二幕:疾風
捨てられたゴミの山のわきを通り抜け、薄暗い裏通りへ入った。裏通りで耳を澄ますと微かに話し声のようなものが聞こえる。腰に差した刀に左手を添え、警戒しつつ声のする方へゆっくりと歩いていく。地面をおおってるゴミにつまずいたり、音を立てたりしないように慎重に。そのまま崩壊した高層ビルの横を曲がると人の姿を確認できた。ゆっくり物陰に隠れ、人影を観察する。
十メートルほど先によく肥えた中年の男と質素な服で身を包んだ十代ぐらいの若い女性が会話しているのが見えた。容姿から若い女性は廃墟の者、男は大都市の者と言うのが分かった。
様子から見て、男はどうやら若い女性を買おうとしているようだ。しかし、若い女性にはその気がないのか取引は難航を示しているようだ。次第に男の方がイライラとし始め、口調が激しくなってきた。そんな男をきっぱりと断り、移動しようとした若い女性の手首を男がつかんで無理矢理押さえ込んでその上に乗り、勝ち誇ったような胸くそ悪い声で笑い始めた。流石にこのままでは若い女性が可哀想だ。そう思い、左手を刀に添えたまま一気に跳躍する。そして若い女性の服に手をかけた男のすぐ近くに着地し、着地と同時に残像が確認できるほどの速さで、空中で抜いた刀を横に薙いだ。骨を貫通する嫌な感触があったが無視し、刀を振り抜いた。すると頭を失った男は血の噴水を吹き上げながら、力無くその場に倒れ込んだ。血降りをし、刀を鞘に納めた。そして男の亡骸を蹴り飛ばすと、若い女性を助け起こした。
少々呆然とはしているが特に目立つケガはないようだ。だが、やはり廃墟の者だな。異常にやせ細っている。まぁそれは良いとして先にアレを盗るか……。
思考を終了させて男の亡骸の方へ近付き、男のふところを探る。暫く探っていると、手に硬いものが当たった。ゆっくり、慎重に取り出すと、それは小さな銀色の指輪であった。複雑でどの言語にも属さない言葉が指輪中に刻まれている。
戦利品の指輪をゆっくりと自分の左人差し指にはめる。右人差し指にも同じような指輪をはめている。ようやくそろったか。
ふと、女性を見ると、何かに取り憑かれたようにじっとこちらを見つめている瞳と視線が交わった。眼があっても視線をそらすわけでもなく、じっとこちらを見つめている。
何となく視線をそらし辛いのでそのままにしていると、女性がその口を開けた。
「何か食べ物持ってない?」
一瞬、何を言われたか分からなかったが、意味をとらえ、ベルトに付けた小さい鞄を探る。しかし、あったのは小さな飴玉一つだけ。これだけをあげても腹の足しにもならないだろう。ゆっくりと財布を取り出し、中身を確認した。




