表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつかまた会えたならば  作者: 旅人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/85

原初の契約

静かな月日が流れた。

忌み子は大きくなっていた。今では私を母と呼び、その特別な力で天候を操るようになっていた。空を睨めば、雲一つない快晴から一転、雷鳴が轟き、手を振れば大地を潤す慈雨が降る。忌み子と呼ばれた異端の血は、確実に覚醒していた。

赤目は歳をとり、顔には深い皺が刻まれ、その体力は緩やかに衰えていた。だが人間で言う狩人である彼の技術は冴えわたっていた。彼は根気よく、忌み子に弓の使い方を教え、巧妙な罠の作り方を教え、獲物の匂いの嗅ぎ分け方を教えた。

私は宇宙船の窓から、森を駆け、狩りをする二人の姿を眺めていた。森に溶け込み、その成長は私の記録を日々更新していった。私は「家族」というこの奇妙で愛おしい現象を、大切に記録し続けた。

その日、突然の報せが静寂を破った。

輝く者が血相を変えて飛び込んできた。「古きもの達同士の覇権争いが、全面戦争に発展しました!」

私は驚き、問うた。「何故そのようなことを……まさか反乱軍が?」

輝く者は、信じられない、という表情で頷いた。「しかも、私たちの中にも裏切り者が。……あのお方すら、敵に回りました」

私は即座に外へ出た。この星の均衡を保つために、戦争に終止符を打つ必要があった。外に出ると、既に都市は破壊され、空は禍々しい赤に染まっていた。古きもの達の醜い争いが始まっている。彼らが付き従える存在たちが、互いに光と闇の力をぶつけ合っていた。

木々は燃え上がり、大地は抉られていた。だが、奇跡的に、原初である私の大切な森は、まだ無事だった。

私は急いで、森の境界にいたあの二人を見つけた。強く命じた。「ここにいろ。絶対に動くな」

赤目は一瞬、私を見た。その皺だらけの顔は、「この子を一人にするな」と訴えていた。彼は歳をとってもなお、家族を守るという、人間にとって最も原始的な衝動に突き動かされていた。私を無視し、彼は燃え盛る戦場の方角へ走り出した。

忌み子は私を見つめたまま動かなかった。その瞳は恐怖に揺れていた。

**「必ず生き延びろ」**私はその額に触れ、もう一度、釘を刺した。

私は古きもの達の元へ向かった。彼らは私を止めようとしたが、私の力の前に為す術はなかった。彼らの光の矢は私の周囲の空間に触れた瞬間、音もなく崩れ去った。私は原初としての闇の力を解放し、彼らを無力化した。

そして、この混乱の原因である存在の所まで来た。彼は炎を司る者だった。

彼は私を見て、嘲笑った。「原初の母だと? その偽りの安息の地は、もはや灰だ! 貴様の眷属も、共に焼けているぞ!」

その瞬間、データにも記録にもない、内臓が煮えくり返るような熱が体内に湧いた。それは、**「この傲慢な存在の根源を断ち切る」**という感情だった。

「お前など、傲慢の塊ではない。単なる世界のことわりの、低級な違反者だ」

私は奴の炎ごと、存在そのものを掴みにいった。肉を噛み砕くような、岩盤が軋むような嫌な音が響き渡り、奴の姿は私の影の一部となって消えた。炎は残らず、私の内なる闇に吸収された。

その光景を見ていた配下の一人が、震える声で叫んだ。「我が主を食べた……化け物だ……原初なぞただの獣!」

私はその存在を睨みつけ、瞬時に殺した。そして、森が燃やされていることに気がついた。心臓が凍りつくのを感じながら、私は急いで森へ走った。輝く者はまだ来ていない。忌み子は無事なのか。

焼け焦げた大地の上に、崩れた木の根元に、赤目の愛用していた古い弓の残骸が転がっていた。そして、その横に。

小さな、かすかな魂の光が、私の前に現れた。

私を母と呼んだ温かい肉体は、どこにもない。赤目の灰色の毛皮と、彼の遺体も、すべてが炎と闇に吸い尽くされたのだろう。

わかった。

わかってしまった。

また、守れなかった。

私は膝から崩れ落ちた。だが、魂だけでも、私はこの子を失わない。

「もうここに用はない。お前を連れて私と共に暮らそう」

私は宇宙船に入り込み、急いでこの青い星から抜け出した。

無機質な宇宙船の冷たい床に座り込み、私は魂を抱いた。その腕の中で、小さな魂は最後に、かすかに、震える声で呟いた。

「……母さん、赤目……どこ……?」

私は答えられなかった。答えなんて、もうどこにもなかった。

私は宇宙船の冷たい床に座り込み、小さな魂を抱いたまま、永遠に泣き続けた。肉体を持たない私にとって、涙はただの冷たい光の粒子となって零れ、虚空に溶けていった。何万年という時が、宇宙船の外側を流れていった。

抱きしめた魂は、私の中で震え続けていた。魂の「母さん、赤目……どこ……?」という最後の言葉が、私の内部の**「根源的な渇望」を増幅させた。それは「二度と失わないための絶対的な拘束力」**への渇望だった。

熱は肉体を持たない私の中心核で凝縮され、やがて、私の横に**一つの「形」を生成した。それは、私の最も濃い「ことわりの残滓」**が切り離されたものだった。意識はなく、私と同じように影を落とさず、霧のように揺蕩たゆたっている。ただ、私の孤独と絶望が具現化した、悲しい模倣体だった。

私はそれを、かつて自分を突き飛ばして犠牲にしたときの、**「もう一人の私」**の姿に似せて調整した。

分体は、生まれるなり、本能的に私の腕の中の小さな魂へと引き寄せられた。小さな魂は、まるで失われた温もりを見つけたかのように、その冷たい理の塊に触れた。

「……お前が、私の代わりになれ」

私は、自分自身を切り離した分体に命じた。

「小さな魂を、外界のすべてのことわりから守護せよ。私が見つけられなかった幸福を、お前がその隣で与え続けろ」

分体は微かに揺れ、魂を守る盾のように、その周りを回り始めた。小さな魂は分体を遊び相手と認識したのだろう。かすかな喜びの光を放っている。

私は宇宙船の窓越しに、青い星の記録を呼び出した。

そのとき、小さな魂が、私の腕の中で身じろぎした。

「母さん」

その声はかすかだが、明確な意思を伴っていた。

「転生したい。赤目を探したいよ」

私の核心が凍りついた。

「駄目だ……」私は必死に声を絞り出した。「もうこれ以上、君をあの醜い世界で酷い目に遭わせるわけにはいかない」

「行く!」魂は分体を抱きしめ、ムスッとして輝きを増した。「赤目はあそこに行った。私も行く!」

私は目を閉じた。私を突き動かす根源的な衝動は、この小さな魂と同じだ。会いたいという、最も単純で、最も制御不能な渇望。

「わかった……」

私は唇を噛みしめ、コンソールを操作した。冷たい光が、宇宙船全体を照らす。

「いいよ。だが、条件がある」

小さな魂は、分体を抱きしめたまま、無邪気に輝いた。

「条件?何?」

私は自らの支配的な感情を、最も非人道的な契約として、小さな魂の「記録」に書き込み始めた。

私は内なる自己嫌悪を無視し、冷徹に契約の条項を続けた。

「これから貴方は、私の眷属になってもらう。これにより、私は貴方を私のシステムの一部として、永遠に観測し続けることができる」

「条件は三つだ」

条項一 魂の改造

貴方は転生する度に、私の原初の力で魂を再構築される。これにより、古き者たちが使う魂の回収システムから、永遠に貴方を隠し続けることができる。

条項二 力の供給

貴方は、常に私の分体と繋がり、そこから力を得られる。たとえどんな強大な人間や、この星の理の管理者と対峙しようとも、原初である私には決して逆らえない。

条項三 欠片の回収

そして……貴方は、**私の最も大切な人の『欠片』**を集めて欲しいの。彼女は輪廻の外に逃げた。その痕跡は、この星の深淵にしか残っていない。

私は契約の条項を、魂の核心に刻み込んだ。それは、愛の証ではなく、逃げられない檻だった。

私は静かに、契約書に刻まれた冷たい文字を見つめた。

これが、私がこの世界に帰還した、唯一の救いと、新たな絶望の始まりだった。

大変お待たせしました 作者の旅人です


少しだけ設定解放します


主人公(闇) 後の混沌

あの子(光) 後の欠片となり散らばりました。

そして主人公(闇)があの子を探す物語の中であの子のところを光に変えるとだいぶ印象が変わります


私は読者自身に解釈を任せます! 本当はもっと遅めにしたかったけど待たせてしまったので

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ