何億という時を過ごして
私は、盲目と共に彼らの住処である神社という場所に来ていた。
初めて見る景色に、私は思わず立ち止まった。
「なんだ……この赤いものは!」
入口の道にそびえ立つ、鮮やかな赤い門──鳥居と呼ばれるものらしい。私の世界にはない、鋭く切り立った形。まるで血の色のように鮮烈で、でもどこか神聖な気配を放っている。私は本能的に近づき、匂いを嗅いだ。木の香り、土の湿り気、そして微かな……祈りの残り香?
盲目は苦笑しながら、
「それは建物の一部ですよ、鳥居といいます。失礼になりますから、嗅がないでください」
私は渋々離れたが、心の中で驚きが渦巻いていた。私の世界では、神聖なものは光か闇か、プラズマの輝きか影の深淵だった。こんなに鮮やかな色で境界を区切るなんて……不思議だ。
さらに進むと、水の入った石の鉢──手水舎。鈴の音が響く賽銭箱、屋根が反り上がった建物。屋根の上に座り込む神が、黒い鳥を肩に乗せてこちらを見ている。
「屋根に神が気楽に座っている……私の世界では考えられない」
盲目は前に出て、丁寧に言った。
「太陽の女神にお会いしたいのですが……お時間いただけないでしょうか?」
屋根の神は微笑みながら、黒い鳥を飛ばした。
「伝達はした……この地図を渡そう。そこに行けばあの方がいる」
道中、私は周りの静かな調和に目を奪われていた。あの子の残骸が通り過ぎたような、懐かしい波動を感じながら。
ついに、その神社に辿り着いた。
ここは……本当に懐かしい。あの頃に似ている──二人で生きていた、遠い遠い頃に。
「ここは……懐かしい」
盲目は少しだけ浄化されていたせいか、影の部分が薄れていた。
「とてつもない浄化能力ですね」
すると、空気が変わった。
柔らかく、しかし圧倒的な輝きが辺りを包み込む。
現れたのは、長い黒髪を優雅に流し、白く清らかな衣を纏った女神だった。
頭には玉のような飾り、腰には鏡を思わせる円い宝玉。
その瞳は穏やかで深く、まるで朝日が昇る前の空のように静か。
でも、全身から放たれる光は強烈で、周囲の木々や石灯籠まで優しく照らし出している。
焼けるような熱ではなく、すべてを温かく包み込む──まさに太陽そのもののような存在。
「あら? 貴方たちが私に何の用でしょう?
それに……初対面なのに、なぜか懐かしい気がしますね」
その声は優しく、鈴のように澄んでいた。でも、どこか底知れぬ威厳が込められている。
私は気づく。あの子の欠片が強い……近づいて匂いを嗅ぎ、輝きを確かめる。
「匂いも……輝きも、あの子と同じだ! 太陽の女神よ……何か知ってるのか?」
太陽の女神は、私(小狼姿)を優しく撫でた。
その手は温かく、まるで母親が子をあやすように柔らかかった。
「可愛い子狼……あの方は、貴方を待っていますよ」
私は本来の姿に戻る。女神は変わらず微笑んでいた。
その表情に、慈悲と、少しの哀しみが混じっているように見えた。
「あの子を本当に知ってるのか……嘘ではないよな……」
盲目は、何故か休んでいてお茶を飲んでいる……。
太陽の女神は私に言った。
「あの方に会うためには、黄泉の国に行かなければなりません。
あそこであの方は封印されています。しかし、道のりは厳しいですよ」
私は、それを聞き、後には引けないと感じた。
もうここまで、何億という時が過ぎたというのに、探すことを諦めなかったからだ。
「少しだけお話がしたい……黄泉の国について聞かせて欲しい」
太陽の女神は、私を屋敷へ案内してくれた。
そこには大勢の神々がいる。もはやこれは共存なのだろうと、盲目はすでに席に座っていた。
「原初様……私も聞けるのは、なかなかにない経験ですよ」
私は頷きながら、太陽の女神は玉座に座り込み、話を始めた。
──あの子……ようやく、会えるのか。




