話し合いの末
彼こそが、主と呼ばれる存在だった——創造の牢獄を築いた者、魂を封じる「箱」の元凶。
玉座の間に佇むその姿は、黄金の冠を戴き、虚空を纏ったローブが炎のように揺らめく。目は深淵の底から覗くような、底知れぬ野心を宿し、周囲の空気をねじ曲げるほどの威圧感。私は警戒を緩めない。私の魂の糸は、分体の数えきれない転生の記憶を紡ぎ、偽りの輝きなど見抜く。この男の創造など、ただの鎖。自由を嘲笑う檻だ。
そして彼は言った。声は雷鳴のように響き、玉座の間を震わせる。傲慢が、空気を重く淀ませる。
「どうだ? 余が作った世界は、原初の神よ 感想が聞きたい。唯一無二である余の世界を」
私は分かってしまった……あの箱の正体、いや元凶は、この傲慢な笑みの裏に潜む。だが、言葉を返す前に、胸の奥で古い炎が灯る。
「それは聞く相手を間違えてるのでは? 唯一無二だと? 無知無謀だろう……あの子の光に比べたら、お前は小さい」
私の言葉は、静かな棘のように刺さる。彼は平然を装いながらも、瞳の奥に怒りの閃光が走る。口元がわずかに引きつり、指先が虚空で震える。私は苛立ちを抑えきれず、続ける。魂の糸がきしむ音がする。
「何を面白いこと言うと思えば、私が神? そんなわけあるはずがない。もしや? 神々は私を神として認識しているのか? 心外だ……私は原初だけで良いのだ。ただの創造の欠片、輪廻の番人。それ以上でも以下でもない」
彼の顔が、みるみる赤く染まる。怒り心頭の彼は、耐えかねたように立ち上がる。玉座の周囲で、空気が渦を巻き、床に亀裂が走る。
「余の力を使えば、お主は無事に済まないぞ……。要件を言う。お前の管理する権限を頂く。お前など用済みだ。余を愚弄した事を今後悔するがいい」。
その瞬間、私は眷属にテレパシーを飛ばす。心の糸を通じて、瞬時に伝わる命令——「臨戦態勢。だが、殺すな。気絶で十分だ」。遠くで、眷属たちの気配が動き出す。私は彼に苦言を呈す。声に、抑えきれない悲しみが滲む。
「神だという割には、その心では神というものではないな。やはり傲慢の塊だ。何が秩序だ! 何が作った世界だ。私が生きていた頃の、あの子との幸せな世界など、この偽りの世界に似てるはずがないのだ!」。
言葉の端に、過去の断片が零れ落ちる。あの子の手が、私の指に絡まる感触。苦しみも何も無い世界 彼女の笑顔は、星のように純粋で、永遠を信じさせた。あの光が、私の原初を形作ったのに……この牢獄めいた創造に、どれだけの魂が飲み込まれたか。記憶の残響が、胸を締めつける。
彼は私に向かって雷と炎を投げつける。玉座の間が一瞬で灼熱の嵐に変わる。雷は紫の牙を剥き、虚空を裂きながら迫り、炎は赤い渦を巻いてすべてを飲み込もうとする。空気が焼け焦げ、壁が溶け出し、魂さえも震えるほどの破壊力。私のローブが焦げ、皮膚が泡立つような熱波が襲う。だが、そもそもこの力は——。
「その力は私のものだ! 貴様がいくら私に攻撃しても、全て無にする!」。
雷は私の周囲で霧散し、指先で掻き消す炎の残滓が、灰のように舞う。私は前へ踏み出す。拳を握り、彼の胸に叩き込む。一撃で、骨の砕ける音が響き、光の粒子が飛び散る。戦いの渦が、静寂に変わる。
だが、勝利の余韻に浸る間もなく、呪いが牙を剥く。永遠に死ねない呪い——彼らが私に課した罰。雷の残光が、私の魂に絡みつく。身体が裂けるような痛みが走る。胸の中心から、黒い棘が無数に生え、肉を抉り、骨を砕き、血の代わりに光の欠片を噴き出させる。息をするたび、肺が溶岩に焼かれる感覚。皮膚が剥がれ落ち、露わになった筋肉が痙攣し、視界が白く霞む。再生の波が来る——傷口が無理やり塞がれ、裂けた魂の糸が強引に縫い合わされる。痛みは消えず、むしろ倍増する。神経の端々が火箸で突かれるように、永遠のループ。死ねば楽になれるのに、毎回、失った「あの子」の記憶が蘇り、胸をえぐる。彼女の声が、耳元で囁く。「一緒に、ずっと……」。この呪いは、ただの罰じゃない。私の孤独を、永遠に刻み込む鎖だ。膝をつき、息を荒げながら、私は呟く。
「私は殺されても生き返る……それが、貴様らがやった行為の代償だ」
身体の震えが、悲劇の重みを物語る。
私は我に返ると、後ろに下がる。息が荒く、手が震える。死んでは無いが、意識がないようだ。床に崩れ落ちた彼の体は、静かに光を失う。玉座の間が、荒れ果てた廃墟のように静まる。勝利の残光が、かすかに私の周りを照らす。だが、これは一時的なもの。箱の元凶は、倒れてもまた蘇るだろう。不安の影が、心に忍び寄る。
きっと私はこの後に大戦争に発展するとは思わなかった




