海の上で
私は眷属を連れて拠点へと急ぎ帰還した瞬間から、心に防御の壁を築き上げる決意を固めていた。あの出会いが、ただの偶然などではなく、宣戦布告の序曲であることを、骨の髄まで感じ取っていたからだ。私はまず、自身の分体たちを呼び集め、古い炎——いや、憎悪と怒りの権化として長年封じ込めてきた者たち——を基に、より凶悪で戦いに特化した新たな影を生み出した。彼らは単なる傀儡ではなく、知性を持ち、私に絶対の忠誠を誓う存在として目覚め、冷たい炎のような視線で私を見つめ返した。かつての戦場で失ったものを思い起こさせるような、残酷なまでの戦士たちだ。彼らの存在は、私の復讐の意志を体現し、神々なる敵を食らい尽くすための牙となるだろう。だが、そんな血塗れの渦中に、愛おしい眷属を巻き込むことなど、決して許せなかった。私は影のものの世界へと身を滑らせ、悪の魔術師の屋敷を目指して闇を駆け抜けた。到着したとき、彼の顔には驚愕と、かすかな予感のような影が浮かんでいた。
「どうしたんだ、そんなに息を乱して。まるで終末の使者みたいな顔だぞ。」
私は眷属を彼の前にそっと下ろし、言葉を紡ぎながらも、心の奥で渦巻く焦燥を抑え込んだ。
「戦争はもはや避けられぬ。あの神々と呼ばれる傲慢な連中と、正面から対峙するしかないんだ。眷属の面倒を見てくれ。報酬の要求など、どんなものでもすべて叶えよう 命に代えても。」
悪の魔術師は静かに頷き、眷属に優しい視線を向けながら、自身の過去を思わせるような溜息を漏らした。彼の目は、遠い天界の光をまだ失っていない。
「報酬なんかいらないさ。ただ、いつか……アンタに、天界に戻れるチャンスをくれよ。俺は堕ちたくて堕ちたわけじゃないんだ。運命の悪戯に翻弄されただけさ。いつかまた、純白の翼を取り戻せる日が来るなら、それで十分だ。」
私は振り返ることなく、屋敷の闇の扉を押し開きながら、約束の言葉を投げかけた。あの言葉が、彼の魂に小さな灯火を灯すことを祈りつつ。
「約束だ。その願いを、必ず叶えてみせる。堕ちた身の贖罪として、私が道を拓くよ。」
そして、私は決戦の場へと身を投じた。あやつ——あの神々の主——は、きっとそこで私を待ち受けているはずだ。空を裂くような風を切り裂き、影の翼を広げて海原へと降り立ったとき、私は息を呑んだ。決戦の舞台が、予想だにしなかった広大な海の上だったからだ。波は黒くうねり、まるで古の怨霊のように嘲笑うかのごとく、私の足元を舐め回していた。潮の香りと血の予感が混じり合い、運命の幕がゆっくりと開く音が、耳に響いた。




