四幕:雷霆
ゼカミカ族の装飾品を取り戻すべく、次の町へ移動する準備を整えに、あちらこちらの市場で買い物を済ませた。買ったものはもちろん、すべてあの鞄の中に入れる。この鞄にも、実はグンパジ文字が記されている。そのために、容量が無制限なのだ。
次の町へは、やはり廃墟を通っていくのがもっとも近いようだ。急がば回れという諺が、ゼカミカ族の言葉にもあったが、急ぐには近道を通るに限る。
そう思い、秋楓を連れ、再び廃墟へと入っていった。
歩き出して、早二時間。いい加減、同じような風景にも飽き、疲れてきた。ゴミで道が出来ているようなものなので、足場が不安定である。そのため、慎重に足場を選びつつ移動しなくてはならないので、よけいに体力を使ってしまう。
陽気に歩いていた秋楓も、疲れのため無口になり、足取りも重くなっている。そろそろ、休憩すべきだな。そう思い、適当な場所を探そうとあたりを見渡す。
ふと、目の端が鈍く光るものをとらえた。
それが何かを頭が認識するよりも早く、体が動いた。力強くがれきの山を蹴り、秋楓を抱きかかえ飛び去る。
すると、空気を裂く音と共に、何かが先ほどまで俺らがいたところへと飛んでいくのが見えた。音からして銃弾であろう。すぐさま弾の飛んできた方向を見る。しかし、すでにそこに人の気配はなく、何も見つけることができない。
「まずいな。秋楓、予想どおり敵襲だ」
「え〜、休みたかったのにー」
「仕方ないだろ……。ちょっと待ってろ」
そういって、不平をこぼす秋楓を残し、敵の行動の予測地点へと走った。
がれきの山の陰に身を潜め、こちらの同行をうかがおうとしていた青年の背後に舞い降り、腰に差していた刀を抜いて、青年ののど仏に刃先を当てた。確実に捕らえた、と思ったが瞬きをした隙に回避されていた。
地に伏せ銃口をこちらに向けている青年に追い打ちをかけようと、刃を返して振り下ろす。しかし、すでに構えていた敵の方が速く、銃弾の雨がこれでもかと言うほど、放たれた。何発かかすりつつも大半をはじき落とし、下から斬り上げる。今度こそしとめたと思ったが、苦し紛れに防御しようとした銃身にはじかれ、愛刀が遠くとばされてしまった。
とばされた刀を取りに行かせてもらえるほど敵さんは優しくないようだ。こちらの武器がないことを好機と見たのか、近距離なのにもかかわらず乱射してきた。距離がないため、当然ほとんどの弾を躰で受け止めてしまった。
体中に激痛が走るが、それにかまっている暇はない。痛覚を一時的に遮断し、気を集中させる。
すると、両手の人差し指にはめた指輪の文字の部分が赤く光り出した。秋楓曰く『雷神の瞳』という指輪らしい。その名のとおり、雷属性の指輪ということだ。
赤く光る指輪に気がつき、あわてて青年がその場から離れようとする。しかし時すでに遅く、古代魔術の構築が完了した。それと同時に手を振り上げ青く光る指にさらに気を集中させる。
「解放」
静かに唱えると、指輪から青い光が放たれ、その光が全身を包み込むと同時に、躰中から青い電撃がほとばしり始めた。
青き稲妻を身にまとったまま、青年の懐に潜り込み、鳩尾を掌で強く打った。青年は電撃と衝撃により、断末魔をあげるまもなく吹き飛び、地に着いたときにはすでに炭化してしまっていた。
さてっと、小さくつぶやき、先ほどの場所へ戻って行く。しかし、そこには秋楓の姿がない。不思議に思い、当たりを見渡すが姿どころが移動した痕跡すらない。
どうしたのだろう、と思い眼で引き続き探していると、割と近くで轟音と共に火柱が天高く上がっているのが見えた。どうやら、秋楓が『炎の道標』を発動したようだ。しかし、流石は魔導師。初めての発動であれほどの威力を誇るのなら、熟練した後はどのくらいになるのか……。
何はともあれ秋楓が心配なので、煙がくすぶっている方向へと駆け足で行った。




