ったか!魔王センテ!!」

「ふふ、もう遅いのだ、お前はこれから地獄を見る……ガハッ」

「……世迷言を」



…………またあの時の夢か、もう三年も前なのに、いつになったら俺は忘れられるのだろうか、あの言葉を。

「……さまー、ゆーしゃ…まー、朝で………ます」

 ん?誰の声だ?

「勇者様~朝立ちの処理なら私がお手伝いしますので扉を開けてください」

「要らんわっ!!!!」

 冒頭から下ネタすんな!投稿出来なくなるじゃねーか!せっかくシリアスな雰囲気だったのにこれじゃ台無しだろーが。

「とにかく、早くしないと朝食が冷めてしまいます、目が覚めたなら……ん?」

 俺を起こしに来た専属の使用人、トルテ(21)独身が部屋の前でぶつぶつと呟く。

「どうした?」

「いや、朝食が冷めてと目が覚めてって……あらやだダジャレですね♪」


「どうでもいいよ!!」


 くそう、朝からなんでこんなふざけた問答しなけりゃいけないんだ?

「ふふ、相変わらずいいリアクションですね、勇者様!」

「遊んでんじゃねぇよ!」

 魔王を倒してから俺(勇者)の朝はこうして始まる。…ずいぶんと平和なものだ。


 俺がこの世界に来る前は小さな漁村の村人だった。その漁村は若い人がほとんど都会の街に上京していて年寄りばかりが住む小さな村だった。

 俺はその村の数少ない若者の一人で、何故なら両親は病気で早くに亡くなり、じっちゃんとばあさんに育てられ、昔気質な性格になっていたから。

 そしてじっちゃんは強くて、でかくてたくましいこの村一の漁師で小さかった俺の憧れだった。

 十六歳になり、やっと自分の船を持たせてもらった俺は、こっそり一人で海に航海して、そして村に帰って……その先が思い出せない。

 気が着いたら全く見たことの無いような建物の中で見知らぬ民族の人々に囲まれていて、いきなり魔王を倒せと頼まれた。その時の俺がどうして自分と全く関係の無い世界の事なのにどうして世界を救うための勇者になったのかは覚えていない、まぁ別に大した理由では無いのだろう。

 で、肝心の魔王討伐の旅は意外というか拍子抜けと言えばいいのかたったの七日間で終わった。


 ちょっと待て、読むのを止めるなよ?これにはちゃんとした理由があるんだ。


 神渡しにより召還された者には特別な能力が備わる。その名も『embody』俺に備わったそれは想像を具現化させる魔法だった。その魔法で俺は40m程にでかくなり魔王の軍勢を退けた。蹴飛ばすだけでミッドガルズを救うのに五分もかからなかった。ていうか反則的な魔法だった。

 そのまま全ての街や国、島などを制圧した後に魔王を倒したのだが、魔王は死ぬ間際に俺に意味深な言葉を残していった。未だに俺は地獄を見るという意味が分からないままだ。

 魔王討伐が終わり、このミッドガルズに戻ってきた俺は様々なパーティや式典に参加して一週間がたち、ひと段落した後に一つ問題が発生した。

 

 俺は元の世界には帰ることができない


 元々召還するだけで大陸が海に沈むというのリスクを負った魔法で俺はこの世界に来た。そして返すとなるとそのリスクは倍になるらしい、全ては憶測に過ぎないのだが、せっかく勇者によって救われた世界が勇者のせいで滅んでしまっては忍びないと思い、俺はこの世界にとどまる事を決意した。

 そして今に至る。


 召還されてから三年が経ち小国だったミッドガルズはすっかり大陸一の大国、もとい王都となっていた。何故ならこの国は世界で唯一魔王に占領されておらず、さらに魔王を打ち倒した(全て俺の活躍だが)ため世界でミッドガルズは神の降りた国と呼ばれ、魔王により住む場所を失った人々が集まり、その人々を王様は新しく土地を開拓させて受け入れ、自然と大きくなっていった。

 俺はそんなミッドガルズの中心部である第一区(第十三区まである)にある屋敷に住んでいた。


 職業      勇者

 仕事内容    主になし


 ……勇者とは名ばかりのニートだった。

 それも王様から何もしなくていい、むしろ何もするなと言われたせいである、世界を救ってしまったが故に普通に生きていく事は出来ないみたいだ。やることもお偉いさんとの面会等しか無いため、毎日読書と園芸をするだけの日々が続いている。

 この屋敷には俺が選んだ専属の使用人であるトルテと俺の二人しか居ない。時々やって来る様々な国のお偉いさんとの会合の時くらいしか外に出ないので、基本トルテとしか顔を合わせないのだ。

 ある意味この屋敷は牢獄なのかもしれないな。


 トン トン


 小気味居のいいノックの音で俺は回想を中断した。


「勇者様、お茶をお持ちいたしました」


 トルテか、………開けたくねぇな、朝の問答の通りトルテは凄く有能なんだけど、一々事あるごとにじゃれてくるんだ。

 いい年した大人のくせにな

「勇者様、今大変失礼な事を考えておりませんか?」

 一緒に住んで三年が経つけど、まさか心の中まで読まれるとは……おそろしい

「考えてないよ、それより入っていいぞ」


 ガチャ


 扉が開くと派手ではないエプロンドレスを着こなしたトルテがティーポットとカップをのせたトレーを片手に書斎に入ってきた。

 毎日見てるからどうとも思わなくなったけど初めは見惚れたものだったな。別に歳をとったとかでは無く、中身(性格)を知ってしまったからな。

「勇者様、頭に熱湯がお望みですか?」

 またもや心を読まれた。おいおいこの女はエスパーか?

「そうだな、頭に熱湯はいらないけど……」

 そこで三秒くらいたっぷり間を空ける。


「トルテの淹れたお茶が欲しい」


 偽らざる本心で言う、トルテの淹れるお茶は絶品だ。これは雇った時から変わらない。

 他の家事は一切出来なかったのに。

「まったく、調子いいんですから」

 トルテは呆れたように溜息をつき近くのテーブルにティーセットを並べていく。

 全く、大した手際だ。

「いつもながら、いい味だな、トルテ」

 うん、こんなニート生活も悪くないな。

「ところで勇者様、お手紙がきております」

 手紙か……きっとろくな事かいてないんだろう。

「聞きたくないけど…読んでくれ」

 今の俺の立場は世界を救った英雄だ。つまり俺宛にくる手紙というのは国のお偉いさんや貴族からの重要な事しか書かれていない。

 堅苦しい気が滅入るような内容に決まっている。

「かしこまりました…『よっ!元気ぃ?オレめっちゃげん…』」


「ちょっと待てぇ!!」


 何?これドッキリ?だったらそうとう悪趣味だぞ。

 トルテが普段の口調からは想像できないような軽快さで読まれたその書き出しに飲みかけの紅茶を吹き出してしまった。

 優雅さの欠片も無い勇者である。

「どうかなされましたか?」

 普段の口調に戻ったトルテが背中をさすってくれたので少し落ち着いた。

「あぁ、えっと…差出人は一体誰だ?」

 そう聞くとトルテはニヤリと唇の端を吊り上げた。

 何の笑いだよ?


「クリス様からです」


 なるほど、あの成金貴族か、一年前にミッドガルズの東にある国のウォルトーのパーティに招待された時にウォルトーでの一番の技術士として紹介された今では齢十五歳の少年のことを思い出す。

 あの堅苦しい立食パーティを発表前の自社の機械で盛り上げてくれたんだよな。

「久しぶりだな、何の用だろう?」

 続きを催促しようとトルテの方を向くと、さっきまで笑っていたトルテの顔が青ざめていた。

「そんな……まさか………」

 普段は全く見せないような顔でトルテは狼狽えるようにぶつぶつと呟いている。

「トルテ、早く続きを読め」

 こんなトルテの様子はこの三年間で一度も見たことが無かった。

「勇者様、そのような余裕はありません、どうやら優雅な生活もここまでのようです」

 はぁ?何言ってんだ?

「トルテ、説明しろ!!」

 なにやら落ち着かない様子であたふたしているトルテに怒鳴る。こんなの初めてだ。


「ですから勇者様…………」





 ッバァァァァァァァァァァァァァァァァァン





 トルテの言葉は突然の爆発音によりかき消された。


「……もうですか………」


 何が起こったんだ?今……


「どういうことだ?何が………」

 今の爆発音の大きさと衝撃からこの屋敷のどこかが爆破された事は明白だった。


「王が、勇者様を………もう用済みだと判断し、それどころか国に害をもたらすとして………事故に見せかけて殺そうと………」


「もういい、分かった」


 なるほどな、政治のために勇者が邪魔だと………あの野心家の王様が考えそうな事だ。恐らく国民からの支持が自分ではなく俺のほうに向いていて、今まではその事に不都合が無かったが、何か新しい事を始めるために俺の存在が邪魔になったのだろう。勇者が死ねば国民は悲しみ、残された王様にすがる。そうなれば後は王様の独壇場だ。


 だけど………穴がある。


「俺の魔法を舐めるなよ」


 embody


 呪文を唱えると俺を中心に風の渦が発生して”屋敷を破壊した”屋敷があった周囲には大量の火薬と燃料があり、火が放たれていた。

 ………どんな事故に見せかけようとしたんだよ………計画した奴の顔が見たいな。

 とはいえ、俺の屋敷は周囲が王家に囲まれているので証拠隠滅など簡単なのだろうが……詰めが甘い。いや殺そうとする意志が感じない。魔王を倒した俺を何だと思ってるんだ?


「勇者様?どうするおつもりですか?」


 トルテが不安げに俺に聞く、そして考えている二つの事を提案した。その内容は。



「トルテ……お前に選んで欲しい、この国と戦争するか、それともこの国から逃げるか」



 もちろん戦争する気はないけれど、俺を殺そうと屋敷に火を放った事は腹が立つので言うだけ言ってみる、トルテが戦争しようなどと言う訳が無いから。

「よろしいのですか?私が決めてしまっても………」

「あぁ、どちらにしてもお前には俺についてきてもらうけどな」

 こんな有能な使用人は他にいない、それに……


「お前も、殺されたくは無いだろう?」


 その言葉で彼女は決心したようだった。



「戦争しましょう」



 俺はずっこけた。


「何でだよ!!」


「私が決めていいって言ったじゃん!!」


 子供か!!そして雇い主に対してどういう言い方だ!


「という冗談はおいて置きまして、早速準備いたしましょうか」

 と、いきなり普段の口調に戻ったトルテは屋敷の残骸から何やら物色を始めた。

「何の準備だ?」

 分かっているけど、とりあえず聞いてみる。


「決まってます、二人の愛の逃避行の準備です」


「言ってろ……」


 こうして数分後には荷物がまとまり、ミッドガルズから離れた。


 その際に王家直属の親衛騎士団が何度か襲い掛かってきたが軽くあしらっておいた。もちろん殺さずに。

 城下町を通った際には誰にも注目される事無く、通り過ぎる事が出来た。実は国民の九割以上が出不精の俺の顔を知らなかったおかげだ。



「久しぶりの外というのはいいものだな、トルテ」

 ミッドガルズから少し離れた行商人用の舗装された道を魔法で具現化させた馬車に乗り違う町を目指す。

「勇者様、それではまるで、長い間、幽閉されていた囚人のようですよ?」

「似たようなもんさ、あの生活も……」

 お前がいなかったらな……

「はい?何か呟かれたでしょうか?」

 呟いてねぇよ思っただけだぞ?

「何も言ってねぇよ……それより、最寄の町はどんな町だ?」

 少し残念そうな顔をしながらトルテは答える。

 何を期待してたのやら

「学生の町、ハイデルベルクです」

 学生の町……か、思えば俺は学校というものに行ったことが無い。




 「よし、とりあえずはその町を目指すか」




 こうして、終わりの見えない勇者の旅が始まった。


勇者っていうとガオ○イガーを思い出すなぁ


まるで関係ないけど

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