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プロローグ
世界に「宗教」という概念が生まれ落ちるより、ずっと以前の記録。
俺はただ、もう一つの存在と二人で生きていた。
名前すら必要なかった。他に誰もいない世界だったから。
ある日、空が裂けた。
眩い光の柱が降りてきた。それは、後に「箱」と呼ばれる人工物だった。
俺たちは逃げた。だがすぐに悟った。二つとも助かることはない。
だから俺は、もう一つの存在を突き飛ばした。
「行け」
それが、最後に交わした言葉となった。
光に呑まれた俺は、目覚めたとき、もう「戻れない」と直感した。
扉の向こうで泣き叫ぶ声が聞こえる。俺は振り返らなかった。振り返れなかった。
「箱」は静かに上昇し、青い星は遠くなっていった。
肉体が、いや、魂が溶けていくような感覚
俺は長い、果てしない時を過ごした。
やがて、世界の理の外に立つ「怪物」となった。
どうしようもなく、かつての青い星が恋しくなった。
「帰りたい」
その一念を、「箱」は認識した。
再び星が近づいてくる。
着陸した先で見たのは——
別の「箱」の残骸だった。
俺は今、回収に向かう。
かつての俺と同じ目に遭った存在を。
あるいは、変質した俺自身を。




