転生の苦しみ(眷属視点)
僕はもう何千回転生したんだろうか…。
砂漠の果てで喉が渇きながら死んで、雪山で凍えつきながら愛する人を守れなかったし、賑やかな街の喧騒の中で、ただの影のように消えたし。僕が会う人は、みんな一瞬の輝きを放って、土に還る。仲良くなっても、死んだらもう会えない。笑顔の記憶が、霧のように溶けていく。あの人たちには「次」があるのに、なんで僕だけこの輪廻の鎖に縛られてるの? どうして会えないの? みんな天国か地獄に昇華してるのに、僕はただの幽霊みたいに、転生の狭間を彷徨うだけ……。
だから僕は、原初の目を盗んで天界に行った。
場所は知ってる。原初はいつも、座標を「見える所」に置いてるからだ。あの、虚空に浮かぶ水晶の欠片みたいなアーティファクトを、僕の魂の糸でなぞる。心臓の鼓動が速くなる。数えきれない転生の記憶が、頭の中で渦巻く。
「確かこの辺のはず」
光の裂け目が開き、僕は飛び込んだ。
やっと会えると思った矢先、
そこは果てしない白金の回廊だった。空気は甘く、重く、息をするたびに肺に星屑が染み込むような感覚。雲海が下に広がり、遠くで魂の鈴のような音が響く。
「誰だ、貴様は。ここは天界であることを知ってて来たのか。見た感じ? ……見た事ないな」。
声が響き、僕は凍りついた。振り向くと、そこにいたのは、黄金の甲冑を纏った巨躯の戦士。顔は半分影に覆われ、残りは傷跡の地図みたいに刻まれている。目には歴戦の炎が宿り、手にした光の剣は、僕の影を切り裂くほど鋭い輝きを放つ。肉体は岩のように逞しく、でもどこか疲れたような佇まい。僕はなぜか、胸の奥で熱いものが込み上げてきた。戦いたい? いや、ただの防衛本能か、それともこの永遠の孤独を振り払いたい衝動か。無意識に、僕の魂から古い武器が顕現する——転生の回数だけに鍛えられた、幽かな青い短剣。
「あら? あら? この子、何?」
柔らかな声が、剣の緊張を溶かすように響いた。僕は慌てて振り向く。そこにいたのは、優しげな輝きを纏った女性——いや、存在。長い銀髪が光の粒子を纏い、ドレスは雲のように揺らめく。目は優しい湖の底みたいで、僕の魂を覗き込む。彼女の周りには、蝶のような小さな光の精霊が舞っている。
「どうしよう……ただ、仲良くなった人に会いに来たのに」
言葉が喉に詰まり、涙が溢れた。転生の記憶が一気に蘇る。あの笑顔、あの温もり、もう二度と触れられない喪失感が、胸を抉る。僕はしゃくり上げて泣き出した。
剣士はため息をつき、剣を収める。
「ふん、泣き虫か。だが、この天界に無断で入り込むとは、度胸だけはあるな」
優しげな人はそっと近づき、僕の肩に手を置く。触れた瞬間、温かな風が魂を包む。
「よしよし、大丈夫よ。誰に会いたいの? きっと、きっと叶う方法があるわ」
その時、足音が近づき、僕は本能的に後ろに隠れた。
「原初の眷属、どうしてここに? あと、2人ともお久しぶりです」
盲目の存在が現れた。白いローブに包まれ、目は布で覆われているのに、周囲のすべてを「見」通すような気配。声は穏やかだが、底に知恵の深淵が潜む。僕は盲目のローブの陰に縮こまり、震える。
「あの? 原初って、この子原初の眷属なのねー。可愛い魂ね。転生の傷跡がいっぱい、でも純粋で」
優しげな人が微笑む。
剣士は額を押さえ、ため息を深く
「早く連れて帰れ…主が怒る前に。こんなところで騒ぎを起こすんじゃ、天界の均衡が崩れるぞ」
盲目は静かに頷き、僕をそっと引き寄せる
「では、帰りましょうか。君の旅は、まだ終わっていないのですから」
僕は渋々了承した。
願いが叶わずに、座標の裂け目をくぐり、原初の元へ帰る。心にぽっかり穴が空いたまま。
原初は待っていた。でもいつもと違っていた。
虚空の玉座に座るその姿は、星々を纏ったような荘厳さ。でも、目は嵐のように曇り、僕を見る視線に心配の棘が混じる。初めて、原初の手が僕の頰を打ったいや、殴ったというより、優しい平手で魂を震わせる一撃。痛みより、衝撃が胸に響く。僕は原初の顔を見る。永遠の創造主たるその表情に、珍しく皺が寄り、瞳に涙の光
「心配させるな……お主は大切な、私の子なのだ。無限の輪の中で、ただ一人、私の傍らにいてくれる存在。失うわけにはいかん」。
僕は原初に心配させてしまったんだと分かり、涙がまた溢れた
「ごめんなさい……もう二度としません。本当に、ただ会いたくて……」。
原初は僕を抱き上げ、大きな手で頭を撫でる。触れられた魂が、温かな光に溶けていく。
「今度はもし会いたい人がいるなら、私に相談しなさい。それと、転生最近しすぎてるから、休みましょう。少し、静かに。星の海を眺めながら、私と一緒に」
僕は初めての休暇を貰えた。輪廻の鎖が、少しだけ緩む音がした気がした。
大変お待たせいたしました。
明日からはひとつずつ投稿になると思います
2つ投稿……めっちゃ大変だった……
作者は少し構成練ります




