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レイズアップ・シンフォニー  作者: 紫電
始まりの夏
8/48

暑い、熱い夏

大地を蹴り飛ばし、各車一斉に前へ前へと進んでいく。

フロントガラス越しに映る景色が、速度の上昇と共に歪む。


『遼、好きに暴れて良いぞ。俺らもできるだけついていく。』


無線に了解の返事を返し、ギアをセカンドからサードへ。

アクセル全開。

さあ、逃げるぞ。









『星野遼が早くも独走態勢だ、若松高校の後方スタート組もうすでにオーバーテイクを完了し、1位から5位までを独占しています。』


場内実況の声に驚きは見受けられなかった。

さも当然かのような声のトーンで、状況を伝える。


「…強いな。」


「まだ1周目でしょ?」


「1周目どころか、まだ数コーナーしかクリアしてませんよ…。」


スタートの反応速度、1コーナーまでの加速。

スタート直後の加速でどの程度の速度が出るのか、そしてその速度から1コーナーを曲がりきるためにはどれだけ減速すればいいのか。

完全な理解をしている動きだ。


それはホームコースだからというわけではないのだろう。

この人たちは、どこを走らせてもこのパフォーマンスを発揮するはずだ。


後塵を拝している高校としては、せめて一矢を報いたいところだろう。

試合が動くとするのなら…。


「先頭がホームストレートに帰ってくる。…始まるぞ。」


JHMCの特色の中でも最も重要な構成要素となっているもの。

マシンと、楽器が繋がる。


レイズアップ・シンフォニー。









グランドスタンドから、楽器の音色が響き始めた。

それと同時に、タイヤを介して伝わっていた、ガタガタとした振動が消えていくのが分かる。


車体がゆっくりと上昇、浮上。

タイヤが車体に格納される。


接地路面との摩擦が無くなり、速度が上がっていく。

ギアはサードからトップへ。


時速160キロを数えたとき、俺は自由になる。

俺が触れているのはマシンだけ。

いや、マシンですら俺の手足だ。


全てから解き放たれ、追われる恐怖にすら苛まれることはなく。

後続とのギャップを、ただひたすらに築き上げていく。


吹け上がる心臓と、動き続ける手足。


誰に止められるか?

いいえ、誰にも。









レイズアップ・シンフォニーの起動期間中は、両チームが同じ楽曲をアンサンブルする。

各チームの楽器に入力された情報が、個別に自チームのマシンへと出力される。

そのため、同時に応援を試みても煩音とはならずに、美しい応援曲が奏でられるワケなのだ。


ひと際スピードを上げたマシンたちが、まばらにホームストレートへ突っ込んでくる。

10台が奏でるエキゾーストノートもまた、この大会を構成する重要な楽器の1つである。


既に始まった夏の、うだる暑さも。

電気を糧にした金管楽器の、爽やかな音色と合わされば。


不思議と不快には感じない。

試合は決まったかもしれない。


だが、それでも勝者は気を緩めず。

敗者は最後まで諦めずに。


ただひたすら、目の前のコーナーをクリアしていく。

その一連の動作に意味はあるか。

試合の結果から言えば、意味はあまり生まれてこないかもしれないが。


学生たちはなぜそれをするのかと問われれば。

ただ、楽しいから。


そう答えるのが自然であろう。

熱狂の渦は、グランドスタンドの一般客にも伝播する。


この場内全てが、暑い、熱い夏である。


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― 新着の感想 ―
とうとう電子吹奏楽の演奏で車が上昇する場面を見ることができた!すごく楽しみにしてました(*'ω'*) 演奏される音楽の素晴らしさに合わせてアップする能力も大きくなったりするのかな……。それだと演奏者の…
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