旅の支度
私は旅の支度をしていると、盲目が現れた。
「お久しぶりでございます……原初様。私をほったらかしにされ、えらい目に遭いましたよ」
丁寧な言葉遣い、穏やかな声──元初代熾天使の気品が、変わらず漂っている。
私はあざけるような笑みで、
「いやー、あまりにも群がってたからつい地面に埋めたよ」
盲目は苦笑しながらも、深く頭を下げた。
「いつもおっしゃいますね。やりすぎでございます」
私は冗談で、
「君は容姿端麗なんだから、女神娶れば?」
盲目が少し考え込み、丁寧に答える。
「ありかもしれませんね……誰か選ぶか、考えておきます」
まさかの本気にしてしまった。私は慌てる…
「待て待て、冗談だよ」
盲目は首を横に振りながら、静かに微笑んだ。
「実は魔界でも、女神と結婚している悪魔もおります」
私は長らく忘れていた、悪の魔術師も息子がいたことを思い出す。
「そうか……お主の子なら、将来大物になるだろうな」
盲目は私の旅路の準備を手伝いながら、丁寧に語った。
「いえ、大物にはなれませんよ……大物になるには血筋や家系から出ることはございません。
己の事を特別視をして、周りや神々の意思を体現しません。
普通から生まれるものです。それは神々からみれば、光る原石でございます」
私はその話を聞きながら頷く。
なぜならば、眷属や修復者の魂を入れる器は、そういう家系から生まれてこなかった。
「それはそうだな……うちの者たちはみな普通の家系から生まれている」
盲目は微笑み、穏やかに続けた。
「必ずしも有名にならなくてもよろしいのです。本当の強いものは、自らの力を見せびらかさない。戦わない、ひっそりと過ごすものでございます」
私は、盲目は堕天使と呼ばれていたとしても、このような事を言えるのは、長年の試練を課すものとして人間たちを見てきたからだ。その経験はきっと誰にも真似できないのだろう。
「君には本当に頭が上がらないな……どれほどの霊能者達を地獄に落としてきたのか」
盲目は笑いながらも、丁寧に頭を下げた。
「もう数えきれないほど落としてまいりましたよ。修復者と眷属は、すごいですよ。
彼らはまるで簡単のように終わらしていく。己の課された仕事さえもこなす。
貴方の配下は、粒ぞろいで試しがいがございます」
私はそれを聞きながらも、改めてあの子たちは異常なんだと思った。
「眷属は、あの堕落の王の子だからな」
盲目は私に小声で、大きな羽で覆い隠す。
「暴食の件についてはあまり話さない方がよろしいかと存じます」
私は理解して、
「分かった……今度私の書斎で話そう」
盲目は解放してもらい、丁寧に頭を下げた。
「では、一緒に行きましょうか。どの道、迷子になりそうでございますから」
私は盲目と一緒に旅に出た。というか…盲目と一緒に行けばよかった…だって私よりも先に行くし…
「置いてくつもりか!」
私は急いで追いかけた。




