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いつかまた会えたならば  作者: 旅人


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旅人の誕生

僕は輪廻の循環を通り、

とある村の幸せな家庭に生まれた。

村の外れ、穏やかな谷間に建つ小さな家。

朝、父は畑を耕し、土の匂いをまとって帰ってくる。

「今日の収穫は上々だぞ」って笑って、僕の頭をくしゃくしゃに撫でる。

母は台所でパンを焼き、柔らかな笑顔で僕を抱き上げてくれる。

「ほら、熱いうちに食べなさい」って、ミルクの入った木の器を渡す。

兄はいつも通り、木の枝で小さな弓を作って、

「一緒に兎を射てみよう」って誘う。

生まれた日の夜、家族みんながろうそくを灯し、

「神の恵みを」って祈りを捧げてくれた。

母の膝の上で、温かいミルクの匂いに包まれながら、

僕は初めての「家族」を感じた。

朝は父の畑で土をいじり、

昼は兄と森の端で遊ぶ。

兄が作った弓で、木の実を狙って射る。

「いいぞ、弟! 次は本物の兎だ」って兄が笑う。

夕暮れ、教会の鐘が鳴る頃、みんなで手を繋いで家に帰る。

母のスープを囲み、父が村の話をし、

兄が僕の肩を叩く。

そんな日常が、僕のすべてだった。

神父様の説教も、村人たちの笑顔も、

すべてが優しく、温かく、永遠に続くものだと思っていた。

兄が「弟は強いな」って頭を撫でてくれる夜、

僕は夢の中で、懐かしい森を見た。

でも、それはただの夢だと思っていた。

あの日が来るまでは。

僕はいつも通り、

教会へ行った。

石畳の道を歩き、扉を開けると、

鐘の音が遠く響く中、

空気が重かった。

黒い存在が沢山いた。

影のように揺らぐ、

冷たい闇の塊。

それは祭壇の周りを囲み、

息を潜めていた。

神父様の声が響く中、

僕の視界にだけ、彼らは浮かび上がった。

僕はそれに気づいた瞬間、

彼らは襲ってきた。

爪が空を切り、

冷たい息が首筋を撫でる。

「助けて!」

僕は叫んだ。

神父様は祈りを続け、

村人たちは目を逸らした。

親は駆けつけ、

僕を抱き上げて言った。

「天使様だよ。怖くないよ」

天使様?

僕の目には、

黒い牙と赤い瞳しか見えなかった。

僕は教会から逃げたんだ。

足がもつれ、

息が上がる。

背後から、黒い影が追いかけてくる。

村の出口で、目撃した人々が僕を指さした。

「悪魔の子だ」

「教会を穢した怪物」

石が飛んできた。

僕は家に駆け込み、

父と母にすがった。

父は顔を歪め、

母は涙を浮かべて言った。

「神父様の元へ行くぞ」

その言葉が、

僕の中で何かをプツリと切れた。

世界が、白黒に変わった。

これまで優しかった父の笑顔が、

突然、仮面のように見えた。

母の温かな手が、

冷たい鎖のように感じた。

兄の優しい声が、

遠いエコーのように響く。

すべてが、偽りの色を失い、

灰色のシステムの嘘に塗り潰されていく。

家族の愛は、天使様の名の下に、

村の掟の名の下に、

神父様の言葉の名の下に、

ただの「献身罪」の鎖だった。

僕は、愛を信じていたのに。

僕は、プツリと切れたんだ。

これまで信じてきたすべてが、

偽りの檻のように感じた。

僕は家から飛び出した。

森に入って、

一人で泣いていた。

木々の間から、

風が優しく吹き抜ける。

葉ずれの音が、

僕の嗚咽を優しく包む。

そこで、何故か懐かしいと感じたんだ。

身体が覚えていた。

弓の作り方、

罠の張り方、

獲物の匂いの嗅ぎ分け方。

知識が、

流れ落ちるように分かるんだ。

でも、森は優しくなかった。

最初の夜、寒さが骨まで染みた。

空腹が胃を抉り、

木の根元で体を丸めても、震えが止まらない。

川の水は冷たく、喉を通るたびに体が硬直した。

兎の影を追う弓は、最初は空を切った。

獲物は逃げ、

木の実だけでは飢えをしのげない。

「ここで生き残れるのか?」

僕は自分に問いかけた。

システムの外で、

偽りの掟のない世界で、

ただの「あるがまま」で生きるなんて、

こんなに厳しいものだったのか。

それでも、身体は覚えていた。

翌朝、弓の弦を張り直し、

罠を仕掛け、

風向きを読んで獲物を待つ。

知識が、冷たい朝露のように、

少しずつ、流れ込んでくる。

それは、懐かしい記憶の欠片。

前世の、または輪廻の果ての、

失われた「あるがまま」の感覚。

飢えと寒さの中で、

僕はそれにすがった。

生き残るために。

僕は森の中で生活をすることにした。

木の実を集め、

川で魚を捕り、

弓で兎を射る。

朝、陽光が葉を透かして差し込む。

昼、鳥のさえずりに耳を傾け、

夜、星空の下で火を起こす。

誰もいない森は、

僕のすべてだった。

何もかもが幸せで、

楽しみに満ち溢れたんだ。

弓で射た兎の肉を焼き、

川の水で喉を潤す。

木の上で眠れば、

夢の中で父の笑顔を見ることもあった。

でも、それは懐かしい記憶で、

もう過去のこと。

僕は充足した生活に満足していた。

そんな時、

僕の名前を呼ぶ声がした。

僕は父と母に会えると思い、

声のする方へ走った。

でも、

そこにいたのは、

縄や鍬を持った村人たちだった。

「悪魔の子を探せ!」

彼らの叫びが森に響く。

僕は遠くから、

父と母の顔を見た。

二人は炎に焼かれて死んでいた。

家は燃え、

煙が空を覆う。

父の畑は灰になり、

母の台所は崩れ落ちていた。

僕は急いで逃げようとしたが、

無理だった。

罠にかかり、

足が絡まる。

村人たちが僕を取り囲む。

石が飛んできた。

一つ、二つ、三つ。

痛みが体を貫く。

血が流れ、

視界がぼやける。

すると、兄が現れた。

僕は助けてくれると信じた。

兄はいつも優しかったから。

一緒に弓を射て、

一緒に魚を捕まえて、

「弟は強いな」って頭を撫でてくれたから。

でも兄は、

僕を見て静かに言った。

「お前のせいで、父と母は死んだ」

僕は息を呑んだ。

「許せ、弟よ」

兄の声は穏やかだった。

でもその手には斧が握られていた。

「俺たちの為に、死ね」

斧が振り下ろされた。

刃が光を反射して兄の涙を照らす。

痛みは一瞬だった。

世界が暗くなる。

最後に見たのは、

兄の涙に濡れた顔。

僕は兄の持つ斧によって殺された。

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