薬師の家(眷属視点)
あの時は薬師のおかげで、パニックにならずに済んだ……。
僕は父と一緒に狩猟に出かけると、目の前にあの狼さんが先導するように歩いていた。まるで猟犬のように敏捷に動くけど、父は気づかない。
「おい! そっちに罠張っても意味ねえぞ、こっちに張れ!」
狼の声が心に響く。
僕は心の中で返事した。
「分かったから……ここに」
これでよし……。今では、心のパートナーと言うべき存在になりつつある。
「おい! そっち行ったら危ねえぞ」
僕は我に返り、辺りを見渡すと熊が通った痕跡を見つけた。
「どうして? 危険が分かるの?」
素朴に質問すると、狼は少し得意げに答えた。
「んっ? お前も覚えられるぞ。簡単だ。魂のオーラが違うんだよ。肉食と草食の輝きが違う」
うん……それは見える人限定だと思った。
「それって、見える人限定じゃん……」
狼はため息をついた。
「直感という、人間にも備わってるものがあるだろ。ふとした時『これやった方がいい』って感じるはずだ。人間はその直感を疑って悩んで、失敗するんだよ」
僕は困惑する。直感って、いつも狼さんが言うことなのか……。
「どういうこと? 狼さんは直感なの?」
狼は陽気な声で笑った。
「そう! 直感で行動してる! 理由なんて後でわかる。疑問に思っても、まず行動すればいい」
なんだこの陽気な狼は……ついていけないよ。でも、なんだか頼もしくて、温かい。
「とりあえず……お前は早く父の元へ行け」
森の中を慎重に進み、父との集合場所の山小屋に着くと、父が待っていた。
「罠を仕掛けたか?」
僕は頷きながら、軽食を食べる。
「うん……そういえば、熊が通ってる痕跡を見つけたよ」
父は微笑み、僕の頭を撫でた。
「だんだん覚えてきたな! さすが俺の子だ」
僕は嬉しくて、父に抱きついた。
心の中で、狼が皮肉っぽく呟く。
「いい親子関係だなー」
「一緒にいるのに? 不満なの?」
すると、狼が心の中で大暴れを始めた!
「俺だって甘やかされたい! 甘えたい! ■■様に褒められたい! 頭撫でてほしい!」
魂の奥で、穏やかな温かさと尖った欲求が混ざり、疼くような感覚が広がった。
僕は呆れながらも、家に帰宅して薬師の家へと急いだ。
「こんにちは! 約束の薬草を持ってきました」
薬師は喜んで受け取ってくれた。
彼の家は、中世の典型的な医療小屋のようだ。棚には乾燥したハーブや根っ子がびっしり並び、ガラスの瓶に詰められた薬液が並ぶ。空気にはラベンダーやミントの強い香りが漂い、壁には古い羊皮紙のチャートが張られ、四体液(血、粘液、黄胆汁、黒胆汁)のバランス図が描かれている。
薬師は、僕の体調を診る時、いつも脈を測り、舌の色や尿の様子をチェックする──薬師は古代のガレノス医学に基づいた方法で、体内の体液不均衡を探るんだ。時々、瀉血(血抜き)用のヒルやカップを用意するけど、僕にはまだ使っていない。
狼は、何故か子狼の姿になり、僕に甘える体制で寄り添ってくる。
赤ちゃんみたいで可愛い。毛並みもふわふわで、温かい。
「はぁ……幸せ」
僕は思わず呟いた。
薬師は苦笑しながら、とある本を取り出した。
「実は、占術療法の本を手に入れたんです。最先端の医療ですよ」
その本は、古い革装丁で、表紙に星の配置図が刻まれている。開くと、中には占星術の天体運行表と、体液バランスの対応表が満載だ。
占術と治療が密接に結びついていた。星の位置で病気の原因を診断し、治療のタイミングを決めるんだ。例えば、牡羊座の時期に頭の病気を治したり、水星の逆行時に薬を避けたり。夢占いや占い棒も、患者の症状を予知する手段として使われる。この本はありとあらゆる技術を細かに書かれているらしく、薬草の調合に星の影響を加味したレシピが詳細に記されている。
薬師は、僕の星座を占って体液の偏りを推測し、ハーブをブレンドする──例えば、黄胆汁過多の熱っぽさを抑えるために、月が蟹座にある日にミントの煎じ薬を作ったり。
僕は身を乗り出した。
「これから調べるんですか?」
薬師は頷いた。
「これで、さらに深く学べる。君の霊能力も、この占術療法で安定させるよ。例えば、星の配置で取り憑きを防ぐ護符を作ったり、夢占いで魂の不均衡を診断したり……」
そうして、僕は薬師の元で新しい勉強を始めることになった。
魂の奥で、狼が静かに満足げに息を吐くのがわかった。




