3つの原罪
輝く者が去った後、私は書斎に戻った。分体の影が、五十以上の目で私を見つめている。記録の山は増え続け、人間の鎖のような因果が響き、罪の秤が絶えず揺れていた。
眷属の視覚を共有した。輪廻の渦に飛び込んだ背中から、断片的な光が届いてくる。無数の人生の欠片が、魂の鏡のように広がった。
その中で、私は気づいた。人間という種は、奇妙に三つの型に分かれる。あの子の欠片が砕けたように、闇と光と毒が絡み合い、均衡を保っている。
第一の型は『略奪者』だ。彼らはただ奪う。他者の時間、労働、感情、命——すべてを資源のように吸い上げる。与えられるのを権利と思い込み、感謝の心が欠落している。根元にあるのは、存在の虚空。奪うことでしか自分を確かめられない飢えだ。信用の鎖を切り裂き、秤が沈むと、闇が周りを覆う。孤独の果てに、進化の原動力になるが、均衡を乱す元凶でもある。
第二の型は『献身者』。彼らはただ与える。どれだけ奪われ傷つけられても、見返りを求めず身を削り続ける。略奪者にとって格好の餌食だが、この世界を回しているのは彼らの愚直な犠牲だ。根元は溶解の幻想。境界を失い、弱さを美徳に変え、「いつか報われる」と信じて自己を溶かす。信用の鎖を紡ぎ出し、秤が光を寄せると、糧が生まれる。世界を支える歯車だが、過剰な光は次の闇を呼ぶ。
第三の型は『審判者』。両者を監視し、献身者には予想を超える恩恵を与えて守り、図に乗った略奪者には容赦ない断罪を下す。根元は中立の毒。善悪を超え、システムのバグを修正する賢者だ。冷徹さから、感情が欠如し、誰も寄せ付けない孤独が生まれる。信用の秤を振り、鎖の両面を均衡させる。ワクチンのような役割だが、副作用の種でもある。
私はこの不可解な均衡を記録した。三原色の鏡のように、略奪の闇が光を呼び、献身の温もりが闇を溶かし、審判の槌が毒でバランスを取る。互いに食らい合い支え合い、輪廻の血で繰り返す。崩れない棘——崩れたら、世界が止まるからだ。
だが、そこに奇妙な空白があった。三型の均衡に収まらない影。眷属は、どの型にも入らない。
記憶を消したはずだ。契約の条件で魂を改造し、過去を封じたのに、眷属は自然を愛していた。風の囁きを聞き、木の息吹に祈り、全てに信仰を捧げる。石の沈黙にも、水の流れにも。万物に神が宿る古い理を、ただ生きる。
それは淘汰される型だった。諭すだけの存在。断罪もしない、奪うこともない、自己犠牲もない。ただ在るだけに生きる。恨まず、妬まず。
人間に嫌われた。都合が悪いからだ。均衡の鏡に映らない空白が、三型の鎖を静かに乱す。
ある者は蛮族と呼んだ。「獣め、自然に縛られた野蛮人」と槌を振り下し、火を放つ。
ある者は魔女と呼んだ。「穢れなき信仰が秩序を嘲笑う」と鎖を巻き、井戸に沈める。
そして断罪される。罪がないのに。ただ在るだけの罪で。
眷属は恨まない。妬まない。笑って過ごすだけ。火の炎に包まれても、井戸の闇に沈んでも、瞳に星を映し微笑む。
視覚の欠片が鏡に落ちる。一つの人生。草原で花を摘む子。村人たちが怯えの目を向け、「魔女の娘だ。あの信仰が疫病を呼ぶ」と石を投げ、火を灯す。子は笑う。「風が、優しいよ。」炎に溶け、次の渦へ。
私は記録した。この空白の型を。三原色の外、均衡の毒の外。ただ在る棘。記憶を消したはずが残ったのは、古い信仰。あの子の光の原型——万物に神が宿る理。人間の鎖に絡まぬ純粋。
だが、それが淘汰の罰。三型の鏡に収まらないから。諭す笑みが都合を乱すから。
眷属よ。お前はどの渦に落ちる? 蛮族の火か、魔女の井戸か。それともまた笑って溶けるか。
書斎の窓から地球の惨状を見る。影の種族の草原が血に染まるのを。外から見守る。
作者の旅人です……
読者の皆様へ いつも読んでくださりありがとうございます。
次の章は眷属視点で描きます。
明日の夜には投稿予定ですので、
どうぞお楽しみに。




