ああ、愛しき日常よ
ああ愛しき日常よ
ダグラス侯爵は瞳を閉じてため息をついた。
部下からクラウスの姿を確認したと聞いた時、最愛の娘ーーコーネリアに会えるかと胸が踊った。
しかし、そのコーネリアが持っていたはずの継承の指輪を持ってきたオスカーはいった。
ーーーコーネリアは亡くなっていた、と。
そしてクラウスに指輪のことを話さず、封印していたこと、そのクラウスも継承をあっさりと手放したこと…
次期侯爵はオスカーに決まった。
自分たちが続けてきたルールだ。従う他ない。
だが釈然としない。
「わしは…どこで間違えた…」
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
クラウスは超絶不機嫌だった。
目の前にいるのは愛しのロッタ…と、
「さすがにパニエはないだろう?」
「あら、サフィーは元が可愛いからなんでも似合
うわよ?」
そのロッタに注文をつけている……オスカー。
嫌な予感は的中していた。
オスカーはロッタを気に入ったらしく、最近はサフィーの服を作ってくれと毎日のようにロッタの店に来ている。
なんで自分にグーパンした人間に惚れたのかは不明だ。
テーブルの上ではサフィーが虚無な目をして直立不動だ。
「嫌なら嫌って言った方がいいよ」
と、いつもの出窓に腰をかけてアリス。
「……主人の命令だ」
とサフィー。
「クラウスも頑張らないと、横取りされてしまいますわよ」とカナデはクラウスをつっついた。
「あら、クラウスにカナデ、来てたのね?」
視界に彼らを捉え、ロッタが小さく手を振った。
クラウスはオスカーを押し除け、彼女のテーブルに持ってきた包みを置く。
「こんにちは、ロッタ!君にプレゼントだ」
包みの中にはフリル襟のパフスリーブのブラウス。その下にはスカートも見える。
「一着って約束じゃあ…」
ロッタは半眼でクラウスを見た。彼は気にしない。
「この間のワンピースは『誰かさん』のせいで僕がしっかり見る前に汚れてしまったし…」
誰かさんだけやたらと強調した。
オスカーがギロリと彼を睨むが、クラウスは無視している。
「だから新作」
「ふ、さすがは従兄弟、センスは褒めてやる。だが、所詮は庶民。俺ならもっと良いドレスを送ってやるぞ?」
「いや、両方いらないし」
ロッタは即断る。
「そうだ!ドレスだって僕は作れる!」
「俺の方が良い素材で作らせることができる!」
張り合う従兄弟同士。
ロッタはため息をついて、サフィーのコーデに戻った。
「オスカーがすまない」
虚無な目をしたままサフィー。
「サフィーは悪くないよ」とロッタは撫でた。
「ところで…」とテーブルに半身乗せてカナデ。
「お聞きになりましたの?昔の約束の件」
あー、それねー、と彼女は言葉を濁す。
最近になってようやく思い出した…思い出してしまったのだ。
幼いあの日の約束を。
「大きくなったら僕のお嫁さんになってくれる?」
まだ幼かったクラウスが花を一輪、積み木で遊んでいた小さなロッタに差し出していった。
「お嫁さん?」
幼いロッタは意味がわからない。
クラウスはうーんと…と考え、
「僕だけのお姫様」と言葉を変えた。
「お姫様なる!」
ドールテイラーをしていた母の影響もあり、当時からレースやリボンなどが好きだったロッタは一も二もなくうなづいた。
「約束!」
クラウスが小指を差し出す。
指切りをしたあと、彼は言った。
「僕が可愛いものいっぱいで飾ってあげるから」
クラウス9歳、ロッタ3歳の頃の話である。
思い出せただけでも奇跡かもしれない。
「あんなの無効でしょ?」
ロッタが言うと、
「でもコーネリアは信じたから、僕をロッタに譲った」
といつのまにか出窓から降りてきたアリス。
アリスの中には継承の指輪があった。
ロッタとクラウスが離れない前提でコーネリアは考えていたらしい。
「親公認というわけですわね」とカナデ。
「聞いたかい、オスカー。つまり僕とロッタは婚約者ということだ」
「普通に無効だろ!」
怒りのオスカー。
「おい、ロッタ!俺とともにこい!立派なウェディングドレスを用意してやる!」
そう言ってロッタの腕を掴んだ。
「ロッタ!僕と一緒にウェディングドレスを作ろう!一針一針2人で!」
反対側の腕を掴んでクラウス。
「うるさーい!」
今日もロッタの叫びが響き渡っていた。
一応、第一部おしまいです。
気が向いたら、第二部書くかもです。




